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    壊された'ファブ・フォー'

    12月10日の通算229回目のマージーサイド・ダービーを控えた12月4日、年明け1月6日の週末に行われるFAカップ3回戦の組み合わせが発表され、初ラウンドでいきなり「FAカップ・ダービー」となったことで、地元の両陣営から大音量の反響が上がった。

    折しも、エバトンは「チームを降格から救う」実績を持つサム・アラダイスが新監督に就任し、リーグ2連勝で順位表の中頃まで上がってきたばかりだった。対するLiverpoolは、リーグ連勝に続き、12月6日のCL最終戦では「ファブ・フォー(※)」というニックネームが定着していた、サディオ・マネ、モー・サラー、ロベルト・フィルミーノ、フィリペ・コウチーニョの4人の攻撃が爆発し、スパルタクモスクワを7-0と破ってCLグループラウンド首位勝ち抜きを決めた時のことだった。

    ※オリジナルは、60-70年代に世界を一世風靡したビートルズを賞賛するニックネーム(The Fab Four)。リバプール市の4人組ということでメディアから授かった。

    すかさずジェイミー・キャラガーが、「気の毒なエバトン・ファン。クリスマスだけでなく、新年も頭痛で寝込ませられるとは」と、ジョークをSNSにポストして、世の中の笑いを買った。

    これに対して、リバプール市出身で筋金入りのエバトン・ファンで有名な、元WBC世界クルーザー級王者のプロボクサー、トニー・ベリューが「ダービーが近づくと頭痛がひどくなる」と告白し、地元のファンの気持ちを代弁した。

    「最後にアンフィールドで勝ったのは1999年のこと。以来、僕は3人の子供たちの父親になり、プロボクサーとして数えきれないほどのパンチを食らった」と、ベリューは悲痛な表情で語った。「子供の頃は、ダービーと言えば期待と興奮で胸を膨らませる行事だった。それが今は、不安をこらえながら試合に向かい、首をうなだれて帰途に着く、悪夢の代名詞になった」。

    リングでパンチを食らうのとダービーで負けるのとどちらがより痛いか?との質問に、ベリューは苦笑を浮かべた。「パンチを受ければ体が痛む。それに比べて、ダービーで負けた時の精神的苦痛は深く、長いこと消えない。エバトン・ファンにとってアンフィールドはストレスの住処」。

    ベリューの悲痛な言葉に、エバトン・ファンが一斉に頷いた横で、キャラがポツリと言った。「先日は、Liverpoolがエバトン・ファンを『クリスマスだけでなく、新年も頭痛で寝込ませる』と言ったが、しかし逆の結果になれば、僕自身がつるし上げを食らうことは覚悟している」。

    ふたを開けると、キャラの「覚悟」が現実となった。

    Liverpoolは過密日程のローテーションを貫き、スパルタクモスクワ戦から6人交代したチーム編成で臨み、ポゼッションで80%の優位に立ちながらも得点チャンスを逃しているうちに、77分のPKで1-1と引き分けに終わった。

    いっぽうエバトンは、週中のEL最終戦では既に敗退が決定していたこともあり、ダービーに備えて主力を全員休ませ、若手チームで臨んだ(対アポロン・リマソール、試合結果は0-3でエバトンの勝利)。その気迫が結果を呼んだ。

    「先制された後でも堅い守りを崩さなかったアラダイスの戦略がPK判定を呼んだ。結果は引き分けで、1999年以来無勝の残念な記録は破れなかった。でも、エバトンの最多パスがGKのジョーダン・ピックフォードという数字の通り、不利な展開を打開して得たこの1ポイントは、エバトン・ファンにとっては勝利のようなもの」と、地元紙リバプール・エコーの青いページが勝利宣言を掲げたのに対し、赤いページは「敗北のように感じた1ポイント」と沈んだ。

    Liverpoolの「敗因」については議論が分かれた。「ソフトなPK」と、レフリーの判定を非難する声と並行して、「ゴールに背を向けていた選手に触れた無謀な守りが自滅を呼んだ」という説が飛んだ。ダービーでローテーションを貫いたユルゲン・クロップに対する批判も少なくなかった。

    そんな中で、エコー紙(の赤いページ)が、「壊された'ファブ・フォー'」という見出しの記事を掲げた。

    「ユルゲン・クロップは、スパルタクモスクワ戦の後で、'ファブ・フォー'という表現に対して異論を唱えた。『良くやっているのは4人だけではないのだから、他の選手たちに対して失礼だ』と。2ポイントを落とした責任は自分にあると認めながらもクロップは、'ファブ・フォー'を壊したチーム編成を『正しかった』と主張した」。

    「アラダイスのエバトンが守り固めで来ることは誰もが予測したこと。1-0になった後で、'ファブ・フォー'の片割れの一人であるサディオ・マネが、絶好の追加点のチャンスを外した場面があった。右側にはドミニク・ソランケとアレックス・オクスレイド・チェンバレンがフリーだったのに」。

    「ローテーションがうまく回るには、'ファブ・フォー'が'他の選手たち'と協力して勝ちを得ることが必須。そのクロップの戦略を無にするような一瞬のミスが、2ポイントを吹き飛ばし、Liverpoolファンを頭痛で寝込ませた」。

    自分のチームのゴールを喜ぶ監督

    10月28日、ユルゲン・クロップが長年の親友であるデビッド・ワグナーとプレミアリーグで初対戦した時に、ワグナーが語った言葉がLiverpoolファンの間で大きな話題を呼んだ(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。中でも最も大きな反響を集めたのは、「イングランドのメディア(の批判)はドイツに比べて遥かに大きい。特に、声を上げる人の数が多い」というものだった。

    折しも、ハダースフィールドがその時点で9戦3勝3分の12ポイントで11位と、プレミアリーグの「驚きのチーム」となっていたのと対照的に、9戦3勝4分でわずか1ポイント差の9位にに低迷していたLiverpoolが、批判の嵐の渦中にいた時のことだった。

    「フットボールは結果ビジネスだから、勝てなければ批判されるのは仕方ない」と肩をすくめながらも、一部のアンチのアナリストが「ユルゲン・クロップは今季の途中でクビになるだろう」という予測を掲げる姿に、Liverpoolファンは、「イングランドのメディアの過剰さに、クロップが嫌気を抱いて出て行くのではないか」と、心配する声すら出ていた。

    状況は変わり、以来6試合で5勝1分と調子を盛り返し、4位に浮上した12月2日のブライトン戦(試合結果は1-5でLiverpoolが勝利)の後で、戦績にもかかわらずイングランドのメディアのクロップ批判が沸き起こる事態になった。

    それは、試合後にブライトンのクリス・ヒュートンがクロップとの握手を拒んだらしき場面がTVカメラに映ったことから、その夜のマッチ・オブ・ザ・デイでクローズアップされたものだった。レギュラー・アナリストのイアン・ライトが、「4点も5点も取った時に、監督がいちいちタッチラインで飛び上がってガッツポーズを見せれば、負けた側の監督が神経を逆なでされるような気持ちになるのも当然。おそらくヒュートンだけでなく、他の監督も同じように感じ始めているのではないかと思う」と、クロップ批判の口火を切った。

    その音韻が続いていた2日後に、BBCの別の人気ハイライト番組で、レギュラー・アナリストのガレス・クロックスが、毎週選出しているプレミアリーグのチーム・オブ・ザ・ウィークのコメントの中で「クロップ批判」に拍車をかけた。それは、ロベルト・フィルミーノの選出理由の説明の3分の2のスペースを割り当てて、「CL決勝なら話はわかる。でも、これはブライトン戦。勝利は重要だが、ゴールの度にこぶしを振り回して大げさに喜ぶ必要があるのだろうか」と指摘したものだった。

    「不必要なまでに大げさな喜び方のために、試合が終わった時には両監督が握手してお互いをねぎらう伝統が守られなくなってしまった。勝利とお金が至上となってしまい、フットボールの良さが失われつつある。監督として適切な行動ができないような人物は、他の職業を探すべき」。

    これに対して、「『勝利とお金』?勝てない時に批判されるのはさておき、勝つのがダメなの?それも、ボビー(フィルミーノ)を称賛すべき記事ので、えんえんとクロップ非難を並べた末に、クロップに監督をやめろとは何事?」と、Liverpoolファンの間で反論が飛んだ。

    かくして、ライトとクロックスの「クロップ批判」は、しばしイングランド中のフットボール・ファンの話題を独占することになった。

    そして、チームを問わず圧倒的多数のファンが、クロップ擁護の意見を表明した。宿敵であるマンチェスターユナイテッド・ファンも例外ではなく、「自分のチームのゴールに、飛び上がってガッツポーズする監督に対して非難の指をさすようなアナリストこそ、他の職業を探すべき」と、肩をすくめた。

    地元紙リバプール・エコーが、「ユルゲン・クロップは欠点がない完璧な監督だとは言わないが、ゴールを喜ぶことはその一つではない」という記事でファンの意見を代弁した。

    「クロップがタッチラインで感情を素直に表現する監督である真相は、プレミアリーグに来る前から有名だったし、イングランドでのクロップ人気の一因でもあった。それが、CL決勝ならいいがブライトン戦では喜ぶべきではない、と言うのは、ブライトンに対する侮辱。クロップはブライトンに敬意を抱いているからこそ、全身でゴールを喜んだ」。

    「試合後の記者会見で、ヒュートンは『Liverpoolは今季これまで対戦した中で最も強いチーム』と絶賛した。その口調からは、クロップに対して根に持つような感情を抱いている、という印象は全く受けなかった。そもそも、4点も5点も取られて負けることそのものが、やられた監督にとっては神経を逆なでされるはず」。

    「つまり、クロップが他の監督から嫌がられる状況が、今後頻繁に起こることを祈るべき」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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