FC2ブログ

    勝ち目がない戦い

    3月13日にシーズン中断に入って3週間余り経った4月3日に、プレミアリーグの全クラブのトップ会談(緊急TVミーティング)が行われ、中断期間の延期が決定された。その間のコロナウィルス危機悪化状況から、「安全が確保されるまで中断」は意義を挟む余地がないもので、物議をかもしたのは、同時に発表された財政的な決議だった。各クラブは選手の給料を、当面は30%減額し、状況により再調整することと、プレミアリーグとして医療機関(NHS)に£20m、下位リーグに£125mの助成金を出すという議事が、直後に発表されたプロ選手協会(PFA)の反発を呼んだのだった。

    この一連の動きは、その前日に、厚生労働大臣マット・ハンコックが「プレミアリーグの選手たちは、自主的に給料を減額してクラブの財政を援助すべき」と批判したことで、プレミアリーグが対策を立てたもので、PFAの反論は「30%減額で総額£500mとなり、結果的に税収が£200m減額することになる。NHSに£20mしか助成金を出さないのは少な過ぎる」というものだった。

    厚生労働大臣の言葉で世間の目が「プレミアリーグの選手たち」に集まっていたところで、今回の議論は、「フットボール界は内部分裂している」と、世間の目に映った。

    更に、そのゴタゴタの中で、Liverpoolが一般スタッフの給料を支払うために政府の補助金を利用するという決定を公表したことで、英国中が大騒動となった。Liverpoolファンや元選手から「FSGのオウン・ゴール」と批判が出る中、世間の非難は「減給を拒否する億万長者の選手たち」に集中した。

    BBCの一般ニュースで、財政の専門家が登場し、「大富豪のLiverpool」を始めプレミアリーグの5クラブが政府の補助金を利用する意向について、「億万長者の選手たちが減給を拒否していることが原因」と語った。「減給は税収の減額につながるからとPFAは説明していますが?」とのBBCの質問に、財政の専門家は皮肉な笑いを浮かべた。「億万長者の選手たちは、どのみち合法的な脱税をやっているくせに」。

    かくして、少年たちの憧れのヒーローだったプレミアリーグの選手たちが一転して諸悪の根源となった状況について、翌4月5日のタイムズ紙の論説で、ウエイン・ルーニー(現ダービー・カウンティのプレイヤー・コーチ)が「プレミアリーグの選手たちに勝ち目はない」と書いた。

    「正直、フットボーラーは多額の給料を貰っていると思うし、今このような状況下で、財政面で貢献すべきと感じてる選手は多い。しかし、厚生労働大臣が、他のスポーツ界の金持ちのプロの中には税金を逃れるためにモナコに住んでいる人もいることは不問にし、最も標的にしやすいフットボール界を指させば、我々は壁に突き付けられたような感触になっている」。

    「個々人で事情は異なるので、各クラブが選手と直接話をして減給の額を決めるべきだと思う。30%よりも多く減額できる選手もいるし、5%が限界という人もいるだろう。そこで差が出ることに不満を言う選手はいないと思う」。

    プレミアリーグの選手の平均年収は£3.5m(※日本円で5億円超)で、一般的な会社員の平均年収の50倍超だ。平たく言うと、プレミアリーグで1年間勤めれば、普通の職業の人が定年まで働き続けて得られる収入を上回る。ただし、これはあくまで平均であり、ビッグ・クラブの超スター選手は平均の5倍以上貰っている分、平均を大きく下回る選手もいる。

    更に、育った環境により給料の使途も様々だ。2017年に、中国のクラブでトレーニング中に急病で倒れて亡くなったシェイク・ティオテは、コートジボワールの貧しいご家庭で育ち、プロのフットボーラーとして多額の給料を貰えるようになってからは、自分の家族(奥さんとお子さん、親兄弟)だけでなく、叔父さん、叔母さん、従妹を含む全親族を財政的に支えていたという。ルーニーが言う、「個々人で事情は異なる」とは文字通りのものだった。

    「NHSに£20mというのは、太平洋に一滴注ぐようなものだ。プレミアリーグはもっと多額の援助が出来るはずだ」と、ルーニーは続けた。「しかも、ジョーダン・ヘンダーソンが提唱して、各クラブの主将たちが協力して自分たちがやるべきことを進めていた時に、プレミアリーグが不適切な動きをしたために、世間の批判の向き先は選手に集中した。我々選手たちに勝ち目はない」。

    ヘンダーソンが発起人となって、全20クラブの主将が合同でNHSに寄付する計画については、厚生労働大臣が「減給を拒否する億万長者の選手たち」を批判した直後に、トットナムのダニー・ローズ(現ニューカッスルにローン中)が明かしたことだった。

    そして、ウルブス主将のコナー・コーディが、「ジョーダン(ヘンダーソン)は2週間以上も前から計画を進めていた。本当に素晴らしいと思う」と、ローズの言葉を裏付けた。「僕自身も、今回のコロナウィルス危機の中で人命救助のために働いているNHSのスタッフを見て心から感謝していたし、他にも多くの選手が、財政的な援助をしたいと言っていた。それを、ジョーダンが全クラブの選手に働きかけて、みんなで協力して実現させるべく、行動に移した。全20クラブの主将と話をするのは時間がかかることだった」。

    Liverpool時代から友人だったコーディや、イングランド代表チームで顔見知りのハリー・マグアイア(マンチェスターユナイテッド主将)らが順次ヘンダーソンに合流し、多額の基金を集める計画を進めていたことは、「減給を拒否する億万長者の選手たち」を非難するニュースの中では一切言及されなかった。

    コメント

    非公開コメント

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

    最新記事
    最新コメント
    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    QRコード
    QR