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    アカデミーチームの申し子

    3月10日のプレミアリーグは、ウエストハム対バーンリー(試合結果は0-3でバーンリーの勝利)で起こったファンのオーナーに対する抗議行動が、その日のヘッドラインをほぼ独占した。前半はウエストハムがやや優勢だった試合で、後半66分にバーンリーが先制ゴールを決めた直後に、最初のピッチ侵入が発生した。その動揺をついたかのようにバーンリーが追加点を入れたのを皮切りに、再びピッチ侵入、続いてディレクター・ボックス側のスタンドにいたファンが、アンチ・オーナーのスローガンを叫びながら、ピッチとスタンドの間(※陸上のトラックに当たる部分)を埋め尽くしたのだった。

    罵倒の矛先となっていたオーナー・グループがスタンドを去った後もトラックの混乱は続き、ピッチの上では戦意をそがれたウエストハムが失点を重ねた。試合後に、トラックから投げられたコインがオーナー・グループを直撃した事実が判明し、「まるで80年代(フーリガンがイングランドを覆っていた時代)に戻ったような衝撃的な光景」と、メディアは一斉に報道した。

    この事件の背景として、ウエストハムのファン・グループの一つがこの日にアンチ・オーナーのデモを計画していたものが、別のファン・グループにより取りやめとなったという説が流れた。スタンドにいた大多数のウエストハム・ファンから、「彼らはまるで、チームが失点した瞬間までデモ決行のタイミングを待っていたかのようだった」という非難の声が上がった。

    ファンの間では、伝統と歴史の詰まったアプトン・パーク(旧ホーム・スタジアム)を出て、フットボールには不適格な構造のオリンピック・スタジアムに移転したこと、それに際してオーナーが公約した「クラブの発展計画」が実現の気配もないまま、戦力補強投資も反故にされている現状に対する不満が蓄積していた。

    ウエストハムの状況は、他チームのファンの間でも折に付け話題になっていた。特にリバプールやマンチェスターなど北部の不況都市では、「ロンドンの中産階級のおぼっちゃま連中とは違い、生粋のコックニー(※ロンドン東部。広義ではトットナムやアーセナルの北ロンドンも含む)のウエストハム・ファンは、労働者階級の誇りと忠誠心がある」と、肯定的な見解が圧倒的だった。

    「ウエストハム程の歴史を持つクラブが、ここまで魂を奪われた上にファンがないがしろにされているのは前例がない」と、Liverpoolファンは深刻な表情でつぶやき合った。「その不満の表現の仕方は間違っているが」。

    ピッチに侵入したファンを取り押さえたウエストハムの主将マーク・ノーブルが、「僕はウエストハム・ファンとして、常にクラブを守ってきた」と、深刻な表情で語った。地元東ロンドンでウエストハム・ファンとして生まれ育ち、ウエストハムのアカデミーチームから上り詰めてきたノーブルにとって、クラブの現状は厳しいものだった。

    「新スタジアムに移転してから2年間、ずっとこのような状況が続いている。試合に負ける度に、ファンの怒りが響き渡っている。しかし、今日は特に顕著だった。今日の批判は僕らチームに対して向けられたものではなかったが、ただ、あの状態の中で試合だけに専念するのは無理」。

    さてLiverpoolは、同じ日に宿敵マンチェスターユナイテッドに2-1と破れ、4位に転落した。ウエストハムの事件のお蔭で注目度はやや低下したとはいえ、この試合で前半の2失点の原因となったライトバックのトレント・アレクサンダー・アーノルドが、ハイライト番組で軒並みつるし上げを食らった。「トレントは攻撃面では良いものを持っているが、守りでは弱点が目立つ。Liverpoolは、トップを目指すにはライトバックを補強すべき」という見解が乱れ飛んだ。

    これに対して、ユルゲン・クロップは大声で反論した。「あの失点はトレントは防ぐべきだった?もちろん、トレントは防ぐ実力を持っている。ただ、マーカス・ラッシュフォードの攻撃はスピードと威力があったので、抜かれてしまった。それをカバーできなかったチーム全体の責任」。

    圧倒的多数のLiverpoolファンが、クロップの言葉に大きく頷いた。「クロップが来季もトレントを使い続けることを祈っている。19歳のトレントに、毎試合100%の安定した活躍を期待するのはあり得ないし、先輩ディフェンダーがカバーできなければ、負けにつながることもあるのは仕方ないこと。でも、それを避けるためにトレントのチャンスを奪うならば、クラブはアカデミーチームを放棄するようなもの」。

    「スカウサーのトレントは、ミスから学んで一人前に育った暁には、忠誠心を尽くしてクラブを守るだろう」。

    ファンの期待を裏付けるかのように、トレント本人からメッセージが出た。「ファンの方々にお詫びします。そして、結果が得られなかったというのに、素晴らしい応援をくださったことを心から感謝しています。今日の敗戦を教訓に、次は勝てるように頑張ります」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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