FAカップの格下げ?

    2月21日、スタンフォードブリッジでのFAカップ5回戦で、マンチェスターシティが「リザーブチーム」で臨み、チェルシーに5-1と大敗を食らった試合がイングランド中の注目を集めた。組み合わせが決まって、BBCのTV放映戦に選ばれたこの試合が日曜日に変更された時点で、直後にCL戦を控えているシティは、土曜日に戻すようリクエストしたものの、FAがTV放送の都合を優先して却下したという背景があった。

    「FAはCLに出場しているチームに対して、援助するどころか足を引っ張っている」と激怒したマヌエル・ペジェグリーニが、早々に「チェルシー戦はリザーブチームで臨む」と宣言していた。その言葉通り、この試合がファーストチーム・デビューとなる若手5人を含むチーム編成で、ほぼフル・メンバーのチェルシーにボロ負けしたのだった。更に、試合後に「我がチームは、FAの代わりに、イングランドのためになる措置を取った」と強気を通したペジェグリーニに、非難が集中した。

    中立のメディアの中には、近年のイングランドのチームのヨーロッパのカップ戦での不振を指摘し、「現時点の戦績が続けば2017-18季からイタリアに逆転され、CL出場枠が3になってしまう。FAとプレミアリーグは、ヨーロッパのカップ戦に備えるチームに対して、日程面で便宜を図るべき」と唱える声もあったものの、圧倒的多数が、猛烈な批判を投げかけた。

    「マンチェスターシティは、イングランドで最も選手層が厚い。CLに加えて2月28日にはリーグカップ決勝も控えて、過密日程に直面していることは事実だが、だからと言ってデビューの若手を5人も出さねばならない程の危機的な状況とは到底思えない。要は、他の試合を優先してFAカップを捨てたものであり、FAカップを格下させる行為」。

    これに対して、マンチェスターシティの地元紙であるマンチェスター・イブニング・ニュースや、シティ・ファンは、「若手は良くやった。むしろ、5-1という大差は、経験のある選手のミスが原因」と反撃し、「特に良いプレイをした2人の若手がCL戦のベンチ入りという報酬を得た」と、明るい面を強調したものの、世間の批判にかき消されてしまった。

    Liverpoolファンの間では、「我々も基本的には同じことをしたのだから、シティを批判する資格はない」と肩をすくめながら、同時に、「FAカップの格下」現象に関する議論が飛び交った。

    世界最古の国内カップ戦であり、ノンリーグも含めて700超のチームが激突するFAカップは、その地位は揺るぎないものだった。しかし、ヨーロッパのカップ戦に出場する財政的な利益の増大に伴って、結果としての報酬という面では、実質的な「格下げ」現象は続いていた。

    FAカップの優勝チーム(または、優勝チームがCL出場権を得た場合は、代わって準優勝チーム)だけに出場資格が与えられたカップ・ウィナーズ・カップは1999年を最後に廃止され、UEFAカップ(ELの前身)に吸収された。更に、準優勝チームに資格が移転する措置も2015年から廃止されたため、優勝チームだけがEL出場権を得るという点では、リーグ・カップと同等になってしまった。

    2003年のリーグカップ決勝で、マンチェスターユナイテッドがLiverpoolに2-0と敗れた1か月後に、リーグ戦で4-0と雪辱を果たした時に、サー・アレックス・ファーガソンが、「リーグ戦で勝つ方が、ミッキーマウス・カップに優勝するよりも重要」と勝利宣言をした話は有名だ。以来、Liverpoolファンの間では、ジョーク交じりに「ミッキーマウス・カップ」と称されるようになったリーグカップは、FAカップの「格下げ」に伴って、トロフィーとしての意味合いが変化したきらいもあった。

    そもそも、ファーガソンにとっては「ミッキーマウス・カップ」だったかもしれないが、通算優勝回数8でカップ史上最多を独走するLiverpoolにとって、このリーグカップとはユニークな関係を持っていた。1961年に創立され、4部に渡るリーグ所属チームだけが参加できるこのカップ戦は、1971年に優勝チームにUEFAカップ出場権を与えるようになる前までは、自由参加だった。参戦が義務になるまでは見合わせていたLiverpoolは、なじみが薄いこのカップ戦で勝てるようになるまで苦戦を続けた。そして、黄金時代の1981年に初優勝を遂げてから、4連覇も含めて、間もなく常連となった。

    それは、その時代のLiverpoolの土台を作ったビル・シャンクリーの言葉が象徴していた。「Liverpool FCは、トロフィーを取るために存在する」。

    「FAカップが格下げ」されたため、リーグカップの優先度が上がったわけではない。FAカップは、報酬がどうあれ、歴史と伝統は持続されるし、ノンリーグのチームやファンにとっては「マジック」であり続ける。

    しかし、「ミッキーマウス・カップ」であろうと何であろうと、トロフィーを取るチャンスである以上は、やるべきことは明らかだった。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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