ノスタルジーと許し

    3月27日のユーロ予選リトアニア戦で、70分にサブで登場してイングランド代表デビューを飾ったハリー・ケインが、僅か80秒でゴールを決めたニュースが暫しイングランド中のヘッドラインを独占した(試合4-0でイングランドの勝利)。

    現在プレミアリーグの得点ランキングで、チェルシーのディエゴ・コスタと並ぶ19点で首位を走る21歳のケインは、外国人スター選手がひしめくプレミアリーグの中で、彗星のごとく現れて一気にメディアのアイドルとなった。今回のインターナショナル・ウィークの前には「ケインは代表選出なるか?」で沸き、「ケインは初キャップなるか?」と続き、「初ゴールの夢のデビュー」で締めくくった。

    ケイン・フィーバーが止まないインターナショナル・ウィークの中で、国内の数少ない話題として、3月29日にアンフィールドで行われたオールスター・チャリティ戦が静かな話題を呼んだ(試合結果は2-2)。目標をはるかに上回る£1m超の基金を集めたこの試合は、ピッチの上で笑顔でプレイした選手たちと、新旧Liverpoolのスターやゲストに温かい拍手を送った満員のファンが、全国メディアから賞賛を受けた。

    「元Liverpoolの選手たちが、スタンドのファンから熱烈な歓迎を受けて、感激に頬を染める感動的な場面が目立った。特にフェルナンド・トーレスは、ファンからの冷たいブーイングを覚悟していたのに、総立ちの拍手と懐かしい'Liverpool No.9'の歌を受けて、試合中に足を止めてスタンドに拍手を返した」。

    地元紙リバプール・エコーは、一歩進んで「ノスタルジーと許し」という見出しで、「次はマイクル・オーウェン?」と、問いかけを掲げた。

    「試合後のインタビューで、目を潤ませながら『Liverpool No.9の歌は、僕の記憶から一度も消えたことがなかった。今日のファンの歌は、一生心に留まることは間違いない』と語ったトーレスが、コップと撚りを戻した場面は印象的だった。近年、Liverpoolファンを裏切って出て行ったもう一人のストライカーであるマイクル・オーウェンが、今日のトーレスのようにファンから『ノスタルジーと許し』を受ける日は来るだろうか?」

    1998年のW杯フランス大会で、18歳と183日で「W杯出場イングランド代表の最年少選手」記録を達成した頃のマイクル・オーウェンは、イングランド中に、今のケインと同様のお祭り騒ぎを湧き起こした。更に、準々決勝のアルゼンチン戦(試合結果は2-2、PK戦でイングランドは敗退)での「あのゴール」の後で、イングランドのオーウェン熱は極限に達した。1998-99季のプレミアリーグでは、宿敵エバトンなどごく一部を除いて、Liverpoolの全アウェイの試合で、相手チームのファンが盛大な拍手で「イングランド代表チームの期待の彗星」オーウェンを歓迎した。

    ケインもオーウェンも、ユース・チームから育ったクラブでスターダムへの道を踏み出したという点も共通していた。ケインはロンドンのトットナムの地元という地区でトットナム・ファンのご家庭に生まれ、トットナム・ファンとして育ったのに対して、オーウェンは、元エバトンの選手だったお父さんの影響でエバトン・ファンとして育った。

    もちろん、Liverpoolの歴代スター選手の中で、少年時代はエバトン・ファンだった選手は決して少なくない。特に、オーウェンとはLiverpoolのユース・チーム時代から一緒だったジェイミー・キャラガーは筋金入りで、Liverpoolでファーストチーム・デビューを飾った後にも、チームのバスの中で大声でエバトンを応援して、ロニー・モーラン(当時のアシスタント)から叱られたという話はあまりにも有名だった。「エバトン・ファンとしてはキャラの足元にも及ばない」と笑うオーウェンは、そのような縁も手伝ってキャラとは親友になった。

    2004年夏に、Liverpoolファンにとって青天の霹靂のような形でレアルマドリードへと去って行ったマイクル・オーウェンは、かつて「イングランド代表チームの期待の彗星」と騒がれた輝きを徐々に失って行った。

    1980年代からLiverpoolファンを続けている私にとって、デビューから見続けた選手を見送る憂き目は何度も経験したとは言え、オーウェンは中でも大きな打撃を受けた選手の一人だった。ただ、オーウェンに対するLiverpoolファンの感情は、私の実感では、あくまで在籍中の業績を評価し、怒りよりも残念に思う声の方が多かった。

    しかし、2010年に、キャラの在籍10周年記念試合でアンフィールドのピッチに立ったオーウェンに対して、スタンドから拍手とブーイングの両方が飛んだことは事実だった。「親友のオーウェンが、Liverpoolファンから拍手してもらえるようにと、レフリーにPKを頼んでいた」と、試合後にキャラが明かしたその計画は、スタンドからの「キャラがPKを蹴る」リクエストのチャントで失敗に終わった。オーウェンがトーレスのように「ノスタルジーと許し」を受ける日が来るのか、今はまだわからない。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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