26年前の真相

    4月8日、イーウッド・パークで行われたFAカップ6回戦再試合で、Liverpoolは苦戦の末にブラックバーンを1-0と破って準決勝進出を決めた。3月8日にアンフィールドで0-0と引き分けた後で、基本的には翌週に行われるはずだった再試合が、ブラックバーン側の都合と、CLと同じ日に試合をやってはいけないというUEFAのルールの関係で、1ケ月先延ばしとなった。その間に準決勝の組み合わせも日程も決まり、早々に勝ち抜きを決めていたアストンビラは、4月19日の15:00にウェンブリーで対戦する相手の決定を4月8日まで待たされたのだった。

    晴れてビラとの対戦が決まった後で、Liverpoolファンは「3年ぶりのアンフィールド・サウス」と、複雑な声を上げた。黄金の80年代には、リーグカップとFAカップの両決勝戦8回出場というウェンブリーの常連だったLiverpoolは、ファンや地元メディアの間で「ロンドンにある第二のホーム・スタジアム」という意味合いから、ウェンブリーを「アンフィールド・サウス」と呼ぶ慣習が定着していた。

    ただ、ウェンブリーが2007年に新装開店してからは、決勝戦だけでなく準決勝もウェンブリーで行われるようになり、「ウェンブリーの常連」の意味合いはやや変わった。これはFAが、改築工事に費やした資金を少しでも早く回収すべく、ウェンブリーでの試合数を増やすために取らた措置だった。そのような仕方ない事情はあるものの、ファンや関係者の中では、「準決勝が行われるようになってウェンブリーの価値が下がった」という声も多い。

    ウェンブリーが決勝進出チームだけの特典だった頃は、準決勝はニュートラルなスタジアムとして、トップディビジョン(現在はプレミアリーグ)のクラブチームのホーム・スタジアムの中から、FAによって選出されていた。選定の基準としては、準決勝に勝ち残っていないチームのホーム・スタジアムの中で、対戦2チームにとって同じ程度の距離という条件が一般的だった。90年以降は距離的平等という条件はなくなり、収容人数や設備が重要視されるようになった。例えば、Liverpoolの最後のFAカップ優勝シーズンである2006年の準決勝は、オールド・トラッフォードで行われた。相手のチェルシーはロンドンから200キロの道のりでマンチェスター入りし、僅か50キロの隣町から来たLiverpoolに2-1と敗退したのだった。

    それは、イングランドのフットボール界が、試合に行くファンの安全を重要視するという、ごく当たり前の配慮を、その頃からやっと取り始めたからだった。試合に出かけた家族が帰らぬ人になるという悲劇が、二度と起こらないようにという決意が、やっと芽生えたのだった。

    その前の時代に当たる1989年4月15日のFAカップ準決勝で、その時点で既にスタンド内で小規模な事故が複数回発生していた南ヨークシャーのヒルズバラ・スタジアム(現在2部にいるシェフィールド・ウェンズディのホーム・スタジアム)は、前1988年のFAカップ準決勝(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)も全く同じLiverpool対ノッティンガムフォレストの対戦だった実績から選定された。

    そのヒルズバラ悲劇の公判が、2014年3月31日に開始されて、現在も行われている。2012年9月に新たな証拠が発見されたことから、再審が決定されたもので、遺族の便宜を図ってリバプール市の隣町ワーリントンで行われている。それまでの裁判はいずれもロンドンで行われたため、遺族の負荷は多大なものだった。

    このワーリントンでの公判が開始してからは、判決に影響を与える可能性がある行為はできなくなっている。つまり、公の場でヒルズバラ悲劇に関する意見を表明する場合、判決に影響を与える可能性がある議論にならぬよう、細心の注意を払う必要がある。

    Liverpoolファンの間では、公判が行われている間は公の場では話題にしないようにという同意が交わされている。地元紙リバプール・エコーが日々報道する関係者の証言内容に、強い感情を抱きながらも、26年間待ち続けた真相のために、今は口を閉ざし続けている。

    そんな中で、4月15日にはアンフィールドで、26回目のヒルズバラ・メモリアル・サービスが行われる。26年前にヒルズバラ・スタジアムでレフリーが笛を吹いた15:06に、96人を偲ぶ黙とうが行われる。この日、96人に追悼を捧げるのはコップ・スタンドの参列者だけではない。リバプール市の全ての公共施設で半旗を掲げ、ライム・ストリート駅前のジャイアント・スクリーンには96人の写真が映される。

    先駆けて、4月13日にアンフィールドで行われたリーグ戦(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)では、対戦相手のニューカッスルの選手も黒のアームバンドを付けて96人に追悼を捧げた。そして、試合前の1分間の黙とうは、アウェイ・スタンドのニューカッスル・ファンも協力し、ピンが落ちる音が聞こえる静寂の中で遂行された。

    これまでの25回と同じく、チームの境界を越えてフットボール・ファンが団結した。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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