スカウサー色が薄まるアンフィールド

    4月6日に、地方紙リバプール・エコーが、「キャラに続いてスティービー、そしてコップ・マガジンがこの夏に去ることになり、アンフィールドのスカウサー色がまた薄まることになった」という見出しで、2015年6月号を持ってコップ・マガジンが廃刊となるニュースを報道した。

    Liverpoolの最後のリーグ優勝からほぼ5年、かつてのテラスだったスパイオン・コップがなくなってから10ヶ月余りの1995年3月に、リバプール・エコー紙のLiverpool FC専門の月刊誌としてコップ・マガジンが創刊された。スパイオン・コップに代表される、忠誠でユーモア精神に満ちているスカウサーならではの紙面は、チームが不調に苦しんでいる時にもジョークを絶やさず、ファンが誇りと笑顔で暗黒の20年間を前向きに進んだ時代の、良きパートナーだった。

    その廃刊の知らせに、嘆きの声を上げたのはファンだけではなかった。創刊号の表紙を飾ったロビー・ファウラー、現役時代にはコップ・マガジンを持ってトレーニングに通ったというジェイミー・キャラガー、同年代のデビッド・トンプソンら、スカウサーでアカデミー出身の歴代人気選手たちが、続々と残念メッセージを出した。

    地元紙であるコップ・マガジンは、必然的に、隣人エバトンをネタにしたジョークが冴え、特に負けた試合の失意を笑いに変える起爆剤としても機能した。その一例が、2002年のFAカップ4回戦で、ハイバリー(当時のアーセナルのホーム・スタジアム)でアーセナルに0-1と敗退した試合で、当時は24歳の若手だったキャラが、スタンドから飛んできたコインを拾って投げ返したことで退場を食らった事件をパロディにしたジョーク記事だった。「ビル・ケンライト(エバトンのチェアマン)が、『元エバトン・ファンともあろう者が、お金を粗末にするとは何事か。拾ったコインを私にくれれば、戦力補強資金の足しになったのに』とキャラをこき下ろした」。

    そして、メジャーなトロフィーから疎遠になる中で、ファンにLiverpoolの伝統と誇りを唱え続けたコップ・マガジンの、最長ロング・ランの「コップ・チャレンジ」は、地元紙の枠を超えて世界にその存在感を広めた。これは、ファンがコップ・マガジンを片手に、4本の指を立てて撮った写真を、キャプション付で紹介するという連載ものだった。

    「ファンが休暇で訪れた土地で、Liverpoolのヨーロピアン・カップ(CLの前身)の優勝回数を指で示した記念写真を撮る、というルールで、最初は夏だけの企画だった。あまりにも好評だったので、定例記事になった。しかも、指の数からロング・ランぶりが伺える」と、編集者は微笑んだ。

    5本の指になった「コップ・チャレンジ」は、世界中のファンはもとより、ロビー・ファウラーの特別参加もあった。

    1993のファーストチーム・デビュー以来、「ゴッド(神)」のニックネームでLiverpoolファンの心に住み続けているファウラーは、地元のエバトン・ファンのご家庭で生まれ、自らエバトン・ファンながらLiverpoolのアカデミーチームで育った経歴から、地元のファン同士のライバル意識を理解し、相手ファンとのコミュニケーションも大切にしていた。

    2001年に、当時の監督ジェラル・ウリエのフォーメーション下で出場機会を失い、やむを得ずLiverpoolを出てリーズ・ユナイテッドに行ってしまった後も、Liverpoolファンの人気は全く変わらなかった。そのファウラーが、リーズの財政危機の影響などで、2年後にマンチェスターシティに移籍した時には、隣町のユナイテッド・ファンから「大歓迎」を受ける立場になった。

    マンチェスターユナイテッドが、隣人シティとLiverpoolを二大ライバルとしているのに加えて、リーズとは「ばら戦争(※)時代からのライバル」という両ファンの「言い訳」は、イングランドのフットボール界では有名な笑い話だった。
    ※15世紀の英国で、白ばらのヨーク家(現在のリーズ地区)と赤ばらのランカスター家(現在のマンチェスター地区)間で争われた戦いのこと。

    ユナイテッド・ファンが「Liverpool⇒リーズ⇒シティ。まるで我々にブーイングしてくれと頼んでいるかのような動きだ」と目を輝かせて臨んだ2006年のマンチェスー・ダービーで、ウォームアップしていたファウラーが、アウェイ・スタンドのユナイテッド・ファンの前でさりげなく5本の指を見せた場面が、コップ・マガジンを飾ったのだった(試合結果は3-1でシティの勝利)。

    「ロビー・'ゴッド'・ファウラーが『コップ・チャレンジ』に挑む横で、スタンドのユナイテッド・ファンが一斉に立ち上がってブーイングを飛ばす写真」のエピソードは、今でもマンチェスー・ダービーが近づくとLiverpoolファンの間で話題になる。

    たまたま今回のマンチェスー・ダービーの直前に発表されたコップ・マガジンの廃刊は、近隣都市のファンのライバル意識も吸い込んで、スカウサー・ユーモアを貫いたLiverpoolのファンや選手たちの、甘辛い20年間に一つの区切りを付けることになった。

    かくしてスカウサー色がまた薄まるアンフィールドが、Liverpool FCの伝統と誇りを維持することは、ファンにとっても重要な課題となる。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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