バナーとフラグがコップから消えた日

    今季開幕直後の、8月29日のアンフィールドでのウエストハム戦(試合結果は0-3でLiverpoolの敗戦)で、暫く前からコップ・スタンドの代名詞になっていた、特大サイズのバナーやフラグが消えたことで、Liverpoolファンの間で大きな話題となった。

    そのバナーやフラグは、「スパイオン・コップ1906」というファン・グループが所有・管理しているもので、その時点では法的な理由で詳細は明かされなかったが、Liverpool FCのクラブとの間で相違が発生したことから、抗議行動として引き上げたという説明が流れた。その後、スパイオン・コップ1906とクラブとの話し合いで打開したことで、次のノリッジ戦(試合結果は1-1)から、コップ・スタンドにバナーとフラグが復帰した。

    ところが、11月8日のクリスタルパレス戦(試合結果は1-2でLiverpoolの敗戦)で、再びバナーとフラグが消えた。

    同時に、その時点では、先の法的な理由が消滅したため、事件の詳細が明るみに出たのだった。

    事の発端は、昨季のアンフィールドでの最終戦となった5月16日のクリスタルパレス戦だった(試合結果は1-3でLiverpoolの敗戦)。この試合を最後にLiverpoolを去るスティーブン・ジェラードを見送るために、クラブがファンの協力を得て、スタンドでモザイクなどが行われた。勿論、これらは、通常の試合のバナーやフラグと同じく、あくまで試合前の計画であり、試合中は全スタンドが試合に集中した。

    ジェラードが入場して来てガード・オブ・オナーが行われていた時に、コップ・スタンドの車いす専用スタンドにいた、車いすユーザーの奥さんに付き添っていた61歳の男性が、「バナーが視界を遮っているから、避けて欲しい」と、スパイオン・コップ1906のメンバーである20歳の男性(以下、JP)に依頼したところ、両者の間で議論になった。後日、その男性がクラブに苦情を訴え、JPが「車いすのファンに対して威嚇的な言葉を吐いた」容疑で逮捕された。

    これを受けて、クラブがスパイオン・コップ1906に対して、「アンフィールドにバナーやフラグを持ち込むには事前登録が必要」という措置を課したことから、8月の抗議となった。

    そして、11月4日に判決が下り、JPは容疑を否定したが有罪となった。裁判とは別に、Liverpool FCはJPに対して3年間の出入り禁止処分を科した。

    2度目のスパイオン・コップ1906の抗議の背景には、「クラブとファンとの分断」があった。ジェラードの最後の試合に際して、スパイオン・コップ1906は、記念バナーの持ち込みを事前にクラブに話をした上で許可を得ていたのに、試合当日のスタジアム係員への通達がなかったため、バナーを良く思わないファンに対するケアが十分に出来なかった。その結果、JPの事件が発生してしまった。

    JPの有罪判決により事件が収拾した、と思い込んでいたクラブに対して、スパイオン・コップ1906は再び立ち上がることになった。

    「そもそも、コップのバナーやフラグは、スタンドの雰囲気を盛り上げ、チームを応援するために、ファンが自主的に、時間とお金を費やして制作したもの。それは、『アンフィールドの風物詩』となっているし、クラブもオフィシャルの写真に使っており、スポンサーも流用するなどクラブは財政的な恩恵すら受けている。しかし、クラブが我々ファンの意義を認めず、ファンの声を無視すれば、残念な問題が起こり得るということを、クラブは認識して欲しい」。

    スパイオン・コップ1906の主張は、「コップは伝統的に、試合を通して、大声援でチームを応援するファンが集まるスタンド。遠方から、生涯に数回だけの貴重な訪問をするファンや、声を枯らして歌い続けるよりは、アンフィールドの雰囲気を体験したいファンは、コップよりはゆったりして視界の良い他スタンドに入ることで、意図せず他のファンに迷惑をかける心配もなく、皆が自分に合った役割を果たすことができる」というもので、それは、コップのシーズンチケット・ホルダーの大多数の意見でもあった。

    それに対して、クラブは一向に対策を取らず、コップ・スタンドに一般客を入れ続けている。結果的に、試合中に、コップ・スタンドでもフラッシュが光り、You'll Never Walk Aloneの合唱風景をタブレットで録画したり、応援そっちのけで自取に専念する姿が後を絶たない。

    折しも、パレス戦の後で、ユルゲン・クロップが「ひどく孤独を感じた」と語ったことが、スパイオン・コップ1906の抗議の背景にある問題が、改めて露呈させた。

    もちろん、クロップの言葉は、その後で自ら補足したように、「スタンドのファンが最後まで信じて応援できるような試合をするのがチームの責任」であり、ファンに対する失望や批判ではなかった。しかし、チームの応援に全力を捧げたいファンの熱意に対して、クラブが水をかけているように感じたファンの抗議行動は、回りまわってクロップへの背信となった。

    11月21日のマンチェスターシティ戦(試合結果は1-4でLiverpoolの勝利)で、ファイナル・ホイッスルの後も、全員がアウェイ・スタンドに残り、チーム一行に拍手とチャントを送り続けていたトラベリング・コップに対して、選手と一緒に挨拶に行ったクロップが、飛び上がってガッツ・ポーズを送った姿は、ファンの心に響いた。

    「クロップが来てから、選手たちは自信を取り戻し、監督を信頼して生き生きとプレイするようになった。ここまで情熱を注いでくれているクロップに対して、我々ファンは、信頼と声援を返す任務がある。クロップのためにも、ファンとしての役割を果たそう」。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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