ユルゲン・クロップが声援をもたらした

    2年前の10月8日、ユルゲン・クロップのLiverpool監督就任のニュースがイングランド中のヘッドラインを独占した。クロップの最初の言葉の一つが「懐疑心を信頼に変える」というものだった。それから2年が経ち、トロフィーゼロ、戦績では111試合55勝32分24敗、得点201で失点が125という数字と、この夏の戦力補強の欠如、特に、急務だったセンターバックとディフェンシブ・ミッドフィールダー部門で、それぞれ筆頭候補がボツになった時点で代替策を取らなかったことで、多くの全国メディアから「信頼を懐疑心に変えた」と批判を受けていた。

    「では、果たしてファンは、クロップの2年間についてどのような評価を下しているか?」という見出しで、地元紙リバプール・エコーが特集記事を組んだ。

    折しも、この2年間の節目を迎えて、ファンの間でも自発的な議論が出ていたところだった。地元の大多数のファンの間では、直近7試合でわずか1勝という成績を楽観視している人は皆無に等しく、いくつかの要素においてクロップの決断ミスを指摘する声も少なくなかったが、同時に、「軌道修正して不調を乗り越えるために、クロップより適任者はいない」という意見では一致していた。

    「私は人生を通してずっと、アンフィールドに通い続けている。この56年間、チームが良い時も、あまり良くない時も、変わらずチームをサポートし続けてきた」と、あるベテラン・ファンは切り出した。「勝てなかった試合の後で、即座にTV番組に電話したり、SNSに『監督クビ』を求めるメッセージをポストするような『インタネット戦士』は、本当にクロップに出て行かれたら果たして今のLiverpoolがどうなるか、考える頭すら持っていない人々」。

    別のファンが、11月に出版される、ドイツ通の著名なスポーツ・ジャーナリストによる、クロップの2年間をまとめた「ユルゲン・クロップが声援をもたらした」という本の予告版を紹介した。

    同書は、フォーンビー(※リバプール市のベットタウン)の「クイズ・ナイト」の話で始まっていた。毎週火曜日に開催され、多い時には100人の参加者を集める人気企画で、クロップの住居から徒歩5分の距離にあるそのパブの「クイズ・ナイト」は、クロップもレギュラーの一人だった。

    「ある時ひょっこり現れて、自然なしぐさで近くのテーブルのグループに合流し、クイズに参加したクロップは、全く違和感なく地元社会に溶け込んだ」と、ある住民が語った。マージーサイドの裕福な地区にあるフォーンビーでは、有名人の住民は珍しくなく、地元の人々はクロップに対しても駆け寄って騒ぐようなことは一切せず、普通の隣人として接しているという。「クロップは、フットボールだけでなく、いろんな分野の知識があり、クイズも良くできるし、会話していて楽しい人」。

    同じくフォーンビーに住むデビッド・フェアクラフ(Liverpool在籍は1975–1983)は、地元で犬の散歩をしていた時に、クロップと初めて出くわした。「クロップも犬を連れていたので、会話は犬の話になった。その時、クロップは果たして、私が元Liverpoolの選手だと気づいていたかどうかは不明」と、フェアクラフは笑った。

    犬の散歩で何度か出会い、顔見知りになった頃に、地元のパブで奥さんと一緒にランチを取っていたクロップを見かけたフェアクラフは、近寄って会話を始めた。そして、ランチのフィッシュアンドチップスの感想を尋ねたら、クロップは、感情を込めて「絶品でしたよ!」と返したという。その時、フェアクラフは「クロップにビル・シャンクリーの面影を見た」と語った。「分け隔てなく地元の人々と触れ合うクロップは、人々から熱烈に好かれる人柄で、人々に対して情熱を抱いている」。

    フェアクラフは、Liverpoolが昨季のシーズン末にオーストラリアで親善試合を行った時のエピソードを明かした。「試合前に、クロップは選手たちに向かって真剣な口調で語った。『この試合を見るために、大金を費やして来てくれた8万人のファンに、喜んでもらえるプレイをしなさい』と。私が知る限り、そんなことを言った歴代Liverpool監督は、シャンクリーだけ」。

    「クロップがシャンクリーと同じくらいこのクラブにいて、同じくらい栄誉を取ったら、恐らくクロップはシャンクリーと同じくらいのレガシーを残すだろう」と、フェアクラフは締めくくった。

    同書は、リバプール市出身で熱烈なLiverpoolファンとして有名なポップ・バンド「ファーム」のピーター・フートンの証言を引用した。9歳の時にコップ・スタンドで、シャンクリーを目の前で見た時のことだった。同年代の少年ファンが投げたスカーフが、コップとシャンクリーの間に立っていたスタジアム警官の足元に着地した。その警官がスカーフを足蹴にしたのに対して、シャンクリーは「あなたにとっては単なるスカーフかもしれない。でも、この少年にとっては宝物なのだ」と言って、スカーフを拾って自分の首に巻いた。

    「救世主がシャンクリーとしてこの世に戻ってきたのだ、と思った」と、シャンクリーの思い出の後で、フートンは語った。「クロップがファンを大切に思ってくれていることは明らかだし、ファンは誰もがクロップの熱情に魅かれていると思う。ただ、シャンクリーがコップ・スタンドに手を差し伸べる位置に立っていたのに対して、クロップとコップとの間には、まだ目に見えない境界線があるように感じる」。

    「我々ファンにとっては、様々な事情で、毎試合かつてのような大声援を発し続けているわけではないから、クロップをがっかりさせているに違いないという後ろめたさが心の底にある」。

    「ただ、クロップはきっと、トロフィーを取った時にその境界線を乗り越えて手を差し伸べてくれるのではないかと思う。そうだとしたら、待つ甲斐がある」

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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