リトル・マジシャンが肩を落とす時

    10月29-31日のプレミアリーグ日程を控えた週末に、マンチェスターユナイテッド陣営からユルゲン・クロップのLiverpoolに対する「危惧」が連発した。口火を切ったのはサー・アレックス・ファーガソンで、「1年前にクロップがLiverpool監督に就任することが決まった時に、クロップが眠れる巨人を目覚めさせるのではないかと嫌な予感に襲われた。その悪夢が実現しつつある」と語った。

    ファーガソンは、ドルトムント監督時代からクロップを高く評価していたこと、2013年に引退を決めた時に、後任監督として最初に目を付けた人物だった、とは有名な話だった。当時はドルトムントを出る理由が全くなかったクロップは、「光栄だったが」丁重にお断りした。そして1年半後に、目の敵であるLiverpoolに入ったクロップを、ファーガソンは潔く祝福した。「クロップとLiverpoolは非常に合っている。Liverpoolがまた強くなるのではないかと気が滅入る」。

    続いて、ファーガソンが黄金時代を築いたユナイテッドの「クラス・オブ92」の中心人物であるライアン・ギグスが語った。「Liverpoolが今季、優勝争いの勢力の一つであることは間違いない。80年代のLiverpoolを見て育った私にとっては、恐怖だ。勿論、今のプレミアリーグは90-2000年代とは違って、1チームが毎シーズン栄誉を独占する可能性は低い。しかし、Liverpoolは、1回優勝すれば満足してまた休暇に入るようなチームではない」。

    宿敵からの牽制が心地よく響く程に、良い空気に浸っていたLiverpoolは、チームは自信と意欲に満ちており、ファンは期待に胸を膨らませていた。

    そんな時に、ジェイミー・キャラガーが「深刻な懸念」を表明し、ファンの楽観ムードに爆弾を落とした。それは、週末に賑わした憶測記事の一つで、レアルマドリードがフィリペ・コウチーニョを狙っているという話に関するものだった。

    「僕がメルウッドでコウチーニョを毎日見ていた頃から、スペインの二大クラブが狙っているという噂が出る度に、目を丸くしたものだった。でも今は、その噂が出ると、本当に取られるのではないかと真剣に心配になる」。

    「クロップが監督に就任した時に、真っ先に考えたのは、体が小さいコウチーニョが、体力を要求するクロップのフットボールについて行けるだろうか?ということだった。ふたを開けるとコウチーニョは、クロップの指揮下でプレイを向上させた筆頭の一人となった。しかも今季のコウチーニョは、これまでの最大の弱点だった『調子の波』を克服し、ほぼ安定して高いレベルのプレイをするようになった。今のコウチーニョは、現在のLiverpoolの快進撃の発信源であり、攻撃的ミッドフィールダー部門ではヨーロッパのトップクラス」。

    キャラがまだ「目を丸くしていた」頃に、スティーブン・ジェラードが明かした言葉は意味深だった。それは、2014年夏に、去って行ったルイス・スアレスが、ジェラードに向かって「フィル(コウチーニョ)の面倒をしっかり見て欲しい」と言い残した、というものだった。

    Liverpoolファンの間では、「コウチーニョが肩を落とした瞬間に、何か凄いトリックが飛び出すことがわかる」と、「リトル・マジシャン」のニックネームが定着するのと並行して、コウチーニョ支持は深まる一方だった。同時に、「いつまでコウチーニョがLiverpoolにいてくれるだろうか?」という疑問は頻繁に上がっていた。南米の選手にとって、スペインの二大クラブから誘われれば、イングランドのクラブとしては勝ち目はなかった。

    「家族もマージーサイドの生活にすっかり馴染んでいるし、自分はLiverpoolのようなビッグ・クラブで、毎試合に出してもらえて、とても満足している」と、折につけLiverpoolへの忠誠心を語るコウチーニョに、ファンの気持ちは複雑だった。「調子の波があるうちは、おそらくスペインの二大クラブに行くのはリスクが大きいだろう。でも、安定して活躍できるようになったら...」。

    Liverpool陣営の「深刻な懸念」を裏付けるかのように、10月29日のクリスタルパレス戦で、コウチーニョは「Liverpoolでの最高の出来」という評価のプレイを見せ、マン・オブ・ザ・マッチに輝いた(試合結果は4-2でLiverpoolの勝利)。

    その夜のマッチ・オブ・ザ・デイで、フィル・トンプソン(Liverpoolの選手としての在籍は1971–1984)が、「スペインの二大クラブにコウチーニョを取られる危険性」を持ち出した時に、Liverpoolファンの間で苦笑が広がった。

    「将来のことを心配しても始まらない。それよりも、今この時を堪能すべき。移籍ウィンドウの最中には、ファンやLiverpool出身のアナリストが、クロップに『マルコ・ロイスを誘惑』すべきだと騒ぎまくった。でも、今の調子を続ければ、コウチーニョはロイスの最盛期を上回る数字を出すだろう。そんなコウチーニョを、自分たちの選手として見ていられる幸せを、素直に喜ぼうではないか」。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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