現代版都市間ライバル

    ロシアW杯が6月14日に開幕したわずか2日前に、スペイン代表監督のジューレン・ロペテギが解任されたニュースに世界中が度肝を抜かれた。これは、ロペテギのレアルマドリード監督就任発表の「やり方」がスペインFAの怒りを買ったことが原因だった。

    レアルマドリード監督の話題そのものが、冷ややかな反応を引き出していた。「マウリシオ・ボチェティーノがトットナムで契約更新にサインした直後だったので、タイミングを図るための暫定措置」。

    いっぽう、候補者の一人としてユルゲン・クロップの名前がスペインのメディアを飾ったことで、マンチェスターユナイテッド・ファンの間では、やや異なる視線の議論が交わされた。

    「マドリード監督候補としてクロップの名が上がった時、イングランドの圧倒的多数のメディアが『クロップはLiverpoolで良いシーズンを終えたばかりだから、今Liverpoolを出る理由はない』と、一笑に付した。クロップがマドリード監督を受けるはずはないという説には反対しないが、しかし、Liverpoolは良いシーズンだったと言えるだろうか?トロフィーなしという点ではわがチームと同じだし、リーグではギリギリ4位だった」。

    これに対して圧倒的多数のユナイテッド・ファンが、「Liverpoolは良いシーズンだった」と主張した。「ここ8年間でCL出場はわずか2回という近年の成績を考えると、2年連続CL出場だけですでに及第点。それをCL決勝まで進みながら達成したのだから」。中には、「リーグ順位では上だったが、攻撃的で面白いフットボールという点では、正直、うらやましがるのは我々の方だと思う」という声もあった。

    ユナイテッド・ファンの痛々しい本音の背景は、プレミアリーグ史上記録の100ポイントで圧倒的リーグ優勝を達成したマンチェスターシティ・ファンの、自慢話を毎日聞かされているという土壌があった。ペップ・グアルディオーラやケビン・デ・ブルイネが「シティは、これから何年もの間勝ち続ければ、やっとユナイテッドやLiverpoolと肩を並べられる」と、両クラブに対する敬意を維持しているのに対して、地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースが「ユナイテッドがFAカップ決勝で敗れ、LiverpoolがCL決勝で敗れたため、両クラブをひいきしている全国メディアから、シティのセンチュリアン(※100ポイントの偉業に対する呼称)を無視する陰謀に合わずに済んだ」と煽り立てたことも手伝って、シティ・ファンの声は大きかった。

    「ユナイテッドとLiverpoolは歴史好き。シティは将来に目を向けている」と意気込むシティ・ファンの背後で、「エバトン・ファンがマージーサイドは青と言い、シティ・ファンはマンチェスターは青と自慢するが、実際は両市ともに圧倒的に赤というのは統計が示す通り。ユナイテッドも我々も伝統的なビッグ・クラブで世界中にファンがいるから、エバトンやシティに比べて地元の比率は低いが、絶対数では圧倒的に上」と、Liverpoolファンはささやいた。

    ユナイテッド・ファンが深く頷いた。「シティはここ数年出てきただけで、長年のライバルという点ではLiverpoolとは比較にならない。シティに比べたら、リーズですら伝統という意味では上」。

    リーズ・ファンが15世紀のばら戦争(※)を理由にマンチェスターユナイテッドをライバル視する実態はイングランドの固定観念として定着しているが、現在でも変わっていないことは、先日ジェームズ・ミルナーが語った言葉からも明らかだった。
    ※白ばらのヨーク家(リーズ)と、赤ばらのランカスター家(マンチェスター)の戦争は、ランカスター家が勝った。

    「僕はリーズ・ファンとして生まれ育ったので、赤い色には抵抗がある。親から赤いTシャツを着ることは禁止されていた」と笑ったミルナーは、今でも地元リーズを誇りにしていた。アカデミーチームからプロとして身を立てたリーズ・ユナイテッドはもちろん、チャリティーで協賛しているラグビー・リーグのリーズ・リノスも地元のプロ・スポーツ・チームとして熱心に応援していた。

    創立6年になるチャリティー(ジェームズ・ミルナー・ファウンデーション)は地元リーズに本拠を構えていることもあり、折に付け地元を訪れるミルナーは、リーズ市民の誇りになっていた。

    Liverpoolでは、同じく地元の、ファンとして育ったクラブでファーストチームに上がって来たトレント・アレクサンダー・アーノルドを手厚く面倒を見ていた。

    「ジェームズは、若くして名を上げて第一戦で世界のひのき舞台に立った経験から、僕に対してとても良くしてくれる」と、トレントは語った。「ビッグ・マッチの前には必ず、声をかけてくれる。相手に合わせて自分のプレイを変え過ぎる必要はない、と教えてくれる」。

    そのトレントが、リーズ・ユナイテッドのホーム・スタジアム(エランドロード)でイングランド代表デビューを飾った時に、ミルナーは、自分のリーズ時代の写真を添えて、熱いメッセージを送った。「僕にとっては素晴らしい思い出がたくさん残っているスタジアム。トレントにはのびのびとプレイして欲しい」。

    そしてリーズ・ファンは、ミルナーへの熱いメッセージを送った。「来年Liverpoolで契約が終わったら、ミルナーはホームに戻って来てくれると信じている。引退までの数年を、ミルナーの心のクラブであるリーズ・ユナイテッドに捧げて欲しい。かつてのビッグ・クラブに復帰させてくれることを祈っている」。

    エジプトのキング

    6月9日、ナビル・フェキルの移籍話がどんでん返しの末に破断に終わったニュースがヘッドラインを飾った。フランス代表チームがW杯期間中の移籍禁止令を出していたこともあり、開幕前に話を決めるべく状況が急展開した直後の結末だった。

    ユルゲン・クロップがミッドフィールドの補強戦力最優先に上げていたフェキルは、本人もLiverpool入りを強く望んでおり、移籍金額も条件を満たしたことから、「手ごわい交渉相手」として有名なリヨンのジャン・ミッシェル・オラ会長も折れざるを得なかった。地元紙リバプール・エコーは、木曜日にLiverpoolの最高責任者であるマイクル・エドワーズがパリに飛んでメディカルが行われたという報道に添えて、「発表は翌日になるが、移籍は決まっている」と楽観的な記事を掲げていた。

    破断報道は、リヨンのオフィシャルサイトの「6月8日の20:00付でLiverpoolとの交渉は物別れに終わった」という宣言だった。理由の説明は一切なく、Liverpool側からは何ら公式コメントはなかった。失望したファンは、藁にもすがる思いで様々なメディアの矛盾した報道を読み漁り、金額が原因ならば話が再開する可能性はある、という声が乱れ飛んだ。

    しかし、6月10日にエコー紙が「メディカルチェックの結果に問題があったことが原因で、Liverpoolの側から破断を申し入れた」と報道した記事は、フェキル獲得が完全に消えたと指していた。メディカルで問題が発覚したため、Liverpoolはセカンド・オピニオンを求めたが、NGの結論が裏付けられたのだった。それは、発表が遅れたことと、リヨンが破断の原因を明かさなかった理由も説明していた。

    Liverpoolファンは、失望のため息をつきながら、「仕方ないからW杯を見よう。フェキルがひざを負傷せずに試合を終える度に、ファンの間で悲鳴が上がるかもしれないが」と、悲しいジョークを言って笑った。

    しかし、翌6月11日に、エコー紙が「誰も本気にしない、世にも奇怪な憶測記事」という説明付きで引用した、スペインのドン・バロン誌の噂報道に、Liverpoolファンは一斉に腹を抱えて笑った。「フェキル獲得失敗に対してモー・サラーがLiverpoolに不満を抱き、出て行こうと考え始めた」というものだった。

    折しも、レキップ紙の独占インタビューでサラーが、Liverpoolのクラブとファンに対する感謝を表明したところだった。

    サラーは、「10試合目で、ハリー・ケインとセルヒオ・アグエロとほぼ同じ得点数だった時に、得点王を目指そうと決めた」と、意外な真相を明かした。

    「それを実現できたのは、ひとえにチームのお蔭。目標達成の最大の理由は、Liverpoolのプレイスタイル。監督からどんどん得点できるような指示を受けたことと、チームメートがみんな協力してくれたことが大きい。フロント3は合計で多くのゴールを上げた。それは、誰一人として自分中心的な人がなく、全員が全員のために働いたからできたこと」。

    サラーは、目を輝かせて語った。「監督とは友達のような関係。もちろん、監督は監督で、僕は選手だが、その立場を超えて人間的な繋がり築いている。チームメートも、ピッチの上ではもちろん、ピッチ外でも仲間として明るい関係を作っている」。

    そして、Liverpoolファンとの関係について問われたサラーは、一層明るい笑顔を浮かべた。「僕は常に100%を出しているつもりだし、ファンはそれを認めてくれている。ファンにこんなに応援してもらえて嬉しい。ファンが僕の歌を歌ってくれるのを聞くと幸せな気持ちになる」。

    サラーのインタビューは、ここ数日の移籍話にもやもやしていたLiverpoolファンに、久々の笑顔をもたらした。

    「通常は、W杯や欧州選手権の夏には、わがクラブの選手たちが代表チームで負傷を負ったり、プリシーズンなしの調整不足で翌シーズンに悪影響を及ぼさないかと心配が先に立つのだが、今回はちょっと違っている」と、ファンは頷いた。

    そもそも、Liverpoolの選手の中で今年のW杯に出場するのは僅か8人で、うち、ほぼ毎試合出るだろう主力は5人(サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ、ジョーダン・ヘンダーソン、デヤン・ロブレン)のみだった。(※他3人はシモン・ミニョレ、トレント・アレクサンダー・アーノルド、マルコ・グルイッチ)

    「勝ち進んで戻りが遅くなりそうなのはボビー・フィルミーノだけ。ヘンドとトレントは早々に帰ってくるだろうし」と、イングランド代表チームをネタにしたジョークで笑いながら、ファンはつぶやいた。

    「ただ、サラーに関しては例外的な気持ちになっている。負傷から回復して試合に出て欲しいと心から祈っている。来季の開幕に遅れてもいいから、W杯でできるだけ勝ち進んで、エジプトのファンの夢をかなえて欲しい。サラーはエジプトのキングなのだから」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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