悪夢の瞬間

    3月21日のマンチェスターシティ対WBAで、試合開始2分に出たレッドカードが、この週末最大の議論のきっかけを作った。シティのウィルフリード・ボニーに対する反則でガレス・マッカリーが退場となったものだが、先に反則を犯したのはクレイグ・ドーソンで、ボニーが立ち上がって走り続けたためレフリーはアドバンテージを与え、その後マッカリーがボックス内でボニーを倒して笛となった。「マッカリーが退場になるならPKのはず。先の反則を処分するならドーソンの方」と混乱が飛び交う中で、レフリーが人違いを認めて謝罪した(試合結果は3-0でシティの勝利)。

    折しも、2月28日のマンチェスターユナイテッド対サンダーランドで、サンダーランドのウェズ・ブラウンが「人違い」で退場となり、物議をかもしたばかりだった(試合結果は2-0でマンチェスターユナイテッドが勝利)。事後に退場処分が撤回された後も誤判定問題が尾を引いていたところで、今回の、土曜日のランチタイム・キックオフという視聴率の高い試合で同じ間違いが繰り返された。更に、プレミアリーグのレスター対トットナム(試合結果は4-3でトットナムの勝利)、および2部リーグのハダースフィールド対フラム(試合結果は0-3でフラムの勝利)と、連鎖的に誤判定が勃発した。

    スキャンダルに沸くフットボール界とは対照的に、同じ日に行われたラグビー・ユニオンのシックス・ネーションズ(※)で、ビデオ・テクノロジーが威力を発揮して、最終日の劇的な優勝争いに花を添えた。スコットランドの「トライ」がビデオ調査の結果ノックオンと判明して得点ならず。試合は40-10とアイルランドが勝ち、2位イングランドと同ポイントの得失点差6で優勝に輝いた。
    ※イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド、フランス、イタリアの6ケ国の間で毎年この時期に行われるテスト・マッチ。

    一足先にビデオ・テクノロジーを導入したラグビー・ユニオンでは、重要な場面でレフリーがビデオ調査を行う。2011年のラグビーW杯で初めて世界にその効果を披露した時には、フットボール・ファンの間で「確実に正しい判定が下されるメリットは大きいし、心配されたほど試合の中断は気にならない。フットボール界でも導入すべき」という声が高まっていた。

    今回の人違い退場事件を機に、少なくないメディアが「レフリーの質が低下している」と紛糾する中で、レフリーのチーフであるマイク・ライリーが、ビデオ・テクノロジーの導入に賛意を表明した。「レフリーは0.5秒の間に4-5種類の要素を検討して判定を下す必要がある。これはテクノロジーが得意とする分野。ビデオ・テクノロジーが導入されれば、レフリーの判定に重要な助けとなるだろう」。

    かくして、人違いのスキャンダルとビデオ・テクノロジーの是非を巡る喧噪がヘッドラインを飾る中、翌日のアンフィールドで、本来は最大の注目を集めただろう事件が発生した。後半にサブで登場したスティーブン・ジェラードが、宿敵マンチェスターユナイテッド戦で、僅か45秒でアンデル・エレーラの足を踏んでダイレクトの赤を食らった。誰の目にも正しい判定に、幸か不幸か、スキャンダル好きのメディアは「レフリーの誤判定ではない」と興味を失ったかのようだった。

    しかしこの事件に、スタンドのファンも、ピッチの上の10人の選手たちもベンチも、そしてLiverpool筋の関係者一同が、心の中で叫んでいた。「何故?」

    Liverpoolにとって、この試合に勝つことの必要性は誰もが認識していた。12月のオールド・トラッフォードでのユナイテッド戦(試合結果は3-0でユナイテッドの勝利)を最後に、13戦10勝3分と無敗を続けていたLiverpoolが、その復調を固めてトップ4争いを勝ち抜くためにも、そして伝統的なライバル・チームに前戦の借りを返すためにも、勝たねばならなかった。しかし試合開始早々からユナイテッドに優位を譲り、0-1で迎えた後半に、ジェラードの実力と経験がLiverpoolの反撃を推進するものと、誰もが期待していた矢先のことだった。10人に減ったLiverpoolは、その後立ち直りを見せたものの、最後は力尽きて1-2と敗れた。

    ファンの間では、試合の痛みと並行して、「ジェラードは何故、最もやってはいけないことやったのだ?」という悲痛な疑問が沸き起こった。

    「通算7回の退場のうち4回が、エバトン戦とマンチェスターユナイテッド戦の2回ずつ。全てダイレクトの赤で、全て試合開始早々、もしくはサブで出た直後に食らっている」というジェイミー・キャラガーの言葉は、多くのファンにヒントとなった。

    翌日の地元紙リバプール・エコーの記事が、説明を補足した。「試合後のインタビューで、ジェラードは『自分のせいでチームに迷惑をかけた。ファン、チームメイト、クラブに対して謝罪したい。今日の敗戦の責任は僕にある』と謝った。ジェラードのやったことは非難に値する。しかし、敗戦の責任を感じて謝るべき選手はジェラードだけではない」。

    「試合前のYou'll Never Walk Aloneは、近年のベストに入るくらいの出来だった。しかし、そのファンの意欲と気合とは正反対に、チームは情けないプレイでユナイテッドに優位を献上した」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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