リベンジ・ミッション

    近年、プレミアリーグの監督のクビが軽くなった中で、今季は監督交代という意味では比較的波乱の少ないシーズンとなった。クリスタルパレスのニール・ウォーノックと、2日後にWBAのアラン・アービンが解任1,2号となったのが後半に差し掛かる12月27日のことだった。退陣5人目で、2月11日にクビになったアストンビラのポール・ランバート同様に、誰もが「やむを得ない結論」と納得せざるを得ない結末だった。例年のような、クラブ史上初、もしくは長年ぶりの昇格を達成した監督が、成績不振を理由に簡単にクビを切られるケースはまだ出ていない。

    その中で最も話題を集めたのが、1月2日にニューカッスルからクリスタルパレスに「移籍」したアラン・パーデューだった。ニューカッスルでの4年の在任中、特に昨季以来ずっと「監督クビ候補」リストの上位を占め続けた末で、パレスから所望されたものだった。ニューカッスルの地元紙や一部のアナリストから「ビッグ・クラブに引き抜かれたならばさておき、いわゆる下位のクラブに行く人材がわがクラブの監督を勤めていたとは心外」という批判は上がったものの、パレス側は「わがクラブの伝統を知っている監督が来てくれた」と、ファンを始め関係者一同は大歓迎だった。

    その時点では多くは語らなかったが、パーデューの心の中には常にパレスがあったことは明らかで、それが選手たちに浸透するまでに時間はかからなかった。試合終幕の同点ゴール、決勝ゴールでポイントを重ね、新監督下で見違えるように勝ち始めたパレスは、7戦5勝1分1敗と、降格ゾーンの18位から安全地帯の13位に急上昇した。

    そして2月14日、FAカップ5回戦でセルハーストパークにLiverpoolを迎えたパレスの地元は、自信がピークに達していた。25年前の記憶を呼び起こし、「リベンジ・ミッション」のスローガンが飛び交った。これは、昇格シーズンだった1990年にパレスがFAカップ決勝進出の偉業を達成した、その準決勝で対戦したのがLiverpool、そのシーズンのリーグ優勝チームでありカップ優勝候補のチームだった。そのシーズン早々の1989年9月12に、アンフィールドで9-0と屈辱的な敗戦を喫してトップ・ディビジョンの洗礼を受けたパレスが、その後立ち直って、FAカップ準決勝でLiverpoolに4-3と雪辱を果たしたのだった。その熱戦で、延長119分の決勝ゴールを決めたのが現監督のアラン・パーデューだった。

    ノスタルジーに浸ったセルハーストパークは、1990年の「リベンジ・ミッション」が2月14日のマッチプログラムの表紙を飾り、1990年に続いてFAカップ決勝へ、と声が高まった。

    いっぽうLiverpoolは、2月14日は真の「リベンジ・ミッション」だった。Liverpoolファンにとって、1990年はもちろん、セルハーストパークは直近のリーグ2試合で痛い思い出があった。昨季5月のリーグ優勝の望みが絶たれた3-3に続き、雪辱戦だったはずの今季11月のアウェイでのパレス戦は、ブレンダン・ロジャーズが初めて「監督クビ候補」トップ5入りした程に、どん底だった。リーグとCL通算3連敗の後で、背水の陣で臨んだLiverpoolは、良いとこなしで1-3とパレスに完敗を食らったのだった。

    2月14日のFAカップ5回戦は、両チームのファンの様々な思いの中で、Liverpoolの「リベンジ・ミッション」に軍配が上がった(試合結果は2-1)。

    その試合で、ダニエル・スタリッジが同点ゴールを決めた時に、アルベルト・モレノが隣で一緒にダンスをした姿が、その日のヘッドラインを飾った。ハイライト番組は、スタリッジのゴールそのもの以上に2人のダンスに焦点を当てた。試合前日のトレーニングで、スタリッジがモレノに「次に僕が得点したら一緒にダンスしてくれるよね」と迫り、爆笑するチームメイトの前でモレノが同意させられたビデオが流れた。「モレノは、その約束を履行するまでに猶予はありませんでした」のナレーションに、イングランド中で笑いが飛んだ。

    Liverpoolファンは「モレノのダンスの下手くそさは目を覆いたくなる」と顔をしかめるふりをしながら、「この調子が続けば、今季終幕にはスタリッジのゴールに、ベンチも含めてチーム全員が一緒にダンスすることになるかもしれない」と微笑んだ。

    「11月のどん底の時には、監督クビのオッズに交じって『内部分裂』の憶測がメディアを飾り、みんな厳しい表情でトレーニングしていた。それが今は打って変わって、チームはまとまって明るい雰囲気で、選手全員が自信に目を輝かせている」。

    さてLiverpoolは、ここに至るまで3回戦でAFCウィンブルドンに1988年決勝戦(試合結果は1-0でウィンブルドンが優勝)の雪辱を果たし、4回戦でボルトンに1993年3回戦(0-2でLiverpoolの敗戦)の雪辱を果たし、そしてパレスに1990年の雪辱を果たした。6回戦(準々決勝)では、2000年のFAカップ4回戦(0-1でLiverpoolの敗戦)の雪辱を胸にブラックバーンをホームに迎える。

    9年ぶりのFAカップ優勝を目指して、リベンジ・ミッションは続く。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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