FC2ブログ

    一度'赤'になったら永遠に'赤'

    毎年4月15日にアンフィールドで行われているヒルズバラ記念式典で、2013年の24回忌にゲスト・スピーチを行ったエバトンのチェアマン、ビル・ケンライトが、マージーサイド中から大きな拍手を巻き起こしたことは記憶に新しい。遺族グループに対する心からの敬意に加えて、マージーサイドの全市民がチームの境界を越えて力を合わせてきた様子を、ユーモアを交えて力強く表現したそのスピーチは、Liverpoolファンが目を潤ませながら「エバトンのチェアマンが、コップ・スタンドから大きな拍手を受ける日が来るとは予想しなかった」と頷き合った。

    その中の一節で、地元マージーサイドで生まれ育ったケンライトが明かした「子供の頃に、2週間おきにコップ・スタンドに立っていた」エピソードは、「結果的に、もう一つの方に落ち着いた」という結末と共に、Liverpoolファンに嬉しい驚きを与えた。「あの話を聞いて、ケンライトは伝統的なマージーサイドの家庭で育ったのだと知った」。

    マージーサイドやマンチェスターなど、地区内にビッグ・クラブが2つあるイングランドの地方の大都市では、住民の多くが、家庭内や親族内に両チームのファンが混在している。そのような家庭で生まれ育った子供の多くは、6~8歳頃に「どちらのチームのファンになるか」決まる。たまたま両親ともに同じチームの熱心なファンだった場合など、子供は「物心付く前にチームを決められた」ケースも珍しくないが、ケンライトのように、大人(親または叔父などの近親者)が1週間交替で地元の両チームのスタジアムに連れて行き、子供自身に選択させることも多いという。

    どちらの方法であれ自分のチームが決まった以上は、永遠にそのチームに付いて行く覚悟を固めることには変わりない。「一度'赤'(またはチーム・カラーが青なら'青')になったら永遠に'赤(青)'」とは、イングランドのフットボール界では古典的な言い回しだ。

    スティーブン・ジェラードもケンライトと同じく選択肢があった方で、子供の頃にグッディソン・パークでマスコットを勤めた経歴を持つことは有名な話だ。その事実をあっさり認めた上で「一度赤になったら永遠に赤」を貫いているジェラードに対して、エバトン・ファンが、その時の写真を掲げて「ジェラードがかつてエバトン・ファンだった証拠」と、ジョークを振りまき続けていることも周知の通りだった。

    そのジェラードが、永遠の忠誠を誓ったLiverpoolでファーストチーム・デビューを飾った1998年のブラックバーン戦(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)からまる16年となった11月29日、アンフィールドでのストーク・シティ戦で、ジェラードが先発から外れたことでイングランド中に大きな波紋を投げかけた。

    結果的にLiverpoolは1-0と勝って3連敗をストップしたが、その前まで12戦4勝2分6敗でリーグ12位とチームは不調続きで、監督クビの憶測に加えて「期待外れの新戦力」や「1試合平均1.5失点のザルのようなディフェンス」、「機能しないミッドフィールド」と、次々に個人名を上げての犯人捜しがヘッドラインを飾っていた。

    最も風当たりが激しかったジェラードが、Liverpoolとの契約更新がまとまらない状態で迎えたストーク・シティ戦は、イングランド中のメディアが「デビュー16周年の試合でベンチに格下げ。監督との意見不一致が原因?いよいよジェラードはLiverpoolを出て行く決意を固めたに違いない」と大騒ぎし、「今季末には35歳になるジェラードは、プレミアリーグのスピードに着いて行けない体力の限界を認識し、引退を検討している」という噂が飛んだ。

    チームの成績不調に頭痛を抱く傍ら、地元で生まれ育って「一度'赤'になったら永遠に'赤'」の誓いを貫いているLiverpoolファンは、「過剰反応のメディアがねつ造する危機説」に怒り、監督クビの噂に一笑しつつも、ジェラードの行方については慎重に見守っていた。

    「今季これまでジェラードが、本来の実力を出せてないというのは事実。しかし、年齢による限界というよりは、シーズンが進めば進む程調子を上げる'スロースターター的要素'の方が大きいことは、ジェラードの16年間を見てきたファンならば誰もが知る通り」と、ジェラードを失うことは戦力面でも致命的なマイナスだという点で誰もが一致していた。

    ストーク戦についても、ファンの間では「毎試合で先発という使われ方は体力を減退させるだけ。適度に休ませて、出る試合ではジェラード本来の実力を100%発揮できるようなシフトを組むべき」と、メディアのとんちんかんな憶測を冷笑した。

    そして、エバトン・ファンにとってジェラードが16年間に渡って「憎きLiverpoolの代名詞」であり続けたと同様に、LiverpoolファンにとってジェラードはLiverpoolそのものだった。「ジェラードは、マージーサイド・ダービーでエバトンを徹底的に苛め続けてエバトン・ファンに嫌われ続けて、ワン・クラブ・マンとして引退して欲しい」。

    ファンの信頼を裏付けるように、12月2日のレスター戦では、体力を蓄えて先発したジェラードが、勝ち越しゴールでメディアの批判に答えた(試合結果は3-1でLiverpoolの勝利)。ゴールの直後にアウェイ・スタンドに駆け寄ったジェラードの表情は、試合開始と同時に大音量でスティーブン・ジェラードの歌を歌い続けたトラベリング・コップの「ジェラードへの祈り」に対して、語り掛けていたように見えた。

    コメント

    非公開コメント

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

    最新記事
    最新コメント
    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    QRコード
    QR