夢を実現させたファン

    7月31日に、リッキー・ランバートのWBAへの移籍が正式に発表された。その日のプリシーズン戦で、さっそくサブで出場したランバートは、4部のブリストル・ローバーズ相手に2得点を決めて、新天地でのこの上ないスタートを切った(試合結果は4-0でWBAの勝利)。

    翌日のLiverpoolの地元紙リバプール・エコーは、ランバートがWBAでのデビュー・ゴールの後で語った、「Liverpoolを出たことは後悔していない。試合に出たかった。試合に出て得点したかった」という言葉を引用し、温かい激励の記事を掲げた。「ランバートにとって、Liverpoolでは失意に終わったことは明らか。でも、本人に責任があるとしたら、それは唯一、頑張り過ぎたこと。ランバートは、胸を張ってWBAに行くべき」。

    全国メディアも一斉に、ランバートに対する好意的な記事を掲載した。その一つであるガーディアン紙は、「Liverpoolでの1シーズンが悪夢に終わったことは事実。しかし、ランバートに同情を感じないファンはいないだろう。ランバートが、続けて試合に出る中で、ペースを整えるタイプの選手であることは誰もが知るところ。Liverpoolではスタートに躓いたことは不運だったが、その後も、良いプレイをしても次の試合ではベンチに戻され、数試合開けた後に90分にサブで出る、という繰り返しだった。これでは本領を発揮できないのは当然」と、Liverpoolの使い方がランバートの不調をもたらしたと、暗に批判を込めていた。

    「マージーサイドのカークビー出身で、熱烈なLiverpoolファンとして育ったランバートは、15歳の時にLiverpoolのユースチームを解雇された。それでもフットボーラーになる夢を捨てずに、ブラックプール、マクルスフィールド、ストックポート、ロッチデール、ブリストル・ローバーズと努力を積み重ねた。サウサンプトンではプレミアリーグでの2年間で29得点と名を上げてイングランド代表入りも果たし、2014年夏にはとうとうLiverpool入りのチャンスを勝ち取った」。

    ランバートがサウサンプトンから£4.5MでLiverpoolに移籍が決まった直後の2014年6月10日に、リバプール・エコー紙で報道された小さな記事が、Liverpoolファンの話題を呼んだ。

    マージーサイドのアパレル会社の本社工場で、勤続10年超の54歳の社員が、£1コインを投入して自動販売機でコーヒーを買おうとしたところ、機械が故障していたか、コーヒーは出ずコインも返ってこなかった。動揺したその社員は、自動販売機を叩いたりゆすったりしているうちに、ドアが割れてしまった。それが「会社の設備に重大な損傷を加えた」と見なされ、即時解雇を言い渡された、という事件だった。

    それまで一度も問題を起こしたことがなかった真面目で実直なその社員は、職場から1キロそこそこのマージーサイドのカークビーに、年収£20,000にふさわしい自宅を構えていた。今回の会社の措置に驚いた同僚の一人が、エコー紙に語った。「レイはみんなから慕われている人。意図的に壊したわけではなく、解雇に値するとは到底思えない」。

    「息子がプレミアリーグの選手で、しかもこの夏にLiverpoolに入った。働く必要などないのに、でもレイは、自分が働けるうちは息子の世話にはならず、自分で稼ぐのだといつも言っていた。今月は、W杯に出る息子を見に、奥さんと一緒にブラジルに行くことを楽しみにしていた」。

    不当解雇の撤回を求めて役所に相談することを検討中という報道に、地元のLiverpoolファンの間で、「事件そのものはひどい話だ。ただ、まさにリッキーのお父さん、という尊敬すべき人」という声が飛んだ。

    平均的な会社員の50倍~数百倍という高給取りのプレミアリーグの選手たちは、私生活や家族のスキャンダルに際して、イングランド中のタブロイド紙から注目を浴びる。某ビッグ・クラブの主将のお母さんが、ロンドンの高級デパートで、万引きで逮捕された事件は、「息子の時給にも満たないような金額の宝石を、万引き?」と、一斉にヘッドラインを飾った。

    ランバートのお父さんの不当解雇事件は、そのような派手なスキャンダル性もなく、地元紙に小さく報道されたにとどまった。

    そして、1年後には、ランバートがLiverpoolから人生で2度目の解雇を食らうことになった。

    Liverpoolファンは、例外なく誰もが、ランバートの新天地での成功を心から祈った。

    「多くの人は、夢をかなえられずに終わる。でも、リッキーは夢を実現させた。熱烈なファンが、Liverpoolのシャツを着て初めて試合に出た時の感激はどんなものだっただろう。Liverpoolでの初ゴールを、スティーブン・ジェラードに肩を叩いて祝ってもらった時はどんな気持ちだっただろう。リッキーは常に全力を尽くした。試合に出られなくても文句ひとつ言わず、常にチームメイトの活躍を祝福した。リッキーは、我々ファンの一員として、ファンに誇りを与えてくれた」。

    テーマ : サッカー
    ジャンル : スポーツ

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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