丸い穴に四角のくい

    5月30日のFAカップ決勝戦は、4-0とアーセナルが快勝し、イングランドの2014-15季に幕を下ろした。GKがセーブ0という一方的な敗戦の後で、アストンビラの監督ティム・シャーウッドはファンに謝罪した。「リーグでは辛うじて残留できたが、チームには敗者の精神が蔓延している。これは来季開始までに絶対に改める」。

    4月19日の準決勝で、そのビラに2-1と敗退した時のブレンダン・ロジャーズの言葉は対照的だった。「リーグ5位で2つのカップ戦で準決勝まで行ったのだから、今のLiverpoolにとっては妥当な成績」。典型的な「敗者の精神」で、それを正当化したものに見えたこの発言に、多くのLiverpoolファンは無言で眉を吊り上げた。

    2012年にロジャーズのLiverpool監督就任が決まった時、ファンの意見は完全に二分した。その時点で、監督としての経験は極めて少なく、2部のワトフォードで半年(2008-09)、2部のレディングでは半年(2009)でクビになった。最も成功したスウォンジー(2010–2012)では、プレイオフでプレミアリーグ昇格、2011-12季には11位と残留を達成した。プレミアリーグの監督歴は僅か1年、下位ディビジョンも含めてトロフィーなし、ヨーロッパの経験ゼロというロジャーズに、「才能はあると思うが、経験が絶対的に不足している。いきなりLiverpoolのようなビッグ・クラブの監督が務まるだろうか?」と疑問を抱いたファンは少なくなかった。

    残り半数は、Liverpoolでトロフィーを取り実績ある監督になることを期待して、賛意を表明した。

    いずれにせよ、ファンは、「(内心の懸念はさておき)監督である以上は全面的に支持する」と伝統を守る決意を抱いていた。

    それは、初シーズンの2012-13季にスタートに苦戦し、17試合の時点で僅か22ポイントの12位と低迷した時にも変わらなかった。「3年後に評価して欲しい」とのロジャーズの言葉を信じて、ファンは支持し続けた。

    しかし、経験の浅さからくる失言の連続に、「スウォンジー監督ならば見逃されるようなちょっとした言動は、Liverpool監督が出せばヘッドラインを飾る事件に発展するということを自覚すべきだ」と、苛立つファンの声が強くなった。

    それら失言の中でも特に、2013年夏の「トットナムは、£100Mを使って戦力補強したのだからリーグ優勝を狙うべき」や、2014年春のチェルシーに対する「守るのは誰でもできる」は、Liverpoolが不調に苦しんだ2014-15季には、「ロジャーズは自分の発言で自分のクビ絞めた」と、連日メディアで晒された。

    移籍の失敗や戦略面のミスは、どんな監督でも犯す。しかし、その限度を超えた時、事態に改善が見られない時には監督の責任に直結する。2014-15季前半に、守りの悪さが注目を集めた時、ジェイミー・キャラガーら元Liverpoolのアナリストが、「2013年夏に£15Mでママドゥ・サコ、2014年夏には£20Mでデヤン・ロブレンと大金を費やしてセンターバックを補強しながら、守りの脆さはむしろ悪化している。ディフェンス専任コーチが必要」と指摘したのに対して、ロジャーズは自らの監督としての手腕に対する自信を語り、「ディフェンス・コーチなど必要ない」と突っぱねた。

    スタンドではあくまで監督支持の態度を貫きながらも、心の中で「ロジャーズにはLiverpool監督は荷が重すぎた」と、反対派に移行するファンの数は、着実に増えて行った。

    そして、FAカップ敗退後の「敗者の精神」発言で、圧倒的多数になった反対派の「3年後の評価」は固まった。

    5月24日のリーグ最終日に、ストークに6-1と歴史的大敗を食らった試合後には、最後の砦でもあった地元紙リバプール・エコーが、厳しい批判を掲げた。

    「FAカップ敗退の時に、リーグ5位で国内カップ戦で2度の準決勝進出は『妥当な成績』と言ったロジャーズの理論を採用しても、6位は『悪い成績』。実際には、今季開始時点のトップ4、CLグループラウンド勝ち抜き、国内カップ戦で優勝という3つの目標全てにおいて失敗で終わった」。

    最後まで「2013-14季が目標を上回ったのだから、その分を考慮すべき」と言い続けた数少ない擁護派のファンも、ストーク戦で堪忍袋の緒が切れた、と同紙は指摘した。

    「上位4チームとの直接対戦で僅か5ポイントという成績と、FAカップ準決勝の情けない敗戦は、ビッグ・マッチで勝てない経験不足を暴露した。CLでは、グループラウンド敗退の成績よりも、ベルナベウで主力を休ませて臨んだこと(試合結果は1-0でレアルマドリードの勝利)。直後のチェルシー戦に重点を置いたという言い訳より何よりも、レアルマドリード戦に『敗者の精神』で臨んだことで、Liverpool FCの名誉に傷をつけた」。

    ファンの間では、£200Mを費やして獲得した戦力の是非について厳しい議論が交わされた。選手を本来とは異なるポジションで使うことを指す「丸い穴に四角のくい(「適材適所」の逆の意味)」という表現は、試合の度にメディアを飾り続けた。

    「本来ミッドフィールダーのエムレ・カンが、ライトバックには向いていないことはビラ戦で明らかだったのに、ロジャーズはストーク戦で同じ間違いを犯した。これでは本人が自信を失うのも当然。そもそもこれら選手たちは、元のチームでは適材適所でそこそこの活躍をしていた選手たち。Liverpoolに入った途端にダメになるのは何故か?1人や2人のことならば選手本人のミスマッチかと思うが、ここまで来ると原因はLiverpool側にあると考えるべき」。

    「伝統的に忠誠心が強いLiverpoolファンの間でも、監督交代を求める声が圧倒的多数を占めるに至った。オーナーとのシーズン末レビューの結果、続投が決まったとしても、ロジャーズにとっては、ファンの信頼を取り戻すための長く険しい道が待っている」と、エコー紙は締めくくった。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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