プランA

    イングランドでも、ここ数年「マーキー・サイニング(※)」という表現が一般的になり、各クラブが多額の資金で獲得する、ビッグ・ネームの選手のことを指すようになった。
    ※もともとは、給料の上限額が定められているリーグで、その適用除外枠として特例で認められる高給取りのスター選手のこと。

    マーキー・サイニングは必然的に、ファンの歓喜を呼び、第三者チームのファンは純粋な興味から注目し、宿敵のチームのファンから嫉妬のジョークが飛ぶという騒動をもたらす。

    例えば2014年夏にアンヘル・ディマリアがレアルマドリードからマンチェスターユナイテッド入りした時には、隣のシティ・ファンが、アルゼンチン代表チームでシティのセルヒオ・アグエロとパブロ・サバレタと一緒に映っているディマリアの写真に「エージェントから『マンチェスター』と聞いたので、君たちと一緒のチームに入れるかと思ってOKしたのに」というキャプションを付けて、イングランド中の爆笑を買った。

    6月24日にロベルト・フィルミーノの正式サインが発表された時には、「信じられない」と絶句して感涙にむせるLiverpoolファンの横で、エバトン・ファンから「Liverpoolはホッフェンハイムに命令されて大金を支払わされた。わがクラブはジェラール・デウロフェウ獲得に際してバルセロナに対して強気を通した。これがビック・クラブの本来の姿」と、やっかみが飛んだ。

    毎日メディアを飾り続けている移籍の噂の一環として、フィルミーノの名前が出てきたのはほんの数日前のことだった。その時には、圧倒的多数のLiverpoolファンが「コパ・アメリカに出ているブラジル人アタッカーが、CLもないチームに来てくれるはずはない。唯一、期待できるのは、大会で毎日フィル(フィリペ・コウチーニョ)と顔を合わせているうちに洗脳されるかもしれないということ」と、自虐的ジョークを言って笑っていた。

    Liverpoolファンにとって、待ちに待ったマーキー・サイニングが憧れのブラジル人アタッカーという事実は、それだけで期待を急上昇させる効果を持っていた。もともとブラジルびいきのLiverpoolファンの間で、シャツの名入れなどの数字上もここ2年間人気No.1を独走しているコウチーニョが、昨季はプレイヤー・オブ・ザ・シーズンの活躍を見せたことで、ブラジル熱は更に高まっていた。

    コウチーニョは、フィリペの英語読みで「フィル」というニックネームで慕われていたが、さっそくフィルミーノもロベルトの英語読みで「ボブ」と呼称が決まり、あっという間にブラジル人攻撃コンビは「フィルとボブ」で定着した。

    そんな中で、フィルミーノ特集の一環として、リバプール・エコー紙が、「試合中あまり声を出さない、問題を起こすことなく、黙ってプレイに専念する、物静かで真面目な選手」と、ドイツの著名ジャーナリストによる、フィルミーノのホッフェンハイムでの4年間に基づく見解を掲載した。

    移籍金は41Mユーロで、これまでのマリオ・ゲッツェ(37Mユーロで2013年にドルトムントからバイエルン)、エディン・ゼコ(同額、2010年にボルフスブルクからマンチェスターシティ)を上回るブンデスリーガ史上最高額となった。

    「プレミアリーグのクラブは、テレビ収入などがある分、選手に多額の投資をする。ドイツでは破格の移籍金だが、プレミアリーグでは異例とは言えない。そして、フィルミーノは多くのブラジル人選手同様にテクニックに優れているし、それだけではなく、体力的に厳しいプレミアリーグでも通用する強さも持っている。リバプールで成功する可能性は十分にある」と、肯定的だった。

    「ただ、成功するかどうかはチームのフォーメーションや使われ方にかかっている。フィルミーノはボールを地に着けたまま、チームメイトに近づいてボールを渡す、いわゆる典型的ブラジル人というプレイスタイルを得意とする。フィルミーノを活用できるか否かは監督にかかっている」。

    それは、Liverpoolファンやエコー紙の記者の、ほぼ一致した見解でもあった。Liverpoolがプレミアリーグで最も魅力的なフットボールと言われた2013-14季は、自分の足でボール持ってボックス内に入り、フィニッシュを決めるタイプのストライカーを中心に、スルーパスやボールを運んでストライカーに供給するミッドフィールダーが、Liverpoolの「プランA」を固めていた。

    その肝心のストライカー(ルイス・スアレス)がいなくなった2014年夏に、「いわゆるバスを停める(※守ってポイント狙いの戦略)相手に苦戦を強いられた時、クロスを上げれば決めるストライカーを出す」というプランB要員(リッキー・ランバート)を補強した。しかし、欠けたプランA要員の穴埋めが出来ないままシーズンを迎えたことが致命的だった。

    「プランBのストライカーがプランAで使われた2014-15季は、フィルの出すボールを受け取る選手がいない場面が目についた。そもそも、プレミアリーグで最もクロスの少ないLiverpoolで、クロスを必要とするタイプのストライカーに得点を期待するのは無理。昨季と同じ間違いを犯さないためにも、フィルとボブが本領を発揮できるプランAにフィットするストライカーが必要」。

    移籍ウィンドウは7月1日に正式にオープンするが、熱い夏はますます本格化する。

    コメント

    非公開コメント

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

    最新記事
    最新コメント
    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    QRコード
    QR