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    少年たちに夢を与える若手フルバック

    5月12日にリーグ最終戦を終えた時、トレント・アレクサンダー・アーノルドがシーズン通算12アシストを決めて、プレミアリーグのディフェンダーによる最多アシスト記録を塗り替えた。直前に、アンディ・ロバートソンが11アシストで、それまで同記録の保持者だったエバトンのレイトン・ベインズとアンディ・ヒンチクリフと並んだことがイングランド中の脚光を浴びたばかりのことだった。

    トレントとロバートソンが今季、二人でアシスト数を競うコンテストをしていたことは有名な話で、折に触れて本人たちやジェームズ・ミルナーらが話題にしていた。「どっちが勝ってもチームの勝利」と、笑顔で見守っていたLiverpoolファンは、その競争がどんどんレベルが上がって行く過程で、称賛の表現がネタを尽きて、シンプルな「フルバック2人」というニックネームに落ち着くことになった。

    「わがチームのウィンガーは2シーズン通算でわずか7アシスト。Liverpoolのフルバックはどっちを取ってもその2倍以上の得点を作り出しているというのに」と、ライバル・ファンが嘆くのに対して、「Liverpoolのフルバックは別格。比較すると自分たちが惨めになるからやめた方が良い」と、別のライバル・ファンが開き直った。

    イングランド中のファンから羨望のまなざしが向けられているLiverpoolのフルバック2人は、フットボーラーを目指す少年たちに夢を与える存在になっていた。

    地元出身で、自らLiverpoolファンとして、そのLiverpoolのアカデミーチームで育ったトレントは、毎年この時期に開催されるアカデミーチームの入団式に立ち会う役割を担っていた。今年も26人のアンダー9チームの新入生の前に立ったトレントは、「数年後のトレント」を夢見る少年たちの熱いまなざしを受けた。

    いっぽうスコットランドでは、代表チームの主将として現役選手から信頼され、新旧代表監督や大先輩から支持されているロバートソンは、トレントとは別の観点でスコットランドの少年たちに夢を与えていた。

    「地元のビッグ・クラブのアカデミーチームに入ったものの、ダメ出しされて夢がはじける少年たちがいかに多いことか。アンディは、そのような数えきれないほどの少年たちに夢を与える存在になった」と、クイーンズパークからダンディー・ユナイテッドでの1年間を、ロバートソンと共に働いた経歴を持つエイダン・コノリーは語った。

    昨年のCL決勝戦に、昔のダンディー・ユナイテッド時代の仲間たちが集まって、地元のパブで旧友ロバートソンのひのき舞台を観戦したという。「世界のトップの試合に出ているのが、我々と一緒にフットボールをやっていた、あのアンディなのだと思うと、非現実的な気がした」と、コノリーはその時の感想を明かした。

    現在はスコットランド2部リーグのダンファームライン・アスレチックでプレイしているコノリーは、スコットランドの全国紙スタンダードの特集記事の中で、ロバートソンが「アマチュアのクラブ」から「世界のトップ」に向かうスタートとなった時のエピソードを明かした。

    「2013年に、たまたま僕はアンディと一緒にクイーンズパークからダンディー・ユナイテッド入りすることになったので、いつも車に乗せてもらっていた。小型のクリオで。そもそも、クイーンズパークの選手が、将来はLiverpoolでレギュラーになるという大それた目標を掲げていたはずはない」と、コノリーは微笑んだ。

    「もちろん、アンディは能力はあったと思う。でも、ダンディー・ユナイテッドに行ってから1年間で急成長した。それは、身長が足りないからダメだと言われたら、絶対にその言葉を撤回させるのだと必死で頑張ったから。それが評価されてスコットランド・リーグの最優秀若手選手賞に輝き、代表入りし、とうとうイングランドのプレミアリーグに引き抜かれた。努力を重ねて、挫折を成長の糧にしたことで、今の地位を勝ち取った」。

    かくして、2年連続で世界のトップの試合に立つロバートソンを見て、1年前の「非現実的な驚き」ではなく、今ではひたすら誇りを感じる、とコノリーは目を輝かせた。

    「スコットランドの少年たちが、アンディの努力とその成果について話題にし、お手本にすべき立派な選手だと尊敬の目で見る様子は、とても嬉しい。一緒に車に乗せてもらっていた頃から、家族や友人を大切にするいい奴だったが、スター選手になった今もその人柄は決して変わっていない」。

    地元ではなく、スコットランド人ではあるものの、Liverpoolファンがロバートソンを自分たちのヒーローとして熱烈に支持している様子を掲げ、「元チームメートがここまで断言する程の人物だから、それは当然と言えるだろう」と、スタンダード紙は締めくくった。

    3冠を掲げて去る真のリーダー

    マンチェスターシティがFAカップ決勝でワトフォードを6-0と破って、国内3冠に輝いた翌日の5月19日、主将のバンサン・カンパニが今季末でシティを去り、古巣である母国ベルギーのアンデルレヒトのプレイヤーマネジャーに就任するというニュースが正式に発表された。まだ33歳ながら、負傷に見舞われることが多かったことから、ベルギー代表チームでは主将職をエデン・アザールに明け渡し、シティでは11年間の在籍でプレミアリーグ通算わずか265出場でピリオドを打つことになった。

    シティのチェアマンが「このクラブの魂であり、心臓のような存在」とカンパニの多大な業績を称賛した言葉に続き、チームメートから一斉に感謝と新天地での成功を祈るメッセージが出た。中でも、地元出身の若手であるフィル・フォーデンの言葉は、イングランド・フットボール界の感想を代弁していた。「最初の日からずっとお世話になった。チーム全員に対して、真のリーダーとしての姿を教えてくれた人。心を込めてシャツを着て、クラブのために全てを尽くした人」。

    2008年夏に、オーナー交代の直前に£6mの移籍金でハンブルクからシティ入りしたカンパニは、現オーナーの「際限のない戦力投資」が始まる前の、「マンチェスターのもう一つのクラブ」でしかなかったシティを、44年ぶりのリーグ優勝に導き、在籍11年間でリーグ優勝4、リーグカップ4、FAカップ2という輝かしい業績を作った、まさにクラブの魂であり、心臓という存在となった。

    その44年ぶりのリーグ優勝は、引き分ければユナイテッドが連覇に王手をかけたはずの4月30日のダービーが突破口になった、と多くの人は指摘する。その試合で決勝ゴールを決めたのがカンパニだった(試合結果は1-0でシティの勝利)。そして、カンパニの4回目で最後のリーグ優勝となった今季の、2位Liverpoolの望みを遮断したレスター戦の70分の弾丸シュートは、人々の記憶に深く焼き付いた(試合結果は1-0でシティの勝利)。

    「ビニーのことを語る時、誰もが2012年のダービーでのゴールと今季のレスター戦のゴールを上げるが、ビニーの真の偉大さは、マンチェスター市のことを心から大切に思い、地元のために多大な仕事をしてくれていること」と、あるシティ・ファンは目を潤ませた。

    ピッチの上だけでなく、奥さんがマンチェスター出身のシティ・ファンという縁もあって、チャリティなどを通じて地元社会に積極的に貢献するカンパニは、即座にシティ・ファンの心を掴み、「ビニー」というニックネームで慕われるようになった。

    それは、昨年の在籍10年功労試合の収益金を、マンチェスター市のホームレス基金に全額寄付するなど、社会問題に広く取り組んでいる人間としての姿を称えたものだった。お父さんはコンゴからベルギーに政治亡命した人で、ベルギー人(白人)のお母さんとの間に生まれたカンパニは、子供の頃から人種差別の犠牲に合うことが日常茶飯事という生活を送る中で、必然的に社会問題に目を向けるようになったという。

    「アンデルレヒトのユースチームでフットボールを始めた頃には、£300の週給でテスコで働きながら生計を立てられれば良い、と思っていた。プロになって、プレミアリーグでこれほど多くのトロフィーを取ることは夢にも見なかった」と笑うカンパニは、冷静な表情で語った。「困難に直面して、それを乗り越えた後は、何も怖いものはないと確信できるようになる」。

    そして、今季の激烈なタイトル争いが大詰めを迎えた時に、「2012年は我々にとって最初のタイトル争いだったので、プレッシャーを感じた。その突破口を克服した今回は、どんなに苦しくても戦い抜くことが出来る自信がある」と、カンパニは宣言した。

    「Liverpoolの激しい追い上げに、シティは14連勝が必須だと覚悟を固めた時、ペップ・グアルディオーラはカンパニの経験に託した」と、BBCは3冠を掲げて去るカンパニにエールを送った。

    「いつもダービーでゴールを決めたライバル選手が、とうとういなくなる。ライバルチームの選手でも人間として尊敬せざるを得ない、人格者で真のリーダー。シティに初めて本物のレジェンドが出来ることになる」と、ユナイテッド・ファンはつぶやいた。

    ジェイミー・キャラガーの、「プレミアリーグ史上に残るベスト・センターバックの一人であり、マンチェスターシティのクラブ史上に残る偉大な選手」というメッセージに、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「優勝を決める重要なゴールをねん出してきた選手がシティからいなくなる」と、Liverpoolファンは、カンパニに拍手を送りながら、最初のプレッシャーを経験し、突破口を目指して2度目に臨む選手たちへの期待を再燃した。

    ユルゲン・クロップの(嬉しい)誤算

    5月12日、マンチェスターシティが14連勝の98ポイントで連覇を決めたプレミアリーグ最終日に、Liverpoolの地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップの大きな誤算」という見出しで、2015年10月の監督就任初記者会見での言葉を振り返った。「3-4年後に私がこの場にいるとしたら、それはタイトルを取っているということ。そうでなければ私はスイスにいるだろう」。つまり、クロップは、3-4年以内に優勝できなければクビになって、プレミアリーグよりはプレッシャーの少ない外国リーグで職探しをすることになるだろう、と予測していたのだった。

    「その公約の期限が訪れた今、クロップは自分の誤算を認めた」と、同紙は明るい文面で続けた。「Liverpool以外の人々が皆、口をそろえて『即成功が必須』と脅かすし、私もこんなに時間を与えてもらえるとは思わなかった」とクロップは苦笑したという。「それは、Liverpoolのトップ陣がクロップを全面的に信頼し、就任4年足らずの間で達成した業績を高く評価し、長期計画の実現をバックアップするという態度の証明」と、同紙は説明した。

    エコー紙が突っ込みを入れたクロップの言葉は、Liverpoolファンの間でも折に付け話題になっていた。「昨季はシティより25ポイント差の4位だったチームが、最後までタイトル争いを続けた末に97ポイントを達成した。しかも、CL決勝という大きなチャレンジが残っている状態でプレミアリーグのシーズンを終えることが出来るとは、誰も夢にも見なかったような偉業。クビどころか契約更新すべき」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    「Liverpoolのお蔭で我々はここまで勝ち続けることが出来た」と、ペップ・グアルディオーラはライバルチームの健闘を讃えた。

    中立のアナリストは、優勝チームへの祝福と同時に、Liverpoolへのねぎらいを唱えた。その多くは、「97ポイント取りながら優勝できないとは」という同情が込められていた。

    そんな中で、1990年代からクロップを密接に取材してきた、友人でもあるドイツ人ジャーナリストが、「ユルゲン・クロップがLiverpoolを再建の道へと導いた」と、前向きな見解を語った。

    「バルセロナ戦の大逆転勝利(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが決勝進出決定)の後のクロップは、私がこれまで見たことがない程に大きな満足を浮かべていた。その中には、2012年にドルトムントがバイエルンを抑えてリーグとカップの二冠に輝いたシーズンも含んでいる。もちろん、あの大勝利がトロフィーを勝ち取ったわけではなかった。ただ、クロップの目標が実現したからこそできたものだった」。

    2015年10月に、Liverpoolのオーナーが監督候補者に「Liverpoolを再建させるためには何が必要か?」と質問を投げかけた。カルロ・アンチェロッティは3人のワールドクラスの選手のリストを提示したのに対して、クロップは「ファンを呼び起こすこと」と答えたという。

    バルセロナ戦では、アンフィールドのスタンドとピッチの上の選手たちが文字通り一体となって、ミラクルを起こした。「アンフィールドのヨーロピアン・ナイトは有名だが、今回はこれまでにも増して強力な声援だった」と、中立のアナリストが口をそろえた。

    「クロップは、Liverpoolで本当にスペシャルなものを築き上げた。選手たちとスタンドとの強力な一体感を作った張本人はクロップだった。それは、最後のリーグ優勝以来30年足らずの年月の中で、最も顕著な信頼関係と言えるもの」と、エコー紙は断言した。

    「その間、数回のタイトル争いの後で、たがが外れたかのように不調に落ち込み、スター選手が沈む船から逃げ出すかのように出て行った末に、元の木阿弥となった、その暗雲のサイクルを見てきたファンは、クロップが作り上げた強力な団結は、これから更に実を結ぶことを確信している」。

    成功のバロメータ

    5月1日のカンプノウで、Liverpoolが3-0と大敗を食らったCL準決勝1戦目の後で、歓喜に沸いたエバトン・ファンの間でバルセロナ人気が急上昇した。喜びのあまり、自分たちの次のプレミアリーグ戦となった5月3日のバーンリー戦(試合結果は2-0でエバトンの勝利)では、グッディソン・パーク周辺で、リオネル・メッシのスカーフを売るワゴン車まで登場した。

    Liverpoolファンは、「エバトン・ファンにとって『成功』は自分たちのチームが勝つことよりもLiverpoolの敗戦、とは今に始まったことではない」と苦笑し、隣人の揶揄を背に真顔で語り合った。「メッシのワールドクラスのフリーキックは鮮やかだった。ただ、試合そのものは3-0の内容ではなかった。我がチームは良くやったし、あれだけ優位に立ちながら3-0の負債を背負って帰還することになった選手たちが気の毒だ」。

    ただ、イングランドの世論は圧倒的に、Liverpoolファンの見解とは完全に平行線を辿っていた。少なくないアナリストが「ユルゲン・クロップの戦略ミス」を唱え、Liverpoolが今季はCLで「惨めな敗退で終わることになった」と主張した。

    そんな中で、ロビー・サベージの「仮にトロフィーなしに終わったとしても、Liverpoolのシーズンは大成功だと言える」という意見に、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「プレミアリーグで97ポイント(※最大)を取り、カンプノウでバルセロナにフォーメーション変更を強いる程の優位を占めたLiverpoolが、トロフィーなしで終わるのは非情。ただ、空手でシーズンを終えたとしても、それを失敗と言うのはフットボールを知らない人だけ」と、サベージは断言した。

    これは、バルセロナ戦の後のBBCのアンケートで、67%が「トロフィーなしで終わればLiverpoolのシーズンは失敗だったと思う」と答えたことを指していた。「サー・アレックス・ファーガソンは13回プレミアリーグ優勝を達成したが、91ポイントを超えたことは一度もなかった。私は今季CLで、トットナム、マンチェスターユナイテッドと、イングランドの3チームがカンプノウでバルセロナと対戦した試合を見たが、その中で、パフォーマンスでは今回のLiverpoolが圧倒的にベストだった」。

    「クロップの戦略を批判する人々は、'アナリスト'という人も含め、4-4-2だと訳の分からないことを言っているが、あれは明らかに4-3-3。彼らは試合を本当に見たのか?と言いたい。もちろん、アンフィールドでLiverpoolが絶対に逆転勝ち抜きを達成する、と言い切るつもりはない。バルセロナが先制すれば、厳しさは急増するだろう」。

    「ただ、Liverpoolはこれまでシーズンを通して積み上げてきたものを最後まで発揮することは確か。無知な人々が何のたわごとを言おうとも、Liverpoolは今季の業績を大成功だと大いに誇るべきだ」。

    サベージの強い言葉は、Liverpoolファンの圧倒的多数を代弁していた。もちろん、フットボールではトロフィーを勝ち取ることが最大の目標であることは議論の余地はなかった。ただ、97ポイント(※最大)を取ってもリーグ優勝できなかったとしたら、それは「失敗」か?という自問自答のような議論が、ファンの間で交わされていた。

    「シーズン開幕前に、プレミアリーグで90ポイントを超えることを真面目に期待した人はいないと思う。それだけでも成功であることは確か。トロフィーなしで終われば悲しいが、それは失敗ではなく『成功だが悲しい結末』と言う方が近い」と、誰かが言った。いっぽうで、別のファンが「成功だ」と断言した。

    「成功のバロメータは、トロフィーだけではない。成功のバロメータは、まずは前進。昨季と比べて、勝つべき相手には確実に勝てるようになり、苦境に陥っても最後まで勝ちを目指して戦うことが恒常化した結果、試合終幕に決勝ゴールが出せるようになった。昨季はCLで勝ち進むにつれてリーグでは集中力の欠如がやや見えたが、今季は両方でここまで勝ち進んだのだから、明らかな前進」。

    「成功のバロメータは、第二にエンターテインメント。チームが自信と決意をむき出しで勝ち続ける試合を見て、ファンは心底楽しめている。チームへの誇りでファンは笑顔が絶えない日々が続いている。Liverpoolファン生活の中で、こんなに良い思いが出来たシーズンはないくらいに」。

    「そして、成功のバロメータは、自分たちの目標に対する達成度。プレミアリーグ優勝できるのは1チームだけ。でも、残りの19チームは全て失敗か?というと、それは違う。残留が目標だったチームは17位で終われば大成功だ。その意味で、開幕前の目標を上回った今季は成功だった」。


    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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