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    ジェームズ・ミルナーの「たいくつ」コメント

    12月22日のアーセナル対Liverpoolのプレミアリーグ戦が、全国メディアの間で「マッチ・オブ・ザ・ウィーク」と絶賛を受けた。Liverpoolが2-0とリードした後で、アーセナルが53-58分の5分間に3ゴールで逆転、最後は71分の同点ゴールで3-3と引き分けた試合は、TVで見ていた第三者の目には興奮ものだった。

    ただ、内容的に優位に立ちながら、得点チャンスを逃しているうちにミスから失点し、2ポイントを逃したLiverpool陣営は、渋い顔が浮かんでいた。

    その時、スカイTVの試合後のインタビューで、ジェームズ・ミルナーが、「あれほど優勢に試合を進めていたのに決められなかった。我々はもっと『たいくつ(ボーリング)』になる必要がある」と、失望と反省を語った表現が、イングランド中のファンに大うけし、同じくらい大きなヘッドラインを飾ることになった。第三者に絶賛される面白い試合をして1ポイント取るよりも、「たいくつ(ボーリング)」でも良いから3ポイントを死守すべき、というミルナーの意図は誰の目にも明らかだった。

    しかし、例の「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」というTwitterのパロディ・アカウントがあまりにも広まり過ぎたため、今回のミルナーの真面目なコメントが爆笑を買ったのだった。Liverpoolファンの間でも、「ミルナーの口から『たいくつ』という言葉が出たので、思わず吹き出してしまった」と、笑顔が浮かんだ。

    すっかりフットボール界に定着した「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」は、地道にパロディのメッセージをポストし続けていた。

    その中に、昨2016-17季3月のマンチェスターシティ戦の直後のものがあった(試合結果は1-1)。「エムレ・ジャンが、なんでシティ・ファンが僕に対してブーイングを飛ばすのか?と質問したので、スタンドを見たところ、目に入ったのは空席だけだった」。

    その頃には明らかに耳に着くようになっていたシティ・ファンのミルナーに対するブーイングについては、少なくない全国メディアが、「シティ・ファンは、わずか2年前までミルナーが誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした実績を忘れてしまったようだ」と、批判を掲げた程だった。それを、ユナイテッド・ファンの枕詞である「エティハド・スタジアムの空席」ネタで軽いパロディに仕上げたものだった。

    シティ・ファンのミルナーに対するブーイングは、2016年3月のアンフィールドでのプレミアリーグ戦(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)がきっかけだった。Liverpoolは、その試合で3日前のリーグカップ決勝戦(試合結果は1-1、延長の末PK戦でシティが優勝)の雪辱を果たしたのだが、PKを決めたミルナーが、アウェイ・サポーター・スタンドの目の前で、右手で何かを振り回すようなしぐさでゴールを祝った、そのジェスチャーがシティ・ファンの反感をそそる結果になった。

    「選手が古巣との対戦で得点した時に、ゴールを祝わないことがファンに対する敬意だ、という説には特に賛成はしていない。だから、ミルナーが祝ったことを責める気はない。ただ、あれは、ヤヤ・トゥーレがリーグカップ決勝でPKを決めた時にシャツを脱いで振り回した、あのジェスチャーをパロッたもので、ミルナーはシティに対して反感を投げつけた」という動揺の声がシティ・ファンの間で上がった。

    ミルナーがあのジェスチャーをした理由は定かではないが、シティ・ファンのブーイングを招き、たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」のパロディにネタを提供することになった。

    それでもミルナーが、「誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした」5年間の経験は、今のLiverpoolの中でも大きなプラスに働いていることは、アンディ・ロバートソンの証言からも明らかだった。

    夏にハル・シティからLiverpoolに移籍したロバートソンは、当初の予定ではミルナーからレフトバックのポジションを引き継ぐはずだったが、アルベルト・モレノの復調の陰でチャンスが得られない日々を過ごした。そして、モレノの負傷をきっかけにチーム入りしたロバートソンは、安定したプレイでレギュラーの座を確保するようになっていた。

    「ミリー(ミルナー)は、あのパロディ・アカウントとは正反対の人物。控室で最もジョークを振りまく張本人」と、ロバートソンは笑顔で語った。「僕のような新入りの若手に対して、ものすごく面倒を見てくれる。ミリーのように長いことビッグ・クラブで活躍してきた先輩の、経験に基づく言葉は、若手にとっては貴重なアドバイス」。

    「僕にとっては、これが初めてのビッグ・クラブ。最初は学ぶことが多くて苦戦したが、その時にミリーが励ましてくれた言葉は心に響いた。お蔭で、僕は自信を保ちながら、チームに役に立てるよう頑張り続けることができた」。

    「何年もの長い契約の、僅か2-3か月経過したばかりで、何もかもこれからだ、たっぷり時間があるのだから、焦らず着実に成長しなさい、と教えてくれた」。

    リトル・マジシャンの長い「さようなら」

    2011年9月末のこと、母国スペインからプレミアリーグに来て間もなかったダビド・デヘアが、地元のテスコ(※英国の大手スーパーマーケット)でドーナツを「万引き」した事件が、イングランドのヘッドラインを飾った。「週給£70,000のスター選手が、£1.19のドーナツをつまみ食いしてお金を払わずに出ようとした」。結局警察には通報せず「示談」となったが、店の警備員に捕まってデヘアは顔を赤くして小さくなっていたという。当時20歳で世間知らずだったデヘアは、マンチェスターユナイテッドの正GKとして、スタートに躓いて苦戦していた頃のことだった。

    事件について、地元のファンが「プレミアリーグの、特にビッグ・クラブの選手は、お金を払って何かを買うということを知らない。衣類はスポンサーから『どうかもらってください』と頭を下げてプレゼントされるし、職場であるトレーニング・グラウンドには、レストラン並みの飲食物がクラブの経費で提供されているから、自分でお金を払うという行為は縁がないのだ」と、真顔で説明してくれた。

    今季開始間もない9月に、リバプール市内で雑貨店を経営しているLiverpoolファンが明かした実話も、通じるところがあった。「試合の前日の金曜日の朝、開店第一号の客が入ってきたと思ったところ、なんとフィリペ・コウチーニョだった。フェイスタオルが欲しいとのことで、£1.99だと価格を伝えると、フィルは『銀行に行ってお金をおろしてくる』と、真面目な顔で言った」。自分はLiverpoolファンだから、代金はいらないと言うと、コウチーニョは「本当にいいんですか?」と驚いたという。そして、ポケットをひっくり返して持っていた小銭を全て渡して、何度も何度も頭を下げて去ったとのことだった。「後から数えると、£1.63だった。週給£100,000のプレミアリーグのスター選手が、£1.99(約300円)のタオルを買う現金も持っていないとは」と、そのファンは苦笑した。

    £2そこそこのドーナツやタオルの買い方を知らないデヘアもコウチーニョも、プレミアリーグのビッグ・クラブの看板であり、ライバル・ファンから一目置かれている超一流選手だった。デヘアが2年前の夏に、自ら切望していたレアルマドリード入りが、ユナイテッドも(渋々)合意して成立したにも関わらず、期限内にFAXが届かなかったという事務的な手続きミスのために破断に終わった話は有名だった。隣人ネタのジョークに盛り上がるシティ・ファンですら、デヘアを「ドーナツ好き」と呼び、移籍の話題になると「FAX機は動くようになったか?」と笑いつつも、デヘアのスーパーセーブに真顔で拍手を送る。

    同様に、ピッチの上でマジックを披露するコウチーニョのプレイに魅了されるライバル・ファンが、「コウチーニョをバルセロナに取られたら、Liverpoolは戦力面で大きな打撃だろう」と、宿敵の弱体化を期待する半面で、「プレミアリーグでこの選手のプレイを見られなくなるのは寂しい」と、純粋にフットボール・ファンとしての声を上げていた。

    8月末には移籍リクエストを出してまでバルセロナ入りを強行しようとしたコウチーニョに対して、その時には「裏切られた」と嘆いたLiverpoolファンが、アンフィールドでのセビーリャ戦(試合結果は2-2)で今季初出場となったコウチーニョを盛大な拍手で迎えた、その心の底には、いずれは失うことになるコウチーニョのプレイを、今のうちに堪能しようという、痛みの伴う決意があった。

    12月6日のスパルタクモスクワ戦(試合結果は7-0でLiverpoolが勝ってCLラスト16に首位勝ち抜き)でハットトリックを決め、「ブラジル代表チームでは経験あったが、Liverpoolでは初めて。チームの重要な勝利に貢献できたので、僕にとっては最高のハットトリックになった」と、笑顔で語ったコウチーニョを拍手で見守りながら、Liverpoolファンは誰もが同じ気持ちを抱いていた。

    「リトル・マジシャンの長い『さようなら』は既に開始してる」と、地元紙リバプール・エコーがファンの気持ちを代弁した。折しも、1月の移籍ウィンドウに再びバルセロナが獲得に動くという噂がどんどん大きくなっていた。

    「夏にコウチーニョが移籍リクエストを出した時には、Liverpoolは代わりの選手を取る時間もないこともあり、押し切った。しかし今は、Liverpoolとしては代作を立てる時間が得られたし、ユルゲン・クロップが、出て行きたい選手をいつまでも無理に引き留めるとは考えにくい。そしてコウチーニョは、希望がかなえられなかったのに、文字通りLiverpoolで全力を尽くしている」。

    「Liverpoolで成長させてもらった恩を語り、クロップに対する感謝を公言し、それをピッチの上で実践しているコウチーニョを、行かせて上げるのが筋というもの。問題は、リトル・マジシャンの長い『さようなら』が、今季末まで続くのか、1月で終わるか」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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