リトル・マジシャンの怒りの炎

    1年ほど前のこと、2014-15季の開幕1週間前の2014年8月9日に、Liverpoolファンの有名なアンオフィシャル・サイト(RAWK)で、そのシーズンのLiverpoolの最終順位を6位と予測した人がいた。その時点では、「悲観的過ぎる」と批判されて終わったその人の予測が、シーズン終幕の2015年5月末に掘り起こされ、あまりの正確さに、ファンの間で驚きの声が広がった。

    今ではいくつかのテレビ局でアナリストとして活躍しているそのファンの、1年前の予測は、まさに、クリスタルボールそのものだった。

    「2014年5月に、あと一歩のところで優勝を逃した精神的なダメージは、ファンですらまだ立ち直っていないくらいだから、選手たちが完全に後遺症を克服できたとは思えない。開幕直後は厳しい対戦が続くが、そこでもし躓けば、選手たちは心の奥底で、後ろを振り返り始めるのではないだろうか。5月のあの衝撃と、ルイス・スアレスを失ったことを、嘆く気持ちに襲われるのではないだろうか」。

    「そして、スアレスの穴の大きさは、2013-14季のゴール(31)+アシスト(14)の数では図れないものがある。Liverpoolは、生粋のリーダーで、試合に勝つためにはあらゆる犠牲をも惜しまない、貴重な闘士を失った。スアレスの存在は、対戦相手の選手に恐怖心を与えるだけでなく、精神面でLiverpoolの選手たちを支えていた」。

    「たとえば、W杯のブラジル代表チームに選ばれなかった時の感想を問われたフィル(フィリペ・コウチーニョ)のインタビューでも、それは明らかだった。『母国代表チームに貢献することができなかった自分に対して、怒りを感じる』と、フィルは語った。『その怒りを、自分が限界に挑むための起爆剤に使う。トレーニングで、ルイシート(スアレスのニックネーム)のマジックを見て、いつも全身が凍る思いにかられた。今の自分の怒りの炎を使って、こうあるべき鋳型に固めて行く』」。

    その時点では移籍ウィンドウは閉まる前で、Liverpoolはストライカー補強に苦戦していた。しかし、デヤン・ロブレン(£20M)、アダム・ララーナ(£25M)、ラザル・マルコビッチ(£20M)、エムレ・カン(£10M)など、主要な新戦力獲得は完了していた。

    「一気にこれだけ多くの戦力を加えれば、チームがまとまるまでに時間がかかることは見えている。その中で、5年ぶりの復帰になるCLは、ましてや若い監督にとっては未知の世界で、大きな負荷になる危険性を秘めている。新戦力に関しても、外国リーグから来た若手選手たちが、プレミアリーグでの初シーズンに、バリバリ活躍するのは無理というもの。そして、ここ3年間で良かったのはわずか5ケ月というロブレンと、プリシーズンを負傷で棒に振ったララーナには、正直、あまり期待できない」。

    「2014-15季は、トップ4入りを目指すシーズンになるだろうということは、これまでと同じ。そして、最後は目標を達成できずに終わるだろうことも。ただ、1年前までとは違って、期待を凌駕した前年の後では、今回の結末は『壊滅的な失敗』と映るだろう。シーズン前半に躓けば、大きな暗雲がかかり、低迷のスパイラルに苦しむことになるだろう」。

    誰もが胸を痛めながら読んだ、あまりにも正確だったこのファンの予測は、多くのマイナス要因の中の、唯一とも言えるプラス面でも的中していた。

    不調に始まり不調で終わったシーズンに、チーム全体が、後ろを振り返って足踏みする中で、「怒りの炎」で自分の限界に挑み続けたコウチーニョが、2月のサウサンプトン戦(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)、続くマンチェスターシティ戦(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)と、立て続けにマジック・ゴールを生み出し、Liverpoolのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝いた。更に、プレミアリーグの最優秀選手賞の候補者リスト入りを果たし、「リトル・マジシャン」のニックネームはイングランド中に広がった。

    8月8日にプレミアリーグの2015-16季が開幕し、2大優勝候補と言われているチェルシー(スウォンジーに2-2)とアーセナル(ウエストハムに0-2)が、揃ってホームでポイントを落とすスタートを切った中で、Liverpoolは、昨季の最終戦で53年ぶりの大敗を食らったブリタニア・スタジアムで、ストークシティに、苦戦の末、1-0と勝った。

    世の中のアナリストのトップ4予測では、4チーム内の順位は異なるものの、ほぼ全員が一斉に「昨季のトップ4は固定」と掲げていた。極端な人は、「8月9日のブリタニア・スタジアムで、昨季の6-1の悪夢を取り払えなければ、早々の監督交代もあり得る」とまで言われていたLiverpoolは、チーム全体が昨季の悪夢を思い出したかのような86分の後で、コウチーニョがマジックを披露したのだった。

    リトル・マジシャンの「怒りの炎」は、今季も燃え続けるかもしれない。

    テーマ : サッカー
    ジャンル : スポーツ

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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