ジョー・アレンに敬意を捧げる日

    ユーロ2016のグループラウンドが終了し、ラスト16が出揃った6月28日に、ウェールズとLiverpoolファンの間で、ジョーク交じりの「ディーン・ソーンダーズの駐車料金の罰金を助けるカンパ」が始まった。現役時代にLiverpool(在籍1991–1992)、アストンビラ(在籍1992–1995)などで活躍し、BBCの実況解説者としてフランス入りした元ウェールズ代表のソーンダーズが、バーミンガム空港に短期駐車したものが、期限超過で罰金が発生してしまった、ということだった。

    英国のメディアやアナリストの事前予測では、1958年W杯以来のメジャーな大会で、ユーロ初出場のウェールズが、ラスト16に残る見込みは極めて低かった。ふたを開ければ準決勝進出の大金星となり、ソーンダーズの車は1日£100超の罰金が追加され続けることになったという。しかし、ファンのカンパがインターネットを賑わしたことで、バーミンガム空港の担当者が話を聞きつけ、ソーンダーズに対して、「ウェールズが決勝進出すれば、お祝いとして罰金はゼロにしましょう」と申し出るに至った。

    かくして、英国に明るい笑顔をもたらせているウェールズのおとぎ話は、他の議題でもウェールズ・ファンとLiverpoolファンが結託して、全国メディアを賑わした。

    その一つが、「大会のベスト・イレブン候補」と高い評価を受ける大活躍を見せている、「ジョー・アレンに敬意を捧げる日」キャンペーンだった。アレンが2羽のにわとりをペットにしていることは有名で、4月には英国の雑誌「にわとりと卵」の表紙を飾ったことで話題になった。

    「ジョー・アレンは、にわとりと卵のどちらが先か知っている、この世の唯一の人物。だから今日は、ジョー・アレンに敬意を捧げる日」と、LiverpoolファンがSNSにポストすると、ウェールズ・ファンが「ノー・アレン、ノー・パーティ(※アレンがいなければパーティは始まらない、という感じの意味)」と書いたバナーを掲げた。

    この「ジョー・アレンに敬意を捧げる日」というフレーズは、大会前にウェールズ代表主将のアシュリー・ウィリアムズが、インタビューで明かしたものだった。

    「ウェールズ代表選手たちの間でWhatsAppのグループを作り、日々コミュニケーションを交わしている。その中で、チームの人気No.1のジョー・アレンに対して、皆で敬意を捧げる日が週一回はある。ミッドフィールドの要を固めるジョーは、いい奴で、真面目で努力家。ピッチの上だけでなく、控え室でも、不可欠の存在」。

    そのウィリアムズの証言は、圧倒的多数のLiverpoolファンの合意を引き出した。折しも、ユルゲン・クロップが就任して以来、飛躍的に向上した選手の一人として、アレンが、Liverpoolファンの支持を着実に増やしていた時のことだった。

    「レギュラーとしては無理でも、試合に出れれない状況について文句ひとつ言うことなく、必要な場面でサブで出れば必ず期待に応えるアレンは、尊敬すべきプロで、貴重な戦力」。

    ウェールズ代表チームではもともと主力だったアレンは、ユーロでは、Liverpoolでの2015-16季後半を更に凌ぐ活躍を見せていた。特に、ロシアに3-0と快勝してグループ首位で勝ち抜きを達成した試合の後で、ウェールズ・ファンとLiverpoolファンの「ジョー・アレンに敬意を捧げる日」はピークに達した。それに対して、ガレス・ベイルが「毎日がジョー・アレンに敬意を捧げる日」と付け加え、ファンの笑顔を増幅した。

    「この日のことは、僕は一生忘れられないと思う。我がチームは最初から最後まで、フル回転だった。このような勝ち方が出来たことは、ウェールズ・フットボール界にとって特別なもの」と、アレンは母国代表チームに対する誇りを語った。

    アレンがユーロで活躍すれば活躍する程、英国のメディアは、アレンのLiverpoolでの行方に関する予測を書き立てた。2012年夏にスウォンジーからLiverpool入りしたアレンの契約は、残り1年となった今、Liverpoolからの契約更新の動きはなく、おそらくは、この夏に移籍することになるだろう、というのが一般的な見解だった。

    Liverpoolの地元紙リバプール・エコーも、「Liverpoolは、試合を変えることが出来る貴重な戦力としてアレンを必要としている。しかし、現在26歳のアレンにとって、レギュラーとして試合に出られる環境を希望するのは当然のことだろう」と、同意した。

    「Liverpool入りして、まずまずのスタートを切ったアレンについて、ブレンダン・ロジャーズが言った『ウェールズ版シャビ』という表現は、アレンにとてつもない重荷を課した。ライバル・ファンに嘲笑ネタを与え、Liverpoolファンに不当な期待を与えた。そんな中で、愚痴も言わず、黙々と努力を重ねたアレンは、今ではLiverpoolファンの大多数が引き留めを願う程の支持を勝ち取った」と、同紙は締めくくった。

    ウィリアムズのインタビューでも話題に出た、髭が似ていることで「ウェールズ版ピルロ」というニックネームを授かったことについて、「ウェールズ版シャビ」とどっちが嫌か?と問われたアレンは、静かに笑って答えた。「髭の方はさておき、『ウェールズ版シャビ』と言われて、嬉しいと思ったことは一度もない」。

    アレンがLiverpoolに留まるとしても、レギュラーの座を求めて出て行くとしても、ファンは、「ジョー・アレンに敬意を捧げる日」を祝うことは間違いない。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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