古巣のファンの祈り

    レスター・シティがプレミアリーグ優勝を決定した昨季終幕、マッチ・オブ・ザ・ディの司会者ガリー・リネカーが12月の時点で番組中で宣言した、「もしレスターが優勝したら、私はパンツ一丁でこの場に出る」という約束を、果たして守るか?と、イングランド中が湧いた。レスターのおとぎ話が実現することを、誰も予想していなかった時期の大胆な言葉は、レスター市で生まれ育ち、レスター・シティのユース・チームで名を上げたリネカーの、レスター・ファンとしての本音が出たものだった。

    国旗を背負う放送局BBCの人気番組ということで、本当にやってもいいのか?と本人が疑問を投げ、周囲が「逃がさないぞ」と爆笑した議論は、とうとう国会での質疑に発展した。

    レスターの議員が、レスター・シティのスカーフを着て壇上に立ち、当時首相のデビッド・キャメロンに「首相がひいきにしているアストンビラの惨状について、心から同情を申し上げます」と、笑顔で語りかけた。「世界のトップ・チームであるレスター・シティFCのレジェンド、ガリー・リネカーが12月に約束した、『パンツ一丁でマッチ・オブ・ザ・ディに出演する』ことを、是非とも実現させたく、首相の許可をお願いいたします」。

    これに対して、爆笑の中で、キャメロンは即答した。「ミスター・リネカーが約束を果たせることを、私が保証いたします」。かくして、リネカーの「パンツ一丁で司会」は、2016-17季の第一回目の番組で遂行された。

    レスターで名を上げ(在籍は1978–1985)、当時イングランドのチャンピオンだったエバトンに引き抜かれ、1986年W杯で得点王に輝いて、バルセロナ入りを果たしたリネカーは、このレスターの国会議員がいみじくも語った通り、レスター・ファンにとっては、「出世して故郷に錦を飾ったスター」であり、永遠のレジェンドだった。

    2000年に、同じくレスター出身でレスター・シティから多額の移籍金でLiverpoolに入ったエミル・ヘスキーに対して、レスター・ファンは、リネカーと同じような道を歩むことを期待して、熱い声援を送った。

    しかし、4年後には、夢破れてバーミンガム・シティへと去っていったヘスキーに、レスター・ファンは変わらぬ思いを抱き続けたものの、「ビッグ・クラブで成功することが出来なかった」失意に、心を痛めた。

    いっぽう、サンダーランド・ファンの熱い期待に後押しされて、2011年にLiverpool入りしたジョーダン・ヘンダーソンが、紆余曲折の末にLiverpoolのキーマンの一人となり、2014年にLiverpoolの副主将に抜擢された時、地元紙サンダーランド・エコーは、興奮を隠せなかった。「イングランドのレジェント、スティーブン・ジェラードの後任を目指すほどの存在になったヘンダーソンは、サンダーランドの少年が目標とすべきヒーロー」。

    ところが翌2014-15季、ヘンダーソンは負傷に見舞われ、Liverpoolのチーム全体が不調に陥った中で、メディアの批判に晒されることになった。18か月の低迷の末に、2016年夏には、元Liverpoolのアナリストや少なくないファンから、「主将だからといって毎試合スタートする権利はない」と、失敗の烙印を押されるに至った。

    ヘンダーソンが、ピッチの上でそれら批判に応えることが出来ずに苦しんでいた9月初旬に、サンダーランド・エコー紙が掲載した記事は哀愁に満ちていた。「今のサンダーランドは、ジョーダン・ピックフォードやダンカン・ワトフォードら、ヘンダーソンをしのぐ可能性を秘めた若手が登場してきた。彼らには、サンダーランドに留まってプレミアリーグのスターを目指して欲しい。ヘンダーソンのようにLiverpoolに行かないように!」。

    それは、Liverpoolに対するあて付けではなく、「自分たちの選手が、ビッグ・クラブでのチャレンジに失敗する姿を、これ以上見たくない」という、ファンの悲哀が込められていた。

    その頃から復調の兆しが見えてきたヘンダーソンが、9月16日のチェルシー戦で、25ヤードの「ワンダーゴール」を決め、18か月間の批判にカウンターを食らわせた(試合結果はLiverpoolが2-1で勝利)。

    ライバルチームのファンや、アンチのメディアが一斉に、「ゴール・オブ・ザ・シーズン候補」と絶賛する中で、スカイTVの人気アナリストであり、元イングランド代表アシスタントとしてヘンダーソンを見てきたガリー・ネビルが、静かに語った。

    「ヘンダーソンは、毎日、トレーニングが終わった後に50本のシュートを打つ練習を続けた。5日×50本、単純計算で週250本だ。この18ヶ月間、世の中の批判を受けながら黙々と努力した。あのワンダーゴールはその成果だった」。

    先日のサンダーランド・エコー紙の痛々しい記事に、サンダーランド・ファンの間で「もういいから、帰って来なさい。ヘンドが心の中で常にサンダーランドを思い続けていることは誰もが知っている」という叫びが渦巻いた。ヘンダーソンの18か月の不調に、「ビッグ・クラブの壁は高すぎた」と、サンダーランド・ファンは夢破れる思いで見つめていたのだった。

    歯を食いしばって頑張り続けるヘンダーソンは、サンダーランド・ファンにとって、リネカーになれるか、それともヘスキーで終わるか、まだ結論は出ない。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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