リーダー資質

    このインターナショナル・ウィーク中の3月22日に、代表引退したアリエン・ロッベンの後任として、フィルジル・ファン・ダイクがオラン代表チーム主将に抜擢されたというニュースが、Liverpoolファンに歓迎と笑いを湧き起こした。それは、2月に代表監督に就任したロナルド・クーマンが、ファン・ダイクを選んだ理由として、「適齢だし、ビッグクラブでプレイしていることから、代表主将という大役の適任者だと判断した」と説明したことがウケたものだった。

    「元エバトン監督が、憎き『レッド〇〇』をビッグクラブと称賛したことで、激怒するエバトン・ファンの顔が浮かぶようだ」と、Liverpoolファンは腹を抱えて笑った。

    同時に、クーマンの「私はサウサンプトン時代からファン・ダイクを知っているから、必ず信頼に応えてくれると確信している」と語った言葉に、誰もが深く頷いた。

    折しも、3月13日にそのクーマンの2代後のサウサンプトン監督だった、マウリシオ・ペジェグリーノの解任が発表された余韻がまだ残っていたところだった。8試合を残した時点で17位と、残留争いが苦しくなっていたサウサンプトンが、最後の手段として賭けに出たことは誰の目にも明らかで、驚く人は殆どなかった。

    その時に、サウサンプトンのレジェンドであるマット・ル・ティシエが、「1月にファン・ダイクを出した後で、穴埋めの戦力を補強しなかったことよりも、ファン・ダイクを1月まで引き留めたことの方が傷を深くした」と語った言葉が痛々しかった。「クラブとしては、財政的な向上の中で、『毎年ベスト・プレイヤーを出す』慣習を断ち切ることでファンの悲願に応えようという意図だったが、結果的には内部のゴタゴタが尾を引いて、成績不振をもたらしてしまった」。

    それだけ大きな存在だったファン・ダイクが、1月にディフェンダーの移籍記録を塗り替える£75mでLiverpool入りした時に、Liverpoolファンは誰もが歓声を上げると同時に、「スーパースターとは言え、1人がディフェンスの全問題を解決すると期待するのはあまりにも酷」と、自重に努めた。

    しかし、それからプレミアリーグ7試合を終えた時点で、Liverpoolファンの間で、「以前は、相手チームがコーナーを得た時には心の中で祈ったものだったが、今では安心して見ていられるようになった」という会話が交わされるようになった。数字の上でも、ファン・ダイクが来てからは、失点が40%近く減っていた。

    「GKとレフトバックも交代し、両ポジションは明らかに向上した。だから、『1人がディフェンスの全問題を解決した』と言うのは語弊がある。ただ、ファン・ダイクは、空中戦を制するなど戦力面での増強もさることながら、常に声を出してバックフォーを絞めるリーダーとしての存在感が大きい。近年のLiverpoolのディフェンスに致命的に欠けていたものがリーダーシップだっただけに、結果的には『1人』が目に見える差異をもたらした」。

    Liverpoolファンのその印象は、クーマンより一足先に、ファン・ダイクのリーダー資質を見抜いた監督となった、ニール・レノンが裏付けた。3月6日のポルト戦(試合結果は0-0、通算5-0でLiverpoolが勝ち抜き)のプレビュー番組で、その前のニューカッスル戦(3月3日、試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)でマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せたファン・ダイクについて語った言葉だった。

    「セルチックに来て、1週間トレーニングを見た後で、私はファン・ダイクに言った。『このクラブにいる間、楽しんでプレイしなさい。君はここには長くはいないだろうから』と」。

    その時のレノンの言葉通り、CL準々決勝進出の主役としてひのき舞台に立つスーパースターになったファン・ダイクは、自分を見込んでくれた監督への感謝と、Liverpoolでの決意を語った。

    「Liverpoolに来て、チームメートや監督コーチ陣を始めとする全ての人々のお蔭で、すぐにこのクラブに溶け込むことができた。ただ、負傷明けで完全でない状態で入って来たということもあり、向上し続けるために毎日全力で勤めている。まだまだ伸ばす面は多いと思っている」。

    「僕は、このクラブの全てが好きで、このクラブに来たいと思った。アウェイの試合で熱心に応援してくれるファンの姿も、そしてこの伝統と歴史の詰まったスタジアムとホーム・スタンドのファン。チームメートは一流選手揃いだし、気さくな人柄ばかりで明るい雰囲気に満ちている」。

    「そして、監督はもの凄く素晴らしい人。勝てるチームを作るための資質を備えている人。このクラブでプレイできることを心から誇りに思っている。そして、このクラブであらゆる栄誉を勝ち取るために全力を尽くす」。

    12分間の独占スピーチ

    3月16日の昼前にCL準々決勝組み合わせが発表となり、イングランドから勝ち残った2チームであるLiverpoolとマンチェスターシティの対戦が決まった。イングランドのメディアは、エティハド・スタジアムでの2戦目の前にプレミアリーグ優勝が決まっている可能性が高いシティが、今季唯一敗戦を喫したアンフィールドでの4-3の余韻を掘り起こし、「どちらが勝っても興奮ものの試合になることは確実」と持ち上げた。

    その数時間後に、ジョゼ・モウリーニョが、翌日のFAカップ戦(対ブライトン)の記者会見で爆弾発言を出した。BBCは「CL準々決勝組み合わせのビッグ・ニュースをわき役に追いやって、ヘッドラインを横取りすることができるのはモウリーニョしかいない」と、皮肉交じりの説明付きで、その驚愕の「12分間の独占スピーチ」を報道した。

    「こんにちは。私は生きてますよ」という挨拶で始まった「12分間の独占スピーチ」は、ブライトン戦の試合前の記者会見というよりは、3日前のセビーリャ戦(試合結果は1-2、通算2-1でセビーリャが勝ち抜き)の試合後の記者会見を再開したものだった。

    いわく、モウリーニョが監督に就任した2年前に『引き継いだ』ユナイテッドの戦力は、シティ監督が2年前に引き継いだ戦力と大きな差があったので、現在のチーム力の差は監督の仕事の差ではない。「私がユナイテッドを去った後で、後任監督はネマニャ・マティッチやロメル・ルカクを引き継ぐ」と、自分の業績を自慢した。

    ユナイテッドの現戦力に関しては、来季プレミアリーグ優勝するためには更に多額の投資が必須と断言し、「セビーリャの何人もの選手が私が自分のチームで使いたい選手」であり、現在のユナイテッドの選手は「もっと成長する必要がある」。つまり、セビーリャに負けたのは(前任監督から引き継いだ)ユナイテッドの戦力が劣っていたからであり、モウリーニョは何ら責めは負わない、ということだった。

    この「12分間の独占スピーチ」に、ユナイテッド・ファンは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。「これまでは賛否両派に加えて、保留派が3分の1ずつくらいだったが、今回で保留派から否定側に回った人は多い。3年シンドローム(※直近のモウリーニョの実績から、2年目でリーグ優勝した翌シーズンに内紛を起こして3年でクビになる事象を指す)があっても、その前にリーグ優勝を奪還してくれればと、様々なネガティブな要素も我慢してきたが、もう限界だ」。

    ライバル・ファンの間でも、「モウリーニョの『3年目の破壊』が2年目に繰り上がった」という意見が飛び交った。「選手を公の場で個人攻撃し、ファンの声援が乏しいと不満を言い、先日はクラブの敗戦経歴を強調し、勝てない責任を自分以外の全てに擦り付けている。PSGから誘いが来ているという噂があるが、モウリーニョはPSGに行くためにユナイテッドをクビになろうとしているように見える」。

    Liverpoolファンも例外ではなかった。「すでに£300m近い戦力補強をした上に、勝てるチームにするにはあと£200m必要という言い分の背景には、モウリーニョは、ペップ・グアルディオーラやユルゲン・クロップのように『選手を育てて戦力を増強する』という信念がないから、即戦力を調達することしか考えない」。

    「クロップが監督でいてくれて、我々は恵まれているとしみじみ思う」。

    折しも、クロップからLiverpoolファンに対する感謝の言葉が出たところだった。3月17日のワトフォード戦(試合結果は5-0でLiverpoolの勝利)の試合前のインタビューで、地元紙リバプール・エコーに語ったものだった。「オールド・トラッフォードで、3000人のLiverpoolファンが、75,000人のホーム・スタンドのファンの10倍の音量で声援してくれた。試合前、試合中、そして最も重要なことに、試合後も(試合結果は2-1でユナイテッドの勝利)」。

    「チームが最も必要としていた時に、ファンが激励をくれた」。

    「負けた試合の後で、あのような声援をくれたファンの姿は、私が監督になって以来最大という程の印象を与えてくれた。このような人たちがサポートしてくれるクラブの監督を勤めれれる誇りと同時に、この人たちのためにも栄誉を勝ち取らなければいけないと、気を引き締めなおした」。

    クロップの言葉に、トラベリング・コップは笑顔を交わした。「クロップが、スタンドで我々がクロップの歌を歌うを嫌がることは承知だが、何とか我々の気持ちを伝えたい。シーズン最後のアンフィールドでクロップのモザイクを作るのはどうだろう?シーズン1回だけなら、クロップも受け取ってくれるのでは?」

    これに対して、別のファンが首を横に振った。「それは絶対NG。クロップは、自分よりチームが大切だから、あっさり却下されると思う。たぶん、クロップが去る時だけは許されるだろう。その時はNGとは言えないだろうから」。

    アカデミーチームの申し子

    3月10日のプレミアリーグは、ウエストハム対バーンリー(試合結果は0-3でバーンリーの勝利)で起こったファンのオーナーに対する抗議行動が、その日のヘッドラインをほぼ独占した。前半はウエストハムがやや優勢だった試合で、後半66分にバーンリーが先制ゴールを決めた直後に、最初のピッチ侵入が発生した。その動揺をついたかのようにバーンリーが追加点を入れたのを皮切りに、再びピッチ侵入、続いてディレクター・ボックス側のスタンドにいたファンが、アンチ・オーナーのスローガンを叫びながら、ピッチとスタンドの間(※陸上のトラックに当たる部分)を埋め尽くしたのだった。

    罵倒の矛先となっていたオーナー・グループがスタンドを去った後もトラックの混乱は続き、ピッチの上では戦意をそがれたウエストハムが失点を重ねた。試合後に、トラックから投げられたコインがオーナー・グループを直撃した事実が判明し、「まるで80年代(フーリガンがイングランドを覆っていた時代)に戻ったような衝撃的な光景」と、メディアは一斉に報道した。

    この事件の背景として、ウエストハムのファン・グループの一つがこの日にアンチ・オーナーのデモを計画していたものが、別のファン・グループにより取りやめとなったという説が流れた。スタンドにいた大多数のウエストハム・ファンから、「彼らはまるで、チームが失点した瞬間までデモ決行のタイミングを待っていたかのようだった」という非難の声が上がった。

    ファンの間では、伝統と歴史の詰まったアプトン・パーク(旧ホーム・スタジアム)を出て、フットボールには不適格な構造のオリンピック・スタジアムに移転したこと、それに際してオーナーが公約した「クラブの発展計画」が実現の気配もないまま、戦力補強投資も反故にされている現状に対する不満が蓄積していた。

    ウエストハムの状況は、他チームのファンの間でも折に付け話題になっていた。特にリバプールやマンチェスターなど北部の不況都市では、「ロンドンの中産階級のおぼっちゃま連中とは違い、生粋のコックニー(※ロンドン東部。広義ではトットナムやアーセナルの北ロンドンも含む)のウエストハム・ファンは、労働者階級の誇りと忠誠心がある」と、肯定的な見解が圧倒的だった。

    「ウエストハム程の歴史を持つクラブが、ここまで魂を奪われた上にファンがないがしろにされているのは前例がない」と、Liverpoolファンは深刻な表情でつぶやき合った。「その不満の表現の仕方は間違っているが」。

    ピッチに侵入したファンを取り押さえたウエストハムの主将マーク・ノーブルが、「僕はウエストハム・ファンとして、常にクラブを守ってきた」と、深刻な表情で語った。地元東ロンドンでウエストハム・ファンとして生まれ育ち、ウエストハムのアカデミーチームから上り詰めてきたノーブルにとって、クラブの現状は厳しいものだった。

    「新スタジアムに移転してから2年間、ずっとこのような状況が続いている。試合に負ける度に、ファンの怒りが響き渡っている。しかし、今日は特に顕著だった。今日の批判は僕らチームに対して向けられたものではなかったが、ただ、あの状態の中で試合だけに専念するのは無理」。

    さてLiverpoolは、同じ日に宿敵マンチェスターユナイテッドに2-1と破れ、4位に転落した。ウエストハムの事件のお蔭で注目度はやや低下したとはいえ、この試合で前半の2失点の原因となったライトバックのトレント・アレクサンダー・アーノルドが、ハイライト番組で軒並みつるし上げを食らった。「トレントは攻撃面では良いものを持っているが、守りでは弱点が目立つ。Liverpoolは、トップを目指すにはライトバックを補強すべき」という見解が乱れ飛んだ。

    これに対して、ユルゲン・クロップは大声で反論した。「あの失点はトレントは防ぐべきだった?もちろん、トレントは防ぐ実力を持っている。ただ、マーカス・ラッシュフォードの攻撃はスピードと威力があったので、抜かれてしまった。それをカバーできなかったチーム全体の責任」。

    圧倒的多数のLiverpoolファンが、クロップの言葉に大きく頷いた。「クロップが来季もトレントを使い続けることを祈っている。19歳のトレントに、毎試合100%の安定した活躍を期待するのはあり得ないし、先輩ディフェンダーがカバーできなければ、負けにつながることもあるのは仕方ないこと。でも、それを避けるためにトレントのチャンスを奪うならば、クラブはアカデミーチームを放棄するようなもの」。

    「スカウサーのトレントは、ミスから学んで一人前に育った暁には、忠誠心を尽くしてクラブを守るだろう」。

    ファンの期待を裏付けるかのように、トレント本人からメッセージが出た。「ファンの方々にお詫びします。そして、結果が得られなかったというのに、素晴らしい応援をくださったことを心から感謝しています。今日の敗戦を教訓に、次は勝てるように頑張ります」。

    外部に対する「怒り」を燃やし続ける

    3月3日の週末のプレミアリーグは、トップ6の中で勝ち組と負け組がきっぱりと分かれた。マンチェスターシティが1-0とチェルシーを破り、優勝決定までのカウントダウンを着実に進めた試合では、シュート数わずか3(オン・ターゲット0)のチェルシーが「残留争いのチームならさておき、チャンピオンがバスを停めてかかった」と猛批判を浴びた。

    そのシティにリーグカップ決勝(試合結果は3-0)、リーグ戦(試合結果は3-0)と大敗を食らった後で、ブライトンに2-1と連敗を喫したアーセナルは、「アーセン・ベンゲル引退論」に拍車をかけた。

    いっぽう、ニューカッスルに2-0と勝って、月曜日まで試合がないマンチェスターユナイテッドを一時的に抜いて2位に浮上したLiverpoolは、ハダースフィールドに2-0と勝って2ポイント差で4位に付くトットナムと並ぶ「勝ち組」だった。

    前週のウエストハム戦(試合結果は4-1でLiverpoolの勝利)の後で、「トップ4争いに有利になった」と誘導尋問を受けたユルゲン・クロップは、「集中力と強い意欲を維持して残り日程を乗り切ることが重要」と、真顔で宣言した。「今日は良いプレイができた、と喜ぶのではなく、外部に対して怒りを燃やし続けなければいけない」。

    ニューカッスル戦でマン・オブ・ザ・マッチに輝いたアレックス・オクスレイド・チェンバレンが、試合後のインタビューで「外部に対する怒り」について質問されて、「怒るのは主将のヘンドに任せている」と、笑った。

    「僕はいつも笑顔を浮かべている人間だから。サディオ(マネ)とモー(サラー)も同じく、いつも笑っている。でも、笑っていても怒っていても、やるべきことは何かということを皆同じく理解している」。

    実際に、オクスレイド・チェンバレンがいつも笑顔を浮かべている様子は様々な場面で見られた。Liverpoolのクリスマス時期のコミュニティ・サービスの一環で、フィリペ・コウチーニョとロベルト・フィルミーノと一緒に3人で地元小学校の子供たちを訪れた時も、オクスレイド・チェンバレンの明るい笑顔が光った。それは、3人が隠れていることを知らない子供たちに、LFC TVのスタッフが「Liverpoolの中で最も好きな選手は誰?」と質問して、正直な回答を引き出す、という企画だった。

    言うまでもなくブラジル人コンビは大人気で、ほぼ全員が2人の名を上げた。そして、「オクスレイド・チェンバレンは?」という質問に、ほぼ全員が首を横に振った。そこで3人が登場して子供たちを驚かすと、中にはオクスレイド・チェンバレンを見て、面と向かって「もっと頑張らないと好きになれないよ!」と言った子どもすらいた。

    番組の締めくくりで、オクスレイド・チェンバレンは(ジョークで)「ロンドンの子供たちは僕のことを好いてくれていたのに、リバプールの子供たちは冷たい」と泣くふりをして、3人が爆笑した。

    当時のオクスレイド・チェンバレンは、まだLiverpoolのフットボールに順応しつつある最中だった。子供たちからダメ出しされ、世間はまだ半信半疑だった中で、前向きだった。「Liverpoolに来て良かったとしみじみ感じている。監督から信頼されているということは心強いし、ファンとチームメートに支えられて、監督の信頼に答えようと意欲が沸く」。

    クロップを慕ってLiverpoolに来たことは、既に明かしていたことだった。「あんな風に監督から肩を抱かれて、毎日のトレーニングで厳しく指導してもらえたら、きっと自分はより成長できるだろうと思った」。

    そして、その時の言葉をピッチの上で実現できるようになったオクスレイド・チェンバレンに対して、世間の嘲笑は驚きに変わった。

    「クロップのところで半年修業した途端に『すごく良い選手』になったオクスレイド・チェンバレンを見ていると、ベンゲルは引退すべき段階に至ったと確信できる」とは、第三者であるはずのマンチェスターユナイテッド・ファンの言葉だった。

    「その背景には、いつも笑顔を浮かべているオクスレイド・チェンバレンが、内心で『外部に対する怒り』を燃やしているから」と、地元紙リバプール・エコー紙は明かした。

    それは、昨年夏に£35mでLiverpool入りした時に、アーセナルのレジェンドであるティエリ・アンリと、イングランド代表で共に働いた大先輩ガリー・ネビルが、異口同音に語ったネガティブな言葉だった。「オクスレイド・チェンバレンの良さがどこにあるのか、今だにわからない」と言ったアンリに追従して、ガリー・ネビルは「アーセナルにとっては非常に良い移籍」と冷笑した。

    「彼らの言ったことは、もちろん意識していた。尊敬する先輩から言われたと思うと、正直ショックだった」と、オクスレイド・チェンバレンは振り返った。

    「人はみな意見を持っているし、自分の意見を表明する権利がある。ただ、僕はLiverpoolに来て、僕を信頼してくれている監督の下で一生懸命に働くうちに、自分を信頼できるようになった。それが最も大きな進歩。外部の人が何と言おうと、自分に対する信頼は揺らがない」。


    ファンの支持が着実に高まる待望のレフトバック

    2月24日、Liverpoolがアンフィールドでウエストハムに4-1と快勝した試合で、また3人揃って得点を上げたフロント3がヘッドラインを飾り、パブロ・サバレタから「Liverpoolのフロント3は対戦相手のディフェンダーにとっては悪夢」と、称賛のこもった完敗宣言が出た。

    そんな中で、その日のマッチ・オブ・ザ・デイで元ストライカーのアラン・シーラーが、世間の意表を突くかのように、開口一番に「ピッチの中のベスト・プレイヤーは、Liverpoolのアンディ・ロバートソン」と絶賛した。

    「彼は本当に素晴らしい。ペース、エネルギー、そしてクオリティ」。

    強力なタックルあり、相手の攻撃を瞬時に判断して動く安定したディフェンダーであると同時に、ウエストハム戦でもサディオ・マネの4点目にアシストを決めるなど攻撃力も発揮しているロバートソンは、中立のアナリストや他チームのファンの間でも「今季のベスト・バーゲン」リストの常連になりつつあった。

    そして、2月26日にスコットランド代表チームのベテラン主将であるスコット・ブラウン(セルチック)が代表引退を発表した時に、スコットランド人ファンの間で「次期スコットランド代表主将」候補として、誰もが上げた2選手が、キーラン・ティアニー(セルチック)とロバートソンだった。

    「次期主将はロバートソンかティアニーで決まり。どちらが抜擢されても、この先10-15年は主将職が定着するだろう」。2014年に20歳でフル代表デビューを記録して以来、ロバートソンはスコットランド代表チームのレギュラーとして安定したプレイを披露し、ファンの支持を集めていた。

    そのロバートソンに対する支持は、Liverpoolのファンの間でも着実に高まっていた。昨年8月に、£8m(※オプション付きで最高£10m)で移籍が決まった時には、多くのLiverpoolファンが、「Liverpoolの歴史はスコットランド人が作った」という決まり文句でロバートソンを歓迎した。

    ただ、移籍が正式に決まった時にはプリシーズンが終わった後だったことに加え、第一子の出産が重なったなど、ロバートソンは公私ともに大変なスタートを切った。ピッチの上では、アルベルト・モレノの予想外の復調劇の中で、ロバートソンの出場機会は11月下旬の時点でわずか3試合、ベンチ入りもできない状況が続いた。

    いっぽうで、スコットランド代表チームではゴールも記録し、安定したプレイを見せるロバートソンの様子に、Liverpoolファンの間では「ロバートソンはユルゲン・クロップが欲しくて取った選手ではないのかも?」という心配の声すら出た。

    それから3か月、クリスマスの過密日程に「休ませられた」1試合を除き13スタートと、負傷したモレノに代わってレフトバックのポジションに定着したロバートソンに対するLiverpoolファンの期待は、「スコットランド人」であることを超えて、「待望のレフトバック」というタイトルで語られるようになった。

    「21世紀になってから、ヨン・アルネ・リーセ、ファビオ・アウレリオ、クリスティアン・ツィーゲなど、14-15人の選手が短期間で交代する、落ち着かないポジションだったレフトバックに、やっと本来のフルバックが入ってきた。左利きで、守れてクロスも出せる純粋なレフトバック。しかもまだ23歳で、まだまだ成長過程にある上に、今後10年は第一線で活躍してくれるだろう」。

    かくして、アラン・シーラーが絶賛するような活躍を見せたウエストハム戦の後で、Liverpoolファンは、「僅か3か月前には、ロバートソンがあまりにも試合に出られないことが気になったが、振り返ってみると、ロバートソンがLiverpoolのチームに順応するために、クロップはじっくり時間をかけて育てていたに違いない」と、笑顔で頷きあった。

    それは、ロバートソン本人が裏付けた。試合に出られなかった時期に、ロバートソンは何度かクロップと面談したという。何故、出してくれないのか?という不満の相談ではなく、純粋に「自分に欠けているものは何で、どうやったら克服できるのか?」というアドバイスを求めるための会話だった。

    「チームの役に立てる選手になるために、何を身に付ければいいのか教えてください、と監督にお願いした」と、ロバートソンは語った。「監督がくれたアドバイスは、具体的な内容は明かすつもりはないが、僕にとってはとてもありがたかった。そのポイントをしっかり理解して、それを実現できるように頑張った」。

    「今は、自分がやるべきことができるようになったと感じている。ちょっと時間がかかったが、この調子でどんどん良くなろうと意欲に燃えている」

    3人ゴールキーパー体制

    2月14日、CLラスト16の1戦目でLiverpoolは、アウェイでポルトに5-0と圧勝した。サディオ・マネのハットトリックを含み、ボビー・フィルミーノとモー・サラーの「フロント3」がさく裂し、今季の3人の得点合計は63となった。各チームのトップ3の通算では、プレミアリーグの首位を独走するマンチェスターシティ(※セルヒオ・アグエロ、ラヒーム・スターリング、レロイ・サネ)ですら60、ヨーロッパ全体を見渡してもLiverpoolを上回るのは唯一、PSGの67(ネイマール、エディンソン・カバーニ、キリアン・ムバッペ)だけだった。

    数字を引き合いに出すまでもなく、Liverpoolの「フロント3」の攻撃力を評価しない人はなかった。ライバル・ファンの間では、Liverpoolの現戦力について「超一流の攻撃陣、可もなく不可もないミッドフィールド、2部並みのディフェンス、GK不在」という言い回しが定着していた。ただ、「2部並みのディフェンス」に関しては、1月にフィルジル・ファン・ダイクを取ったことで、世間の目も徐々に変わりつつあった。

    それだけに、「不在」とまで言われているGKが脚光を浴びるのは不可避だった。

    リーグではシモン・ミニョレ、CLではロリス・カリウス、国内カップ戦ではダニー・ウォードという3人ゴールキーパー体制で開始した今季、Liverpoolはリーグカップに続きFAカップでも早々に敗退したことで、方向転換を強いられることになった。

    1月14日のマンチェスターシティ戦(試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)から、ミニョレに代わってLiverpoolのNo.1に抜擢されたカリウスは、ミスから同点ゴールを与える困難なスタートの後で、次第に落ち着きを取り戻し、1月30日のハダースフィールド戦(試合結果は0-3でLiverpoolの勝利)ではマン・オブ・ザ・マッチ候補に入る活躍を見せるに至った。

    続くトットナム戦(試合結果は2-2)、サウサンプトン戦(試合結果は0-2でLiverpoolの勝利)で試合の行方を変えるセーブを連発したカリウスに、全国メディアの視線は和らぎ始めた。

    「ハダースフィールドでの17分目に、『不在』と言われたLiverpoolのゴールにカリウスが堂々と名乗りを上げた」。

    カリウスがLiverpool入りした2016年の夏に、ユルゲン・クロップは誇らしげに語った。「ドイツは歴史的に偉大なGKをたくさん出した国。子供たちはグローブを付けたがる程。カリウスはそのGK大国ドイツで生まれ育った、典型的なドイツ人キーパー」。

    クロップがLiverpoolのNo.1としてカリウスを獲得したことは、誰もが予測したことだった。ところが開幕前に負傷を負うという不運に見舞われたカリウスは、復帰後わずか11試合でミニョレにゴールを明け渡す試練を味わった。

    「昨季の失意から学んだ。今のチームは攻撃陣が必ず得点してくれるから、僕が守れば勝てる」と、カリウスは自信を語った。

    一方、代わってベンチに格下げとなったミニョレが「試合に出られる新天地を探す」意思をほのめかす中で、ハダースフィールドではベンチにも入れなかったウォードが、スタンドからチームの勝利を見守っていた。

    「試合に出たいのは本音。しかし、チームが即戦力のGKを3人抱えていて、監督が選択肢を持てる状況を維持することが今の僕の務め」と、ウォードは地元紙リバプール・エコーのインタビューで語った。

    昨季はローン先のハダースフィールドで46試合に出場し、プレイオフ決勝では昇格決定のPKセーブ・ヒーローとなったウォードを、ハダースフィールド・ファンは決して忘れなかった。LiverpoolのNo.3としてスタンドに座っていたウォードに対して、ホーム・サポーターは「オンリー・ワン、ダニー・ウォード」チャントで歓迎した。

    「僕にとってハダースフィールドはスペシャルなクラブ。みんなで力を合わせて世間の予測を跳ね返したのだから」と、ウォードは微笑んだ。

    「苦戦を強いられているクラブでは、例えば2-0で負けても5-6本のセーブをすることがある。でもLiverpoolのようなクラブでは、GKがセーブを強いられる機会は決して多くない。必要が生じた時に確実にセーブできるために、常に集中力を維持することが必須。夏にローンから戻って来た時に、監督を話をした結果、僕はLiverpoolで新たなチャレンジに挑む決意に至った」。

    カリウスがNo.1の座についたことを、ウォードは前向きに捉えていた。「GK同士の連帯感はひときわ強い。日々、3人で力を合わせて全体のレベルアップに励んでいる」。

    「フットボールではいつ何が起こるかわからない。その時にチームの勝利に貢献できるよう、日々頑張ることが僕の務め」。

    クロップは「GKにとっての集中力は他のポジションとは異なる。体力的な集中力よりも精神的なものが求められる」と、折に付け強調している。今季の3人ゴールキーパー体制がどのような実を結ぶか、まだ答えは出ていない。


    歴史的勝利

    1月14日、アンフィールドでのマンチェスターシティ戦(試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)は、その日のハイライト番組や全国メディアが一斉に「プレミアリーグのプロモーションにふさわしいクラシック」と絶賛した。今季それまで22戦無敗で、2位に15ポイント差で首位を独走するシティにLiverpoolが初黒星を与えたことや、攻撃力ではプレミアリーグのトップを争う両チームが期待通りのゴール・ラッシュで白熱した試合となったことで、「世界中のフットボール・ファンにプレミアリーグの魅力を披露した」と、イングランドのメディアは鼻を高くした。

    そして、両チームの地元紙のレビューは、必然的とも言える程に同期を取っていた。リバプール・エコー紙が、ペップ・グアルディオーラの試合後のLiverpoolに対する賞賛のコメントを好意的な文面でトップに掲げたのに対して、マンチェスター・イブニング・ニュース紙は、ユルゲン・クロップのシティへの絶賛をクローズアップした。

    「ユルゲン・クロップが『歴史的勝利』と表現した事実が、シティが大いに自信を得るべき実態の表現。ヨーロピアン・カップ優勝5回のLiverpoolの監督が、シティを破ったことの意味を多大なことだと語ったのだから」と、同紙は強調した。「シティは素晴らしいチームで、恐らくもう敗戦することはないだろうから、我々は誇るべきことをやった、とクロップは語った」。

    「内容的にはLiverpoolが圧倒的に優位だった。それなのに、クロップは4-3という僅差の勝利は正当だとすら言った」と、同紙はクロップを絶賛した上で、クロップのLiverpoolを褒めちぎった。「ペップは何度も言っていた。今の激戦プレミアリーグで無敗でシーズンを終えることは不可能に近く、必ず負けるだろう、と。その『不可避の敗戦』を食らった相手が、真っ向から攻撃してシティを制したのだから、シティ・ファンも納得する敗戦だった」。

    いっぽう、リバプール・エコー紙は、「Liverpoolが強かったから我々は負けた、とグアルディオーラは開口一番に相手チームを讃えた」と、グアルディオーラの言葉を引用した。「素晴らしい試合だった。Liverpoolは良いスタートを切り、優位に立った。その後は我々も調子を上げたが」。

    「我がチームにとっては今季初敗戦となった。しかし、それは我がチームが既にどれほどのことを成し遂げたか、ということの証明でもある。この敗戦は、これが現実なのだと肯定的に受け止めるべきだと思っている」。

    グアルディオーラは、シティはアンフィールドの大声援に押された、と敗因を語った。「ただ、我々が大声援にひるんでダメなプレイをしたのではなく、Liverpoolが良かったから負けた。それは、フットボールにとっても良いことだったし、我々にとってもプラスに働くという自信がある」。

    グアルディオーラの潔いコメントは、Liverpoolの地元紙とファンの敬意を引き出し、同時にクロップの言葉は、マンチェスターシティの地元紙とファンに拍手をもたらした。少なくないシティ・ファンが、「アンチ・フットボールに徹し、0-0狙いで来るチームに対して、クロップのLiverpoolはお手本を示した」と笑顔を浮かべたことが、クロップが「歴史的勝利」と表現した、この試合の意義を物語っていた。

    そんな中で、Liverpoolファンにとっては、純粋な「相手に対する敬意」に加えて、クロップが「歴史的勝利」と言った言葉のもう一つの意味をかみしめていた。

    「フィリペ・コウチーニョを取られたLiverpoolはトップ4の望みも断たれた、と世の中のアナリストが冷笑する中、クロップは『Liverpoolのシャツのために全力を尽くす』選手たちを指揮し、プレミアリーグ優勝ほぼ決定のチームに対して、正面から戦って勝った。それは、クロップと残された選手たちの『宣言』だった」。

    ベスト・プレイヤーに出て行かれる近年の負の連鎖を食い止め、選手がLiverpoolをキャリアの頂点と据えるステータスを名実ともに復元することをミッションの一つとして掲げて入ってきたクロップにとって、コウチーニョのぶり返しは痛かったし、その一人だったラヒーム・スターリングのアンフィールド訪問は、ファンにとっても歴史的な意味を持っていた。

    それだけに、昨年夏に£8mの移籍金で降格したハル・シティから入ってきたアンディ・ロバートソンが、全力で走りスターリングを手玉に取った果敢なプレイは、ファンの心を打った。

    「何度かボールを奪った時に、スタンドのファンが僕の名前をチャントしてくれた。あれを聞いて全身が奮い立った」と、ロバートソンは試合後のインタビューで語った。「これまでもずっと、全面的にサポートしてくれていたファンには感謝していたが、今日の試合は特別だった」。

    待ちに待った新戦力

    プレミアリーグがクリスマスの過密日程に突入し、マンチェスターユナイテッドがレスター(試合結果は2-2)、バーンリー(試合結果は2-2)と立て続けの引き分けた時に、ジョゼ・モウリーニョが「マンチェスターシティの資力と互角に戦うには、あと£300mの戦力補強投資が必要」と唱えて、イングランド中の話題を独占した。

    直後に、ジェイミー・キャラガーが、「ペップ・グアルディオーラが記録を塗り替えまくっている(=ブロークン・レコード)傍ら、ジョゼ・モウリーニョは壊れたレコードのように(=ブロークン・レコード)振る舞い続けている。選手はそのままで監督を取り換えたとしたら、ペップはユナイテッドを今のシティの立場に引き上げただろう」と、モウリーニョにカウンターを与えた議論は、チームを問わず圧倒的多数のファンの同意を引き出した。

    「ペップはシティで、今の戦力を増強しながら長期的視野で獲得した選手や前監督から引き継いだ有望若手を育て、今後も勝ち続けるチームを構築してきたのに対して、モウリーニョはワールドクラスの選手を獲得して今勝てるチームを編成することに集中している。2-3年後のことを考えたやり方には見えない」というキャラガーの主張に対して、ユナイテッド・ファンの間でも「その通りだ」という反応が交された。

    ユナイテッドの目論見としては、サー・アレックス・ファーガソン引退を最後にリーグ優勝から離れている状況を食い止め、再び優勝争いの常連に復帰する土台作りのために、「3年目シンドローム(=就任2年目にリーグ優勝、その翌シーズンには内紛を起こして出て行く)」のリスクを承知しながらモウリーニョを監督として迎えた、とは誰もが指摘するものだった。「タイトル争いに復帰するためには、ネガティブなフットボールも我慢する」と、少なくないユナイテッド・ファンは本音を明かしていた。

    一方で、魅力的なフットボールで首位を独走しているシティに対しては、ひたすら羨望のため息が出ていた。

    Liverpoolファンも例外ではなかった。「チーム力を向上させるためには、戦力補強(トランスファー)よりもトレーニングが重要、と口癖のように語るユルゲン・クロップは、その意味ではペップと同じ信念を掲げている。開始地点の戦力に既に大きな差があったことと、戦力確保のための資金は制限なしという財力が、今のシティとLiverpoolの順位に反映している。でも、クロップの選手育成方針が実を結べば、対等な争いになるに違いない」と、クロップに対する信頼はゆるぎない一方で、現在のシティの優位に関しては疑問の余地はなかった。

    それだけに、12月末に、サウサンプトンが1月にフィルジル・ファン・ダイク放出の方向性を暗示したと同時に、シティが本腰を入れてファン・ダイク獲得に出るという噂が立ち上った時には、Liverpoolファンの間で、諦めの悲鳴が飛び交った。「他のチームならば、絶対にクロップのけん引力が勝つと自信がある。でも、シティは同じように有能な監督がいて、同じくセンターバック補強を急務としている。しかも、今季はもうリーグ優勝メダルが約束されているようなもの。両方から引っ張られれば、どちらを選ぶかは自明」。

    そして、ファン・ダイクのシティ入りが内定した、という噂を上書きするかのように、12月27日にLiverpoolがファン・ダイク獲得を発表した。

    「夏にサウサンプトンと決別した後で、代わりのセンターバックを取らなかったのは、ファン・ダイクを待つことに決めたからですか?」と聞かれて、クロップはニヤッと笑った。「その質問に対して回答して良いものかどうか、弁護士に相談します」。

    「ブラックプールの密会が実を結んだ」とジョークを言って笑いながら、Liverpoolファンは歓喜にむせった。「身長あり、ボール・テクニックが一流で、声を出して守りを仕切るリーダー。まさにクロップにぴったりのタイプで、しかも既にプレミアリーグ随一のセンターバックと評価される程の実績を上げているのに、まだ26歳と成長の余地がある。クロップの下で更に磨きがかかれり、チームを底上げする重要な戦力になってくれるに違いない」。

    かくして、クロップもファンも待ち焦がれた新戦力となったファン・ダイクは、1月1日の初出勤日に、LFC TVのインタビューで、期待通りの第一声を発した。

    「このクラブがビッグ・クラブだということに加えて、伝統と独特な文化があること。有能な監督と一流の選手がそろっているし、素晴らしいファンがいる。監督は選手の能力を最大限に引き出し、それを更に向上させてくれる人。この監督の下でもっともっと成長したいと思った」とファン・ダイクは、Liverpoolを選んだ理由を熱く語った。

    「アンフィールドはスペシャルなスタジアム。このスタジアムで、ホームの選手としてプレイする日が待ち遠しい」。

    ジェームズ・ミルナーの「たいくつ」コメント

    12月22日のアーセナル対Liverpoolのプレミアリーグ戦が、全国メディアの間で「マッチ・オブ・ザ・ウィーク」と絶賛を受けた。Liverpoolが2-0とリードした後で、アーセナルが53-58分の5分間に3ゴールで逆転、最後は71分の同点ゴールで3-3と引き分けた試合は、TVで見ていた第三者の目には興奮ものだった。

    ただ、内容的に優位に立ちながら、得点チャンスを逃しているうちにミスから失点し、2ポイントを逃したLiverpool陣営は、渋い顔が浮かんでいた。

    その時、スカイTVの試合後のインタビューで、ジェームズ・ミルナーが、「あれほど優勢に試合を進めていたのに決められなかった。我々はもっと『たいくつ(ボーリング)』になる必要がある」と、失望と反省を語った表現が、イングランド中のファンに大うけし、同じくらい大きなヘッドラインを飾ることになった。第三者に絶賛される面白い試合をして1ポイント取るよりも、「たいくつ(ボーリング)」でも良いから3ポイントを死守すべき、というミルナーの意図は誰の目にも明らかだった。

    しかし、例の「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」というTwitterのパロディ・アカウントがあまりにも広まり過ぎたため、今回のミルナーの真面目なコメントが爆笑を買ったのだった。Liverpoolファンの間でも、「ミルナーの口から『たいくつ』という言葉が出たので、思わず吹き出してしまった」と、笑顔が浮かんだ。

    すっかりフットボール界に定着した「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」は、地道にパロディのメッセージをポストし続けていた。

    その中に、昨2016-17季3月のマンチェスターシティ戦の直後のものがあった(試合結果は1-1)。「エムレ・ジャンが、なんでシティ・ファンが僕に対してブーイングを飛ばすのか?と質問したので、スタンドを見たところ、目に入ったのは空席だけだった」。

    その頃には明らかに耳に着くようになっていたシティ・ファンのミルナーに対するブーイングについては、少なくない全国メディアが、「シティ・ファンは、わずか2年前までミルナーが誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした実績を忘れてしまったようだ」と、批判を掲げた程だった。それを、ユナイテッド・ファンの枕詞である「エティハド・スタジアムの空席」ネタで軽いパロディに仕上げたものだった。

    シティ・ファンのミルナーに対するブーイングは、2016年3月のアンフィールドでのプレミアリーグ戦(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)がきっかけだった。Liverpoolは、その試合で3日前のリーグカップ決勝戦(試合結果は1-1、延長の末PK戦でシティが優勝)の雪辱を果たしたのだが、PKを決めたミルナーが、アウェイ・サポーター・スタンドの目の前で、右手で何かを振り回すようなしぐさでゴールを祝った、そのジェスチャーがシティ・ファンの反感をそそる結果になった。

    「選手が古巣との対戦で得点した時に、ゴールを祝わないことがファンに対する敬意だ、という説には特に賛成はしていない。だから、ミルナーが祝ったことを責める気はない。ただ、あれは、ヤヤ・トゥーレがリーグカップ決勝でPKを決めた時にシャツを脱いで振り回した、あのジェスチャーをパロッたもので、ミルナーはシティに対して反感を投げつけた」という動揺の声がシティ・ファンの間で上がった。

    ミルナーがあのジェスチャーをした理由は定かではないが、シティ・ファンのブーイングを招き、たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」のパロディにネタを提供することになった。

    それでもミルナーが、「誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした」5年間の経験は、今のLiverpoolの中でも大きなプラスに働いていることは、アンディ・ロバートソンの証言からも明らかだった。

    夏にハル・シティからLiverpoolに移籍したロバートソンは、当初の予定ではミルナーからレフトバックのポジションを引き継ぐはずだったが、アルベルト・モレノの復調の陰でチャンスが得られない日々を過ごした。そして、モレノの負傷をきっかけにチーム入りしたロバートソンは、安定したプレイでレギュラーの座を確保するようになっていた。

    「ミリー(ミルナー)は、あのパロディ・アカウントとは正反対の人物。控室で最もジョークを振りまく張本人」と、ロバートソンは笑顔で語った。「僕のような新入りの若手に対して、ものすごく面倒を見てくれる。ミリーのように長いことビッグ・クラブで活躍してきた先輩の、経験に基づく言葉は、若手にとっては貴重なアドバイス」。

    「僕にとっては、これが初めてのビッグ・クラブ。最初は学ぶことが多くて苦戦したが、その時にミリーが励ましてくれた言葉は心に響いた。お蔭で、僕は自信を保ちながら、チームに役に立てるよう頑張り続けることができた」。

    「何年もの長い契約の、僅か2-3か月経過したばかりで、何もかもこれからだ、たっぷり時間があるのだから、焦らず着実に成長しなさい、と教えてくれた」。

    リトル・マジシャンの長い「さようなら」

    2011年9月末のこと、母国スペインからプレミアリーグに来て間もなかったダビド・デヘアが、地元のテスコ(※英国の大手スーパーマーケット)でドーナツを「万引き」した事件が、イングランドのヘッドラインを飾った。「週給£70,000のスター選手が、£1.19のドーナツをつまみ食いしてお金を払わずに出ようとした」。結局警察には通報せず「示談」となったが、店の警備員に捕まってデヘアは顔を赤くして小さくなっていたという。当時20歳で世間知らずだったデヘアは、マンチェスターユナイテッドの正GKとして、スタートに躓いて苦戦していた頃のことだった。

    事件について、地元のファンが「プレミアリーグの、特にビッグ・クラブの選手は、お金を払って何かを買うということを知らない。衣類はスポンサーから『どうかもらってください』と頭を下げてプレゼントされるし、職場であるトレーニング・グラウンドには、レストラン並みの飲食物がクラブの経費で提供されているから、自分でお金を払うという行為は縁がないのだ」と、真顔で説明してくれた。

    今季開始間もない9月に、リバプール市内で雑貨店を経営しているLiverpoolファンが明かした実話も、通じるところがあった。「試合の前日の金曜日の朝、開店第一号の客が入ってきたと思ったところ、なんとフィリペ・コウチーニョだった。フェイスタオルが欲しいとのことで、£1.99だと価格を伝えると、フィルは『銀行に行ってお金をおろしてくる』と、真面目な顔で言った」。自分はLiverpoolファンだから、代金はいらないと言うと、コウチーニョは「本当にいいんですか?」と驚いたという。そして、ポケットをひっくり返して持っていた小銭を全て渡して、何度も何度も頭を下げて去ったとのことだった。「後から数えると、£1.63だった。週給£100,000のプレミアリーグのスター選手が、£1.99(約300円)のタオルを買う現金も持っていないとは」と、そのファンは苦笑した。

    £2そこそこのドーナツやタオルの買い方を知らないデヘアもコウチーニョも、プレミアリーグのビッグ・クラブの看板であり、ライバル・ファンから一目置かれている超一流選手だった。デヘアが2年前の夏に、自ら切望していたレアルマドリード入りが、ユナイテッドも(渋々)合意して成立したにも関わらず、期限内にFAXが届かなかったという事務的な手続きミスのために破断に終わった話は有名だった。隣人ネタのジョークに盛り上がるシティ・ファンですら、デヘアを「ドーナツ好き」と呼び、移籍の話題になると「FAX機は動くようになったか?」と笑いつつも、デヘアのスーパーセーブに真顔で拍手を送る。

    同様に、ピッチの上でマジックを披露するコウチーニョのプレイに魅了されるライバル・ファンが、「コウチーニョをバルセロナに取られたら、Liverpoolは戦力面で大きな打撃だろう」と、宿敵の弱体化を期待する半面で、「プレミアリーグでこの選手のプレイを見られなくなるのは寂しい」と、純粋にフットボール・ファンとしての声を上げていた。

    8月末には移籍リクエストを出してまでバルセロナ入りを強行しようとしたコウチーニョに対して、その時には「裏切られた」と嘆いたLiverpoolファンが、アンフィールドでのセビーリャ戦(試合結果は2-2)で今季初出場となったコウチーニョを盛大な拍手で迎えた、その心の底には、いずれは失うことになるコウチーニョのプレイを、今のうちに堪能しようという、痛みの伴う決意があった。

    12月6日のスパルタクモスクワ戦(試合結果は7-0でLiverpoolが勝ってCLラスト16に首位勝ち抜き)でハットトリックを決め、「ブラジル代表チームでは経験あったが、Liverpoolでは初めて。チームの重要な勝利に貢献できたので、僕にとっては最高のハットトリックになった」と、笑顔で語ったコウチーニョを拍手で見守りながら、Liverpoolファンは誰もが同じ気持ちを抱いていた。

    「リトル・マジシャンの長い『さようなら』は既に開始してる」と、地元紙リバプール・エコーがファンの気持ちを代弁した。折しも、1月の移籍ウィンドウに再びバルセロナが獲得に動くという噂がどんどん大きくなっていた。

    「夏にコウチーニョが移籍リクエストを出した時には、Liverpoolは代わりの選手を取る時間もないこともあり、押し切った。しかし今は、Liverpoolとしては代作を立てる時間が得られたし、ユルゲン・クロップが、出て行きたい選手をいつまでも無理に引き留めるとは考えにくい。そしてコウチーニョは、希望がかなえられなかったのに、文字通りLiverpoolで全力を尽くしている」。

    「Liverpoolで成長させてもらった恩を語り、クロップに対する感謝を公言し、それをピッチの上で実践しているコウチーニョを、行かせて上げるのが筋というもの。問題は、リトル・マジシャンの長い『さようなら』が、今季末まで続くのか、1月で終わるか」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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