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    フットボールの大逆転勝利

    6月17日にプレミアリーグが再開し、ロックダウンの制限下で不自由な生活を送っていた全国民に楽しみをもたらすことになった。観客無の限定版だったが、各クラブではスタンドにバナーを並べたり、ジャイアントスクリーンで自宅から応援するファンの映像を放映するなど様々な努力が施され、ピッチ上では90分の先制ゴールと同点ゴールで、ロックダウン中のファンに笑顔を与え始めた。

    その前日の6月16日に、マンチェスターユナイテッドのマーカス・ラッシュフォードがボリス・ジョンソン首相に政策のUターンを強要した話題が、全国メディアの社会ニュースのヘッドラインを独占した。

    英国がロックダウンに入って間もない4月初旬に、厚生大臣のマット・ハンコックが「強欲な億万長者のプレミアリーグの選手たち」を名指しで批判し、世間の非難にさらされたフットボール界は、22歳のラッシュフォードの果敢な行動をきっかけに、英国政府との対戦で大逆転裁判を収めることになった。

    これは、学校給食無償の措置を受けている子供たち(※)に対して、学校が閉鎖されていた期間中に、1人当たり1週間£15の食事クーポンが提供されていた措置が、学校の夏休み期間に当たる6週間の間は停止という政府の決定に対して、ラッシュフォードが食事クーポンの延長を求めるオープン・レターを出したものだった。
    ※税引き後の年収£7,400以下の低収入の家庭に対して、学校給食を無償で提供する措置。通常は学校が開いている期間のみ適用される。

    百万人を超えるフォロワーに対して、「地元選挙区の国会議員をメンションしてシェアしてください」とリクエスト付きでポストしたラッシュフォードのオープン・レターは、瞬時に英国のトレンドになった。

    片親の家庭で、5人兄弟の一人としてマンチェスター市内で生まれ育ったラッシュフォードは、最低賃金でフルタイムで働くお母さん一人の収入では不十分で、フードバンクやブレックファストクラブなど、チャリティ施設に通い詰める生活だったという。

    ロックダウンで学校が閉鎖された時に、いち早く無償の学校給食に頼っている子供たちを心配したラッシュフォードは、食事を提供するチャリティ基金に協力し、£20mを寄贈していた。そして、食事クーポン停止措置に際して立ち上がったのだった。

    「ロックダウン中に職を失って更に生活が苦しくなっている親は、お金が払えなくて電気が止められる危機に直面している。食事クーポンが停止されたら、そのような家庭の子供たちはお腹をすかせたまま眠らなければならなくなる。僕は子供の頃に無償の学校給食を受けていたから、お腹がすくということがどういうものか知っている。2020年の英国で、子供たちをそんな目に合わせないで」というラッシュフォードの悲痛な訴えに、労働年金長官のテリーズ・コッフィーが、嘲笑するかのような文面でレスポンスを投げた。

    「電気が止められることはありません」。

    これに対して、ラッシュフォードは反撃した。「僕の文章に対して上げ足取りしかできないあなたは、この国の将来を支えるべき子供たちがどうなっても良いと思っているのですか?」。

    ジョンソン内閣、単独で論戦を挑んだラッシュフォードに対して、英国の各界からエールが上がった。スポーツ・メディアは一斉にラッシュフォードをヒーローと崇め、野党からは称賛と同意の声が沸き、与党の国会議員の中にも賛成者が出てきた。

    政府がラッシュフォードに負けて、夏休み期間中も食事クーポン提供措置の延長を発表したのは翌日のことだった。「今朝、マーカス・ラッシュフォードと電話で話した。このような重要な問題を提議してくれてありがとうとお礼を言った」と、ジョンソン首相はUターンを告げた。

    マンチェスターシティFCが「ラッシュフォードはマンチェスターの誇り」とメッセージを出し、Liverpool FCは「ラッシュフォードはマンチェスターの子供たちだけでなく、マージーサイドを始め全国の子供たちを救った」と称賛した。

    Liverpoolファンは、「事態が通常に戻ったら、ラッシュフォードがアンフィールドに来た時に盛大な拍手で迎えよう」と、頷き合った。

    ラッシュフォードの生家があるマンチェスター市のウィゼンショウウ地区では、標識に「ラッシュフォード 1、ボリス(ジョンソン首相) 0」という手書きのバナーが飾られた。

    地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースは、その標識の写真を付けて、「フットボールの大逆転勝利」という記事を掲げた。

    「厚生大臣のマット・ハンコックがプレミアリーグの選手たちを非難した時に、Liverpool主将のジョーダン・ヘンダーソンが全クラブの選手たちに呼びかけて『自分たちが出来ること』の実行に移した。そして今回、ラッシュフォードは政府にUターンを強要し、全国130万人の子供たちを救った。バンサン・カンパニがマンチェスターシティ主将だった時に、マンチェスター市長に協力を呼び掛けてマンチェスター市内のホームレス基金を立てた」。

    同紙は、フットボール史学の教授の見解を引用した。「プレミアリーグの選手たちは、20代からせいぜい30過ぎの若者だ。いっぽう政治家は、40代~60代になって初めて『人々が耳を傾ける声』が出せるようになる。70年代80年代のフットボーラーは、自分の意見をこのような形で表現するような慣習はなかったが、今のプレミアリーグの選手たちは変わってきている。社会問題に対する考えをはっきりと表現する選手が出てきている」。

    「今回、ラッシュフォードが自分の知名度を良い方向に活用して、正しい考えを広範囲の人々に効果的に訴えた。今後、もっと多くの選手たちが重要な問題について提議するようになるだろう」と、同教授は締めくくった。

    その見解を裏付けるように、トレント・アレクサンダー・アーノルドは語った。「僕は、『ピッチの上で自分の意見を表現する』という言葉が好きで、それを実行しようと努めてきた。でも、ピッチ外でも意見を表明すべきと感じるようになった」。


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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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