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    チームにとって重要な選手

    4月21日のリバプール市内で、LiverpoolFCのオフィシャル・スポンサーであるニベアが主催するショーが行われた。商店街にある床屋で、シモン・ミニョレ、デヤン・ロブレン、ディボック・オリジの3人が参加し、ニベアのシェービングフォームを塗った風船を、割らずに剃刀で剃るという競争だった。風船6つに成功したミニョレが1位に輝いた、と思ったところで、調査の結果ミニョレが剃刀を逆に当てて剃ったという「ずる」をしたことが発覚した。観衆が大爆笑する中、ミニョレは罰としてシェービングフォームの噴射を受けたのだった。

    見ていたファンは、「ミグ(ミニョレのニックネーム)にこんな茶目っ気があったとは!」と腹を抱えて笑った末に、誰かがふと言った。「ミグは変わった。真面目一本で、深刻に構えすぎて自分にプレッシャーをかけているように見えたものだったが、今ではゴールの前で自信に満ちている。このような場でもリラックスして、余裕が伺えるようになった」。

    2013年夏にサンダーランドからLiverpoolに来て以来、ファンのミニョレに対する評価は決して高くなかった。「ショット・ストッパーとしては及第点だが、GKに必須のいくつかの要素に弱点がある。特に、積極的に前に出てクロスを防ぐこと、ディフェンダーとコミュニケーションを取ってゴール前を仕切ること、この2点が致命的」。

    それは、今季のミニョレが飛躍的に向上したポイントだと、圧倒的多数のファンが指摘する。「ボックス内では自分がボスだ、というリーダーシップを発揮するようになり、ディフェンダーのミグに対する信頼が徐々に高まった」。

    地元紙リバプール・エコーが、「とうとうジェイミー・キャラガーがミニョレを褒めた」という見出しの記事を掲げたのもその頃、4月16日のことだった。4月8日のストーク戦(試合結果は1-2でLiverpoolの勝利)と4月16日のWBA戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)で、立て続けのスーパーセーブでチームの連勝に大きな役割を果たしたミニョレに対して、キャラが「これまで僕が批判してきた点を克服した」と180度転換したのだった。

    スカイTVのアナリストとして活躍するキャラは、古巣のLiverpoolには厳しかったが、特にミニョレに対する風当たりは強かった。ファンの間でも「それは酷」と苦笑が出たものとして、2014-15季のアンフィールドでのダービーがあった。91分に同点ゴールを食らって1-1の引き分けに終わった試合だった。それは、エバトン主将でセンターバックのフィル・ジャギエルカがオープン・プレイから放った弾丸シュートで、その瞬間にエバトンの「ゴール・オブ・ザ・シーズン」が決定したものだった。

    Liverpoolファンが、「あのゴールはジャギエルカにもう一度やれと言っても無理、というような超ファイン・ゴール」と、素直に脱帽したのに対して、キャラは「ミニョレは、あのゴールを止めればLiverpoolのGKとして認められただろうに」と厳しかった。

    「どんな名キーパーでもミスは犯す。僕は、ミスは問題ではないと思っている。ポイントに直結するスーパーセーブを出すことが、Liverpoolのようなチームで認められる条件。ミニョレにはそれが見られない」。

    ジャギエルカのゴールはさておき、ファンの声はキャラと同期を取っていた。「ダビド・デヘアがいなければマンチェスターユナイテッドは何位になっていることか。チェルシーのティボ・クルトゥワやトットナムのウーゴ・ロリスも然り。この3人のレベルのGKが来てくれれば、Liverpoolのバック5はそんなに悪くないと思えるだろう」と、GK補強を望むファンの議論は、毎年夏の恒例となっていた。

    それらの批判を一掃したミニョレに関して、キャラは「ミニョレはストーク戦とWBA戦で合計5ポイントを稼いだ。あの3本のスーパーセーブがなければ、Liverpoolはストークに負けてWBAには引き分けていた。その1分1敗を、ミニョレが単独で2勝にした」と言った。

    シーズンを終えた5月28日に、ミニョレは激動の2016-17季を振り返り、「ストーク戦が転機となった」と語った。「あの試合では、1-0とリードされて、選手の心の中に弱気が浮かび始めた時だったので、あのセーブは自分でも『チームに貢献できた』と誇りに思った」。

    「ストライカーならば、得点すれば認めてもらえるが、キーパーは全く異なる。特にLiverpoolのようなビッグ・クラブでは、ポイントに直結するセーブをする機会というのはそんなに多くはない。ストーク戦では、それを実現できた」。

    9月にベンチに格下げされた時のことを、ミニョレは、「試合に出してもらえるために、毎日のトレーニングでひたすら頑張った。コーチのアドバイスを受けて、自分の弱点を克服することに専念した」と振り返った。そして、再びチャンスを得た時には、その成果を披露することに成功したのだった。

    「Liverpoolに来て4年経って、やっと自分はこのチームにとって重要な選手になれた、と感じている」。

    アダプテット・スカウサー

    5月21日のプレミアリーグ最終戦で、Liverpoolは既に降格が決まっていたミドルスバラを3-0と破り、76ポイントで4位を確保した。更に、他リーグの状況から、8月のCL予備戦で、Liverpoolはシードされることがほぼ確実という情報が続いた。何より、昨季の60ポイント(8位)から着実に向上した今季については、Liverpoolの地元紙もファンも「成功」という評価で一致した。

    いっぽう全国メディアは、「アーセナルが20年ぶりにCLを逃した」記事が一斉にヘッドラインを飾り、「そのアーセナルに代わってトップ4入りしたのはLiverpoolだった」事実はいかにもおまけのような報道に留まった。

    かくして世の中の脚光を浴びることなく幕を下ろしたLiverpoolの2016-17季は、ルーカスが所属10年となった記念シーズンでもあった。タブロイド紙のトップを飾ることは殆どないながら、79分にサブで出場した時には、チームメートの顔が引き締まり、スタンドのLiverpoolファンが一斉に温かい拍手を送ったルーカスの、マイルストーンにふさわしいシーズンの終幕となった。

    母国ブラジルのグレミオで「期待の若手」として名を上げたルーカスは、2007年5月11日にLiverpool入りし、当時のラファエル・ベニテス監督の下で、8月からLiverpoolの選手としてスタートすることになった。

    「あの頃にもし誰かが、僕がLiverpoolに10年所属し、リバプール市で生まれた2人の子供に恵まれる、言ったとしたら、『こいつ、おかしいんじゃないの?』と一笑したと思う」と、ルーカスは、波乱に満ちた10年間を振り返った。

    プレミアリーグに順応のに時間がかかったルーカスは、「シーズンが終わる度に、夏の間に売りに出されるのではないかと、落ち着かない休暇を過ごした」と語った。

    そんな中で努力を重ね、Liverpoolで試合に出られる戦力へと成長し続けたルーカスは、2011年にはミッドフィールドの要として開花し、Liverpoolのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝いた。

    「ケニー・ダルグリーシュが監督になって、チーム全体に明るい希望がみなぎった状況でシーズンを終えた2011年は、Liverpoolに来て初めて、来季の行方を心配することなくリラックスした夏休みを過ごすことが出来た」。

    5月21日の試合後、ルーカスは、そのケニーから10周年記念の「21」の盾を受け取った。恒例のラップ・オブ・オナーが始まる前に行われた式典だった。満員のスタンドからのファンの盛大な拍手を背に、「10年間もの間、この偉大なクラブのシャツを着ることが出来たことを心から誇りに思っています」と、ルーカスは挨拶のスピーチを行った。

    「僕の2人の子供はこの町で生まれました。僕にとって、この町は僕の'ホーム'です」。

    「ルーカスはアダプテット・スカウサー(※リバプール市出身ではないリバプール市在住者が、第二の故郷と感じている)」のバナーが翻るスタンドで、少なくないファンが、胸が締め付けられる思いに駆られた。「10周年記念というよりは、まるでお別れの挨拶を聞いているようだ」。

    初めて「リラックスした夏を過ごした」後の2011-12季に、靭帯の負傷で長期欠場という不運に見舞われたルーカスは、その後、移籍ウィンドウの度に「出て行く噂」が飛び交うようになった。その中には、移籍が内定した後で、「Liverpoolの戦力に負傷が発生したため、ルーカスは引き留められた」という裏話が流れたことも複数回あった。

    2017年の1月にユルゲン・クロップが語った言葉は、それを裏付けていた。「ルーカスは、のうのうとベンチに座って給料をもらって満足しているような選手ではない。試合に出たいと切望していることは明らか。これまで、チームのために自分の希望を犠牲にしてきてくれたルーカスに対して、これ以上、我慢をお願いすることはできない」。

    負傷者続出の今季も、時にはセンターバックの穴を埋め、後半はミッドフィールドで経験を発揮したルーカスが、30歳という年齢を考えると、レギュラーとして試合に出られる新天地を真面目に考えていることは納得できることだった。

    同時に、常にチームを最優先し、文句ひとつ言わず、必要に応じてどのポジションでも全力を尽くす選手であり、「アダプテット・スカウサー」としてこのクラブとその地元に誇りを抱いているルーカスは、クロップにとっては勿論、ファンにとっても「不可欠で、最も頼りになる選手」だった。

    翌5月22日、ルーカスはファンとクラブに対してお礼のメッセージを出した。「長いシーズンだったけど、来季のCLを確保できて良かったと満足しています。ファンの方々へ。この10年間のサポートありがとうございました。そして、Liverpool FCへ。素敵な記念をありがとうございました」。

    それに対して、ファンは心の中でつぶやいた。「ルーカス自身が主力の一人として勝ち取ったCL。置き土産にするのではなく、その権利を駆使して欲しい。ルーカスが夏の間に気持ちを変えて、来季もLiverpoolに留まってくれることを祈っている」。

    ウィニング・メンタリティ

    プレミアリーグは降格3チームが全て決定し、2部からの昇格は残り1枠を賭けるプレイオフが始まったところで、来季の構成が次第に具体化してきた。上位争いの方ではチェルシーが優勝を決め、トットナムの2位が確定し、残るは3-5位の内訳のみとなった。

    プレミアリーグの最終日に、日曜日の15:00の一斉キックオフというシステムが導入された理由は、本来は、優勝や降格などの順位争いを戦っているチーム間の平等を図るためだったことを考えると、今季は、実質的に「不平等」のある時点でその大半が決定してしまった。

    中でも大きな不利益を被ったのは、5月14日にクリスタルパレスに4-0と敗れて降格3チーム目となったハル・シティだった。5月6日に、試合前には2ポイント差で争っていたスウォンジーは、ハルがサンダーランドに0-2と負けた結果を見届けて、エバトンに1-0と勝ち、残留決定に王手をかけた。翌週5月13日には、スウォンジーはサンダーランドに0-2と勝って、翌日まで試合がないハルを「勝たねばその時点で降格決定」の背水の陣に追い込んだ。

    億単位のTV放送ライセンスに財政的な恩恵を受けているプレミアリーグでは、「TV局が試合日程を決める」状況が当たり前になって久しい。そして、プレミアリーグから多額の収入を得ているクラブは文句が言えない立場にあった。

    「試合をTV観戦するカウチ・サポーターにとっては、今の仕組みは多くの試合が見られて良いかもしれないが、早い時間のキックオフに間に合うように走り回らねばならない『試合に行くファン』にとってはたまらない」と、地元のファンの間では批判が続いていた。

    そんな中で、アントニオ・コンテが日程の不平等について話題にしたことは、「試合に行くファンを無視するクラブの金権体質化」を憂いていたファンには新鮮だった。

    更に、降格が決まり、スター選手に逃げられた後のクラブをひたすら支え続けるファンに対して、心の籠った言葉をかけたのもコンテだった。5月8日にチェルシーが3-0と勝った試合で、アウェイ・スタンドでチームの降格決定を見守ったミドルスバラ・ファンに、暖かい拍手を送ったコンテは、「こんな素晴らしいサポートはイングランドならでは」と語った。

    チェルシーが優勝を決めた5月12日のWBA戦(試合結果は0-1でチェルシーの勝利)の後で、メール紙がコンテの人格に焦点を当てた記事を掲げ、イングランド中のファンの同意を引き出した。

    「世界一の激戦と言われるプレミアリーグで、初シーズンに優勝を達成する業績は大きい。それが、1年前にはチームが破壊し、監督がクビになったチームだったことを考えると尚のこと。その背景には、コンテのハードワークがあったことは明らか」。

    イングランドに敬意を抱き、イングランドの風土を学び、イングランドで勝てるチーム作りを実践したコンテは、チェルシー監督就任が発表された昨年夏に、ユーロを控えたイタリア代表監督という忙しい立場を押して、チェルシーのトレーニング・グラウンドを訪問した。選手やスタッフに挨拶し、人間関係の形成を開始したのだった。

    正式に監督としてチェルシー入りしたコンテは、選手との関係を深め、チームワーク立て直しに本腰を入れると同時に、クラブを支えるスタッフに対して人間として接した。「毎日、スタッフ全員に握手と笑顔で挨拶してくれる」と、クラブのオフィスで働くスタッフが驚きと感激を語った。

    2月には、ラグビー・ユニオンのイングランド代表チームのトレーニング・グラウンドを訪れ、エディ・ジョーンズと対面した。どん底に落ちたイングランドを引き継いで、12戦全勝の王者に引き上げたエディ・ジョーンズとの対話から、「違うスポーツでのウィニング・メンタリティの在り方を学んだ」と、コンテは語った。

    「エディ・ジョーンズはウィニング・メンタリティの塊。それを選手に注入し、勝てるチームを作った」。

    Liverpoolファンの間では、勝者チェルシーに素直に拍手を送ると同時に、コンテに対する尊重を改めて語り合った。「今のチェルシーの選手たちは、大半が2年前にリーグ優勝を勝ち取った主力。その凄い戦力に、自信を植え付けて本来の実力を引き出したコンテの業績は大きい」。

    さてLiverpoolは、トップ4を賭けて5月21日の最終日に臨む。ファンにとっては、自分たちのチームの中で着実に積み上げられているウィニング・メンタリティが実を結ぶために、全面的に支持する準備はできていた。

    ファンが監督を支持する時

    4月29日、サンダーランドがホームでボーンマスに0-1と敗れて来季の2部降格を決定した時に、BBCのチーフ・フットボール・エディタのフィル・マクナルティが、「デビッド・モーイズの今後はいかに」という分析記事を掲げた。

    「2016年夏にサンダーランド監督に就任した時、モーイズにとっては、マンチェスターユナイテッド(2013-14)、レアルソシエダ(2014-15)と失敗が続いた後で、監督として建て直しを図る重大なチャレンジだった。最近4年間で7人の監督が交代する不安定な体制で、残留争いが恒例行事となっていた状況に嫌気がさしていたサンダーランド・ファンは、エバトン(2002–13)をプレミアリーグの上半分に復帰・定着させた実績のあるモーイズを、両手を上げて歓迎したものだった」。

    「しかし、開幕2試合目で潮流は一変した。ホームでミドルスバラに1-2と敗れた試合の後で、モーイズは『サンダーランドは今季も残留争いに苦戦するだろう』と語り、ファンを地獄に突き落とした。サンダーランド・ファンにとって、期待を抱いて迎えたシーズンは、開幕と同時に『長くて辛い2部への道のり』となった」。

    「監督が自分のチームの戦力を率直に評価することは、シーズン開幕直後に白旗を上げるネガティブな見解を公言することではない」と、マクナルティは厳しい批判を唱えた。

    長い苦悩の末に下った降格の決断を冷静に受け止めたサンダーランド・ファンは、「2部でじっくりチームを立て直し、プレミアリーグ復帰に備えることができる」と、前向きだった。しかし、直後のモーイズ監督残留の報道にカウンターを食らった上に、モーイズが「選手を総取り換えしなければ2部で戦うことはできない」とチェアマンに進言したという話に、ため息をついた。

    「隣のニューカッスルは、1年前に降格した時、引き留めを求めるファンの声を受けてラファエル・ベニテスが監督として残った。そしてニューカッスルは、サンダーランドと入替でプレミアリーグ復帰が決まった。その時のベニテスとは対照的にモーイズは、サンダーランド・ファンから強烈にそっぽを向けられている」。

    5月7日のリーグ最終戦で2部優勝監督となったベニテスは、BBCのインタビューで、1年前に世間の予測を覆して2部落ちしたニューカッスルの監督を続行した真の理由を問われて、にっこり笑った。「(プレミアリーグ降格が決定した後の)最終日のトットナム戦で(試合結果は5-1でニューカッスルの勝利)、スタンドのファンが大音量で私の名をチャントしてくれたことが決め手となった」。

    長年に渡って毎試合チームを見て来たファンは、クラブを最も良く知っている。ファンが監督を支持する時、その監督は成功する重要な要素を持っていることになる。

    さてLiverpoolは、5月7日にアンフィールドでサウサンプトンに0-0と失意の引き分けに終わった。

    試合後に、PKを失敗したジェームズ・ミルナーが「僕のせいでチームは勝ちを逃した」と謝罪した。これに対して、Liverpoolファンは一斉に首を横に振った。「ミルナーを責める人など誰もいない。勝てなかったのは、チーム全体のせい。監督の戦略も含めて、選手全員がガッツを出せなかった」。

    勝ちに来るビッグ・チームに対しては強い反面、「バスを停めてくる」チームの堅い守りを突破できない弱点は明らかだった上に、試合を変えるサブのタイミングも遅すぎたなど、具体的な決断に対する批判はあったものの、Liverpoolファンのユルゲン・クロップに対する信頼は固かった。

    「シーズン開幕前の目標は、トップ4にチャレンジすること、というのが圧倒的多数のファンの一致するところだった。クロップが引き継いだ戦力は、相当な補強が必要だったことも明らかだった。その意味では、リーグでは良い線を行っている。しかもクロップは、勝てない時に選手のせいにしたり聞き苦しい言い訳で責任逃れをするようなこともなく、常に前を向いている」。

    試合後のクロップの言葉は、ファンの期待を裏付けるものだった。「サウサンプトン戦の前には、我がチームは3勝が必要だった。今は2勝となったが」と苦笑しながら、きっぱりと言った。「試合後に選手と話をした。言うまでもなく、全員が落ち込んでいた。でも、試合前より1ポイント増えたのは事実」。

    「私のメンター(※元マインツ監督のボルフガング・フランク)が教えてくれた。苦しい試合をたくさん、乗り越えた人だった。シーズンが終わった時に、あの1ポイントがいかに重要だったか身に染みる時が来る、と」。

    クラブの伝統を学ぶ外国人監督

    5月1日、Liverpoolは、エムレ・ジャンの華麗なオーバーヘッド・ゴールでワトフォードに1-0と勝った。試合後にゴールについて質問されて、「ルーカスから絶妙なボールが来た時、最初はヘッドを考えた。でも、ゴールまで距離があったので、とっさに方針転換した。チームの勝利に貢献できて嬉しい」と答えたエムレ・ジャンは、「これまでの自分のベスト・ゴール」と笑った。

    今シーズン前半は負傷と不調に見舞われ、批判に晒されることが少なくなかったエムレ・ジャンは、チームの負傷状況もあり、毎試合に出場する中で、次第に調子を取り戻していたところだった。このゴールは、かつての批判を覆し、「ピッチの上で回答した」ものだった。

    「エムレは今シーズン、ふくらはぎの痛みがある中で、必要性にかられて試合に出る状況が続いた。そんな中で、『痛みはあるが、全力を尽くします』と、チームのために努力し続けた。本来の実力が出せない時もあり、事情を知らない人々が批判を振りまいた。でも、痛みの問題もなくなった今、調子も安定してきた。エムレは体力もあり、意志も強い選手。このゴールは、出るべくして出た」と、ユルゲン・クロップは語った。

    エムレ・ジャンが、ゴールの瞬間にクロップのところに走って行った姿は、不調に苦しんでいた時にも信頼を見せ続けたクロップに対する感謝の表明だった。

    そして、不調時期に先頭を切ってエムレ・ジャン批判を叫んでいたアナリスト連中が、「ゴール・オブ・ザ・シーズン候補」、「いや、プレミアリーグの史上ランキング入りするゴールだ」と、手の平を返したように絶賛した。

    いっぽう、敗れたワトフォードの地元紙ハートフォードシャー・マーキュリーは、「上位のチーム相手に、果敢な守りでさんざん相手を苦しめた。守り固めの戦略は正解だった。ただ、リードされた後のプランBが欠けていたが。Liverpoolのゴールは、両チームのレベルの差を物語っていた」と、試合に関して極めて冷静な見解を掲げた。

    同紙の分析記事の末尾にあった、「監督とファンの絆」という見出しの記事は、Liverpoolファンの間で話題を引き起こした。

    「ファイナル・ホイッスルが鳴ったとたんに、ユルゲン・クロップはピッチに走って行き、ゴール・ヒーローのエムレ・ジャンを固く抱きしめた。その後で、他の選手にも同様のねぎらいを与え、ワトフォードのセバスティアン・プリョードルに温かい言葉をかけてくれた。インジャリータイムのあわや同点ゴール?の惜しいシュートを褒めた様子だった」。

    「そして、クロップは、アウェイ・スタンドのLiverpoolファンに向かって大きなガッツ・ポーズをした。スタンドからの盛大な声を背に、トンネルへと去って行ったクロップは、さわやかな笑顔を浮かべていた。そのクロップの後ろ姿を見守るホーム・スタンドのファンは、『監督とファンの絆』を羨ましく見つめていた。ワトフォード・ファンが、欲しくてたまらないものを、クロップとLiverpoolファンが見せつけたのだった」。

    「ワルテル・マッツァーリが試合後にファンのところに駆けつけたのは、ただ一度だけだった(アウェイのアーセナル戦、試合結果は1-2でワトフォードの勝利)。マッツァーリがフットボールに意欲を注いでいることは間違いなかった。タッチラインでボールを蹴る姿は、その熱意を表明していた。ただ、ワトフォードのファンが切望している『監督とファンの絆』を作る必要性には気付かぬまま、今に至った」。

    「同じく外国人監督ながらクロップは、就任してクラブの伝統を学び、ファンの文化を理解している」。

    ハートフォードシャー・マーキュリー紙の哀愁に満ちた記事に、Liverpoolファンは、「クロップが監督でいてくれる幸運」を再確認した。

    Liverpoolの選手は、「クロップを全面的に信頼し、監督からも信頼され、チーム内は一致団結している」と、誰もが異口同音に語る。主力の負傷で戦力不足に苦しむ中、最後までトップ4争いに全力を尽くすチームに、ファンの熱烈な応援は続く。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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