岐路に立つユース育成

    インターナショナル・ウィーク中に行われた、9月3日のアンダー21代表チームの親善試合で(対アメリカ合衆国、1-0でイングランドの勝利)、イングランド中の熱い視線が、この日デビューを飾った18歳のジョー・ゴメスに集中した。

    この夏に、2部のチャールトンから、将来の戦力としてLiverpoolに移籍した時には、殆ど無名の若手だったジョー・ゴメスが、プレミアリーグ開幕4戦にスタートする「即戦力」に育ちつつある様子に、Liverpoolファンは誰もが「予想外の戦力」と顔をほころばせ、ライバル・ファンもジョー・ゴメスの進出を温かく歓迎した。ユナイテッド・ファンは「若かった頃のリオ・ファーディナンドを彷彿させる」と、賞賛と羨望を込めてジョー・ゴメスを注目し始めていた。

    そんな中で、アンダー19代表から引き抜かれてアンダー21代表入りしたジョー・ゴメスは、一気にイングランド中の注目選手になった。さっそく全国メディアは、「チャールトンでファーストチーム・デビューを遂げた時には、学校を終えたばかりの少年だったジョー・ゴメスが、1年後にはLiverpoolのレギュラーになり、アンダー21代表入り」と、その「おとぎ話のような立身出世物語」特集を掲げた。

    アンダー19代表で主将を勤めていたピッチ上のリーダーシップと、素直で真面目な性格が、ジョー・ゴメスの人気を加速した。チャールトンからLiverpoolへ、大きなステップ・アップとなったこの1年間の感想を聞かれて、「チャールトンにいた時には、自宅から通勤していたので、一人暮らしは生まれて初めて。お母さんが作ってくれた食事に慣れていたので、自炊がまず最初の難関だった。簡単な料理を少しずつマスターして、今ではなんとか食べられるようになった」と答えた、典型的18歳の少年そのものというジョー・ゴメスの回答は、更にイングランド中の熱を高めた。

    このジョー・ゴメスの純粋に明るい話題に際して、地元紙リバプール・エコーでは、「ブレンダン・ロジャーズは若手にチャンスを与えることでは定評がある」と、批判とクビの予測でばかり名前が上がっていたLiverpool監督の名誉挽回に努める記事すら出現した。

    ただ、実際には、「若手を育てて戦力にする」面で言うと、Liverpoolはマンチェスターユナイテッドに到底及ばないとは、数字上明らかだった。

    2010-11季からの最近5年間で、「アカデミー出身の若手にチャンスを与えた」件数では、トップのマンチェスターユナイテッドが14人、アストンビラとサウサンプトンが11人、アーセナルの10人に続いて、Liverpoolは8人だった。

    しかし、ユナイテッドの「若手を育てて戦力にする」伝統は、大きな岐路を迎えていた。

    移籍ウィンドウが閉まった9月2日の地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースは、「1937年10月から78年間、連続3,500試合に及ぶ、アカデミー出身の選手を毎試合登録メンバー入りさせている記録が危ぶまれている」と、問題提議した。

    同紙は、ルイ・ファンハールが就任の記者会見で、若手育成方針について尋ねられて、「今、勝つことが最優先で、ユース育成は長期計画としてその次に優先度が高い」と宣言したことを引用し、在任12ケ月で合計11人のアカデミー出身選手を放出した事実を指摘した。

    「昨年夏は、地元出身のアカデミー卒業生であるダニー・ウェルベック(アーセナル)を放出して波紋を呼んだが、この夏には更に、アドナン・ヤヌザイ(ドルトムント)、タイラー・ブラケット(セルチック)、ラファエル(リヨン)、ジョニー・エバンス(WBA)と、4人のアカデミー出身選手が去った」。

    「バズビー・ベイブス(※)、栄光の92年生と、若手にチャンスを与えてアカデミー・チームから上がってきた選手をスターに育ててきたクラブの伝統は、果たしてどうなるのか」。
    ※1951に同紙が命名した、マット・バズビー監督時代のアカデミー出身選手たちのこと。1958年のミュンヘン悲劇で8名が亡くなった。

    クラブの中で若手を育てて黄金時代を築いてきたユナイテッドの嘆きは、Liverpoolでも人ごとではなかった。ジョー・ゴメスのおとぎ話は数少ない例外で、この夏に獲得した選手も放出した選手も、ほぼ全員が、多かれ少なかれファンの意見を二分していた。

    開幕4戦で、今いちパッとしない内容で勝・勝・分・敗と酷似した戦績を積んでいるユナイテッドとLiverpoolの直接対決を翌週9月12日に控えて、さっそく両ファンの間で「得点できないという点で、わがチームはひどいが相手も大差ない。世の中が一斉に眠りに付くような、ダルい内容の0-0で終わるのでは?」とジョークが出ていた。

    もちろん、調子や順位に関わらず、常にビッグ・マッチであるユナイテッド対Liverpoolは、今季は特に、どちらにとっても、勝てば大きな自信に繋がる重要な対戦になる。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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