アンフィールドの77分退出抗議デモ

    2月6日のアンフィールドでのサンダーランド戦で、最大の注目を集めたのが、Liverpoolファンの「77分退出抗議デモ」だった。これは、2月4日にファン・グループ「スパイオン・コップ1906」が計画を公表し、その試合に行くLiverpoolファンに対してSNS上で呼びかけたことから、全国メディアを始め、対戦相手のサンダーランドは勿論、イングランド中の地方紙が報道し、全国的な話題となったものだった。

    この77分退出抗議デモは、Liverpoolのクラブが、増築中のメインスタンドの新座席を含む、2016-17季のチケット価格を発表したことがきっかけとなった。現在は、対戦相手ごとに価格帯をAからCの3段階に分けて、各カテゴリごとに、最も高いチケットは£59だが、来季はそれが£77に大幅な値上げとなる。価格帯はコップとそれ以外の2種別から、幅を増やして、最安値のチケットは若干値下げする措置も含んでいたものの、シーズンチケットは最安値が£685から£1,029と上がるなど、結果的に、総額で£2mの値上げという内容だった。

    折しも、2月4日にLiverpoolのオーナー企業のFSGが、オフィシャル・サイトで「ファンをカスタマー(顧客)に変えた成功事例」として、Liverpool FCの経営を説明する記事を掲載したことから、イングランドのフットボール界に爆弾を落としたばかりだった。

    「ファンはカスタマーではない」というスローガンを掲げて、各チームのファン・グループが、プレミアリーグ本部事務所の前などで合同のデモを定例的に行っていることは有名な話だ。中でも、不況に苦しむマージーサイドとマンチェスターの4チーム(Liverpool、エバトン、マンチェスターユナイテッド、シティ)のファン・グループは、その中心となって、国の財政事情を無視して高騰し続けるチケット価格に対する批判を表明していた。

    イングランドのメディアやファンの反響に、FSGは即座にタイトルを「カスタマーをファンに変えた」に変更した。

    それにしても、「何があっても最後までチームを応援する」伝統で知られているLiverpoolファンが、試合中に退出する、というデモは、124年の歴史の中でこれが初めてだった。

    その前代未聞のデモは、例外なく全てのメディアが一斉にLiverpoolファンに賛意を示し、Liverpoolのクラブに対する批判を掲げた。「そもそも、プレミアリーグは2016/17季から破格のTVライセンス契約が開始し、3年間で合計£8.3bの増益が見込まれている。各クラブは、その収益を、既に高騰しているチケット価格を値下げする資金に回すことで、毎試合応援に駆け付ける地元のファンに、これまでの忠誠の恩返しをすべき。なのに、逆に値上げとは、論外」。

    かくして、イングランド中の注目の元で行われた試合は、Liverpoolが2-0とリードし優位に立っている時に77分を迎えた。一足先にYou'll Never Walk Aloneを合唱し、「これ以上、クラブの暴利の犠牲にはなりたくない」というチャントとともに、コップ・スタンドを中心に1万人近いファンが「退出デモ」を実行した。その直後の82分に守りのミスから失点し、89分に同点ゴールを食らったLiverpoolは、2-2と引き分けて終わった。

    「Liverpoolのディフェンスは、ファンの抗議デモに賛意を示して77分に退出した」というジョークを言いながら、ライバル・チームのファンは一斉に、真面目な表情で「良くやった」とLiverpoolファンに拍手を送った。

    そんな中で、この77分退出抗議デモに対して疑問を唱える声があった。それは、主として試合をテレビ観戦していたLiverpoolファンの中から出たものだった。「クラブにとっては、結局はチケットの売り上げが減ったわけではないので、痛みはない。不買運動でなければ効果はない。ましてや、試合中に退出するという行為は、ピッチの上の選手に影響を与える危険性がある。実際に、デモの直後に2失点を食らって2ポイントを逃した」。

    このような声は、少数派だったものの、ファンの間に「毎試合、応援に駆け付ける地元のファンと、めったに試合に行かない外国のアームチェア・ファン」の亀裂に繋がるものだった。実際に、Liverpoolのシーズンチケット待ち行列には25,000人が名を連ねており、チケット代が捻出できないからという理由でシーズンチケットを断念するファンが出るのを待っている人もいた。「要は、需要と供給の関係で、クラブはチケット代をいくら高くしても必ず完売できるという計算の上で値上げするのだ。ファンの側に勝ち目はない。デモなどやるだけ無駄だ」という声すら、出ていた。

    そのような声にカウンターを与えるかのように、隣のマンチェスターで、ユナイテッド・ファンが、「77分に出て行ったLiverpoolファンは素晴らしい。我々も同じ状況に直面している。彼らを見習わねばならない」と叫んだ。

    その夜のマッチ・オブ・ザ・デイで、アラン・シーラーが、ユナイテッド・ファンや、地元のLiverpoolファンに賛成を表明した。「Liverpoolは、ファンが77分に出て行ったからポイントを落としたのではない。ディフェンスが情けなかったから、2点のリードを守れなかったのだ。ここ18か月と同じく。そして、Liverpoolファンの主張は全く正当。この国のどのクラブも、来季からチケット代を値下げすべき。どんな事情があっても、1ペニーも値上げなどすべきではない」。

    翌日のインディペンデント紙も、シーラーに同調した。「こんな弱いチームの試合を見るために、ファンに£77も払わせるとは、クラブは何を考えているのだ?ベスト・プレイヤーを次々に放出し、並の選手ばかり取り続けた結果、こんなに弱くなったという責任すら取らずに?」

    77分に退出したファンの中に、メイン・スタンドのシーズンチケット・ホルダーであるジェイミー・キャラガーがいたことも、翌日のメディアを飾った。

    「Liverpoolファンのデモは、これだけ多くの注目を集めたのだから、オーナーやクラブのトップは無視できないという状況に追い込まれた」と、地元紙リバプール・エコーがファンの勝利を宣言した。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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