ビーチボール・ゴール

    1月12日のITVの人気クイズ番組「ザ・チェイス」が、期せずしてイングランド・フットボール界の爆笑を買うことになった。「2009年、サンダーランドはLiverpool戦で、ボールがゴール前の障害物に当たって入り1-0で勝ちました。その障害物とは? A.ビーチボール B.ソフトクリーム売りのワゴン車 C.日光浴しているドイツ人」という三択に、明らかにフットボール・ファンではない女性チャレンジャーが「B.ソフトクリーム売りのワゴン車」と答えたのだった。(※クイズの正解はA.ビーチボール)

    直ちにこの場面のスナップショットがインターネット上で飛び回り、ジェイミー・キャラガーが「バロンドールの発表を待つ間に、ザ・チェイスを見るのも良いかも」と反応して、ジョークに拍車をかけた。更に、そのプレミアリーグ史上に残る珍ゴールを食らったGK、ペペ・レイナが「ソフトクリーム売りのワゴン車だったら良かったのに」と参加し、更に笑いをそそった。

    イングランド中が明るい笑いに包まれたこの迷回答は、Liverpoolファンが久々に心から笑えるネタを提供してくれた。

    その2日前のサンダーランド戦でLiverpoolは、今季の新戦力の一人であるラザル・マルコビッチがマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せ、リーグ戦初ゴールで1-0と勝ち、チームが固まり始めたところだった。「今回のスタジアム・オブ・ライトのゴール前には、ソフトクリーム売りのワゴン車が出現しなかったことが勝因」と、Liverpoolファンは腹を抱えて笑った。

    折しも1月5日のFAカップ3回戦で、Liverpoolが4部のAFCウィンブルドンを相手に、苦戦の末にスティーブン・ジェラードの2ゴールで2-1と勝った試合の翌日に、親Liverpoolのジャーナリストを含めてイングランド中のメディアから猛批判を浴びていたところだった。中でもテレグラフ紙は辛辣で、「Liverpoolは今でも、苦しい試合でジェラードがミラクルを起こすことを期待している」と紛糾した。

    「5月30日のウェンブリーで、ジェラードがFAカップ優勝杯を掲揚してLiverpoolでのキャリアに終止符を打つことになれば、Liverpoolのトップ陣は『ジェラードの最後にふさわしいお別れとなった』と誇らしげに語るだろう。でも、それは大きな誤り。ジェラードがいかに17年間Liverpoolを一人で背負い続けてきたか、最後の最後まで証明することで、そのジェラードを失う代償の大きさを正しく認識できなかったLiverpoolの一方的な敗戦となる。Liverpoolがジェラードを引き留めなかった、そのツケをこれから払わねばならない深刻な現実に直面し、激しい後悔にかられるだろう」。

    これは、1月6日の地元紙リバプール・エコーのインタビューで、ジェラードが「今季開始前に、イングランド代表引退してLiverpoolに専念する決意を固めた時に契約更新の話があったならば、迷わずサインしていたと思う。でも実際には11月までなかった。話が来た時には既に長い時間が経過していて、それまでにいろんな可能性をじっくり検討した」と語ったことで、イングランド中のメディアがLiverpoolに非難の指を向けていた。

    ファンの意見も二分していた。「試合に出たいから新天地を探す(=いたし方ない結論)というジェラードの意思を100%尊重すべき」という声と、「Liverpoolが致命的な過ちを犯した(=クラブが間接的に追い出した)」という意見が、来る日も来る日も平行線をたどりながら交わされた。

    ただ、ジェラードを失うことに対して深い衝撃を感じ、その穴の大きさは数字では測れないという見解では、誰もが一致していた。

    70-80年代の黄金時代をじかに経験し、何人ものレジェンドを見送ってきたベテラン・ファンも、ジェラードがスーパースターとして名を上げた時代しか知らない新米ファンも、ジェラードが出てゆくことを心から嘆き、その存在の大きさを深く痛感していた。

    1月10日のサンダーランド戦で、負傷の心配から大事を取って前半で交替したジェラードが、試合後にトンネルの前に立って、選手全員に祝福を送った姿が、更にファンの心に響いた。

    「ピッチの上でのリーダーシップだけでなく、選手全員から尊敬され、慕われているジェラードから『良くやった』と肩をたたかれた選手たちが、どれだけ自信と勇気を得たか、手に取るようにわかった」。

    2009年のスタジアム・オブ・ライトで、ビーチボールがペペの目をくらませているうちに本物のボールがネットに入ったように、イングランド中の注目がジェラードに集まっている隙に、ジェラードの傘の下で「£100Mの失敗作」が、自分たちのペースで足を地に付け、着々と戦力として育っていた。

    「いかなる時にもチーム優先で、チームのために全身全霊を注いできたジェラードが、最も望んでいるのは、自分が去った後もチームが前進し続けること。今回の件でクラブに落ち度があるか否かの議論はさておき、ファンとしては、クラブを批判してチームにネガティブな影響を与えることは絶対にやってはいけない。残る選手たちが少しでもジェラードから吸収して、これからの成長の糧にすることを祈って、最後まで全力でサポートすることがファンの勤め」。

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    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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