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    エビのサンドウィッチ軍団

    今年の10月9日に発売されたロイ・キーン(現アイルランド代表のアシスタント・マネジャー、兼アストンビラのアシスタントマネジャー)のオートバイオグラフィー「セカンド・ハーフ」は、その後続報を重ねて途絶える気配がない。最新版は、インターナショナル・ウィークの終幕11月17日に出た、アイルランド代表のキー・マンであるシーマス・コールマンを「軽い負傷を理由に出し渋った、代表チームに非協力的なクラブ」という批判だった。これに対してエバトンが、「ロイ・キーンは時々バカなことを言う」ときつい言葉で反論したことから、スキャンダル好きのイングランドのメディアがスポットライトを当てた。

    今回の一連の事件の中で、現役時代からヘッドラインを飾ることが多かったロイ・キーンの語録の初期のものとして、マンチェスターユナイテッド時代(1993~2005)に、自分のファンの応援が足りないと非難したエピソードが再燃した。1999年の有名なトリプル(リーグ、FAカップ、CL)の翌シーズンに、「ユナイテッド・ファンは、スタンドでエビのサンドウィッチを食べている暇があったらチームを応援すべき」と言ったものだった。

    イングランド中に爆笑をもたらしたこの言葉は、メディアや他チームのファンの間で定着し、今も「エビのサンドウィッチ軍団」が「ユナイテッド・ファン」のニックネームとして通用している。

    これは、2013年にサー・アレックス・ファーガソンが引退するまで20年余りに渡ってイングランドの頂点を走り続けたユナイテッドに対する、他チームのファンの羨望がもたらしたものだった。折しも「エビのサンドウィッチ軍団」という言葉が誕生した当時は、3部から2部へと苦戦しながら這い上がっていたシティに対して、ユナイテッド・ファンが「スモール・クラブ」と言えば、シティ・ファンが統計(※)を逆手に取って「'ビッグ・クラブ'のユナイテッドは、地元のファンの比率は1%未満」と反論した時のことだった。
    ※数字の信ぴょう性は不明だが、ユナイテッドのファンは世界中に6億人、次に多いLiverpoolが1億人強、という統計がイングランドで数年前から通用している。

    シティ・ファンの「地元率1%未満」説は、6億人という統計から割り出せば真相だった。いわゆる地元であるグレーター・マンチェスターの人口は270万人(2014年)で、仮に地元住民の100%がユナイテッド・ファンだとしても、6億で割れば0.45%になる。エバトン・ファンの枕詞である「Liverpoolファンはみなノルウェー人(=地元の住民ではない)」も同じ理論で、マージーサイドの人口150万人は1億人の1.5%となる。シティ・ファンもエバトン・ファンも、地元の半分もしくは過半数が宿敵のファンだという実情を見ている上で、ジョークを込めて数字を盾に取っていた。

    それがイングランド中のライバル・チームのファンに浸透する間に尾ひれが付いて、「オールド・トラッフォードでエビのサンドウィッチを食べているユナイテッド・ファンはみなロンドンの住民」という固定観念になった。ロンドンのチームのファンが、オールド・トラッフォードのアウェイ・スタンドでホーム・スタンドに向かって「後でロンドンで会えるかもしれないね」と手を振る風景は、今でもイングランド中のファンの笑いを誘っていた。

    かく言う私も、今季の開幕戦(8月16日)にオールド・トラッフォードでユナイテッド対スウォンジー(試合結果は2-1でスウォンジーの勝利)を見るまでは、一緒に笑っていた。

    しかし、席に着くと同時に周囲から怒涛のごとく湧き上がった「ユナイテッドは我がチーム」に始まり、試合終了まで歌とチャントと大声援が続いた真相に、認識を改めさせられた。ストレトフォード・エンドの対面に当たる、イースト・スタンドの最上階に近い席だった。すぐ下のアウェイ・スタンドから試合開始早々に「7位(昨2013-14季のユナイテッドの最終順位)」チャントが上がった瞬間、周囲のファンが一斉に立ち上がってアウェイ・スタンドに向かって指さしながら「20回」チャントを合唱した時には、「エビのサンドウィッチ軍団」というニックネームは真相とかけ離れていることを、心から実感させられた。更に、それらチャントのほぼ100%が、明らかなマンチェスター・アクセントだった。「ユナイテッド・ファンはみなロンドンの住民」という虚構はいったいどこから発生したのか、と苦笑を禁じ得なかった。

    1990年以来最悪の成績に終わった昨季、3月のLiverpool戦で(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)、二大宿敵のシティとLiverpoolにリーグ・ダブルを食らうことになった苦悩を吹き飛ばすかのように、ユナイテッド・ファンが「20回」チャントを叫び続けた姿が、その週のハイライト番組を飾ったことは記憶に新しい。

    「黄金の1992年生」の一人であるライアン・ギグスが、自らの現役最後となったシーズンを振り返って「これまでずっと我がチームのファンに感謝して来たが、昨季のあの苦しい時に、ファンの素晴らしさが身に沁みた」と語った言葉が蘇った。

    その失意が再び降ってきたようなスウォンジー戦で、周囲のファンが絶えることなく続けた「20回」チャントは、暫く私の頭の中から離れなかった。ファンがどんな気持ちで「20回」チャントを叫び続けているか、ピッチの上の選手たちはわかっているのだろうか?と疑問を抱きながら。

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    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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