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    スティーブン・ダービー・ベイビー・チャレンジ

    Liverpoolのアカデミー・チームでは、将来のスティーブン・ジェラードやトレント・アレクサンダー・アーノルドを目指す少年たちに対して、伝統的でユニークな「教育」を施している。「クラブは、少年たちが社会的に、『さすがはLiverpoolのアカデミー・チームの選手たちだ』とほめられる態度を身に付けるように導く責任を持っている」と、アカデミー・ディレクターのアレックス・イングルソープは語った。

    アカデミー・チームのカリキュラムの中には、トレーニング・グラウンドでのセッションだけでなく、料理実習や掃除に始まり、ホームレスへの衣食住提供サービス、地元の保育園で幼児の子守をするなど、社会生活を営む上で必要なスキルを教えるプログラムが多く含まれているという。

    「ホロコーストの生存者を訪問して、話を聞くこともある。それは、文字通り、フットボーラーである以前に生命を考える場を持つため。アカデミー・チームの少年たちの殆どが、Liverpoolでプロとして身を立てるチャンスが得られずに終わる。その後で彼らが、自分の生活を立てることが出来るために必要なスキルだから」。

    こうして育った少年たちの中で、ごく僅かの、Liverpoolのファーストチームで試合に出るチャンスを得た選手たちは、その後主力として活躍できる他クラブへと転換した選手たちも含め、Liverpoolのアカデミー・チームにとっての成功事例と言える。

    2008年にCLでファーストチーム・デビューを果たし、通算6出場を記録した末に、2012年にブラッドフォード・シティに移籍したスティーブン・ダービーもその一人だった。

    そのダービーが、2018年9月に運動ニューロン病(※)と診断され、29歳で引退を余儀なくされたというニュースは、イングランドのフットボール界に大きな衝撃を与えた。
    ※運動ニューロン病(MND):運動ニューロン(神経細胞)の変性を起こす病気で、現在までにまだ治療法が解明されていない。徐々に体の機能が低下し、次第に動けなくなり、喋れなくなり、最後は呼吸が出来なくなるという。診断されてから2年以内に死亡する確率は50%、5年以上生存する確率は10%と言われている。

    地元出身で、Liverpoolのユース・チームの主将としてFAユース・カップ連覇(2006、2007年)を達成したダービーは、Liverpoolのアカデミー・チームの英才教育の成果と言える人格の持ち主で、リーダーとしての能力が評価されて、ブラッドフォード・シティ(在籍は2012–2017)でもクラブ主将に任命されるに至った。2017-18季にボルトンに移籍し、間もなく病気の兆候が出始めたという。

    「病気のため、体が思うように動かせなくなったため、引退となった。言うまでもなく本人と家族にとっては壊滅的な打撃だった」と、ダービーとはLiverpool時代からの友人でもあるエージェントが証言した。「しかし、強い意志と前向きな態度を貫いてきたスティーブンは、不運を嘆く暇もなく、病気と闘う決意を抱いた。フットボーラーという立場を生かして、この病気への関心を高めることにより、これからの人のために、医学研究を進めることを目指した」。

    かくして、ダービーは、同じ病気を患う友人のクリス・リマ―と共同で、ダービー&リマ―MND基金を作った。

    ダービーの病気にショックを受けたブラッドフォードのファン・グループは、毎試合のスタンドで、「スティーブン・ダービー・ベイビー」とチャントし、ダービー&リマ―MND基金への協力を表明した。これは、ヒューマン・リーグの「ドンチューワントミー(Don't You Want Me Baby)」のメロディに「スティーブン・ダービー・ベイビー」と合唱し、その動画をSNSにポストすると同時に、次の人を指名してチャントする仕組みで、「スティーブン・ダービー・ベイビー・チャレンジ」という呼称で、フットボール・ファンの間で急速に広まることになった。

    ブラッドフォードの隣町であるリーズに自らのチャリティを持つジェームズ・ミルナーが協賛し、直接ダービーと面識がなかった現役のLiverpoolの選手たちにも「スティーブン・ダービー・ベイビー・チャレンジ」が波及した。間もなく、収益金は全てダービー&リマ―MND基金に寄贈されるという前提で、2019年7月14日にLiverpoolがブラッドフォードとプリシーズン戦を行う計画が発表された。

    ユルゲン・クロップは、「1試合でも出場すればLiverpoolファミリーの一員。ブラッドフォード・シティにとっても同じように、スティーブンは大切な家族」と語った。

    7月14日、Liverpoolが3-1と勝った試合では、1986年のスタジアム改装工事以来最高の入場数24,343人を記録し、寄贈と同時にイングランド中にダービー&リマ―MND基金の存在をアピールの目的でも成功を収めた。

    「Liverpoolとブラッドフォードの両クラブ、監督、ファンの皆さん方には心から感謝しています。あなた方のお蔭で今日この試合が実現しました」と、しっかりとマイクを握って感謝の挨拶をしたダービーに、満員のスタンドは、盛大な拍手と「スティーブン・ダービー・ベイビー」チャントで返した。


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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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