選手の忠誠と監督の忠誠

    プレミアリーグが開幕2週目を迎えたイングランドのメディアは、ペップ・グアルディオーラの、ジョー・ハートに対する「非情な仕打ち」の話題で満載だった。これは、開幕戦のホームでのサンダーランド戦(試合結果は2-1でマンチェスターシティの勝利)に続いて、火曜日のCL予備戦、アウェイでのステアウア・ブカレスト戦(試合結果は5-0でマンチェスターシティの勝利)でも、イングランド代表GKのハートをベンチに格下げしたことだった。

    これに対して、ユベントスのジャンルイジ・ブッフォンを始め、内外の現役選手から「ハートは超一流のGK。外されるのは間違い」と擁護が飛び、多くのアナリストが「ハートはシティに留まってポジション奪還に励むべきか、新天地を探すべきか」の議論で湧いた。

    シティの地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースは、大多数のシティ・ファンの声を代表して、「ハートはシティの44年ぶりの優勝を達成したヒーローの一人だし、シティに忠誠を尽くしてきた。しかし、ペップのメッセージはあまりにも明らか」と、泣きが入っていた。シティ・ファンの間では、「ペップを取るか、ジョーを取るか」という議論すら出ていた。

    シティ・ファンにとって、ハートに対する思い入れは強かった。一方で、実際には、2016年2月にグアルディオーラの監督就任が正式になって以来ずっと、「ハートの将来」に関する憶測が飛んでいた事実は、誰もが知る通りだった。「グアルディオーラは、GKにも11人目の選手として、ボール・テクニックを要求している。ハートは、ショット・ストッパーとしては一流だが、パスをこなすタイプではない」。

    更に、「ロベルト・マンチーニ(シティ監督在任は2009-13)が、あと1年留まっていたら、ハートは出されていただろう」という証言も、何度も話題になった。「マヌエル・ペジェグリーニ(シティ監督在任は2013-16)は、放出はしなかったが、ジョーをベンチに下げた。つまり、3人の監督が同じ評価を下しているということ」と、シティ・ファンは神妙な表情だった。

    いっぽうで、グアルディオーラに対する支持は強かった。7月にお披露目された、ノエル・ギャラガーのさっくばらんなインタビューで、プレミアリーグに対する熱意の裏付けとして、11年前にシティのトライアルを受けたエピソードを披露したことで、シティ・ファンの心を掴んだ。「スチュアート・ピアース(シティ監督在任は2005–2007)から門前払いを食らった。でも、体が小さかった自分にとってはプレミアリーグの壁は厚過ぎた。ピアースの判断は正しかったと思う」。

    8月20日、プレミアリーグの名物の一つでもある、「寒くて湿った平日の夜のブリタニア(※2016-17季からはスポンサーのためベット365スタジアムと名称変更)では、たとえバルセロナでも勝てない」という言い伝えのあるストークシティに、4-1と快勝した試合後の記者会見で、グアルディオーラは、「評判は知っていた。2月の平日の試合でなくて良かったと思う」と笑った。

    試合中に、アウェイ・スタンドで2,000人のマンチェスターシティ・ファンが、グアルディオーラの歌(※The Dave Clark Five classic 'Glad all over'の替え歌)を大音量で合唱したことについて、「私の名前の部分は聞き取れた」と、頬を染めた姿が、マンチェスターシティ陣営内の「ペップを取るか、ジョーを取るか」議論に終止符を打った。

    翌日のマンチェスター・イブニング・ニュース紙は、「グアルディオーラ下で頭角を現した選手の一人」として上げていた、この夏£47.5mでエバトンから来たジョン・ストーンズが明かした、「起爆剤になった、グアルディオーラの言葉」を掲載した。それは、「間違いは許さない」というものだった。

    「絶対に気を抜くな。もし、試合中に一瞬でも居眠りしたら、君は次の試合の時には自宅で寝てても良い立場になる。センターバックは4人いるのだから」。

    ハートは、プリシーズンのアーセナル戦(試合結果は3-2でアーセナルが勝利)で僅か45分出場しただけで、「自宅で寝てても良い立場」に置かれることになった。

    ユルゲン・クロップがLiverpool監督に就任して、早々に言った言葉は正反対だった。「必ずミスはあるもの。重要なのは、ミスを犯した後でいかにリカバリするか、ということ」。

    この夏、合計£約70mで放出した選手たち(クリスティアン・ベンテケ、ジョー・アレン、ジョーダン・アイブ、ブラッド・スミスなど)と並行して、Liverpoolファンが感傷的になっているジョン・フラナガンは、バーンリーに1年間のローンに出ることになった。

    「監督から、Liverpoolに残って徐々に試合に復帰するか、それともローンに出て経験を積んで戻るか、と選択肢を提示されて、後者を選んだ」と、フラナガンは語った。

    バーンリーでの1年間で、苦戦しながらもレギュラーの座を勝ち取り、自信を付けて戻って来て欲しい、負傷前の調子を取り戻して、Liverpoolでキャリアを歩んで欲しい、と、ファンは誰もが望んでいた。

    「私は選手に対して忠誠を求める。その代り、私も、選手に対して忠誠を尽くす必要があると思っている」と、クロップは言った。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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