隔離されたマージーサイド・ダービー

    2月7日の通算224回目のマージーサイド・ダービーは、例年通りテレビ放送戦に選ばれて、試合時間が土曜日の3時から5時半キックオフに変更されることが12月早々に決定された。同じ日のトットナム対アーセナルの北ロンドン・ダービーも、テレビ放送戦として12時45分に前倒しとなった。

    イングランドでは伝統的に土曜日3時に試合が行われており、スタジアムに試合を見に行くことを奨励すため、テレビの生放送は禁止されていた。1992年にプレミアリーグが創立されてからも、この「土曜日3時の試合」は生放送できない時間帯という慣習は維持され、テレビ放送収入増のために試合時間および曜日が変更されるようになった。放送する試合はテレビ局が選定し、シーズン中一定回数の査定期間に、順位争いの直接対決などの注目戦がピックアップされる。

    ファンの間では「試合時間を決めるのはプレミアリーグではなくテレビ局」という批判は根強いが、各地区のダービーなど順位に関わらずテレビ放送戦になることがほぼ確実な試合に関しては、「土曜日3時」から変更される予測の元に、渋々ながらも運用されていた。

    ところが今回のマージーサイド・ダービーの変更に対して、地元マージーサイド警察から強硬な反抗が出た。「夕刻のキックオフとなると、試合前に飲酒する時間が増えるため、スタジアム内外の安全性が危惧される」として、プレミアリーグに試合開始時間の前倒しを要求した。それがプレミアリーグから却下されたため、地方裁判所に差し止めを求める訴訟を起こしたのだった。

    結果的に、判決が出ないまま時間切れとなり、試合前週の2月3日になって訴訟を取り下げたマージーサイド警察が、「スタンドでの両ファンの隔離」の条件付で「5時半キックオフ」を受け入れることになった。つまり、グッディソン・パークのホーム・サポーター・スタンドにLiverpoolファンが入ることを厳重に禁止する、ということだった。

    これに対して、地元リバプール・エコーが痛烈な批判記事を掲げた。「イングランドで『フレンドリー・ダービー』として知られているマージーサイド・ダービーでは、これまで試合に際する事件は記録されていない。そもそも、宗教や地域による決定的な差異があるわけではない両クラブにとって、事件に発展するような対立を起こす理由はない。家族、地域、職場、学校の親しい人々の中に相手チームのファンがいない人の方が珍しいマージーサイドで、警察の主張は言いがかりにしか聞こえない。マージーサイド・ダービーの良き伝統の一つに、スタンド内で赤と青の両ファンが肩を並べて自分のチームを応援する風景がある。その伝統を壊すのは間違い」。

    エコー紙の記事に深く頷きながら、Liverpoolファンは、警察が「両ファンの隔離」を強行することは避けられないとため息をついた。「初めてのダービーの記憶として心に残っているのは、Liverpoolファンとエバトン・ファンの2人の兄が、赤と青のシャツを着てスタンドで隣り合って座り、一緒に'愛こそはすべて'を歌った姿。しかし、社会の変化と共に、堂々とチーム・カラーを身に付けて相手スタンドに入り込んでも何の心配もなかった時代は過去の歴史になってしまうのだろうか」。

    スタンリー・パークを隔てて僅か1.3キロの距離にあるエバトンとLiverpoolは、イングランドのダービーの中でノッティンガム市のノッツ・カウンティとノッティンガム・フォレストの1.2キロに次いで2番目の近距離だ。3番目のフラムとチェルシーが1.9キロで、アーセナルとトットナムの4キロ、マンチェスターのシティとユナイテッドの5.2キロなどよりも遥かに近く、「同じ町で共に生活している仲間」という意識は強い。

    「ヒルズバラ悲劇の後で、グッディソン・パークからアンフィールドまでの1.3キロを、エバトン・ファンとLiverpoolファンが手に手を取って赤と青のスカーフを連ねた風景は、今でも脳裏にくっきり残っている」と、ヒルズバラでLiverpoolファンの弟を失ったエバトン・ファンのスティーブ・ケリーは振り返った。

    エバトンFCがグッディソン・パークにヒルズバラ記念碑を設置することになり、その公開式典が2月7日のダービーの試合前に行われた。2012年のヒルズバラ追悼試合(対ニューカッスル、試合結果は2-2)で、背番号9の青いシャツを着た女の子と6の赤いシャツを着た男の子が手を繋いで歩いた写真に「エバトンFCは96人を永遠に忘れない」というメッセージが刻まれたもので、スティーブ・ケリーを中心にエバトン・ファンが提議して実現したものだった。

    企画者であるエバトン・ファンと、ビル・ケンライト(エバトンFCのオーナー)、マーガレット・アスピナル(ヒルズバラ遺族グループ代表)、そしてヒルズバラ悲劇の時の両チームの監督ケニー・ダルグリーシュとコリン・ハーベイという面々が幕を開けて記念碑を公開する姿を、試合に向かう両ファンが、寄り添いながら大きな拍手で見守った。

    単調な内容の後で0-0で終わった224回目のマージーサイド・ダービーは、隔離されたホーム・アウェイ両スタンド間でジョークの応酬が行われ、警察の危惧は単なる杞憂で終わった。ピッチの上では勝者はなかったものの、両ファンが勝利を収めたことは誰の目にも明らかだった。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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