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    マージーサイド・ダービーの意外なヒーロー

    12月2日、イングランド・フットボール史上最多の通算232回目、アンフィールドでのリーグ戦では100回目のマージーサイド・ダービーは、劇的な96分の決勝ゴールで1-0とLiverpoolが勝ち、1999年以来アンフィールドで勝ちがないエバトンの失意の記録を持続することになった。

    どこでもダービーと言えば、地元のファンにとって勝てば天国、負ければ隣人のからかいに耐える地獄の日々が待っている致命的に重要な試合であり、そのプレッシャーを背負って戦う両チームは、その時の順位や戦績に関わらず、常に行方がわからない対戦だ。そしてマージーサイドでは、気合が入り過ぎて相手を蹴りまくり、カード多発の「ダーティー・ダービー」の不名誉なニックネームを授かっていた。

    しかし今回は、Liverpoolは今季プレミアリーグ13試合に無敗で2位、エバトンはここ7試合5勝で6位と、面白いフットボールを展開する好調同士の対戦とあり、全国メディアでも好意的な記事が圧倒的だった。

    その背景には、ピッチ外の両陣営の団結を象徴するいくつかの実話があった。

    2016年にエバトン・ファン・グループが発端となり、今ではイングランド中のフットボール・スタジアムの風物詩となったフードバンク(※困っている人に食材を提供するためのチャリティ)は、アンフィールドでも毎試合で展開されていたが、今回のダービーでは、特に多数のファンの協力を呼びかけるべく事前準備が行われていた。その一環として、アンディ・ロバートソンがフードバンクの事務所を訪れ、エバトン・ファンのスタッフと一緒に食料の配送作業を分担するという心温まる出来事もあった。

    更に、昨季4月のCL準決勝戦で、試合前にローマの暴徒に凶器で襲われ、頭に致命傷を負ったLiverpoolファン、ショーン・コックスの莫大なリハビリ費用を援助するための基金に、エバトンのシーマス・コールマンが5,000ユーロを寄付した実話があった。それに対して、ダービーのマッチ・プログラムでユルゲン・クロップが、コールマンに対する感謝を表明した。「シーマスは、ピッチの上ではエバトン精神の象徴だが、ピッチ外でのコックス家に対する思いやりに満ちた行動は、まさにマージーサイドのライバル意識の真相」。

    試合後の記者会見では、クロップとエバトン監督のマルコ・シルバが揃って緑のバッジを付けていた。それは、昨年5月にマンチェスター・アリーナでの爆弾テロで殺害された被害者の遺族が創立した「メガン・ハーリー基金」のバッジだった。

    それらピッチ外での両陣営の団結は、ピッチ上での意外な結末の後でも、お互いに対する尊重という形で残った。

    試合後に、アウェイ・サポーターに謝りに行ったジョーダン・ピックフォードと選手一行に対して、エバトン・ファンは温かい拍手を送った。「試合終了の直前に相手にとっては超ラッキーなゴールを与えて負けを食らった。でも、昨季までの『ボールを蹴る前から負けていた』状況とは違う。試合結果には目の前が真っ暗になるが、チームに対しては誇りと希望しか浮かばない」。

    いっぽうLiverpoolファンは、「ラッキーなゴール」という見解はエバトン・ファンと一致していたが、得点したオリジに対する誇りを語り合った。「殆どのストライカーならば、ボールがクロスバーをヒットした時には諦めて次のプレイに入っていただろう。最後までゴール・チャンスを求めて粘ったオリジの、勝ちに対する執念が運を呼んだ」。

    同時に、「ラミロ・フネス・モリ事件(※2016年4月のマージーサイド・ダービーで、フネス・モリの危険なタックルを受けてオリジが担架で運ばれて交代した事件。フネス・モリはダイレクトの退場)の雪辱を、オリジはやっと果たすことが出来た」と、多くのLiverpoolファンが異口同音に言った。「あの負傷を負う前のオリジは、Liverpoolの将来を担うストライカーと期待されていた程だったのに、あの負傷のせいで、復帰してからも以前の調子に戻れないまま今に至っている」。

    ファンの思いをクロップが引き取った。「私はあの事件のことは絶対に忘れられない。ファウルとか厳しいタックルというのはフットボールに付き物だが、しかし、あれはオリジの選手としての成長を中断させるほどの大きなものだった」。

    昨季はドイツのVfLボルフスブルクにローンに出てキャリア立て直しを図ったオリジは、うまく行かずにローン期間が満了し、行き先がないままLiverpoolに戻って来たものだった。

    「今は怪我の痛みは完全になくなったディボックが、毎日のトレーニングで全力を尽くしている姿を見ているだけに、試合に出してあげられず申し訳ないと思っていた」。

    試合後のヒーローインタビューで、クロップの言葉を伝えられて、感想を問われたオリジは、さわやかな笑顔で答えた。「監督が支えてくれるから、意欲を燃やし続けている」。

    「今日の試合では、全員が最後まで勝ちを目指して頑張った。その結果、出たゴールだから最高の気分だ。ましてやダービーだから、スペシャル」。

    笑顔を放射する選手の契約更新

    インターナショナル・ウィーク明けの11月22日、サディオ・マネが契約更新にサインしたという正式発表が流れた。Liverpoolのクラブが、昨季のフロント3の大活躍を受けて、大幅昇給を伴う新たな長期契約を提示した話は誰もが知るところだった。それに対してボビー・フィルミーノとモー・サラーが今季開始前に立て続けにサインした後で、残ったマネの朗報がなかなか聞けない状況が続いていた。

    今回のインターナショナル・ウィークに入る直前に、マネが「契約の話はエージェントに任せている。僕はフットボールに専念している」と宣言した話が伝わり、ファンの杞憂を刺激した。というのも、全国メディアが「レアルマドリードがマネを狙っている」など、ファンの神経を逆なでする憶測記事を書き続けていたところで、更に、その11月22日の朝方に、ESPNが「マネのエージェントが『トロフィーを取れるクラブ』を探している」という不穏な記事を出したばかりのことだった。

    そんな時に、晴天のへきれきのように出てきた発表に、ファンは一斉に歓喜の声を上げた。「このタイミングがたまらない。Liverpoolもなかなかやってくれるじゃないか、という感じだ」。

    同時に、クラブが契約更新のニュースに際して流したマネのインタビューが、ファンの支持を一層高めた。「Liverpoolファンに対して一言」という質問に、にっこり笑って、「ハーイ、Liverpoolファンの皆さん!」と手を振ったマネの自然なしぐさが、ファンの心を直撃したのだった。

    2016年夏に、移籍金£30mでLiverpoolの(当時)歴代3番目に高い選手となったマネは、89試合で40ゴール18アシストと、堂々たる数字を上げていた。「フロント3の全員が、欠かすことのできない重要さを持っている。中でもサディオは、プレイだけでなく人好きのする性格も手伝って、ファンの圧倒的な人気を誇っている。これまでの言動から、Liverpoolに不満を抱いている要素は微塵も感じられなかったので、何故サインが遅れているのか理解できなかった」と、誰もが笑顔で頷き合った。

    つい先日の11月18日に、セネガル代表チームが赤道ギニアに1-0と勝った試合の後で、マネがピッチを去る時に涙を流したという事件が伝えられた。その試合をTVで見ていたLiverpoolファンが、「信じられないことに、セネガル代表チームの『ファン』が、90分を通じてマネにブーイングを飛ばし続けた」と、怒りに震えながら証言した。「セネガル人のファンから聞いた話だが、このような行動はしばらく前からとのこと。ブーイングをする側の言い分は、『マネはLiverpoolに移籍してからというもの、代表チームでのパフォーマンスは低下した。サウサンプトン時代はこんなにミスはなかったのに』というものらしい」。

    これに対してLiverpoolファンは、「サディオがLiverpoolに戻ってきたら、これまで以上に大きな拍手とチャントで迎えて上げよう」と、強く宣言した。代表チームの「ファン」からブーイングされた選手に対して、Liverpoolファンが雪辱とばかりに応援を強めてきた事例は、80年代のジョン・バーンズ(イングランド代表)の頃から続いていた。

    「試合中に、不調を理由に自分のチームの選手に対してブーイングするような行動は、ファンとして許せないもの。Liverpoolの選手がその立場に立たされた時は、『本物のファンが温かく応援してくれるクラブ』に戻りたくなるように、我々としては一層気合を入れよう」。

    そのファンの決意が聞こえたかのように、マネは語った。「Liverpoolファンは、どんな時でも熱心に応援してくれる。良い時だけでなく悪い時にも、常にサポートしてくれる。そのファンのために、絶対にトロフィーを取りたい」。

    「マネは繊細な神経の持ち主で、自分に厳し過ぎるきらいがある。だから、ミスをした時には特に、我々ファンが大声で励まして自信を取り戻してもらおう」と、マネのチャントはどんな時でもスタンドから鳴り響いていた。

    マネに対する激励を、ユルゲン・クロップが引き取った。「サディオに対する批判は、私が知る限り、本人だけが言っているもの。サディオは、自分がいかにワールドクラスの選手であるか気づいていないように思える」。

    そして、今回のマネの契約更新は、クラブの野望の証明であると同時に、ワールドクラスの選手がプロとしてのピークという年代を捧げる価値のある、トロフィーを狙えるクラブであるという表明だと宣言した後で、にっこり笑って締めくくった。

    「サディオは笑顔を放射する選手」。

    クロップの言葉に、「僕の監督に対する信頼は、これまで何度も言って来た通り」と、マネは笑顔を放射して語った。「ファンや監督、そしてみんなで力を合わせてスペシャルなものを達成したい」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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