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    マンチェスター・ダービー

    今週末の注目戦、11月2日のマンチェスター・ダービーを控えて、10月28日の地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースはさっそく特集記事を開始した。その一つとして、元ユナイテッド(在籍は1995-2001)のアンディ・コールが「ユナイテッドの最大の宿敵は、僕の時代はLiverpoolだったが、次第にシティがそのその地位を奪いつつある」と語った記事が大きな反響を呼んだ。

    これに対して、少なからぬユナイテッド・ファンが反論した。「歴史と伝統を考えると、ユナイテッドに匹敵するのはLiverpoolだけ。シティやチェルシーはここ数年に金持ちのオーナーが桁外れの資金をつぎ込んで『強豪』に名を連ねるようになっただけで、名門とは言えない」。

    これはユナイテッド・ファンが持論としている説だが、実際にマンチェスターの2チームのトロフィーの数(ユナイテッド39、シティ13)は、例えば北ロンドン・ダービー(アーセナル27、トットナム17)やマージーサイド・ダービー(Liverpool41、エバトン17)など他地区と比べて、格差が大きかった。

    一方、名門さで優位に立つユナイテッド・ファンに対するシティ・ファンの言い分は「マンチェスター市の唯一のチーム」だった。ユナイテッドのホーム・スタジアム(オールド・トラッフォード)の所在地はマンチェスター市のベッドタウンの一つであるトラッフォードと、これも揺るぎのない事実だった。

    しかしユナイテッド・ファンは負けていなかった。チームの強さをネタに、ユナイテッド・ファンの間ではシティ・ファンを指す「バーティ」というニックネームがすっかり定着していた。これは、子供向けマンガのキャラクターで、弱くていつも体の大きい友人にいじめられて泣きべそかいているバーティ・マグーに由来するものだった。いたずら好きのユナイテッド・ファンが、SNSにバーティ・マグー名のページを作り、シティのシャツを着た画像を掲載した。

    「マンチェスター市は、なんで市外のチームに市内での優勝パレードを許可するのか」と対抗するシティ・ファンに対して、地理上の難点を名門さで反撃するユナイテッド・ファンは、オールド・トラッフォードのストレトフォード・エンド・スタンドに「シティが最後にトロフィーを取ってから○年」の垂れ幕を貼り、毎年「○」の数字をカウントアップしていたことも有名な話だった。

    第三者から見ると滑稽なこの両者のやり取りに、他チームのファンは「バーティ・マグーの読者の年齢層にふさわしい子どもの喧嘩」と、両陣営から飛び出るジョークを聞いて爆笑していた。

    しかし、2011年にシティがFAカップ優勝を達成し、ストレトフォード・エンドの垂れ幕が「35」で引退した頃から「子どもの喧嘩」の内容が変化し始めた。

    マンチェスター・ダービーを3週間前に控えた10月11日に、マンチェスター・イブニング・ニュース紙のサイトに掲載された動画はその象徴だった。

    ユナイテッド・ファンのご家庭に育った3歳の女の子リリーは、翌週から通うことになった幼稚園の制服の色が気に入らないから着ないと言って泣き叫ぶ。「ブルーだから着たくない!」とだだをこねるリリーに対して、お母さんが「ブルーはシティだけじゃないのよ。お兄ちゃんが持ってるユナイテッドのアウェイ・シャツはブルーでしょ?この制服はユナイッドのブルーなのよ」となだめるのも聞かず、リリーは「ブルーは嫌だ」と泣きじゃくる、というものだった。

    これまでは、色にこだわるのはシティ・ファンで、サンタクロースにブルーの服を着せるが常識になっていたのに対して、ユナイテッド・ファンが「バーティ」の色を意識する場面は珍しかった。しかし、シティが3年間に2度のプレミアリーグ優勝という時代だけを見てきたリリーにとっては、シティは「バーティ」ではなく「ユナイテッドの宿敵」だった。

    3歳ながら意志の強さを見せたリリーに、ユナイテッド・ファンは温かい拍手を送った。「リリーのために、ユナイテッドはブルーの制服をプレゼントすべきだ」。シティ・ファンも「思わず笑顔が浮かんだ」と、若きライバル・ファンにエールを送った。

    そして、「マンチェスターの2チームのファンのライバル意識」の話題になると必ず巻き込まれるLiverpoolのファンは、この一連のやり取りを見て、頷いた。

    「Liverpoolにとってユナイテッドは伝統的な宿敵、というのは真実だが、しかしダービーの対戦相手である隣人エバトンは別格。同じ土地に生まれて同じバック・グラウンドで育って、同じアクセントを持つファンは、チーム・カラーは違うが土台は同じ。それは、マンチェスターの両者間にも言えることだと思う」。

    地元のファン同士の「子どもの喧嘩」は次第に選手にも浸透し、ダービーはファンだけでなく選手にとっても特別な試合となる。

    セルヒオ・アグエロが10月26日に発表した自伝の中で、その様子を物語った。「市内でユナイテッドの選手に出くわしたら、避ける。後で何か言われたら『気づかなかった』と、とぼける」。その「ユナイテッドに対する特別なライバル意識」を植え付けたシティ・ファンの誠意のこもった応援に感謝を捧げ、「このファンに喜んでもらえるためならば何でもする、という強い決意が沸く」と誓いの言葉を添えた。

    11月2日のマンチェスター・ダービーでは、スタンドの「子どもの喧嘩」だけでなく、ピッチの上の決意のぶつかり合いも、見逃せない一戦となる。

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    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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