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    「ノー・ブレイナー」の新戦力

    7月22日、メスト・エジルが代表引退を発表した。トルコ系ドイツ市民のエジルは、W杯開催直前にトルコ大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアンと記念写真を撮ったことで、ドイツ国内で「代表チームに対する忠誠心」を問う批判が爆発した末に、W杯グループステージ敗退の後で、非難が増大していた時だった。

    2014年W杯優勝チームの主力だったエジルは、「育ったドイツに愛情を抱き、代表チームのためにプレイできることに生きがいを感じてきた。しかし、勝てばドイツ人と言われるが、負ければトルコ移民と言われ差別される中で、僕自身はもう、ドイツ代表チームのシャツを着ることに誇りを感じなくなった」と、ドイツFAに対する強烈な批判を表明したのだった。

    ドイツでは、歴史的にトルコ系移民の差別問題が大きな政治問題となっているだけに、エジルの代表引退はスポーツ界だけでなく、国際政治ニュースとして大きく取り上げられた。

    W杯の大会中に発生し、政治問題に発展したスイス代表のジェルダン・シャチリとグラニト・ジャカの、「コソボ支持表明」ジェスチャーに対して、FIFAが(最も重たい2試合出場禁止ではなく)罰金処分で留めた事件の記憶は生々しいものだった。

    これは、シャチリがセルビア戦(試合結果は2-1でスイスが勝ちラスト16進出決定)で、試合終幕に決勝ゴールを決めた時に、コソボの国旗をイメージするジェスチャーをしたことから、コソボの独立を阻止した「敵国」であるセルビアが、「政治的プロパガンダ」としてシャチリを紛糾したものだった。

    直後に、当時のシャチリの所属クラブだったストークシティの地元紙ストーク・センティネルが、「シャチリの生い立ち」の記事を掲載した。4歳の時に、ご両親に連れられて戦地コソボを出てスイスに移住したシャチリは、代表チームの試合に出る時に、左にスイスの国旗、右にコソボの国旗を縫い付けたブーツを履いたことを明かした。

    「生命に脅かされることない生活をさせてくれたスイスに感謝しているし、僕自身はスイス人としてのメンタリティを持っている。僕がスイス代表チームのシャツを着てプレイすることを、両親は心から誇りに感じている。ただ、コソボに行くたびに、自分のホームに来たと感じる。スイスとコソボの両方に対して同じような気持ちを抱いている」。

    「(セルビア戦でのジェスチャーは)政治ではなく、自分の感情だった」。

    この記事を読んだストーク・ファンが、悲しそうにつぶやいた。「もう1年留まって、ストークをプレミアリーグに復帰させて欲しいと悲願を抱いていたが、諦めるしかなさそうだ。シャチリが生き生きと感情を表現できる舞台で頑張る姿を見守ろうと覚悟を固めた」。

    そして、7月14日にシャチリのLiverpool入りが正式に発表された。違約金の£13m満額での移籍だった。

    「シャチリ程の能力の選手が、状況が重なって格安の移籍金で獲得可能となったのだから、動くのは当然。つまり、イングランド風の言い方をすれば『ノー・ブレイナー(※)』の新戦力」と、ユルゲン・クロップは笑顔で語った。
    ※ブレイン(頭脳)を持たない人でも分かる程に、至極当然のこと、という意味の表現。

    かくして、「ノー・ブレイナー」というキーワードがしばしメディアを飾った後で、シャチリが語った抱負が報道された。攻撃力には定評があるLiverpoolで、どのような意気込みでポジション争いに臨むかという質問に、シャチリは落ち着いて答えた。

    「内心は、自分に自信を持っている。ただ、重要なのはチームが勝つこと。トロフィーを取るためには、11人だけでなく、控えの選手も含めた全員が頑張ることが必要」。

    この言葉に、Liverpoolファンは一斉に拍手を送った。「降格したクラブから、格安の移籍金で獲得した選手が、主力として活躍する事例は事欠かない。シャチリはまさにその一人となる人材」と、両手を上げて歓迎した人々はもちろん、あまり乗り気でなかったファンも、「シャチリは、スターティング・ラインナップ入りしなければやる気をなくして出て行くような選手ではなく、ベンチにいてもチームの勝ちに貢献したいと意欲を見せている」と、期待を語った。

    更に、メディカルに来た時にシャチリが「夏休みを切り上げて、今すぐプリシーズンに合流したい」と、懇願した事実をクロップが明かした。「今のうちにゆっくり休みなさい、と追い返した」と、クロップは笑った。そして、7月24日に晴れてLiverpoolのチームに合流したシャチリは、わずか4日のトレーニングでマンチェスターユナイテッド戦に出場し、華麗なバイシクル・ゴールを決めて、その意気込みが言葉だけではなかったことを証明した(試合結果は4-1でLiverpoolの勝利)。

    「ストーク・ファンが、『昨季の降格を救えなかった、とシャチリを批判するアナリストがいるが、真相は逆。シャチリがいなかったら1月に降格決定していただろう』、と本音を漏らすのを聞いた。そんなシャチリは、まさに『ノー・ブレイナー』の新戦力」と、Liverpoolファンは笑顔で頷き合った。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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