フットボール・ディレクター対移籍委員会

    6月12日のBBCのフットボール・フォーカスで、「トコピージャからウェンブリーへ」と題して、アレクシス・サンチェスが故郷のチリ北部の人口2万人の漁村からFAカップ優勝に輝くまでのドキュメンタリーが放映された。Liverpoolファンにとっては、昨年夏に、サンチェスがLiverpoolを蹴ってアーセナル入りした記憶が生々しかった。その時には、どこからか「奥さんがロンドンでなければだめと主張したから」という説が流れ、ファンは諦めたものだった。

    ところがシーズン半ばの11月に入って、エージェントが「アーセナルよりLiverpoolの方が移籍金として高い金額を提示した。ルイス・スアレスとの交換という利点もあり、バルセロナはLiverpoolに行かせたかった。ところが本人はアーセナルを希望した。その理由は、アーセン・ベンゲル」と証言したことで、サンチェス獲得失敗の痛みが蘇った。

    「通常は、移籍失敗の責任の所在は明らか。しかし、Liverpoolの場合は、移籍委員会の存在のため、どこを正せば軌道修正できるのかわからなくなっていることが最大の問題」とは、メディアやアナリストの一致した見解だった。

    2012年夏にブレンダン・ロジャーズが監督に就任した時、FSGはフットボール・ディレクター体制を主張したが、ロジャーズがこれを強硬に拒否したため、妥協策として移籍委員会が置かれることになった。経験の少ないロジャーズに移籍に関する全権限を与えるのはリスクが多いし、監督の負荷が高すぎる、というのが主旨だった。

    結果、Liverpoolのチーム運営は、選手補強と放出、選手の契約更新などは移籍委員会、試合やトレーニングなどチームに関しては監督以下のコーチ陣が全面的に責任を持つという体制になった。そして、監督の意見が移籍に反映されるようにと、移籍委員会の中にはロジャーズも含まれることになった。

    具体的には、ロジャーズに加えて、FSGの社長マイク・ゴードン、イアン・エアとスカウト部門のマイクル・エドワーズの4名構成で、イングランドのフットボール界には馴染が薄いアメリカ人のゴードンと、地元出身のLiverpoolファンながら、クラブのスポンサー開拓で手腕を振るうビジネスマンのエアは、フットボール専門家という立場ではなかった。経営面の専門家2名とフットボール面の2名という移籍委員会は、失敗の可能性を秘めた組織だ、という指摘が出ていた。

    今回露呈したiverpoolの移籍委員会の問題の一つに、どこまでが監督が希望した選手なのかわからない、というものがあった。典型的な例はマリオ・バロテッリで、昨年7月にLiverpool入りの噂が上がった時に、ロジャーズが、「バロテッリ獲得は絶対にありえない」と断言したことからも、ロジャーズのサインではないことは明らかだった。

    移籍委員会の最大の問題は、「そもそも、ビッグ・ネームのストライカー獲得失敗の真の原因はどこにあるのか?」という点に対して、明確な回答がないことだった。「監督の実績(の欠如)」はサンチェスのエージェントの証言にもあったが、「若手を比較的安価な金額で獲得し、スターに育てる」というFSGの選手補強の基本方針が不利に働いている、という言い分もあり、複数の説が平行線を辿っていた。

    折しも、イングランドでも大陸のようにフットボール・ディレクターを取り入れるべきという見解が着実に増えていたところだった。イングランドでは伝統的に、監督が移籍からチームまで、フットボール面の運営に関して全権を握る方式が圧倒的だった。大陸のフットボール・ディレクターが話題に上がるようになったのが10年ほど前のことで、当時は「イングランドでは定着しない」と否定的な意見が占めていた。

    しかし、近年ではマンチェスターシティとチェルシーがフットボール・ディレクターを採用して成功した事例が注目されていた。特に、昨年夏の移籍ウィンドウ中にチェルシーがディエゴ・コスタ、セスク・ファブレガス、フィリペ・ルイスらの獲得を早々に決めたフットボール・ディレクターの有能な仕事ぶりに着目したミラー紙が、移籍ウィンドウが閉まった直後の9月5日に「フットボール・ディレクターはイングランドでも機能する」という記事を掲載するに至った。

    そして、チェルシーがリーグ優勝とリーグカップの二冠でミラー紙の結論を裏付けた傍ら、Liverpoolは、妥協路線の破たんが露呈していた。

    2014-15季の失敗の結果として、Liverpoolは、監督は残留するが、アシスタントのコリン・パスコーとコーチのマイク・マーシュが解任され、チームの運営部門が責任を問われた形で決着した。移籍委員会の方は変更ないまま、夏の戦力補強として6月4日のジェームズ・ミルナーに続いて8日には降格したバーンリーからダニー・イングス、12日には2部のボルトンからGKのアダム・ボグダンと、フリーエージェント3名の獲得が発表された。

    「昨年はCLとスアレス売却資金があったのに、即戦力のビッグ・ネームのストライカーは獲得できなかった。今年は更に形勢は不利なのに、移籍委員会は何ら是正措置が取られないまま、昨年と同じ道を進んでいる」と、地元紙リバプール・エコーが疑問を投げかけた。

    そんな中で、地元のファンの間では、具体的な噂が広がっていた。「ロジャーズは半年の猶予を与えられた。2015年11月の時点で、トップ4が見えていて、ELグループラウンド勝ち抜きもほぼ確実という、飛躍的な向上が見られない場合は、監督交替となり、フットボール・ディレクターを置く。その新体制で、1月の移籍ウィンドウに臨む」というものだった。

    噂の信ぴょう性はさておき、メディアもファンも疑問視する移籍委員会を温存したまま重たい空気の下で、夏は進む。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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