3ポイントよりも重要なもの

    今季のプレミアリーグは、前年優勝チームのチェルシーが16位に低迷しているだけでなく、いわゆる「トップ6」のチームが、下位チームとの対戦でポイントを落とす番狂わせが続いている。その前代未聞の波乱リーグは、12月12/13日の週末も例外ではなかった。マンチェスターユナイテッドが昇格チームのボーンマスに2-1と敗れ、トットナムが残留争い中のニューカッスルに1-2と敗れた。

    Liverpoolは、このところ5戦1勝で13位のWBAに、95分の同点ゴールで2-2と引き分け、辛くも連敗を免れた。ただ、「LiverpoolがWBAにアンフィールドでポイントを落とした」試合結果よりも、この試合の直後に、ユルゲン・クロップが選手を先導してコップの前に立ち、手を繋いでスタンドのファンに挨拶を捧げたことが、翌日のヘッドラインを飾った。

    全国紙が一斉に、「LiverpoolがWBAとホームで引き分けた試合で、『1ポイントを確保した同点ゴール』を祝った事態は、ライバル・ファンから『かつての王者Liverpoolは、ここまで落ちぶれたか』と嘲笑を浴びるのも仕方ない」と、痛烈な批判を掲げた。

    地元紙リバプール・エコーは、「劇的な95分の同点ゴールなど不要なチームにすることが最優先」としながらも、「あれはお祝いではなく、ファンに対する感謝の表明。ドルトムント時代に、クロップがいつもやっていたこと」と反撃した。

    「人々は、試合結果ばかりを語る。でも、フットボールにはもっと重要なものがある」と、同紙はクロップの言葉を引用した。「3ポイント欲しかったが、1ポイントしか取れなかった。ただ、その1ポイントの取り方は、3ポイントと同じくらい大きな意義があった。ファンも1ポイントには失望したと思う。でも、それを見せずに、最後まで熱く応援してくれた。チームと一緒になって戦ってくれた。それが、私は嬉しかった。だから、ファンに感謝したかった」。

    同紙は締めくくった。「アンフィールドが1989-90季(最後のリーグ優勝シーズン)以来、失われていた、ファンと監督との結束が、再び出来つつあるという強烈な印象を残した」。

    BBCのハイライト番組では、中立のアナリストが「クロップはイングランド中の人気者だし、Liverpoolファンに全面的に支持されているから、今回のことも許されるだろう。でも、例えばマンチェスターユナイテッドが、ウエストハムに0-0と引き分けた試合の後で、ルイ・ファンハールがこれをやったとしたら、大変な騒ぎになるだろう」と、皮肉なジョークを言ったのに対して、アラン・シーラーが擁護に出た。

    「クロップは、クリスタルパレス戦(試合結果は1-2でリバプールが敗戦)の後で、アーリー・リーバーズに対して、暗に『最後までスタンドに残ってチームを激励して欲しい』と懇願した。今回の試合では、Liverpoolファンが、クロップの願いに応えた。それに対して、クロップがファンへの感謝を表明したことは、何ら恥ずかしいことではない。微笑ましいことだと思う」。

    そして、Liverpoolファンの間では、圧倒的多数がクロップへの賞賛を深めた。

    パレス戦でのアーリー・リーバーズズ発言は、ファンの間で「かつてのアンフィールド要塞を復活させるにはどうしたら良いか?」という議論を触発した。イングランドでは、今のプレミアリーグの金権体質が形成されてからは、選手は象牙の塔に住み、ファンと接触すること機会もなくなった。短期で交替する監督は、在任中はプレッシャーと戦うのに忙しすぎてファンのことを考える余裕がなく、悪くなればクビになるのを待って、多額の解約金を貰って長期休暇へと消えて行く。ファンは、高騰するチケット代に見合うエンターテインメントを期待して座っているだけの「観衆」になった。

    かくして、スタンドのファンとチームとの分断は、どのスタジアムでも多かれ少なかれ見られる現象になっていた。

    「WBA戦では、1-2とリードされて迎えた試合終幕で、スタンドからあんな怒涛が沸き起こったのは何年振りだろうと、熱くなった」と、あるファンは語った。「最近のスタンドには、応援チャントに加わるどころか、良いプレイに対して拍手すらしないファンが少なくなかったのに、今日の試合では、それらの人々も含めて、全員が自発的に立ち上がって気合いを入れて合唱し、叫び続けてチームを激励した。我々の声援の結果、95分の同点ゴールが出たと、心から思った」。

    スタンドにいたファン全員が、自分たちがチームと共にやり遂げた仕事に満足し、誇りで目を輝かせた。

    「ファンとチームとの分断に、クロップの情熱が懸け橋になった。クロップのお蔭で、アンフィールドには、かつてのファンとチームとの団結が再現されつつある。『WBA相手に2ポイント落とした』失望よりも、遥かに感激の方が大きかった。あの試合終幕の熱気は、同点ゴールを生み出しただけではなく、ファンと監督が繋がったという、ポイントには換算できない大きな効果をもたらした」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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