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    前進するために後退して達成した成功

    10月7日のプレミアリーグの首位攻防戦、Liverpool対マンチェスターシティは、世間の予想を大きく外し、無得点引き分けで終わった。得点力で定評がある両チームの対決は、プレミアリーグの超目玉戦となっていただけに、興奮もののエンターテインメントを期待していた第三者のファンは、「この90分、ペンキが乾くのをじっと見ていた方がワクワクしただろうに(※つまらない試合だったという意味の、イングランドの典型的な慣用表現)」と、一斉に顔をしかめた。

    BBCのハイライト番組では、この試合唯一の話題だったリヤド・マレスのPK失敗についてお座なりに取り上げた後で、次の議題に進んだ。

    「昇格チームのウルブスが、クリスタルパレスに1-0と勝って、8試合で15ポイントと好調を維持しています」という司会者の言葉を皮切りに、ウルブスの健闘ぶりで盛り上がった。

    オーナー交代をきっかけに、昨2017-18季にはポルトでCLを経験している注目のポルトガル人監督ヌノ・エスピリート・サントを任命し、2位に9ポイント差で2部優勝してプレミアリーグに復帰・昇格したウルブスは、ジョアン・モウティーニョ、ルベン・ネベスらを始め、ヨーロッパのビッグクラブから狙われているという噂が絶えないスター選手を抱える、今季の注目チームの一つだった。攻撃的で面白いフットボールが売り物のウルブスは、開幕早々の4戦目で、チャンピオンのマンチェスターシティに1-1と引き分けるなど、チームを問わずプレミアリーグのファンやアナリストから温かい拍手が送られる「好感度の高いチーム」となっていた。

    その中で、Liverpoolファンの視線は主将のコナー・コーディに注がれた。地元でLiverpoolファンとして生まれ育ったコーディは、Liverpoolのアカデミーチームで頭角を現し、イングランドの各年代のユース代表チームで主将を務めるに至った。ミッドフィールダーだったことと、濃厚なスカウス・アクセントで、ファンの間で「ミニ・ジェラード」というニックネームがささやかれたことがあった。しかし、Liverpoolでは1試合(89分のサブ)のファーストチーム経験に留まり、2014年夏に、21歳で当時2部のハダースフィールドへと去って行った。

    そのコーディが、昇格を決めた2017-18季のウルブスのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝き、ファンの絶大な支持を受ける主将としてプレミアリーグに戻ってきたのだった。

    「ウルブスの快進撃の立役者として、常に名が上がるのはモウティーニョやネベス。もちろんこの2人は素晴らしい。しかし、なかなか脚光を浴びないながら、主将のコナー・コーディの重要さは一筋縄ではない。試合を読む力は素晴らしく、タイトな場面でも常に冷静を保つ。パレス戦でもコーディの安定した活躍が目立った」と、BBCのレギュラー解説者であるアラン・シーラーが熱弁を振るった。

    折しも、イングランド代表チームが発表になったばかりだった。「コーディが代表入りしないのはおかしい」と、BBCのアナリストが一斉に紛糾した。

    9月のインターナショナル・ウィークが明けた頃に、デイリー・ミラー紙が「前進するために後退し、ボール・スキルの高いセンターバックとして評価されるに至った」というタイトルで、コーディの成功への道に焦点を当てた。

    「Liverpoolファンの家庭で生まれ、大好きなLiverpoolのアカデミーチームで育った僕にとって、Liverpoolを出るという決断は辛かった。でも、プロとして身を立てるためには試合に出られるクラブに行くことが必要だと思った」と、コーディは語った。

    ジェイミー・キャラガーを憧れのヒーローとしていたコーディは、2014年夏にLiverpoolを出て、翌2015年にウルブスに移籍した時には暫くライトバックでプレイしていた。本格的にセンターバックとして開花したのは、ヌノが監督となった2017-18季のことだった。「Liverpool時代に、キャラガーと一緒にトレーニングする機会に恵まれたお蔭で、試合を読むことを学んだ。その時の貴重な経験と、現監督から日々自信を貰っていることで、大きく成長できたと思う」。

    かくしてLiverpoolを出たコーディは、いったん下位ディビジョンに下がり、そこで成長を遂げてからプレミアリーグへと上った。

    「夏にウルブスが昇格した時、コーディの成長ぶりには感銘を受けた」と、Liverpoolファンは目を細めた。「Liverpoolのユースチームでミッドフィールダーとしてプレイしていた頃には、特にスペシャルなテクニックを持っていたとは思わなかったが、常に前向きで努力家でしっかりした考え方を持つ選手だった。ウルブスの主将として成功している姿はひとえに嬉しい」

    チームのためにポイントを稼ぐGK

    9月29日のスタンフォードブリッジで、Liverpoolはチェルシーと1-1で引き分けて、今季プレミアリーグ7試合目にして100%記録をストップした。しかし、ワールドクラスの超スーパースターで現在絶好調のエデン・アザールが前半早々に1-0とした後で、Liverpoolは得点チャンスを作りながらも実を結ばず、敗戦が見えてきた89分に、サブで出場したダニエル・スタリッジがゴール・オブ・ザ・シーズン候補の同点ゴールを決めた試合内容は、全国メディアの「優勝候補同士の対決にふさわしい白熱した試合」という絶賛を引き出した。

    選手の評点でスタリッジに10点満点の10点を付けたリバプール・エコー紙は、「85分のサブは通常は評価不能と避けるのだが、今日のスタリッジに対して満点以外を付けることはできない」と前置きした後で、マン・オブ・ザ・マッチにGKのアリソンを選出した。「1対1の場面で2セーブと、アリソンが単独でLiverpoolの望みを繋いだ」。

    BBCのチーム・オブ・ザ・ウィークを選出しているガース・クルックスが、エコー紙に同意した。「ゴードン・バンクス、ピーター・シルトン、レイ・クレメンスというフットボール史上最高の3大GKと共にプレイした経歴を持つ人間として、偉大なGKとは何か知っているつもり。ゴールの前に立ったら氷のように冷静であること。そしてアリソンにはそれが伺える」。

    これに対して大きく頷いたLiverpoolファンは、「ワールドクラスのGKは1シーズンに10-15ポイントを稼ぐ」と、さっそくトップ6の各GKが「稼いだポイント」の集計を開始した。「ひいき目はあるが」と笑いながら、アリソンの通算ポイントをブライトン戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)の2とチェルシー戦の1で合計3とした。「ダビド・デヘアがワトフォード戦(試合結果は2-1でマンチェスターユナイテッドの勝利)で2ポイント稼いだので2位、それ以外の4人はまだ0ポイント」。

    期せずして、ユナイテッド・ファンの間でもLiverpoolファンのアリソンびいきを裏付ける議論が交わされていた。「現在のGKの中では、デヘアが世界一と言われているし、ショット・ストッパーとしては議論の余地はないと思う。ただ最近はGKにも11人目の選手としての役割が求められるようになって、デリバリーの正確さで秀でているアリソンやシティのエデルソンが次第に上がってきている」。

    アリソンのデリバリーについては、シーズン開幕早々にアンディ・ロバートソンが語った。「アリソンのゴールキックから攻撃が開始するというのが一つのパターンとなった。ディフェンダーとしては、常に安定した守りをするアリソンが後ろにいるのでありがたい。プリシーズンの途中から入ってきたアリソンは、最初から英語で話してきたし、すぐにチームに溶け込んだ」。

    これは、チェルシー戦の直後に報道された、アリソン本人のインタビューとも同期を取っていた。「W杯の大会前から既に、Liverpoolがローマと交渉していたので、ブラジル代表チームで一緒だったフィリペ・コウチーニョにLiverpoolのことをいろいろ質問した」と、アリソンは明かした。「コウチーニョは、Liverpoolのことをあらゆる面で評価していた。監督は素晴らしい人で、選手はみな気さくでいい人ばかり。それでいてビッグ・クラブの誇りと意欲を持っている選手ばかりだ。クラブは構造がしっかりしていて安定しているし、地元は住みやすく家族もすぐに馴染んだ、と」。

    「それは、僕自身がLiverpoolと対戦した機会などから抱いていた印象と全く一致するものだったし、Liverpoolに入る決意をしたきっかけの一つとなった」。

    他の要素としてファンの熱心な応援を上げた。「CL準決勝でアンフィールドでプレイした時に、スタンドの熱い声援に感銘を受けた。ローマの方が優勢だった時にもファンの声は絶えなかった。ファンがチームを後押しして勝たせている、という印象を受けた」。

    アリソンがLiverpoolで初の失点を記録したレスター戦(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)の、相手ケレチ・イヘアナチョをドリブルで抜こうとしてボールを奪われたミスの後で、Liverpoolファンは異口同音に唱えた。「アリソンは優れたフットボール頭脳を持っている選手。このミスから学ぶだろうことは間違いないし、ミスの直後にも冷静さを失わず、落ち着いてセーブする強い精神力を持っている。ミスを絶対にしない選手などいない。毎試合で出しているデリバリーと安定したセーブで、そのごくまれなミスの分は十分に補える」。

    ファンの信頼を、アリソンは裏付けた。「レスター戦のミスから僕は2つ学んだ。状況を適切に判断し、危なそうなときは絶対にドリブルせず、スタンドに蹴り上げること、そして、プレミアリーグのレフリーは他リーグとは違うということ。あの程度のコンタクトではファウルは取らないのだから、今後は必ずレフリーの笛を待たずに起き上がること」。

    アリソンがその言葉を実行していることは明らかだった。ライバル・ファンですらレスター戦のミスを話題にしなくなった頃に、プレミアリーグでの最大のテストとなったチェルシー戦で、£65mの移籍金は正当だったと言われるに至った。

    「Liverpoolに来て、何もかも順調。家族は既にここの生活に順応して幸せな生活を送っている。お蔭で僕はフットボールに専念できている」と、アリソンは笑顔を浮かべた。

    「でもプロとして成功だと言えるためには、チームが多くのトロフィーを取ること」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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