フットボールはチームスポーツ

    Liverpool監督に就任して以来、記者会見ではいつもユーモラスで明るい問答を見せていたユルゲン・クロップが、いきなり激怒したことがあった。それは、劇的な大逆転で4-3とドルトムントを破り、通算5-4でEL準決勝進出を決めた、その3日後のことだった。4月17日のアウェイでのボーンマス戦で、若手中心のチーム編成で臨んだLiverpoolが、ダニエル・スタリッジの先制ゴールを含む鮮やかなプレイと並行して、若手が健闘して2-1と勝った試合だった。

    その試合後の記者会見で、最初の質問が「スタリッジは、今後の試合では絶対に外せない戦力ではないですか?」というもので、クロップの怒りに触れたのだった。

    「フットボールはチームスポーツ。なのに何故、あなたは一人の選手のことだけを取り上げるのだ?クロスを上げた選手がいたから、ゴールが出たのだろう?」。

    度胆を抜かれた記者団に、クロップはトーンを下げた。「今日の試合では、デビュー戦だった選手もいたし、経験の少ない若手が頑張った。なのに、最初の質問が、一人の選手だけをピックアップしたものだったので、私は正直、がっかりした」。

    クロップの「怒り」は、Liverpoolファンの間で大きな話題となった。「クロップがスタリッジに関する質問に対して、気が乗らない口調で回答している印象は前からあったが、それは、ジャーナリストがスタリッジのことをしつこく聞くから、うんざりしたのだろう、と思っていた。でも、今日のクロップの怒り方は、もっと深刻なもののように感じる」。

    実際に、クロップがLiverpoolに来た時には、負傷欠場中だったスタリッジについて、記者会見の度に「復帰はいつ?」と質問が出ていた。それに対してクロップは、笑顔で「今、試合に出られる選手のことを考えるのが監督の仕事」と答えていたが、ぶり返しで復帰が先延ばしになった時に、「深刻な負傷と、そうでない負傷とを切り分けることが必要」と言って、波紋を巻き起こした。

    負傷係数(※選手の負傷欠場期間を算出した統計)では、2015-16季のプレミアリーグで、降格したニューカッスルに次いでワースト2の負傷率に苦しんだLiverpoolが、プレミアリーグ最多の63試合を戦う中で、戦績が上がらず苦戦していた時のことだった。

    イングランドのメディアは、さっそく「クロップはスタリッジを評価していない」という不穏な憶測記事を流し始めた。

    その中に、「クロップは、ドルトムント監督時代に、ゴールの祝い方が気に入らないからと言って、ストライカーをお払い箱にした」という、ドイツ通のジャーナリストの証言が出回った。

    スタリッジが、ゴールの度に「波乗りダンス」をやることは有名だった。それにしても、「ゴールの祝い方が気に入らないから、クロップがスタリッジを嫌っている、というのは、あまりにも根拠がなさ過ぎて心配する気にもならない」と、Liverpoolファンは一笑した。

    しかし、ボーンマス戦の記者会見でのクロップの怒りは、Liverpoolファンにとっては無視できないものだった。

    「スタリッジの負傷歴は否定できない。しかし、Liverpoolでの92試合で53得点の記録からも明らかなように、負傷していない時のスタリッジは、今のLiverpoolでは貴重なワールドクラスの選手。出て行かれるのは大きなマイナス」。

    一方で、スタンドのファンが、スタリッジに対して一線を画していたことも真相だった。2試合に1点以上の得点力を持つストライカーが、今だに歌がないことも、ファンの間で折に付け議論になっていた。

    ELで勝ち進む中で、週2試合ペースになったLiverpoolは、GKなど一部の例外を除き、リーグ戦でスタートする選手はEL戦ではベンチという図式が定着した。そして、EL準決勝1戦目でアウェイでビヤレアルに1-0と負けて、翌週のアンフィールドでの2戦目を控えたスウォンジー戦で(試合結果は3-1でスウォンジーの勝利)、スタリッジがスタートした時、ファンの間で大きな動揺が起こった。

    「得点が必要な試合にスタリッジを出さないというのは、致命的な間違い」。

    折しも、スタリッジが直前のインタビューで、試合に出られない状況について不満を漏らし、「Liverpoolに永遠に留まるとは思えない」と発言して、ファンの懸念を増幅させたばかりのことだった。

    そして、ファンの間で、「ゴールの祝い方が気に入らなかったストライカー」のエピソードが改めて話題になった。それは、獲得に動く予定だったストライカーのビデオを見ていて、乗り気になったところで、ゴールを祝う場面となり、その瞬間にクロップは「このストライカーはダメだ」とNGを出したという話しだった。選手の名前は勿論、具体的に何が気に入らなかったのか、ということも非公表だった。

    誰かがふと、漏らした。「そのストライカーは、自分一人で達成したゴールだと言わんばかりの祝い方をしたのでは?Liverpoolファンが、スタンドからスタリッジを見ていて、距離を感じるのと同じように」。

    ビヤレアル戦の試合前の記者会見の終わりに近づいた頃に、ジャーナリストが、「怒らないでくださいね」と前置きしながら、スタリッジがスタートする可能性はあるのかと質問した。緊迫した空気の中で、クロップは「もっと早くにその質問が出ると思ってたのに、やっと出ましたね」と、ジョークを言い、記者団の緊張を解いた。「100%ある」と、クロップは真顔で答えた。

    そして、スタートしたスタリッジが、後半63分に通算で勝ち越しのゴールを決めて、絶叫しながらスタンドに向かって全力疾走した「祝い方」は、ファンのスタリッジに対する「距離感」を一掃した(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。

    地元紙リバプール・エコーのインタビューで、スタリッジは、「僕のプロ生活中で最も重要なゴールだった」と語った。

    「今のLiverpoolは、一流監督が来て、選手全員が一丸となって前に進んでいる。このチームで、これから皆で力を合わせてトロフィーを勝ち取りたい」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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