元ヒーローの正式なお別れ

    6月4日、今季末でマンチェスターシティでの8年間の在籍に終止符を打つことになったヤヤ・トゥーレが、フランス・フットボール誌のインタビューで、「ペップ伝説を破壊させる」と宣言し、ペップ・グアルディオーラを紛糾した。「僕に対する数々の不当な仕打ちを、例えばアンドレス・イニエスタに対してやるとは思えない。何故、僕に対してこんな仕打ちをするのかと冷静に考えた結果、肌の色だと結論に達した」。

    グアルディオーラが監督だった2010年に、ヤヤがバルセロナから出された経緯は有名な話だった。「振り返ると、ペップが問題を起こした相手はアフリカ人選手が多かった」と、純粋な意見として「グアルディオーラは人種差別主義者」と主張したのだった。「もしペップが5人のアフリカ人選手を出場させるようなことがあれば、僕はお祝いにケーキを贈ろうと思っている」。

    2012年にシティが44年ぶりのリーグ優勝を達成した「ヒーロー」の一人として、ヤヤのホームでの最後の試合となった5月9日のブライトン戦(試合結果は3-1でシティの勝利)で盛大な壮行会が催され、クラブから生涯シーズン・チケットが贈呈されるなど、その業績を称える式典がつつがなく行われたばかりのことだった。

    もちろん、ヤヤがシティのクラブに肘鉄を食らわせたことはこれまでもあった。2014年に「誕生日を祝ってくれなかったから出て行く」と騒いだ茶番劇や、最近ではシーズン終幕間もない5月23日に、来季の行く先として宿敵ユナイテッドを「検討している」と公言し、シティ・ファンの神経を逆なでした。

    「ヤヤがペップと仲が悪かったことは誰もが知っていることだし、ペップの悪口を言うのは驚きではないが、根拠なく人種差別呼ばわりとは、許容範囲をはるかに超える邪悪な行為」と、シティ・ファンは異口同音にヤヤを批判した。

    多くのファンは、ヤヤに対する怒りと同時に、裏切られた悲しみに心を痛めた。「ヤヤがピッチでシティのために果たした業績は永遠に記憶に留まると思っていたし、多少のわがままは目をつぶってきた。でも、今回のことで、ヤヤは自分のレガシーを完全に破壊した」。

    折しもその前日の6月3日に、Liverpoolファンが身を引き裂かれる思いを味わった元ヒーローのフィリペ・コウチーニョが、W杯に向けてのウォームアップ親善試合のブラジル対クロアチアで(試合結果は2-0でブラジルの勝利)、1月に出て行って以来初めてアンフィールドに戻ってきたところだった。

    「ファンを絶望に突き落としたまま、お別れも告げずに出て行ったコウチーニョは、正式なお別れのチャンスを得ることになる」と、地元紙リバプール・エコーは感傷的な記事を掲げた。「Liverpoolで5年間マジックを披露し、数々の思い出を作ったコウチーニョが、スタンドからどのように迎えられるかは見もの」。

    シティでリーグ優勝3回、FAカップ1回、リーグカップ2回の栄誉をもたらした末に、大きな裏切り行為で全ファンを敵に回したヤヤに対して、Liverpoolではトロフィーなしで出て行ったコウチーニョは、状況は異なっていた分、ファンの間でも意見は分かれた。

    1月に£142mでバルセロナ行きが発表された時に、ユルゲン・クロップが語った「移籍の背景」は、ファンの記憶に生々しかった。8月に出した移籍リクエストをクラブが却下した後で、9月に復帰したコウチーニョが、20試合12ゴールの大活躍で再びファンの支持を勝ち取ったことが、1月の移籍ウィンドウの後でも繰り返されるか?と考えた結果、クロップが移籍にゴーを出したのだった。

    「この先、戦力として働いてもらえる可能性について、私は100%あり得ないと結論した。話し合った結果、これ以上使うことはできない、と。出さねばならないことは明らかなのだから、今その決断を下すべきだと判断した」と、クロップは説明した。

    「南米の選手がスペインの2大クラブに引っ張られれば勝ち目がないことは分かっていたこと。シーズン途中の重要な時期に出て行ったマイナスはあるが、公の場でクラブの名誉を傷つけるような言動をしたこともなく、5年間マジックを見せてくれて、特に最後の2年間は単身でチームを背負うことが多々あったコウチーニョを、暖かく迎えてあげるべき」という声は、決して少なくはなかった。

    ふたを開けると、殆ど存在感が感じられずに後半に交代してしまったコウチーニョに対して、スタンドからは、少数のブーイングと中立的な拍手が混在した。サブで出場してコップの前でゴールを決めたボビー・フィルミーノや、クロアチアのディフェンスの要として堅い守りを見せたデヤン・ロブレンに対する盛大な拍手に比べると、地味な反応で終わった。

    「バルセロナではスタートは若干苦戦したものの、すぐに頭角を現し、リーグ優勝メダルとコパ・デル・レイ優勝メダルを勝ち取ったように、コウチーニョはブラジル代表チームでもW杯で実力を発揮するだろう。いっぽうLiverpoolは、コウチーニョを失った直後の暗雲は晴れて、トップ4とCL決勝進出を果たした。コウチーニョがいなくなって、ダイレクトな戦略に切り替えたことで、両ウィングのスピードがより効力を発揮したことに加えて、残された選手が責任を果たしたことが大きい」と、エコー紙は結論付けた。

    「コウチーニョを許すかどうか、ではなく、過去の一コマにすることで、お互いに自分の道を前進し続ける」。

    真の敗者

    5月26日のCL決勝戦は、3-1と勝って通算13回目の優勝を決めたレアルマドリードを称える声が一段落した後で、イングランドでは、祝日の月曜日に至っても生々しい話題が上り、ヘッドラインを飾り続けているのは、敗れたLiverpoolの、監督の戦術やチームのパフォーマンスではなく、2つの大きなミスで2失点を与えたロリス・カリウス個人に対する同情、批判、懸念、嘲笑だった。

    最も多かったのが、ライバルチームの新旧選手からの、カリウスへの同情と励ましのメッセージだった。マンチェスターユナイテッドのエリック・ベイリーは試合終了と同時にSNSにポストした。「気持ちを強く持て、ロリス。君は素晴らしいGKなんだから」。ほぼ同じタイミングで、元エバトンのGKネビル・サウソールが心のこもったメッセージを送った。「カリウスは、自分に自信を持って、立ち直って欲しい。GKユニオンのメンバーより」。

    実況放送のアナリストを勤めていた元チェルシーのフランク・ランパードは、「正直、信じられなかった。カリウスにとっては地獄だったと思う。カリウスは、周りの強いサポートが必要だと思う」と、悲痛な声で語った。

    一方で、BBCのアナリストとして活躍する元Liverpoolのマーク・ローレンソンは、カリウスに対する同情よりも、他の後輩たちの失意を語った。「カリウスは壊滅的な打撃を感じているだろうと思う。ただ、カリウスがLiverpoolで復帰する可能性は考えられない」。

    「決勝で敗れた瞬間に、選手はみな自分の気持ちを整えるためにある程度の時間が必要。しかし、ファイナルホイッスルと共に泣き伏してしまったカリウスを、真っ先に慰めに行ったのがレアルマドリードの選手たちだった事実は、カリウスのミスが挽回不可能なまでに深刻であることを物語っている。もちろん、控室に戻った後で、Liverpoolの選手たちはみなカリウスに声をかけたと思う。ただ、まず先にカリウスの肩を抱きに行ってあげられなかったのは、選手たちが心の底でカリウスに対して不安を消せなかったから」。

    「というのは、カリウスが大きなミスを犯したのはこれが初めてではない。最近では、ローマ戦で似たようなミスを犯した(試合結果は4-2でローマの勝利)。あの時には幸運にも、アレクサンダル・コラロブのシュートはポストをヒットして失点に繋がらなかっただけで」。

    そして、同じように世界中が注目するひのき舞台で致命的なミスを犯した経験を持つロブ・グリーン(※)が、カリウスの選手生命を心配するコメントを出した。
    ※元イングランド代表、現ハダースフィールドGK。2010年W杯で、開幕初戦でトンネルして同点ゴールを与えてしまった(対アメリカ合衆国、試合結果は1-1)。

    「カリウスが今どんな気持ちでいるか、同じ立場に立ったことがあるGKとして、僕は手に取るようにわかる。Liverpoolの選手たちが試合後にすぐに慰めに行かなかったことを指摘する声もあるが、実際には誰が何を言ってもカリウスにとっては何の助けにもならなかっただろうことも、僕にはわかる。GKは、試合に負けることしかできない。負けないようにチームを助けることはできるが、チームのために勝つことはできない。それがGKの運命」。

    「今回のことはカリウスにとって人生を左右する試練になるだろう。というのは、今後どんなに頑張っても、世界はあの時のミスを決して忘れないし、積極的に話題にし続ける。それを乗り越えるには、ものすごく強い精神力が必要」。

    グリーンの言葉の通り、イングランドのフットボール界に留まらず、世界がカリウスのミスを目撃していた。熱烈なエバトン・ファンとして有名なボクサーのトニー・ベリューは、強い口調で語った。「プロが、あのようなひのき舞台でミスをするなんて許されないこと。あのミスはクラブに£100mの損害を与えた。1回ならばまだしも、2回も。カリウスに対して同情なんて全く感じない。カリウスは、キエフまで応援に行った子供たちの夢を打ち砕いたのだから」。

    ベリューとは正反対に、圧倒的多数のエバトン・ファンは、「宿敵Liverpoolの優勝を阻止したヒーロー」として、カリウスを称賛した。「CL決勝戦のマン・オブ・ザ・マッチはカリウス」。

    その他のライバルチームのファンも異口同音に、Liverpoolの失敗に胸をなでおろす中で、Liverpoolファンはきっぱりと語った。

    「我々はCL決勝戦で敗れた。でも、敗者ではない。真の敗者は、自宅のソファにふんぞり返って他人の敗戦を見て喜んでいる人たち。深い失意を味わうこともない反面、高まる興奮を得ることができなかった人たち」。

    「CL決勝戦まで到達して、ファンに夢を見せてくれたチームを誇りに思う」。

    ファンの気持ちと同期を取るように、Liverpoolの選手たちの言葉は、みな同じだった。「勝つ時も負ける時もチーム」。そして、GK仲間のシモン・ミニョレが語った。「僕がロリスに対して言った言葉は、『決勝進出できたのはそれだけのことをやったからだと胸を張ろうよ』という一言だけ。彼はまだ若い。きっと立ち直ると信じている。控室の中では、みんなの気持ちは同じだった。決勝で負けることは悲惨なこと。ここまで応援してくれたファンと、最後に一緒に祝うことが出来なかったのだから」。

    「でも、ファンのお蔭でスペシャルなシーズンに出来たと誇りに思う」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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