マジック・アンフィールド

    9月10日、今季初のアンフィールドで、チャンピオンのレスターに4-1と圧勝した試合について、多くのメディアが異口同音に、「新メイン・スタンドのファンもチームも万全の出来だった」と絶賛した。夏の間に改築工事を完成させたメインスタンドは、8,500増の20,500席となり、収容人数54,000となったアンフィールドは、この日、1977年5月以来の入場数を記録した。

    試合後に、アダム・ララーナは、「ピッチが大きくなったかのような錯覚すら感じた。スタンドの声援はこれまで以上に大きかった。この音量増大は、選手にとっては勇気倍増」と語った。

    住宅が密接した地区にあるアンフィールドは、各スタンドの増改築工事を重ねた末に、1990年代には既に「これ以上の拡張工事は不可能。収容人数を増やすためには、スタジアム移転が必須」という状態に達した。世界中にファンがいるLiverpoolは、チケットの需要は常に溢れ、ほぼ全試合で満員御礼になる状況の中で、マンチェスターユナイテッド、アーセナル、高額なコーポレート席が多いチェルシーなどのライバルチームに、戦力補強資金に直結する収入面で大きな差を付けられたまま、月日が過ぎた。

    新スタジアムの必要性が叫ばれる中で、Liverpoolファンで地元の名士だった前オーナーのデビッド・モーレスは、2007年に、「愛するLiverpoolを発展させるために」、新スタジアム建造を公約に掲げるトム・ヒックス&ジョージ・ジレットにクラブを売却した。それが2010年には、借金地獄のため倒産寸前のところまで行き、現オーナーFSGに救われたのだった。

    そしてFSGは、スタジアムの稼働を止めずに大々的な改装工事を達成した実績をして、アンフィールドの拡張という決断を下した。かつては不可能と思えた隣接する住宅の買収は、世代交替も手伝って、難航しながらも前進し続けた。

    総額£115mを費やして2016年9月に新装開店したアンフィールドは、プレミアリーグでは、マンチェスターユナイテッド(76,000)、アーセナル(60,400)、ウエストハム(60,000)、マンチェスターシティ(56,000)に次ぐ5番目の収容人数を誇るスタジアムとなった。Liverpoolファンにとっては、1990年代からずっと待ち続けた末に、やっと、この日が来たのだった。

    その間、ウエストハムが、2012年のロンドン・オリンピックのスタジアムを、99年リースで年額£2mの家賃で、6万人収容の新スタジアムを得ることが決まった。2002年のコモンウェルス・オリンピックのスタジアムを250年リースで借り受け、2004年に移転したマンチェスターシティと類似の、多くのチームのファンにとっては喉から手が出る程に羨ましい優遇措置だった。

    僅か£15mの資金で改築工事を完了し、2016-17季からウエストハムの新ホーム・スタジアムとしてお披露目することになったロンドン・スタジアムは、既にシーズン・チケット52,000枚を完売したと発表された。「10年後には、マンチェスターシティと同じところまで到達することが目標」と、ウエストハムのチェアマン(2010年~)であるカレン・ブレイディは胸を張った。

    一方で、ロンドン・スタジアムのお披露目となった8月7日のプリシーズン戦(対ユベントス、試合結果は2-3でユベントスの勝利)を控えて、スラベン・ビリッチは複雑な表情だった。「素晴らしいスタジアムだと思う。でも、これが我がチームのホーム・スタジアムだという実感が、今いち湧かない」。選手としての時期(1996-1997)も含め、クラブの歴史が詰まっているアプトン・パークで様々な思い出を作ってきたビリッチにとって、「魂のホーム」は永遠にアプトン・パークだった。

    それは、マンチェスターシティが44年ぶりのリーグ優勝を達成した2012年5月、幸福の絶頂にいたはずのシティ・ファンが、「魂のホーム」である旧ホーム・スタジアム、メイン・ロードがあった場所の、変わり果てた現在の写真を見て、言葉を失った姿と通じるものがあった。

    Liverpoolファンは、長いこと待たされた、その日々は本当に険しかったが、しかし、「魂のホーム」を失う心配はなかった。

    レスター戦の試合後の記者会見で、「アンフィールドに留まれることの価値は、計り知れない程大きい。アンフィールドは我々にとってホームなのだから」と、ユルゲン・クロップがファンの気持ちを代弁した。

    「アンフィールドで様々なマジックが繰り広げられたことは、フットボール界では誰でも知っている。私も例外ではない。Liverpoolの監督になる前からずっと知っていたし、幸運なことに、このスタジアムを訪れる機会もあった。でも、実際にこのクラブに来て初めて、アンフィールドの真の価値を実感した」。

    「アンフィールドは新しくなった。でも、マジック・アンフィールドであることには変わりない」。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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