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    チャンピオンのような戦い方

    10月27日、アンフィールドでLiverpoolは、トットナムに先制されながら2-1と逆転勝利を収めた。相手GKが12セーブを記録するほどの攻撃を見せながらも、最後まで苦戦を強いられた。試合後のレビュー番組で、スカイスポーツの解説者として出演していたロイ・キーンが、「前日にマンチェスターシティが勝って追い上げる中で(※対アストンビラ、3-0)、Liverpoolは自分たちの試合に集中した。リーグ優勝は誰かからプレゼントされるものではなく、自分たちの力で勝ち取るものだ。今日のLiverpoolは、それを確実に遂行した」と、冷静な口調で語った。

    絶対に妥協しないハードな選手だった現役時代のイメージそのもので、チームや選手を厳しく批判することが珍しくないキーンは、この試合では、負けたトットナムの「自滅的なミス」の指摘よりも、勝ったLiverpoolの態度に焦点を当てた。

    「こんなことは言いたくないのだが」と、苦々しい表情でキーンは続けた。「Liverpoolはチャンピオンのような戦い方をした」。

    自分たちのレジェンドが本音で語った言葉に、マンチェスターユナイテッド・ファンは重たい頭で頷いた。「アリソン、フィルジル・ファン・ダイク、ファビーニョ、ロベルト・フィルミーノという4人のワールドクラスの選手がチームの中枢を形成し、2人のフルバックが引き取って得点源の両ウィングにクロスを出す。先週のオールド・トラッフォードのように、たまたま全員揃って不調な時ですらも、負けない強さを持っている(※10月20日、試合結果は1-1)」。

    ライバル・チームの試合は目を皿のようにして見ているユナイテッド・ファンは、Liverpoolの戦力を冷静に評価していた。

    「ファビーニョとアンディ・ロバートソンが、Liverpool入りしてから4か月は殆ど試合に出られなかったのに、出始めた途端に超一流の戦力になっていた真相は、ひとえに驚きだ」。

    ユナイテッド・ファンの指摘はその通りだった。2018年夏にモナコからLiverpoolに入ってきたファビーニョは、プリシーズン9戦では全試合に出場し、世間の期待が高まっただけに、シーズン開幕後はベンチにも入らない試合が続いたことで、「Liverpoolの£43.7mの新戦力はどこにいった?」と、全国メディアが大騒ぎしたものだった。

    Liverpoolファンの間では、ロバートソンの事例もあり、ユルゲン・クロップに対する信頼が強かったため、ファビーニョの順応期間を焦ることなく待っていたが、世間の目は異なっていた。11月には、「1月の移籍ウィンドウでフランス・リーグに帰される」という噂が出回った。

    そんな中で、ファビーニョの奥さんのレベッカが、「偽のニュースが出回っているみたい」と、さりげなくポストしたメッセージが、Liverpoolファンに笑顔をもたらした。

    12月にすい星のごとく現れ、1月からは不可欠な戦力となったファビーニョは、即座にLiverpoolファンの支持を集め、ファンの間で「ファブ」の愛称が定着するに至った。「こんな素晴らしい選手を取ってくれた、クラブのスカウトには感謝の言葉もない」という喜びの声が、試合の度に高まった。

    「外国リーグに移籍した時には、順応するために時間がかかるのは当然のこと。必ず『その時』が来ると確信していたから、何も心配は感じなかった」と、今年9月のリバプール・エコー紙のインタビューで、レベッカは語った。「Liverpoolファミリーは、最初から私たちを温かく受け入れてくれた。ここには何年も住んでいるような気がしている」。

    ブラジルのレジェンドであるロナウジーニョに轢かれて、自らフットボーラーを目指したというレベッカは、モナコの女子チームに所属したこともあった。「私はLiverpoolのファンで、ファビーニョのファン。私はフットボーラーへの道を断念したけど、夫のファビーニョが私の分も夢を実現してくれている」。

    「何でもない」2位から立ち上がり1位を目指す精神力

    ビル・シャンクリーはLiverpool監督時代(1959–1974)に数々の名言を残したが、その一つである「1位は1位、2位は何でもない」は、勝つために全力を注ぐこと以外にあり得ない、まさに根っからの勝者シャンクリーらしい言葉だった。

    Liverpoolファンの間で繰り返し語られる中で、「シャンクリーの時代には、ヨーロピアン・カップ(CLの前身)は各国の優勝チームだけが出場できたなど、1位と2位の差は現在よりも大きかった」と、「2位」に価値を見出す意見は出るものの、いつも同じ結論に行き着いていた。

    「誰も2位のことなど覚えていない。フットボールでは、1位にならなければ『何でもない』真理は変わらない」。

    折しも、昨季CLで2位になったトットナムが、今季ホームでのCL初戦で、バイエルンミュンヘンに7-2と壊滅的な大敗を喫した後で、4日後のプレミアリーグでブライトンに3-0と敗れたことで、「何でもない」2位の厳しさがクローズアップされたところだった。実際に、「CL決勝戦でLiverpoolに負けたショックからまだ立ち直れていない」と、マウリシオ・ポチェッティーノが告白していた。

    2位から立ち上がることの難しさは、誰よりもLiverpoolが良く知っていた。リーグ優勝から離れている30年間で、リーグで2位で終わった翌シーズンに(※)、Liverpoolは、毎回CL出場圏外に陥落し、その後監督が解任されて一からチーム立て直しを開始するネガティブなサイクルを繰り返していた。
    ※1991年(監督:グレアム・スーネス、翌季6位)、2002年(監督:ジェラル・ウリエ、翌季5位)、2002年(監督:ジェラル・ウリエ、翌季5位)、2009年(監督:ラファ・ベニテス、翌季7位)、2014年(監督:ブレンダン・ロジャーズ、翌季6位)

    このサイクルはあまりにも有名で、前回の2014年にも、ライバル・ファンの間で「Liverpoolは、前例から見ても、1位上がるより5-6位下がると見る方が現実的」と、ジョークが流れたものだった。

    しかし、「2019年も同じ運命になるのか?」という、ライバル・ファンの予測は、プレミアリーグ2位決定の3週間後に立ち消えた。

    「97ポイント取りながらプレミアリーグ優勝に届かなかった、最終日の失意はとてつもなく大きかった」と、ジェームズ・ミルナーが振り返った。「その3週間後にまた(CL決勝で)イングランドのチームと対戦するのだと思うと、高い山を見上げているような気分になった」。

    そしてLiverpoolは、「何でもない」2位の失意を克服し、気力を立て直してCLで1位に到達した。

    10月8日、ユルゲン・クロップ監督就任4周年を迎えたインターナショナル・ウィーク中に、地元紙リバプール・エコーが特集記事を掲げた。

    「最初の記者会見で、ユルゲン・クロップはいくつかの約束を表明した。4年経った今、それらの言葉は全て実現されてきた」と、同紙は、懐疑心を信頼に変えたことや、4年以内に優勝杯を勝ち取った事例を並べた。「クロップは、1位になれなかった失意は絶望ではなく、次に1位を取るためのジャンプ台なのだと確信できる精神力を、選手たち、およびファンに植え付けた」。

    シャンクリー時代を体験しているベテラン・ファンは、真剣な表情で語った。「プレミアリーグ優勝を達成したら、クロップはLiverpoolのクラブ史上で、シャンクリーと同じレベルで語られるレジェンドになるだろう」。

    リバプール・エコー紙が締めくくった。「4年前にクロップは、1つだけ正しくないことを言った。『私はブラック・フォレスト出身の普通の人間。Liverpoolのクラブ史上に名を残している偉大な人物とは比較にならないノーマル・ワン』と」。

    トップ・チームに必要な資質

    10月5日、アンフィールドでLiverpoolはレスターに95分の決勝PKで2-1と勝ち、今季開幕8試合で8勝と首位を守った。試合後のインタビューで、PK判定が確定する前の、VAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)チェックの間に何を考えたか?と質問されて、決勝ゴール・ヒーローのジェームズ・ミルナーは、「冷静さを保って、自分がやるべきことに集中した」と答えた。

    「良いチームを相手に、困難な試合になった時に、疲労を感じながらも全員が勝ちを目指して進んだ。運に恵まれたということは言える。しかし、攻撃しないと運も呼べない。トップ・チームになるためにはそれが必要」。

    その週末のプレミアリーグのベスト・イレブンにミルナーを選出したBBCのガース・クルックスが、「チームが絶好調と言えない試合内容で、95分に決勝ゴールとなるべくPKを蹴るプレッシャーは相当なもの。その様な場面で冷静さを維持することが出来るミルナーは、Liverpoolの優勝争いに不可欠な存在」と絶賛した。

    その翌日に、マンチェスターシティがホームでウルブスに2-0と敗れ、首位との差を8ポイントに広げた試合の後で、ペップ・グアルディオーラが、「Liverpoolとのポイント差は考えないようにしている。Liverpoolはなかなかポイントを落とさない。でも、我がチームとしては自分たちの次の試合のことだけに集中している」と語った言葉は、誰の目にも「優勝争いのプレッシャーに苦戦している」実態の表現と映った。

    イルカイ・ギュンドアンの告白が、更にその印象を裏付けた。「自分たちがトップにいる時には順位表を見るのは楽しいが、今はあまりにも差を付けられてしまっているので、誰も順位表を見る気になれない」。

    今シーズン開幕前には、圧倒的多数のアナリストが「マンチェスターシティの連覇」を予測した。その一人であるガリー・ネビルは、マンチェスターシティの敗戦の後で口調を緩める発言をするに至った。

    「シティは、アイメリク・ラポルテの長期負傷(※現時点では3月まで欠場の見込み)で足元が揺れている。そもそも、昨季末で去ったバンサン・カンパニの補充をしなかったことが響いている」。

    折しも、シティの今季初敗戦となった9月のノリッジ戦(試合結果は3-2)の後で、元アーセナルのセンターバックで現在はBBCのアナリストとして活躍しているマーティン・キーオンが、同趣旨の主張を掲げた。

    「カンパニは、苦しい試合でチームを前進させるリーダーだった。それがなくなった今のシティは、守りの中枢を失って不安定になってしまった」。

    元Liverpoolのダニー・マーフィーは、少数派のアナリストとして、開幕前からシティ不利説を唱っていた。「カンパニは、負傷欠場が続いた近年は特に、純粋にプレイの面では穴埋め可能な戦力だったかもしれない。しかし、その経験とチームへの影響力という面では、かけがえのない存在だった。昨季終幕の激烈な優勝争いで、Liverpoolの追い上げでプレッシャーを感じていた時に、グアルディオーラがカンパニの推進力に託したことからも明らか」。

    それは、圧倒的多数のLiverpoolファンの意見と一致していた。「カンパニはシティにとって貴重な存在だった。実質的に、あのレスター戦のゴールで、優勝をLiverpoolの鼻先から盗んでいった張本人だし(※5月6日、試合結果は1-0でマンチェスターシティが勝ち、37試合目でLiverpoolを抜いて首位に立った)」。

    「そして、Liverpoolにとってはミルナーがカンパニと同じような重要性を持っている。毎試合90分出場する戦力ではないが、必要な時に発揮する経験は欠くことが出来ない」。

    ミルナーを口説いてLiverpoolに引っ張った立役者であるブレンダン・ロジャーズは、自分のチームが劇的な敗戦を喫した試合の後で、「PK判定が下りた時、負けたと観念した。何故なら、ミルナーが蹴ることが分かっていたから」と、苦笑を浮かべた。

    2015年にLiverpoolを去ってから、初めてのアンフィールド帰還で、スタンドのLiverpoolファンから温かい拍手を受けたことを感謝したロジャーズは、自分が残していった選手の一人であるミルナーに対する誇りを語った。

    「ミルナーがLiverpoolに来ると言ってくれた時は嬉しかった。そして彼は、素晴らしいプロフェッショナルとしてLiverpoolで重要な仕事を果たしている。あのプレッシャーの中でPKを決めるような、常に冷静で豊富な経験を持つミルナーは、Liverpoolがトップ・チームとなるための精神面でのキーとなっている」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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