ハートを握りしめて去ったレジェンド

    7月13日に、レアルマドリードを出てポルトに行くことになったイケル・カシージャスが、お別れの記者会見の最中に涙を流した姿が、イングランドのヘッドラインを飾った。BBCは「レアルマドリードは、ユースチームから通算25年間、クラブに忠誠を尽くしたレジェンドが去るというのに、記者会見に一人で座らせることしか考えられなかったのか。その前に、バルセロナでの栄光の24年間に終止符を打って、カタールのアル・サッドに行くことになったシャビが、クラブやチームメイトに囲まれて、ファンの前でお別れを告げた様子と比べると、レアルマドリードのクラブの認識を疑う」と酷評した。

    この夏は、カシージャスだけでなく、バスティアン・シュバインシュタイガーが、30歳でバイエルンミュンヘンを出て、マンチェスターユナイテッド入りが決まった件もあり、ヨーロッパのビッグ・クラブの「ワン・クラブ・マン」が去る感傷的な移籍が相次いでいた。

    一足先に、「去り行くビッグ・ネーム」というタイトルで、シャビ、ドルトムント監督を退き休暇に入ることになったユルゲン・クロップ、MLSへ行ってしまったアンドレア・ピルロとスティーブン・ジェラードの4人が、背中を向けて、肩を並べて歩いて行く姿を描いたカリカチュアが、イングランドのファンの間で大きな話題になっていた。

    その絵の中で、クロップは両手にリーグ優勝メダルを持ち、ピルロはACミランで2つ、ユベントスで4つのリーグ優勝メダルを重そうに抱えていた。シャビに至っては、手に持つことができない多くの(8つ)リーグ優勝メダルが入っているスーツケースを引いていた。その隣で、ジェラードは、手ぶらで片手にハートを握りしめていた。

    ジェラードがLiverpoolでの17年間の輝かしいキャリアで、あらゆるトロフィーを獲得したが、唯一、リーグ優勝だけは得られなかった事実は、最後までライバル・ファンの野次やチャントのネタにされ続けた。それに対してLiverpoolファンは、「ヨーロピアン・カップ5つ」チャントで応酬し続けたことは、イングランド・フットボール界の風物詩になった。

    「このカリカチュアは、ビッグ・ネームがクラブにとってどれだけ重要な存在かということをうまく表していると思う。特に、ジェラードのハートは心を直撃する」と、多くのLiverpoolファンは目を潤めた。

    そして、7月8日にジェラードがロサンゼルス・ギャラクシー入りして、初めての記者会見で抱負を語った場面は、イングランドはもちろん、ヨーロッパ中で報道された。その一つであるフランスのレキップ紙の記事に対して、フランスのファンから、ジェラードに対する心の籠ったメッセージが飛び交った。

    「超スーパースターというだけでなく、自分のクラブに対して忠誠を尽くした偉大な選手。チームが不調の時にも、体を張って戦い抜いた。フランス人の若手は全員、この人を見習うべきだ」。

    ジェラードが、7月17日に、ロサンゼルス・ギャラクシーでのデビュー戦(対サンノゼ・アースクエイクス、5-2でロサンゼルス・ギャラクシーの勝利)で得点を決めた報道の中で、ジェラードが今もLiverpoolのシンパッドを付けていることが暴露された写真が、Liverpoolファンを直撃した。「ジェラードのハートは今でもLiverpoolにある」。

    7月10日に、去ったジェラードの後任としてジョーダン・ヘンダーソンが正式にクラブ主将に任命された時に、多数のLiverpoolファンが不満を表明した。その中には、「ジェラードからヘンドへ。Liverpoolはここまで落ちたかと頭を抱えた」という声すらあった。

    昨年夏に、ヘンダーソンが副主将に決まった時には、ファンはほぼ満場一致で賛意を示したことを考えると、今回のこの激しい否認表明は、顕著だった。

    ただ、ジェラードが、全くの第三者であるフランスのファンからも、今でも熱烈に語られている事実を考えると、それらファンの中で、ヘンダーソンを知っている人が果たして何人いるかと、ファンのぼやきもやむを得ないものがあった。

    「ジェラードと比較されれば誰でも見劣りする。ヘンドが主将としての責任を果たそうと全力を尽くす以上は、ファンとしては支持すべき」と、納得に努めるファンの声は、決して大きくはなかった。

    この夏にLiverpoolを出る決意を明かした2015年1月に、当時のジェラードはどちらかと言えば不調期にあり、純粋に戦力面では、絶対に外せない存在とは言えなかったものの、中立のメディアやアナリストですら、ジェラードのピッチ内外の重要性を強調していた。「ジェラードがLiverpoolを忘れられない以上に、Liverpoolの方がジェラードを忘れることができないだろう」。

    その予測通り、ジェラードがファンのハートを握ったまま去って行った後で、残されたLiverpoolのチームは、勝ち目がない戦いに挑むというタスクに直面した。

    そんな中で、シーズン開幕まであと2週間となった。失ったものの大きさに愕然として、後ろを見ている余裕はない。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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