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    ミスター・グッドイブニング

    賭け好きのイングランドでは、何でもベット(賭け)の対象になる。その対象は、プレミアリーグの優勝、トップ4、降格などの長期的なベットから、毎試合の結果や先制ゴールの得点者など詳細まで多岐に及ぶ。ベッティング・オフィスでは、各チームの戦績や負傷状況、移籍の噂からファンの反応など、様々な要素を分析してオッズを出しているため、妥当な数字になることが多い。

    そして、常に話題を集めるベットが「次にクビになる監督オッズ」だ。プレミアリーグの第14節を終えた時点で、最もオッズが高いのがエバトン(17位)のマルコ・シルバ、2番目がマンチェスターユナイテッド(9位)のオーレ・グンナー・スールシャールで、3番目のウルブス(6位)のヌーノ・エスピーリト・サント(※ビッグ・クラブから引き抜かれるという予想のため)は別として、4番目のウエストハム(13位)のマヌエル・ペジェグリーニまでの3人が、現在イングランドのフットボール界で最も動向が注目されている。

    オッズが高くなる背景は、第一には「戦力補強投資の成果が期待を著しく下回っている」がある。実際に、リーグの順位で16位のブライトンのグレアム・ポッターは下から3番目、15位のアストンビラのディーン・スミスは下から5番目と、ペップ・グアルディオーラ(下から6番目)よりもオッズが低い。

    加えて、「控室を失った(=選手が監督にそっぽを向くようになった)」現象や、ファンの批判がスタンドまで及んだ時、そして、監督交代が定例行事化したクラブで成績不振が続いた場合には、必然的にオッズに跳ね返る。

    その顕著な例は、12月1日に発表されたワトフォード(20位)のキケ・サンチェス・フローレスだった。9月7日に、今季プレミアリーグ第一号のクビとなったハビ・ガルシアの後任として復職して、僅か3か月のことだった。この決定そのものが、小さな記事にはなっただけで、特に話題にもならなかった。

    逆に、その2日前の11月29日に発表されたアーセナル(8位)のウナイ・エメリの解任は、イングランド中に大きな波紋をもたらした。アーセナルのクラブ記録としては、1992年以来の最悪を塗り替えた7戦無勝の成績不振と、最後の試合となったホームでのEL戦(対フランクフルト戦、試合結果は2-1でアーセナルの敗戦)では3万人に満たない入場数と、「ファンが不支持を足で表明した」現象、先のクリスタルパレス戦(試合結果は2-2)で交代した際にスタンドのファンのブーイングに対して怒りを表明し、主将職を下ろされたグラニト・ジャカ の事件を始め、エメリが「控室を失った」事象など、重たい空気が漂っていた中での決定だった。

    驚いた人こそはなかったものの、最大の議論は、「控室を失った」実態だった。先のアウェイでのEL戦(対ギマランイス、試合結果は1-1)で、帰りの飛行機の中で、中堅選手たちが「主将は何人いる?」などと、聞えよがしに監督批判のジョークを言った話に加え、選手たちがエメリの英語の発音を嘲笑することがトレーニング・グラウンドでの日常となっていたという。

    これらはエメリ解任の後で、インデペンデント紙が「アーセナルのプレイヤー・パワーの実態」として、通報者の名を伏せた記事だったが、9月に18歳の若手ブカヨ・サカが、「監督の発音は聞き取りにくいので、アシスタントのフレドリック・ユングベリ(※現在は暫定監督)に通訳してもらっている」とインタビューで語った言葉からも、信ぴょう性が高いと見られていた。

    「ミスター・グッドイブニング」とは、エメリの発音をネタにしたジョークとして、ライバル・ファンの間でしばらく前から通用していたものだった(※スペイン語ではVの発音がBとなるため、エメリの「グッドイブニング」の発音を嘲笑したジョーク)。

    「ライバル・ファンが自分たちの間で交わすジョークは、それはそれ。選手が監督の権威を真っ向から否定するようなプレイヤー・パワーがまかり通るのは間違い」と、中立のメディアやファンから一斉に非難が上がった。

    さて、「次にクビになる監督オッズ」で最下位を守っているユルゲン・クロップは、「控室を失う」現象の対極にあった。11月30日のアンフィールドでのブライトン戦(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)で、76分に退場となったアリソンに代わって急遽ゴールを守ったアドリアンを、クロップは「私にとってのマン・オブ・ザ・マッチ」と絶賛した。「寒いベンチに座って、ウォームアップも何もなしでいきなり試合に駆り出されたというのに、アドリアンは2つのセーブを含め、立派に守った」。

    それは、アドリアンが(ウォームアップ不足のため)悲観的単純なヘッダーをファンブルをするなど、アンチのメディアからつつかれそうな場面があったため、クロップが批判封じの先手を打ったとは、誰もが気づいていた。Liverpoolの選手たちが入れ代わり立ち代わり、「監督のお蔭で自信を持って頑張れる」と、異口同音に信頼を語る証言は後を絶たなかった。

    同時に、ファンのクロップ支持は強まる一方だった。何度も失意を味わいながらリーグ優勝を30年間待ち続けているLiverpoolファンは、昨季は7ポイント差の首位を走っている時に「我々は優勝する」チャントで勇み足を踏んだ苦い経験を元に、今季は慎重に構えていた。

    「ただ、『我々は優勝する』チャントで先走るのは禁句としても、過密日程と負傷とでボロボロになりながらも気合むき出しで頑張っている選手を見ると、心の底から100%信頼して応援を続けようと決意に燃える」。

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    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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