オーソドックスな新戦力No.3

    この夏の移籍ウィンドウの動きは、破格の金額に加えて、各クラブが「SNS世代」に乗っている様相が話題を呼んでいる。具体的には、クラブが新戦力獲得を正式に発表する際に、SNSを駆使して、これまでの常識を覆す斬新な手法が飛び出していた。

    Liverpoolも例外ではなく、6月22日に£36.9mのクラブ記録で獲得したモハメド・サラーの公式発表は、Twitterで流した短い動画の中で、サラー本人がLiverpoolのシャツを着て「アナウンス サラー ナウ!(※とうとうサラーの発表です!という感じ)」と語るというもので、イングランド中から「画期的だ」と拍手を受けた。

    その少し前には、アーセナルがセアド・コラシナツ獲得の発表に際して「アーセン・ベンゲルのサイン10選手クイズ」を打ち出して、同様に話題を集めた。他には、エバトンのサンドロ・ラミレス、ストークのジョシュ・タイモン、アストンビラのジョン・テリーなど、各クラブが「新戦力発表スキル」を競っていた。

    そんな中で、7月21日、世の中の風潮とは大きく異なるオーソドックスなやり方で、アンディ・ロバートソンのLiverpool入りが発表された。超有名選手の移籍でもなく、外国リーグからエキゾチックな国籍のスター選手を大金で獲得したわけでもない上に、「アナウンス サラー ナウ!」で実績を作ったクラブとは思えない程に地味な発表だったロバートソンは、全国紙では殆ど話題にもならずに流された。

    もちろん、Liverpoolファンや地元紙などのおひざ元では、この夏3番目の新戦力となったロバートソンに関する歓迎や、今後の予測に関する議論が湧き起こった。

    「降格して監督が交代したハル・シティから、23歳のスコットランド代表レフトバックを£8mで獲得」という、画期的とは程遠い、超オーソドックスな戦力獲得に、今風のファンの中には、「ハルでのプレイを見て、特に印象に残った選手とは言えないが、£8mという移籍金を考えるとリスクは低い。仮に大活躍できなくても大きな問題にはならないだろう」という、可もなく不可もない反応を漏らす人もいた。

    折しもチーム一行はプリシーズン・ツアーで香港に行っていた時のことで、一人でメルウッドで契約書にサインし、記念写真と初インタビューというささやかなお披露目を済ませたロバートソンの姿は、多くのファンに好印象を与えた。

    「Liverpoolの伝統はスコットランド人が作った、と言われるこのクラブに、久々のスコットランド人選手が来てくれた」と歓迎の第一声に続き、「左利きで生粋のレフトバックという貴重な戦力。スーパースターではなくとも、スティーブ・フィナン(在籍は2003-2008)のような、安定して及第点のプレイをするフルバックになってくれるのではないか」という声が上がった。

    そんな中で、スコットランド人ファンが、2年前にスコットランドの地方紙が掲げた小さなエピソードを紹介した。ハル・シティでプレミアリーグの選手として1シーズン過ごしたロバートソンが、21歳の誕生日に、家族や友人にプレゼントの代わりに地元のチャリティであるフード・バンクに寄付を依頼したという話だった。

    「親兄弟から誕生日のプレゼントは何が欲しいかと聞かれて、考えた。僕は幸いにも、欲しいものは自分で買うことが出来る状況にある。だから、プレゼントを買ってくれる分を、必要としている人々を助けることに充てたい、と」。かくして、ロバートソンのご家族や友人が、合計£500(約75,000円)を寄付したという。

    Liverpoolファンは、「白いワイシャツにズボンという、まるで普通のサラリーマンのような超オーソドックスな服装で、頬を染めて語るロバートソンの姿そのものという感じの実話。真面目でやさしい性格の若者」と、心が温まった。

    ファンの言葉を裏付けるように、ユルゲン・クロップが、「アンディは、とにかく優れた人格を持っている素晴らしい選手」と、ロバートソンに対する信頼を語った。

    生まれ故郷グラスゴーのビッグ・クラブであるセルティックのユースチームでダメ出しを食らって、クイーンズパークでプロとしての道を歩み始めたロバートソンは、努力の成果が出て、ダンディー・ユナイテッドに引っ張られた。そこでも向上し続けて、とうとう3年前にはハル・シティでプレミアリーグ入りとなった。

    「彼が歩んできた、典型的な立身出世物語には心から感銘を受けた。彼と話をした時に、その真面目で努力家の性格が実を結んだのだと確信した。彼はフットボールに対してものすごく強い情熱を持っていて、向上心はとても強い。その姿勢は超一流。才能もあるし、まだまだ伸びる年齢にある。それでいて、プレミアリーグの経験を持っている」。

    ロバートソンのメルウッドでの初インタビューは、超オーソドックスながら、クロップとファンに深い感銘を与えた、前向きな性格がにじみ出ていた。

    「僕の家族は大喜びしている。僕も全く同じ気持ち。Liverpoolのファミリーの一員になれるよう、精一杯頑張る。Liverpoolは他にないようなスペシャルなクラブ。フットボーラーを目指していた子供の頃から、Liverpoolのようなクラブでプレイできることを夢見ていた。その夢が実現した」。

    「これからは、日々向上して、このクラブで役に立つ選手になりたい」。

    新戦力獲得だけがプリシーズンの焦点ではない

    イングランドでは各クラブがプリシーズンの親善試合日程に突入し、2017-18季は公式戦の開幕に向けての準備が本格化した。Liverpoolも例外ではなく、7月12日のトランメアを皮切に、プリシーズン戦を開始した。

    ところが、地元紙リバプール・エコーは、4-0と楽勝したその試合に関して、「出られる選手がほぼ全員、45分をプレイして調整が出来た上に、負傷もなく無事に終わった」という前置きに続いて、不満を込めた文面の記事を掲げた。「ただ、新顔が殆ど見られなかったのは非常に残念」。

    後半45分に、1アシストを含め相手GKにセーブの嵐を強いたドミニク・ソランケは唯一の「新顔」で、もう一人のモハメド・サラーは労働許可を得て再入国しなければならなかったため、トランメア戦には間に合わなかった。ただ、同紙の不満は「新戦力獲得がなかなか進まない」状況に対するものだった。

    折しも、「この夏の移籍市場は狂気じみている」と、ラファエル・ベニテスが漏らした言葉がヘッドラインを飾った。それは、ロメル・ルカクが£75mでエバトンからマンチェスターユナイテッドに移籍が決まった直後に、エバトンが狙っていると噂に上っていたギルフィ・シグルズソンについて、スウォンジーが£50mの売値を宣言したことで、第三者のチームのファンやアナリストが、「ルカクは得点力のあるストライカーであることは確か。でも、£75mは行き過ぎ。シグルズソンは非常に良い選手だが、£50mのミッドフィールダー?」と、一斉に驚愕した。

    そんな中で、アーセナルの£54mでアレクサンドル・ラカゼット獲得に続き、マンチェスターシティがカイル・ウォーカーに£45mを支払い、「狂気じみている」価格高騰に拍車をかけた。

    必然的に、各クラブのおひざ元では、プレミアリーグの移籍金額がひたすら膨れ上がる状況を憂うと同時に、自分のクラブが戦力補強でライバルに遅れを取っている事実に不満を抱くようになった。

    しかし、リバプール・エコー紙の誘導尋問に対して、ユルゲン・クロップは落ち着いて答えた。「(戦力補強が暫くストップしている状況について)私は全く焦りは感じていない。何故なら、新戦力獲得だけがプリシーズンの焦点ではないのだから」。

    「手放したくない選手に出て行かれずに済むことは重要だし、負傷から復帰して順調に調整を重ねる選手も貴重。その意味で、私は今の戦力には心から満足している」と、クロップは満面に笑顔で語った。

    負傷から復帰する選手として、クロップは、ジョーダン・ヘンダーソンとダニエル・スタリッジの2人を特記した。

    トランメア戦で5か月ぶりの復帰を遂げたヘンダーソンは、昨季の悪夢を振り返った。「自分でも絶好調だと思っていた時に、トレーニングでうかつにも足を痛めてしまった。最初は単なる打撲だと思ったら、日に日に悪化した」。昨季末にはほぼ完治し、夏休み中はプリシーズンでの完全復帰を目指してメルウッドに通い、一人で黙々と調整に励んだヘンダーソンの姿には、ファンの間でも期待の声が飛んでいた。

    「ヘンドの組織力、態度、そしてリーダーシップは最高に頼りになる。それほどの選手を、昨季は長いこと失っていたのだから、復帰は大きなプラス」と、クロップは目を細めた。

    そして、クロップはスタリッジについて、「私が監督になった2015年10月からの間で、今のダニエルは、ベストの体調という状態にある」と、笑顔で語った。

    クロップとスタリッジの「関係」について、ネガティブな記事が途絶えたことはなかった。負傷のため試合に出られない状態でなかった時にも、ベンチに置かれたことについて、「スタリッジはクロップのタイプの選手ではない」という説がささやかれ続けた。ウエストハムがスタリッジを狙っている、という噂が流れた時には、ジェイミー・キャラガーも「2017-18季には、スタリッジがLiverpoolにいる可能性は低い」陣営に加わった。

    これについて、キャラガー本人が6月に披露した裏話が、Liverpoolファンの間で大きな話題になった。キャラがシーズン末のオーストリア・ツアーで、Liverpoolのチーム一行に合流した時のことだった。「スタリッジから『2人だけで話をしたい』と呼ばれて、『何故、あんなことを言ったのですか?』と問い詰められた」。

    スタリッジは、半年間チームメイトとして共に働いた大先輩であるキャラに対して、常に敬意を示して来たことは有名だった。しかし、そのオーストリア・ツアーで会った時のスタリッジは「別人のようにとげとげしかった。明らかに、僕に対して怒っていた」と、キャラは語った。「僕としては、スタリッジ程の能力がLiverpoolのベンチにいるのはもったいないという意図で、スタリッジに対する高い評価を表現したつもりだったが、本人はものすごく気を悪くしたようだ」と、キャラは苦笑した。

    「逆に、スタリッジがそれほど真剣に、Liverpoolでレギュラーの座を奪回しようと強い決意を抱いているのだ、ということが良く分かった」。


    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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