募金箱からプレミアリーグへ

    5月3日、チェルシーがクリスタルパレスに1-0と勝って、2014-15季のプレミアリーグ優勝を確定した。実際には数週間前から、チェルシーの優勝は時間の問題というのがイングランド中のファンやメディアの統一見解だった。4月26日のエミレーツ(試合結果は0-0)で、スタンドのアーセナル・ファンが「ボーリング、ボーリング(たいくつな)チェルシー」とチャントしたように、強力な守りで相手の攻撃を抑える戦略は、チェルシーが優勝に向けて着実にポイントを重ねる度に、ライバル・ファンから様々なジョークを引き出した。

    しかし、元マンチェスターユナイテッドのガリー・ネビルの「合計得点でリーグ2位のチェルシーを『たいくつ』呼ばわりするのは単なる嫉妬。チェルシーが強すぎて『たいくつ』な優勝争いになったのは、アーセナル、マンチェスターシティ、マンチェスターユナイテッド、Liverpoolのせい。これらチームは、自分たちが強くなって出直すべき」という言葉に、各チームのファンは深く頷いた。「そもそもフットボールは勝つのが最大の目標。勝てる戦略でポイントを重ねたチェルシーは、真の勝者」。

    潔くチェルシーを賞賛するライバル・ファンやアナリストの後ろから、BBCのマッチ・オブ・ザ・デイの司会者ガリー・リネカーが「たいくつでないチームが来季のマッチ・オブ・ザ・デイのメンバー入りすることになった。昇格おめでとう、ボーンマス」とメッセージを出して、イングランド中の拍手を誘った。

    戦略だけでなくあらゆる面でチェルシーの対局とも言えるボーンマスが、クラブ史上初のプレミアリーグ昇格を実質的に決めたのは4月27日のことだった(ボルトンに3-0と勝利)。5月2日にチャールトンに3-0と勝って、2部リーグ優勝で「おとぎ話」を締めくくったボーンマスは、チェルシーのプレミアリーグ優勝と並んでヘッドラインを飾った。

    プレミアリーグ史上最少のスタジアムとなるディーン・コートは、収容人数は11,700と、チェルシーのスタンフォードブリッジ(収容人数41,837人)の4分の1強に当たる。リーグ得点19で優勝に貢献した昨年夏の新戦力カルム・ウィルソンは、移籍金額£3Mでボーンマスのクラブ史上最も高い選手となった。チェルシーの2014-15季の最高金額はディエゴ・コスタの£32Mと桁が違うのは、クラブの年間売上高でチェルシーの£319.8Mに対してボーンマスの£5.1Mという数字を比べるまでもなかった。

    そのボーンマスのコンパクトな財政は、テレビやスポンサーからの収入を含めて、プレミアリーグ昇格は£100Mの増収と試算されている多大な報酬で潤うことになる。しかもボーンマスの場合は、更に感慨深いものがあった。

    2014年12月16日に、リーグカップ準々決勝を翌日に控えてガーディアン紙のインタビューを受けたボーンマス監督のエディ・ハウは、「わがチームのここ6年間の実話は、映画にもないような話」と静かに笑った。その時点で2部の首位にいた絶好調のボーンマスは、直前のリーグ戦でマンチェスターユナイテッドに3-0と大敗を食らってどん底にいたLiverpoolにとって「最も危険な相手」と、世間は一斉に番狂わせを予測していた。

    6年前の2008-09季、ボーンマスは「あと5分で倒産」の危機を辛くも乗り越えた。その財政難は1997年に始まったもので、地元の町中に「チェリーズ(ボーンマスのニックネーム)を救ってください」というラベルを張った募金箱を置いて、ファンのカンパを募った。その時に、路上に座って募金を募り、文字通りクラブを救うために働いた選手たちの一人が、現監督で当時19歳のハウだった。

    ファンの共同経営から、安定した資金を投入するオーナーが見つかるまで、10年余り募金箱状況が続いたボーンマスは、2009年に31歳でリーグ最年少監督となったハウがピッチ上での変革を担うことになった。13歳でユース・チーム入りしてから負傷のため2007年に引退するまで、現役の大半をボーンマスで過ごした準ワン・クラブ・マンのハウは、攻撃的プレイスタイルを植え付け、僅か6年間で「募金箱からプレミアリーグ」に到達した。

    そして、イングランド中が「番狂わせ」を期待する中、Liverpoolが3-1と順当勝ちを収めたリーグカップ準々決勝の試合後に、ハウは「0-1とリードされて後半、2人ストライカーで臨んだのはリスクがあった」と、静かな口調で語った。「アンフィールドでの再試合に持ち込みたかった。しかし、プレミアリーグのビッグ・クラブを相手に、わがチームは自分たちのプレイを貫いて競い負けた」。

    Liverpoolファンの間では、「今日のようなプレイを続けていれば、ボーンマスは来季、リーグ戦でアンフィールドに来ることになるだろう」と、ハウとボーンマスに対する賞賛の言葉が続いた。

    かくして募金箱からプレミアリーグへ、6年間のいばらの道を戦い抜いておとぎ話を勝ち取ったボーンマスは、イングランド中のメディアとファンから、惜しみない拍手を受けることになった。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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