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    感情的な週

    Liverpoolのクラブとファンにとって、4月は感情が深まるが、ヒルズバラ30周年の今年はいつもに増して揺れ動くことになった。その発端は、4月3日にヒルズバラ公判の判決が下ったことだった。隣町であるプレストン市の裁判所で40日に及ぶ公聴の末に、陪審員が8日に渡って協議した結果、2人の被告のうち1人(シェフィールド・ウェンズディFCの事件当時の責任者であるグレアム・マクレル)は有罪となり、1人(スタジアム警察の責任者だったデビッド・ダックンフィールド)は合意に達することが出来ずに終わった。

    判決を受けて、リバプール市長のジョー・アンダーソンが、「ヒルズバラ遺族グループ、および生存者を始めとする関係者一同にとって、肯定と失意の感情が入り混じった判決だった。30年前の事件に対して、初めて有罪者が出たのは大きなことだったが、試合の警備の責任者に関しては陪審員が一致できなかった」と声明を出した。

    ダックンフィールドに対しては、検察側が上告を計画しているという情報が続いたが、遺族グループの中には「これ以上続けることは体力的に無理」と、うつむく声もあった。実際に、事件当時に例えば40歳だった遺族は、今では70歳になっている。文字通り、「体力的に無理」なものがあった。

    毎年4月15日に行われているヒルズバラ式典は、30周年となる今年は再びアンフィールドで開催する計画が1年前に決まったが、この公判のため、非公開で行うことになった(※裁判に影響を及ぼす恐れがある言動は違法となるため)。それだけに、ダックンフィールドの有罪が決められなかった判決は、関係者の目には「失意」の感情の方が重たくのしかかっていた。

    そのような背景も手伝って、Liverpoolファンの話題は、毎年4月15日に最も近い日にホームで行われる公式戦での96人への追悼に向けられた。これまで29回の試合では、アウェイ・スタンドからの100%の協力を得て、試合前に1分間の黙とうとモザイクでの追悼が行われてきた。

    今年は4月14日のチェルシー戦と日程が確定した時に、少なくないファンが心配の声を上げた。それは、ヒルズバラ事件の秘匿文書が明るみに出た2012年に、イングランド中がヒルズバラ遺族グループに対する敬意の声を上げ、4月15日近辺の全試合で1分間の黙とうが行われた時のことだった。チームを問わず、全てのファンが自分たちの悲劇として96人を偲んだ中で、1試合だけ、4月15日にウェンブリー・スタジアムで行われたFAカップ準決勝、チェルシー対トットナムで、心ない言動が行われた。

    レフリーの笛と同時にチェルシー側のスタンドから騒音が起こり、しばし続いた。実況放送のTV局は、急遽アンフィールドで行われていた式典の映像に切り替えた。レフリーは予定を切り上げて「黙とう」終了の笛を吹いた。トットナム側のスタンドから、チェルシーのスタンドに対して批判のブーイングが出たのを背景に、実況のアナウンサーは「スタンドの外にいたチェルシー・ファンが、黙とうが行われていることに気付かず、騒いでいたようです」と、苦しい「説明」をした。直後に、その件に関してチェルシーFCから謝罪の声明が出た。

    その時の生々しい記憶があるだけに、Liverpoolファンは祈るような気持ちで今年の30周年の追悼を迎えたのだった。

    折しも、その3日前に、プラハでのEL準々決勝の試合前にチェルシー・ファン6人のグループが、モー・サラーに対する差別的チャントをする動画が流れたところだった。チェルシーFCは容疑者をゲートで取り押さえ、直ちにチケットをはく奪するという対策を取ったことも同時に伝えられた。

    「プラハで事件を起こしたグループが、4月14日にアンフィールドで、1分間の黙とうの最中にモー・サラーに対する差別的チャントを企てている」という情報がインターネットを飛び交う中で、チェルシーFCは、差別的チャントを厳しく批判し、「アンフィールドでは、試合前にヒルズバラの96人を偲ぶ1分間の黙とうが行われます。試合に行く人は、チェルシー・ファンとしてふさわしい行動を取るようお願いします」と呼びかけた。

    ふたを開けると、これまでの29回同様に、針の落ちる音も聞こえるくらいの静寂の中で96人への追悼が行われた。

    どのクラブにも「心ない少数派の愚か者」がいる。事件が起こってから対処するのではなく、事件が起こらないように対策を講じることで、相手を傷つけることなく、クラブと圧倒的多数の普通のファンの名誉を守ることが出来る。

    そして試合では、アウェイ・スタンドからの「滑って転んでデンバ・バにゴールを献上した」替え歌(※2014年4月に、Liverpoolが11連勝中で首位だった時に、アンフィールドでチェルシーに0-2と破れた試合で先制失点を招いたミスを嘲笑する替え歌)を遮るかのように、モー・サラーが会心の弾丸シュートを出し、2-0とLiverpoolが勝利を収めた。Liverpoolにとっては、アンフィールドのチェルシー戦勝利は2012年以来のことだった。

    「2014年を経験しているのは、今ではジョーダン・ヘンダーソン、ダニエル・スタリッジ、シモン・ミニョレの3人だけになった。チームも監督もほぼ刷新し、過去のしがらみを意識する必要はなくなっている。しかし、ファンにとっては、いろんな意味で『長年の悪夢を振り払えた』試合となった」と書いたリバプール・エコー紙の記事に、多くのファンがうなずいた。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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