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    夢の裏

    シーズンが中断し、生の試合がなくなったことで、BTスポーツが5月7日に「アンフィールドのミラクル」と題して、1年前のCL準決勝のバルセロナ戦を放送した(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが勝ち抜き)。様々な話題を呼んだこの試合は、決勝ゴールのディボック・オリジはLiverpoolファンの間でカルト・ヒーローとしての地位を固め、アシストのコーナーを蹴ったトレント・アレクサンダー・アーノルドはイングランド中のフットボール・ファンとアナリストに強烈な印象を植え付けた。

    その1周年放送が再び世間の話題に上る中、Liverpoolのユニフォーム一式を管理する責任者(キット・マネジャー)であるリー・ラトクリフは、「トレントが、66番の背番号を付けてあのコーナーを蹴った姿を見て、複雑な感情を抱いた」と、静かに語った。

    トレントが2016年夏に、ユルゲン・クロップのファーストチームのトレーニング・グラウンドに召集され、プリシーズンの試合に出るようになった時に、トレントに66番の背番号を渡したのがラトクリフだった。

    「アカデミーチームから上がってきたばかりの若手には、必ず大きい数字の背番号を渡すことにしている。まだ経験が少ない若手が、いきなり小さい数字の背番号をもらえば、へんなうぬぼれを抱く危険性があるから。トレントの場合も同じで、その時に空いていた大きな背番号を渡した」と、ラトクリフは振り返った。

    「通常は、それら若手がファーストチームに常駐するようになって翌年くらいに、小さい数字の背番号を下さいと言って来る。それが、トレントはいつまでたっても来ない。2年連続CL決勝でスタートした最年少記録を作り、ヨーロピアン・チャンピオンになったトレントが、66番の背番号を当たり前のように着ているのを見て、何とも言えない気持ちになる」と、ラトクリフは苦笑した。

    折しも、ユルゲン・クロップが、BBCスポーツのインタビューで「リバプールの監督になってからのベスト・サインは誰?」と聞かれて、トレントの名を上げたばかりのことだった。

    「移籍金を払って他のクラブから獲得したのではなく、アカデミーチームのコーチが連れてきた選手がトレントだった。2016年のプリシーズンのトレーニングで、初めてトレントを見た時、『わーお!』と感じた」と、クロップは輝く笑顔で語った。

    「その時のトレントの唯一の問題は、まだ体が出来ていない子どもだったこと。それ以外は何もかも持っていた」。

    そしてトレントは、そのシーズン2017年1月に、負傷のためアウェイのマンチェスターユナイテッド戦でプレミアリーグ・デビューを飾った(試合結果は1-1)。その翌シーズンのビッグ・マッチで(試合結果は2-1でマンチェスターユナイテッドの勝利)、トレントは相手マーカス・ラッシュフォードに1対1で抜かれて失点を食らう窮地を味わった。

    「あれは私のミス。トレントがラッシュフォードに抜かれたのは、私がそのようなケースの対処を教えなかったのが悪かった。世間があの試合を見て『ライトバックの補強が必要』などと叫んだのは全く不当な話だった。そしてトレントは、周囲の雑音を吹き飛ばす強い意志で、急成長し続けて、数か月後にはラッシュフォードと一緒にイングランド代表チームでプレイするようになった」と、クロップは目を細めた。

    トレントよりまる1歳上のラッシュフォードは、ほぼ1年先に地元のクラブであるマンチェスターユナイテッドのアカデミーチームからファーストチームに昇格した。プレミアリーグ・デビューを飾った2016年には39番の背番号だったラッシュフォードは、翌季に19番に格上げされ、現在は10番を着けていた。

    「いまだに66番の背番号で試合に出るトレントを見ていると、その『66番』に新たしい価値が生み出されたような気がする」と、キット・マネジャーのラトクリフは頷いた。

    マージーサイドでは、「66番」のトレントの名入りのシャツを着てボールを蹴る少年たちの姿が至る所で見られるようになった。

    そして、そのトレントの短期間の出世街道を描いたドキュメンタリー「夢の裏」が、4月下旬に放映された。リバプール市出身のタレントがナレーター役となり、トレントに同伴してカークビーのアカデミーチームのトレーニング・グラウンドを訪れるという演出だった。

    アカデミーチーム出身でクラブのレジェンドとなったスティーブン・ジェラードとジェイミー・キャラガーの写真の前で立ち止まり、トレントは自分がこのグラウンドに通っていた数年前を振り返った。

    「僕は、子供の頃にジェラードやキャラガーを見て、自分も彼らのようになる、と誓った。それは、アカデミーチームのスカウサーの少年たちにとって共通の夢だった」。

    そう言ったトレントは、その隣に新た加わった、CL優勝杯を掲げる自分の写真を見て言葉を失った。

    「知らなかった。アカデミーチームのグラウンドに自分の写真が飾られるなんて、本当に夢の実現だ」と、つぶやいたトレントは、その写真で自分が66番の背番号を着けていることなどどうでも良いとばかりに、目を輝かせた。

    「このクラブですべての優勝杯を取りたい。人々からレジェンドと言われる選手になりたい」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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