ケニヤのフットボール一家から来たヒーロー

    4月10日のアンフィールドで、Liverpoolがストークシティに4-1と快勝した試合の後で、ユルゲン・クロップがこの日の2ゴール・ヒーロー、デボック・オリジの小さなエピソードを明かした。「昨年夏にLiverpoolに来た時、オリジは初めてのプレミアリーグに苦戦した。私が監督に就任した時には、負傷を負って、思うように調整が進まずに苦しんでいた。そんな中でデボックは、前向きにトレーニングに取り組んで着実に成長した。前回の負傷欠場時には、リハビリ中にジムで筋肉増強に励んだ結果、シャツのサイズが変わった」。

    2014年夏に、1年ローンの条件付き契約でLiverpool入りが正式に決まって、そのままリールに残ったオリジは、思うようなプレイが出来ず、スタンドからブーイングされることも珍しくなかった。噂では、リール・ファンの間で、「オリジのプレイを見ていると、気持ちは既にLiverpoolに行ってしまったとしか思えない」という批判が出ていたという。

    そして、「フランス・リーグの2014-15季ワースト・プレイヤー」という汚名を着せられて、2015年夏にLiverpool入りしたオリジは、プレミアリーグの洗礼と負傷のダブル・パンチの中で、不振に苦しんだ。

    いっぽう、イングランドのファンは、往々にして、自分のチームの外国リーグから来た選手、特に20歳前後の若手に対しては、気長に見守る傾向がある。そのカテゴリーに入るオリジも例外ではなかった。

    「体格ありスピードがあるオリジは、相手ディフェンスをかき乱して、チームメートにスペースを与えてる役割を果たしている。プレミアリーグに順応してゴールが出始めた時が楽しみ」と、Liverpoolファンは、辛抱強くオリジを応援し続けた。

    10月にクロップが監督に就任してから、飛躍的に向上したと言われている選手の中でも筆頭格として語られるようになったオリジが、12月にはリーグ・カップ準々決勝でのハットトリック(対サウサンプトン、試合結果は6-1でLiverpoolの勝利)、WBA戦でのプレミアリーグ初ゴール(試合結果は2-2)を突破口に、着実に存在感を増す中で、スタンドのオリジ・チャントは次第に大きくなって行った。

    何より、苦しいスタートを切ったオリジが、不調の最中にもLiverpoolファンから暖かい声援を受け続けた背景には、ひたむきに努力する本人の姿勢があった。

    アメリカ合衆国のバラク・オバマ大統領の遠縁にあたる家系に生まれたオリジは、お父さんはケニヤ代表選手として100キャップ超の経歴を持つエリートだった。お父さんがフットボールでベルギーに移転して、家庭を構え、オリジが誕生した。お父さんの兄弟もケニヤ代表選手歴を持つという、フットボール一家に生まれたオリジが、同じ道を目指し始めたのは、血筋だった。

    そして、地元ベルギーのゲンクのアカデミー・チームに入り、プレミアリーグを夢見る少年オリジにとって、お父さんがメンターだった。

    「常に努力することに加えて、どんな時にも自信を持ち続けることが必要だ、とお父さんは教えてくれた。そして、ピッチの上だけでなく、私生活でも誠実を貫き、人々から尊敬される人間になりなさい、と」。

    そのオリジが、憧れのプレミアリーグに行くチャンスを得たのは、リールのユース・チーム入りが決まったばかりの時だった。マンチェスターユナイテッドから誘われているという話を伝えたお父さんは、15歳の息子に向かって、「お前が自分の意思で決めなさい」と言ったという。

    「マンチェスターユナイテッドに対してどうの、ということではない。あの時は、まずはリールで成長することが先だを思った」と、オリジは振り返った。

    かくして、お父さんの指導下で人格を形成し、プロとして十分な成長を遂げたオリジは、2014年にLiverpoolの話が出た時には、プレミアリーグの夢を実現させる決意に至った。マンチェスターユナイテッドを断ったことは全く後悔していないと断言したオリジは、「Liverpoolのようなビッグ・クラブに入れるとは、光栄」と、目を輝かせた。

    その後、1年余りの苦悩が待っていたことは前述の通りだった。「2014-15季は、早くLiverpoolに入りたいという気持ちが先走った。そして、2015年にやっと実現した時は、プレミアリーグに順応するのに時間がかかった」。

    リールでの最後のシーズンに、自分のチームのファンからブーイングされた辛い思い出については一切触れず、オリジは、Liverpoolファンの温かい声援に感謝を表明した。

    「コップから自分の名前のチャントが聞こえる度に、全身に勇気が湧き起こる。ファンがサポートしてくれているという実感と、監督から信頼されているという自信が、僕を駆り立る」。

    ストーク戦での2ゴールについて、クロップは目を細めて語った。「自信がプレイを変える典型」。その自信は、本人の前向きな態度と努力で勝ち取ったものであることを、誰もが知っていた。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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