セリング・クラブ?

    7月12日に、午後の便でバンコクでのプリシーズン・ツアーに出発したLiverpoolチーム一行からラヒーム・スターリングが外れたというニュースが流れた。その日の夕方には、移籍金£49MでLiverpoolとマンチェスターシティが合意し、スターリングの移籍をめぐる一連の事件は幕を下すことになった。

    エージェントが公の場でスターリングの移籍希望を宣言し、Liverpoolのクラブに対する侮辱とも取れる批判を繰り返し、「スターリング事件」がイングランドのヘッドラインを飾らない日はなかった。Liverpool側はもちろん、シティ側も、地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースが「このままではスターリングは致命的な汚名を背負うことになる」と早期解決を求めていたところでの結末に、両陣営から大きな安堵の溜息が出た。

    移籍決定に際して、シティとLiverpoolの共通した反応は「良い選手だが、移籍金は高すぎた」というものだった。

    ここ2シーズンで、Liverpoolのレギュラーとして定着したスターリングは、2014年W杯を始めイングランド代表チームでの活躍も評価されて、ヨーロッパの21歳以下の選手の中では最も価値が高い選手」という統計も発表されていたが、それでも£49Mという金額は破格だった。

    いっぽう、この移籍が両陣営に利点をもたらしたことも確かだった。中堅・ベテランの外国人スター選手を多数抱えるシティは、自国選手不足が深刻化していたことと、主力選手の高齢化という問題もあった。「スターリングのペースは戦略的にも重要。しかもイングランド代表の20歳の若手と、必要な要素をすべて備えている」。

    Liverpool陣営では、スターリングを失うマイナスは、破格の移籍金を代替戦力に投資すれば穴埋め可能と、元選手のアナリストが一斉に歓迎を表明した。

    そんな中で、Liverpoolファンは、スターリングが出て行くことは避けられないと覚悟していたものの、この結末に対する反応は、元選手たちのストレートな勝利宣言とはやや異なっていた。「Liverpoolは、引き留めたいベスト・プレイヤーを取られ続けている。これではまるでセリング・クラブ(※)」。
    ※セリング・クラブ : アカデミーチームで育てた選手を、多額の移籍金でビッグ・クラブに売り、その収益金で経営が成り立っているクラブのこと。

    FSGの経営方針の一つ、「潜在的スターの素質を持つ若手を、安く買ってスターに育てれば、売るときに収益金が発生する」について、ファンの間では、「適切な予算内で戦力を補強して、勝てるチームを作ることは重要。しかし、FSGのビジネス・モデルは、トロフィーを目指すビッグ・クラブにそのまま当てはめるのは無理がある」と、懸念の声が出ていた。

    無謀な戦力補強などの末に、借金を抱えて倒産したかつての強豪リーズ・ユナイテッドや、最近ではポーツマスなどの事例を見るまでもなく、Liverpool自身が前オーナー時代に、新スタジアムの多額の借金とその利息のために倒産寸前まで行った暗い経験から、財政健全化の必要性については誰もが理解していた。

    ただ、FSGの方針は、原則26歳以上の選手は、売る時(3-4年後)には年齢的にも値崩れする可能性が大きいため取らない。買う時点ですでに実績がある選手は、売る時にそれ以上高くなる可能性が少ないのため取らない。結果として、特に昨年はしきりに叫ばれた「将来の戦力だけではなく、今の戦力を補強する」ことを否定する図式になっていた。

    そして、今回のスターリングの移籍では、FSGのビジネス・モデルの致命的な欠点が露呈された。潜在的スターを安く獲得して育てても、芽が出始めたところで出て行かれては、チーム力の増強には繋がらない。多額の移籍金は得られたが、これでは「セリング・クラブ」と何ら変わらない。育った選手を引き留めるためにも、チームがトロフィーを取れる状況にあることが必須だった。

    スターリングはFSG以前の戦力補強で、2010年にQPRからLiverpool入りした。トライアルでLiverpoolを訪れた15歳のスターリングは、当時の監督ラファエル・ベニテスから直々に、スティーブン・ジェラードとフェルナンド・トーレスに紹介された時のことを振り返った。「あの瞬間にLiverpool入りを決めていた」と目を輝かせたスターリングは、20歳になって、「新たなジェラードとトーレス」を求めてLiverpoolを出て行く決意を固めたのだった。

    Liverpoolファンは、「エージェント絡みのスキャンダルの中で、スターリングがトレーニングを休んだりという問題行動を起こして世間の顰蹙を買ったのは事実。しかし、純粋にスターリングを失うという観点から考えると、正直、残念に思っている。スターリングは多大な才能を持つ若手で、それを失う痛手は大きい。ただ、今回の事件に際して、最も心配なのはクラブの状況」と、ため息を付いた。

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    No title

    はじめまして。
    ブログ、コラムとも、毎日訪問し拝見させていただいてます。

    いつもいつも興味深い視点で楽しく読んでいますが、
    今回の文章はシティが高く買ってくれてよかったーと思っていた自分に対して、
    違う視点の考え方を与えてくれました。

    チームへの愛がなくなった選手は、たとえに能力が高い選手でも売るべきだと
    私は思っていますが、そもそもそういう選手がチームを愛せなくなること自体を
    避けるような運営をしていかないと、長期的にも短期的にもチームは成長しないんだなぁと。

    今後も管理人様のあらゆる記事を楽しみにしております。

    Re: No title

    えるこっぷさん、
    コメントありがとうございます。ご意見はとても参考になりました。
    これからもよろしくお願いします。
    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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