相対的な成功

    5月21日のFAカップ決勝戦は、マンチェスターユナイテッドがクリスタルパレスを2-1と破って、イングランドの2015-16季を締めくくった。延長に入ってクリス・スモーリングが退場となり、10人に減ったユナイテッドが、110分の決勝ゴールで通算12回目の優勝を達成したという劇的な試合で、感動で湧いていたはずのユナイテッドのおひざ元から出た、監督交代の速報が、試合結果を凌いでヘッドラインを独占したのだった。

    これに対して、驚いた人は誰もいなかった。というのも、ユナイテッドの地元紙、マンチェスター・イブニング・ニュースが、「ファンハールが今季末で解任され、来季からジョゼ・モウリーニョがユナイテッドの監督に就任することが内定した」という記事を、モウリーニョのエージェントと密接なやり取りをする中で得た「インサイダー情報」として、12月から現在に至るまで、日々刻々と掲載し続けたことからも明らかだった。

    それが、ファンハールがユナイテッドの選手と一緒にFAカップを掲揚したかしないか、という時点で流れたのは、メディアのアンチぶりを象徴していた。

    ユナイテッドから正式に、ファンハール解任発表が出た5月23日には、全国メディアやニュートラルなアナリストからも、「必然的だった」という反応が飛び交った。

    元Liverpool選手(1983-89)で、現在はスカイの解説者として活躍しているジム・ベグリンは、「ユナイテッドの試合を見るより、ファンハールの記者会見を見ていた方が遥かにエンターテインメント度が高かった」と語り、イングランド中の爆笑を買った。

    この、「つまらないフットボール」説は、ファンハール批判の最大要素だった。今季のユナイテッドがリーグ戦で通算でわずか49得点、オン・ターゲットは1試合平均2点台と低調だったことは、全国メディアが頻繁にジョークのネタとして取り上げた。ユナイテッド・ファンの間でも、(最終日のボーンマス戦で19点差で勝てば、ユナイテッドは得失点差でシティを抜いて4位になった、その試合前に)「アウェイ・チームの控室に外から鍵を掛ければ、良いところまで行くかもしれない。でも、バックパスを回しているうちにあっという間に90分が過ぎて、結局、涙を飲むだろう」などと、自嘲的なジョークが飛び交った(試合結果は3-1でユナイテッドの勝利)。

    マンチェスター・イブニング・ニュース紙は「ファンハールは、オールド・トラッフォードの異名『夢の劇場』を、『あくびの劇場』に変えた」と痛烈だった。

    ファンハールの「記者会見でのエンタテイメント」の一つには、ウエストハム戦(試合結果は3-2でウエストハムの勝利)の前に、「勝てばトップ4に王手」の質問と、アプトン・パークでの最後の公式戦という記念すべき試合に関する感想を問われて、「この半年で初めて、今日は私のクビに関する質問が出なかった」と答えたものがあった。

    「ファンハールが、記者会見で人気があったことは事実だし、実際に、選手が家庭の事情などで休みが必要になった時には暖かい言葉を掛けるなど、人柄に関しては定評があった。しかし、試合に勝つための監督としての面では、役不足だったことが致命的。そもそも、ファンハールは12月に既に控室を失った(※選手からそっぽを向かれるようになった)」と、マンチェスター・イブニング・ニュース紙は畳みかけた。

    「トレーニングの内容が古い、など、選手の間で不満が出て、主将のウェイン・ルーニーと副主将のマイクル・キャリックが2人でファンハールに『お願い』に行ったことに対して、ファンハールは門前払いした。ダービーの日のチーム・トークを(当時負傷欠場中だった)ルーニーに依頼したのは、選手がもはやファンハールの言うことを聞かなくなったから(試合結果は1-0でユナイテッドの勝利)」。

    FAカップは、ユナイテッドにとっては3年ぶり、サー・アレックス・ファーガソンが引退して以来初のメジャーなトロフィーだった。しかし、「ユナイテッドが取るべきトロフィーは違うものだった」と、同紙は締めくくった。

    つまり、ユナイテッドにとって、FAカップは「成功」ではなかった。

    ファンハールを含めると、プレミアリーグの全20チーム中で、2015-16季に監督が交代/離任したチームは10となった。世間の圧倒的な評価は、殆どが「仕方ない結末」というものだった。

    その中で、最終週に解任が発表されたワトフォードのキケ・サンチェス・フローレスに関しては、イングランド中から吊し上げられた。「プレミアリーグ残留が最大の目標の昇格チームを、13位に導き、FAカップ準決勝進出を達成した監督を、何の根拠で解任?」というメディアの批判を背に、ワトフォード・ファンが「ありがとう、キケ」のバナーを掲げる姿が印象的だった。

    対照的に、降格した2チームのおひざ元では、1年後のプレミアリーグ復帰に向けて、地元紙もファンも気合いに満ちていた。

    残り10試合の時点でニューカッスル監督に就任したラファエル・ベニテスは、残留という目標は達成できなかったものの、選手の意欲と自信を復元させ、3勝4分と、戦績だけでなく内容も向上させたことは、誰の目にも明らかだった。「降格したら離任する」特約付きで就任したラファは、選手やファンから熱烈な引き留めに合い、再検討に至ったという。

    プレミアリーグ在籍1年で終わったノリッジは、1年前にチームを昇格させたアレックス・ニールが、来季も続投することがほぼ確実となった。「降格の原因は、プレミアリーグで通用する戦力を補強できなかったから」と、ノリッジ・ファンの70%がニールに対する強い支持を掲げ、来季の巻き返しに期待を膨らませている。

    Liverpoolは、5月18日の「全てかゼロか」のEL決勝戦で玉砕し、リーグ8位、トロフィーなし、来季のヨーロッパなしの「ゼロ」でシーズンを終えた。

    前半1-0とリードしながら3-1で逆転負けした内容は、ファンにとっては辛い敗戦となった。更に、世間は「ユルゲン・クロップは監督として通算6度のカップ決勝で5敗。決勝で負けるジンクスがあるのでは?」と、Liverpool陣営の失意を増長させる記事を掲げた。

    しかし、Liverpoolファンは、クラブにとっての「成功」とは、相対的なものであることを知っていた。

    「クロップの、カップ戦のジンクスが今後の運命を決めるとしたら、同じ原理で、リーグ優勝も決まっているということ。リーグ優勝できるなら、カップ決勝は負け続けても良い」と笑った。「EL決勝で負けたことは、辛い。でも、決勝に出たくても出られないチームのファンがいかに多いか、と考えるまでもない。決勝進出そのものが、十分に大きい」。

    負けた試合の後で、クロップがLiverpoolの選手を集めて、「これから皆で一緒に迎える決勝戦で、今日の悔しい経験を活かそう」と語った、というエピソードが流れた。

    「リーグ順位は嘘をつかない。今季のLiverpoolは、リーグ8位のチーム力。そのチームをEL決勝に導いたクロップが、自分の選手を加えて強化するチームが、どこまで行けるかと考えると、明るい希望が湧いてくる」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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