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    オー・キャプテン、我がキャプテン

    4月5日、Liverpoolはサウサンプトンに3-1と逆転勝利を収め、5試合を残して82ポイントとプレミアリーグの首位に浮上した。これは今季26回目の首位交代で、FAカップ戦のため試合がなかったマンチェスターシティが残り6試合で2ポイント差の80と、「90ポイントを超えても優勝できない高レベルのタイトル争奪戦」の行方に、世間は興奮の目を輝かせた。

    昨季のシティ(100ポイント、2位は81)は異例として、それまでの最高ポイントは2005年のチェルシー(95、2位は83)、インビンシブルのアーセナル(2004)が90(2位は79)と、優勝チームが高ポイントのシーズンは2位との差は比較的大きいことが一般的だっただけに、今季のタイトル・レースは「面白い」ものになっていた。

    Liverpoolのクラブ記録である、前回2位で終わった2014年の84ポイントにあと2となり、来季のCL出場が数字の上で確定したサウサンプトン戦の勝利は、Liverpoolファンに特別な感情を与えた。

    「ここ数試合は絶好調とは言えないし、楽勝を重ねるシティの方が総合的な戦力は上かもしれない。でも、29年ぶりの優勝を狙うプレッシャーを背負って、チームが疲労や相手の時間つぶし戦略に苦戦しながらも、どんなに不利になっても最後まで闘志を抱いて進む姿を見ていると、ファンとしては誇り以外にない」。

    一時は「ファンの緊張がチームにプレッシャーを与えている」とすら言われたが、今では誰もが「足をしっかり地に着けて、チームの快挙を心から楽しめるようになった」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    数字のプレッシャーに関して言うと、モー・サラーの勝ち越しゴールは、プレミアリーグ通算50点目だった。Liverpoolでの69試合目で達成した50ゴールは、フェルナンド・トーレス(84試合)を抜いてクラブ史上最短となった。プレミアリーグ全体でも、アラン・シーラー(ブラックバーン、66試合)とルート・ファン・ニステルローイ(マンチェスターユナイテッド、68試合)に次ぐ3位だった。その記録が話題に上ってから、8試合無得点を経過した後で出たゴールだった。

    しかしサラーは、試合後のインタビューで「記録のプレッシャー」について質問されて、「9試合ぶりのゴールだからね。でも、ヘンド(ジョーダン・ヘンダーソン)は20試合ぶりなのだから、感慨はひとしおだと思う」と、爽やかな笑顔で語った。

    正確には、昨季9月のレスター戦(試合結果は3-2でLiverpoolの勝利)以来の48試合ぶりで、その「感慨」は、ヘンダーソンのジェスチャーからも明らかだった。そして、それを見てあるファンがポツリと言った。

    「ヘンドはこのゴールで、10年連続でプレミアリーグで毎シーズン得点を記録しているという、現役選手の中では僅か4人の一人になった(※他3人は、アーロン・ラムゼイ、セオ・ウォルコット、ダニエル・スタリッジ)。来季、得点すればダビド・シルバが5人目になる」。

    「サラーの記録と違って殆ど話題にならないが、プレミアリーグで10年間プレイし続ける選手だけが達成できるという、地味だが重要な業績。まさにヘンドにふさわしい記録」という言葉に、誰もが深く頷いた。

    しかもこれは、相手のペースに苦戦を強いられていた60分にサブで出場したヘンダーソンが、経験とリーダシップで試合を変えた末に出たゴールだった。

    「オー・キャプテン、我がキャプテン(※)」と、ファンは一斉に歓喜の声を上げた。「世間の不当な批判に対して、ピッチの上で反論したヘンドは、主将として立派な働きを見せた」。
    ※詩人ウォルト・ホイットマンの1865年の作

    少なくないファンが、この日のヘンダーソンのポジションについて賛意を表明した。「先日のイングランド代表チーム(対モンテネグロ、試合結果は5-1でイングランドの勝利)で、ヘンドはアタッキング・ミッドフィールダーとして出て非常に良いプレイをした。Liverpoolではディフェンシブ・ミッドフィールダーとして使われているが、ファビーニョが入って来たので、ヘンドはまた攻撃の方にシフトされることを期待していた。サウサンプトン戦では良い証明になった」。

    ファンの会話が聞こえたかのように、ユルゲン・クロップは、ヘンダーソン本人とポジションについて会話したという真相を明かした。「私が来た時には、ヘンドはボックス・トゥ・ボックスのミッドフィールダーとしてプレイしていた。それを、ディフェンシブなポジションにシフトした。今後も戦略上変動するが、ヘンドはどのポジションでもしっかりこなす選手」。

    「何故なら、ヘンドは我がキャプテンだから」。

    「彼は人間としても素晴らしい奴。ヘンドについて本を書けと言われたら、500ページくらい書くことがある程に、私は高く評価している。ヘンドは、スティーブン・ジェラードの後を継ぐという、フットボール史上最も困難な任務を背負ってきた。世間の不当な批判を受けながら、立派に責任を果たしているヘンドを、私は心から誇りに思う」。

    意志と決意と態度のたまもの

    3月31日のアンフィールドでのトットナム戦のプレビューとして、ガーディアン紙が「17年前の悪夢」という見出しで、2002年4月のホワイトハート・レーンでの対戦を振り返る記事を掲げた。CLでは準々決勝進出を達成し、プレミアリーグでは12試合中11勝の勢いで、12年ぶりの優勝を目指して盛り上がっていたLiverpoolは、トットナムに1-0と敗れて実質的にタイトル争いから脱落し、続いてレバークーゼンに敗れてCL敗退という、当時物心ついていた年代のLiverpoolファンにとっては胸が痛む記憶だった。

    「最終的に、優勝したアーセナルに7ポイント差の2位で終わったLiverpoolは、当時と酷似した状況で迎えるトットナム戦で、17年前の失意を払拭することが出来るか?」と、同紙は疑問を投げかけた。

    折しも、サディオ・マネがミラー紙の独占インタビューで、ガーディアン紙の「17年前の悪夢」に対して正面から反論するような決意を表明していた。

    「このクラブの歴史を見れば、これまで何度も困難を克服してきた実績は明らか。Liverpoolはチャンピオンの精神力を持っているクラブ」と、マネは宣言した。

    セネガルの小さな村で生まれ育ったマネは、アフリカの多くの少年たち同様に、家族を財政的に支えるためにフットボーラーを目指した。決して高望みはしなかったご両親に代わって、マネにフットボールを奨励したのはおじさんだったという。かくして首都ダカールの少年チームでプロをへの道を歩み始めたマネは、「ダカールからLiverpoolまでの長い道のり」を振り返った。

    「その頃の僕は、ヨーロッパの一流クラブを目指すなど大それたことは考えたこともなく、セネガルのビッグ・クラブの選手になることを目標に抱いていた。ましてや、Liverpoolのような超名門クラブでビッグなタイトルを狙うなんて、夢にも見なかった。でも現実は、僕はここまで到達したのだから、それを実現するために助けてくれた人々のためにも、トロフィーを取らねばならないのだと感じている」。

    「ダカールの街中でボールを蹴っていた少年の一人だった僕が、ここに至るまでの道は長かった。アフリカの少年たちにとって、ヨーロッパでプロとして身を立てられるようになることは、誰にでもかなうことではない。それを思うと、僕は、何があっても諦めずに前に進み続けることが出来る」。

    ふたを開けると、Liverpoolは、先制しながらも後半はトットナムに優位を奪われ、同点にされた末に、90分に相手GKのミスから出たオウン・ゴールで2-1と勝利を収めた。

    12月のマージーサイドダービーで、ジョーダン・ピックフォードが96分にコップ・スタンドの前でディボック・オリジに「決勝ゴールをプレゼントした」こと(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)、その前は10月にマンチェスターシティが85分に得たPKを、リヤド・マフレズが外したこと(試合結果は0-0)、そして今回のウーゴ・ロリスと、Liverpoolにポイントを献上する相手のミスは、スタンドのファンの大声援だけの成果だろうか?と、試合後の記者会見に詰めかけたジャーナリストたちは、誰もが同じ疑問を心に抱いていた。

    「神様はLiverpoolファンかもしれない」と、ジョークを言いながらファンは、チームに対する誇りを語り合った。「内容はひどかったが、17年前の悪夢の繰り返し?と不安を抱く隙もなかった。ピッチの上の選手を見ていて、絶対に諦めないという気迫が感じられたから」。

    「同点にされた後のスタンドの声援は、私がLiverpoolに来て以来のベストと言える程に素晴らしかった」と、ファンを称賛したユルゲン・クロップは、劣勢の試合で得た勝利について語った。「首位になれるチームは、必ずどこかで運に恵まれていると思う。ラッキーな勝利を得ることは、それはある意味不可避なこと」。

    「ただ、シーズン最終戦を終えた時点で首位にいられるとしたら、それは我々全員の意志と決意と態度のたまもの」。

    マネは、その意志と決意と態度を身に付けるに当たって、クロップの影響が大きかったと断言した。「監督は、僕がLiverpool入りした最初の日から始まって、ずっと変わらずに信頼を注いでくれた。監督に恩返しすることが僕の務め」。

    「食べて行くために、生き残るために、ミラクルを起こすために必死に働く道を歩んできた僕にとって、チャンスが来た時には絶対に逃さない。どんなに小さな望みでも食らいついて、目標を実現させる」。

    その態度が、Liverpoolが残り6回のカップ決勝を克服するために必要と言える。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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