アカデミー・チームの若手たち

    11月14日の週のインターナショナル・ウィークは、ヨーロッパではフル代表の公式戦はユーロ2016のプレイオフのみだったが、各地でベテランのチャリティ戦からユースチームの親善試合など多くの試合が行われた。その中で、マンチェスター市で行われたアンダー19代表のイングランド対日本の試合が、静かな注目を受けた(試合結果は5-1でイングランドの勝利)。

    昨年夏に完成した、マンチェスターシティのアカデミー・スタジアムでの初の代表戦で、地元シティとユナイテッドのアカデミー・チームの選手に加えて、Liverpoolからは18歳のセイ・オジョがベンチ入りと、イングランドの将来を担う若手が、このレベルでは異例とイングランド中の羨望を集めているスタジアムで、若々しいプレイを披露したのだった。

    試合に際して、MLSのシーズンが終わって休暇で地元マージーサイドに帰省していたスティーブン・ジェラードが、観客として駆けつけたことも、イングランドのフットボール界に笑顔を加えた。「元イングランド代表主将のスティーブン・ジェラードが、試合前に控室を訪れて、ヤング・ライオンズを激励した」という情報が流れ、ファンの拍手が続いた。

    この、シティのアカデミー・スタジアムは、ファーストチームのエティハド・スタジアムから僅か1キロの敷地に建てられたもので、両スタジアムは橋で結ばれている。これは、2008年にシティを買収し、プレミアリーグの頂点に立つチームとなった、アブ・ダビの大富豪である現オーナーの、「シティを世界的ブランドにする」長期計画の一環だった。

    シティのプレミアリーグでの隆盛ぶりに関しては、他チームのファンから「金持ちのオーナーが、湯水のように資金を投入して、世界中からスター選手を集めてトロフィーをお金で買った」と陰口を叩かれるネタになっている一方で、主としてシティ・ファンや地元紙が反論として主張する、「地元社会の発展への多大な貢献」は、はたからも明らかだった。

    2002年に、コモンウェルスのオリンピックに際して建造されたオリンピック・スタジアムを、マンチェスター市から200年リースで譲り受けて、増改築工事を施して2003-04季からシティのホーム・スタジアムになったシティ・オブ・マンチェスター・スタジアム(2011年にスポンサー契約によりエティハド・スタジアムと改名)は、隣のユナイテッド・ファンから、ジョークで「カウンシル・ハウス(公民館)の間借り人」と呼ばれ続けていた。

    それは、地元カウンシルの「売却して一時金を貰うよりは、将来的に安定した収入が確保できる現在のリース契約の方が市に利益になる」という希望を尊重したという背景があった。加えて、シティのオーナーは、アカデミー・スタジアムの建造など周辺地区開拓で、市の財政に直接・間接的に貢献し、地元の産業活性化をもたらしてきた。

    フットボール面でも、アカデミー・チームの設備を増強しただけでなく、ファーストチームのスタジアムと橋で繋ぐことにより、将来のスターを目指す若手に、セルヒオ・アグエロやダビド・シルバを直接、見ながら育つ環境を提供することになった。

    そんな恵まれた環境にあるシティでも、若手が育つ設備は作ったものの、実際にこれら若手がファーストチームの経験を積む見込みは、決して明るくなかった。

    11月15日のアンダー19代表チームで、1ゴールを記録した、マンチェスター出身の若手であるパトリック・ロバーツに拍手を送りながら、ファンの間では、「スター揃いのファーストチームで、試合に出してもらえる若手は、 £49mで獲得した、他のクラブで育った選手のみ、というのが現状。ロバーツも、ローンに出される運命だろう」と、憂いは消せなかった。

    折しも、その£49mの若手、ラヒーム・スターリングを出した側のLiverpoolでも、アカデミー・チームの選手の育て方が、話題に上がっていた。

    それは、ドイツではイングランドとは違い、若手に試合の経験を積ませるために、ローンに出す図式が一般的ではないことから、ユルゲン・クロップが、「自分のチームの若手を見るために、全国各地のクラブを別々に訪問しなければならないのは非効率」と語ったことで、議論が開始したものだった。

    現在の、ローンを経て一流選手になる出世モデルが一般化する前に、自分のクラブだけで育ったジェラードが、「若手にとって、自分のチームの先輩であるスター選手を直接見て学ぶことは非常に重要」と、これまで何度も唱えてきたように、シティのアカデミー・スタジアムの控室で、ヤング・ライオンズの後輩たちに、その思いを伝えたのだった。

    クロップの下で、Liverpoolの若手がどのように育つのか、その答えが出るのはまだ先のことだった。

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    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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