小さい体の大きなハート

    9月19日にラグビーユニオンのワールドカップ(以下、ラグビーW杯)が開幕した。4年後は日本で開催されるラグビーW杯は、1987年の第一回大会から日本は100%本大会に進出してきた。個人的には、その頃からラグビー熱が芽生え、現在のシックス・ネーションズ(イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリア)がファイブ・ネーションズだった頃から、時間が許す限りラグビーを見続けてきた一ファンとして、歴代ラグビーW杯で通算1勝しかできていない日本代表に対して、「それでも毎回本大会に進出している」という言い訳に慣れてしまっていた。

    今回のラグビーW杯イングランド大会で、日本は初戦でスプリング・ボックス(南アフリカ代表)と対戦するという日程が出た時から、心の底では「PKを2-3本決められれば悪くない」という弱気に駆られていた。

    日本がPKで先制した時に、テレビカメラがスタンドの日本の応援席を映し、イングランド人コメンテイターが「信じられない、という表情すら見られます」と言ったコメントに、苦笑しながら頷いた。

    ところが試合が進み、日本が南アフリカと対等に戦う中で、コメンテイターの口調は変わった。「南アフリカの平均身長は、日本の最も背が高い選手よりも上回っています。体は小さいけれども、日本は、大きなハートで戦っています」。

    それを聞きながら、「多数の日本企業がスポンサーになっているから、日本が本大会に進出してくれないと財政的に大変な問題になる」と言われた1991年大会の頃のことが、走馬灯のように浮かんだ。チームよりスポンサーの方が歓迎されていた頃の悔しい気持ちは、大会を重ねるごとに、「ファイブ・ネーションズや南半球の3国(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア)のような強豪とは土俵が違う」という、負けを受け入れる精神に変わっていた。

    インジャリー・タイムの逆転トライで34-32と「歴史的な勝利」を上げた日本は、開催国イングランドのメディアから「ブライトンのミラクル」と、絶賛を受けた。BBCニュースは「スポーツ界の歴代最高の大金星?」というタイトルで、1990年W杯イタリア大会でカメルーンがアルゼンチンを1-0と破った記録まで遡った。

    イングランドの「日本フィーバー」は、その週末のプレミアリーグでも話題になった。

    9月20日のサウサンプトン対マンチェスターユナイテッド(試合結果は3-2でユナイテッドの勝利)、コメンテイターが吉田 麻也について「スポーツは違えど、母国代表チームがラグビーW杯で南アフリカに歴史的勝利を収めたことで、さぞや誇りを抱いているでしょう」と語った時には、思わず笑顔が浮かんだ。

    小さい体ながら大きなハートを持って強豪南アフリカを倒した日本のラグビー代表チームが、プレミアリーグでも賞賛を受ける背景には、スポーツは勝者が全てだという基本を表わしていた。カップ戦で、下位ディビジョンのチームがプレミアリーグのチームに「堂々と戦って敗退した」試合の後で、敗れた方の監督は「わが選手を誇りに思う」と語る。しかし、その「誇り」は、あくまで次に勝つための起爆剤であり、負けたチームに対する賞賛の言葉はその時点で完結する。

    大会開始前に、日本が南アフリカに3つトライを決めて32-34の僅差で負ける、という結末があったとすれば、自分は受け入れただろうと思う。しかしそれは、心の奥底に、負けを受け入れる精神が沁みついていたからだった。

    南アフリカ戦で、日本は、ファンに誇りを与えてくれただけでなく、どんな時にも勝ちを目指す、本来の精神を教えてくれたのだった。

    同20日に、Liverpoolが昇格チームのノリッジに先制しながら1-1と引き分けた試合の後で、ブレンダン・ロジャーズが「今日の我がチームは、前の試合よりも得点チャンスを作り、攻撃はかなり向上した」と、「明るい要素」を強調したことで、Liverpoolファンは言葉を失った。

    「暗い気持ちが拭えない、こんな時には、ラグビーW杯の南アフリカ対日本の試合を見るべきだ。スポーツの世界では不可能なことなどないのだ、と勇気が湧く」と、誰かが言い、それに対してため息交じりの言葉が返った。

    「でも、日本の選手たちは自信と情熱を持って最後まで勝ちを目指して戦った。そのハートが、今のLiverpoolのチームに欠けている」。

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    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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