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    夢が消えた日

    2月18日、ノン・リーグのリンコーン・シティがFAカップ5回戦で、プレミアリーグのバーンリーを0-1と破り、クラブ史上初の準々決勝進出というミラクルを達成した。言うまでもなく、イングランド中のメディアがリンコーン・シティを賞賛し、「FAカップ・マジック」と称して盛り上がった。

    ただ、今でこそノン・リーグにいるものの、プロ・リーグ在籍が長かったリンコーンの、5回戦に至るまでの快進撃は、同じくノン・リーグから5回戦に勝ち上がったサットン(5回戦でアーセナルに0-2で敗退)の騒がれ方とは一線を画していた。

    その事象について、翌日のリバプール・エコーが裏付けた。「リンコーンの業績を過小評価する気は全くないが、しかし、『ジャイアント・キリング』という印象は薄い。というのも、リンコーンはリーグ・クラブとしての歴史を誇っている。特に、バーンリーとは、80年代には3部で毎シーズン戦っていた経歴を持ち、両者は『プレミアリーグ対ノン・リーグ』というよりは、対等な対戦に近いイメージ」。

    案の定、敗れたバーンリーの陣営では、誰もが「FAカップ敗退」に失望したことは言うまでもないが、地元紙やファンがヒステリックな批判を掲げるような事態には至らず、ましてや監督ショーン・ダイシュのクビが話題に上がることはなかった。

    それは、バーンリーでは、クラブのトップを始め、誰もが自分たちの本来のポジションを認識しており、ここ3年で2度のプレミアリーグ昇格という偉業を達成し、バーンリーを「プレミアリーグの元気なスモール・クラブ」に底上げしたダイシュに対して、たとえ何があっても支持する気持ちを象徴していた。

    そして、2月23日に発表されたクラウディオ・ラニエリの解任は、イングランド中から一斉に「レスターのオーナーは、自分たちの本来のポジションがどこなのか、勘違いしている」と、猛烈な批判と驚愕の声が上がった。それは、CLラスト16の1stレグで、セビーリャにアウェイで2-1と敗れた翌日のことだった。その週末には、月曜日のLiverpool戦の前に、他チームの結果により降格ゾーン落ちする可能性があった。

    「2014-15季には奇跡の残留を得たレスターは、その翌季、開幕前のオッズ5000-1を覆してプレミアリーグ優勝を達成した。その、おとぎ話の優勝に導いた監督を、本来の残留争いに戻ったからと言ってクビにするとは、考えられない」と、ジェイミー・キャラガーが嫌悪感を表明し、大多数のアナリストの意見を代弁した。

    地元のレスター・ファンは「信じられない。ショックで言葉も出ない」と涙ぐみ、チームを問わずイングランド中のファンが、「イングランドのフットボール史上、最高の偉業を達成したレスターのおとぎ話は、悲劇で終わった」と、暗い表情を浮かべた。

    喧噪の中で、「レスターの選手数人が、ラニエリに対する苦情をオーナーに直接、訴えたことが引き金となった」という噂が飛び交った。昨年5月には、「たとえ翌季は何が起ころうとも、ラニエリに対する支持は揺るがない」という声が、「2年連続17位(ギリギリ残留)の方が、トップから18位に落ちる(降格する)よりマシ」にすり替わった。

    マンチェスターシティ・ファンが、「全てのチームで、実際に試合に行っている圧倒的多数のファンが、レスターのクラブの措置に対して真剣に怒っている。つまり、レスターはこの先、シーズン末までずっと、全スタジアムで、相手チームのファンからブーイングの嵐を受けることは間違いない。そんな劣悪な環境の中で、今季の腰抜け選手たちが、残留争いのプレッシャーに耐えられるとは思えない。レスター・ファンには心から同情するが、しかし、レスターのオーナーは、自分のやったことの報いを受けるべきだ」と、冷静に言った言葉に、誰もが頷いた。

    翌日出された、「昨日、私の夢が消えた」というラニエリの離任メッセージは、それらファンの気持ちを裏付けていた。

    「昨年、プレミアリーグ優勝の幸福に浸りながら、私はこのクラブにずっといたいと、心から願った。残念ながらそれは叶わなかった。でも、レスターで過ごした日々は、私にとってすばらしいアドベンチャーだったし、我々が全員で力を合わせて勝ち取った栄誉は、永遠に残る。今でも思い出すたびに笑顔が浮かぶ。あなた方と一緒にチャンピオンになれたことを、私は誇りに思う」。

    タフなスカウサー


    1月16日のオールド・トラッフォードでのマンチェスターユナイテッド戦で、スターティング・メンバーが発表になった時、Liverpoolファンの間で大きなざわめきが起こった(試合結果は1-1)。負傷のため、急きょ外れることになったナサニエル・クラインに代わって、ライトバックで出場することになった18歳のトレント・アレクサンダー・アーノルドは、これがプレミアリーグ・デビューだった。

    10月のリーグ・カップ(対トットナム、試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)でファーストチーム・デビューを飾ったトレントに対して、「カップ戦で経験を積みながら、プレミアリーグでもクラインのバックアップを果たせるよう、順調に育って欲しい」と、ファンの期待が膨らんでいたところだった。しかし、アウェイのユナイテッド戦で、いきなりスタートとは、18歳の若手にとっては荷が重いのでは?と、心配の声が飛んだ。

    ふたを開けると、最初は相手アントニー・マーシャルに抜かれる場面があったが、次第に落ち着いて良いプレイを見せ始めたトレントの雄姿に、ファンの間で、必然的に「ロブ・ジョーンズを彷彿させる」という声が上がった。

    1991年10月6日、当時19歳だったロブ・ジョーンズは、ユナイテッド戦でLiverpoolのライトバックとしてデビューを飾った(試合結果は0-0)。1999年までの在籍で、負傷のため通算185出場に留まったが、Liverpoolファンの間では今でも根強い人気を誇っていた。その後2013年に、ジョーンズは、同時期にLiverpoolの主力として活躍したロビー・ファウラー、スティーブ・マクマナマンと共に、アカデミーチームで若手を指導するメンターとしてLiverpoolに戻って来ていた。

    ファンのノスタルジーが聞こえたかのように、ジョーンズは、地元紙リバプール・エコーのインタビューで、自分と同じ道を歩みつつある、教え子のトレントについて語った。

    「トレントは、才能があるだけでなく、態度がしっかりした若者。どんなアドバイスも熱心に聞き、それを取り入れるべく努力する。きっと一流選手になると確信している」と、ジョーンズは目を細めた。「忘れてはならないことは、1年前までアンダー16チームで、ミッドフィールダーとしてプレイしていたこと。つまり、わずか1年で、立派にフルバックの役割を果たせるようになった」。

    「ユナイテッド戦では、プレミアリーグで最も大変なスタジアムで、相手ファンの威圧的な声援を受けながら、という環境を考えると、良くやったと思う。そして、トレントは、自分のキャリアは始まったばかりなのだ、これから学ぶことがたくさんある、ということを認識している」。

    ジョーンズの言葉を裏付けるかのように、トレントは自らのプレミアリーグ・デビューを振り返った。

    「監督から言われたのは昼時のこと。心の準備をする時間は十分にあったし、前の日に言われたならば、きっと緊張で眠れなかっただろうと思う」と、ユルゲン・クロップに対する感謝を表明したトレントは、お母さんに電話で伝えた話を明かした。

    「ユナイテッド戦でスタートする、と言った途端に、お母さんは泣き出してしまった。その時、自分だけではなく、周囲の人にもこんなにも大きな影響を与えているんだ、と責任を実感した」。地元でLiverpoolファンのご家庭で育ったトレントは、熱心なLiverpoolファンであるお母さんから、「自分を精いっぱい出しなさい。後のことは心配することないから、思いっきりやりなさい」と言われたという。

    6歳でLiverpoolのアカデミーチームに入ったトレントは、自宅はメルウッド近辺で、ほぼ毎日、通学などでメルウッドを通る度に、憧れの気持ちを抱いた。「この中で、Liverpoolの選手がトレーニングしているんだ」と、思いながら見ていたトレントは、自分がその中に入ることになった現状を、「夢の実現」と語った。

    「最初にメルウッドに来たときは、物怖じして、おどおどしていた。でも、先輩選手たちがみんな、声をかけてくれて面倒見てくれているうちに、次第に自分が出せるようになった」。

    メンターのジョーンズが締めくくった。「トレントは、タフなスカウサーで、とにかく向上心が強い。その性格を備えていれば、目標の半分が達成出来ていると言っても過言ではないと思う」。

    待ち焦がれた2017年のリーグ初勝利の舞台裏

    2月11日、Liverpoolはアンフィールドでトットナムに2-0と快勝して、待ち焦がれた2017年のリーグ初勝利を記録した。新年を迎えた時には、FAカップ参戦を控える傍らリーグカップは準決勝進出、プレミアリーグでもタイトル争いに食いついていたLiverpoolは、6週間の不振の末に両カップ戦で敗退し、リーグではトップ4争い脱落の危機に直面していた。

    1月31日に、首位チェルシーに1-1と引き分けて連敗をストップした時には、立ち直りに向かうかと思いきや、直後の2月4日には残留争いのハル・シティに2-0と惨敗し、再び暗い雲に覆われた。

    必然的に、メディアやアナリストの批判は、大半がユルゲン・クロップに向けられた。そんな中でも笑顔を絶やさず、選手に対する信頼を維持したクロップは、断言した。「勝てない理由は、私自身の戦略を始め、全員が良いプレイが出来ないから。良い時は全員一緒だが、良くない時も全員一緒ということ。もちろん、良い方に向けねばならない、ということは認識している」。

    そして、トットナム戦の勝利の翌日に、地元紙リバプール・エコーの独占インタビューで、アダム・ララーナが意外な逸話を披露した。危機が深まりどん底にいた前週に、メルウッドで選手だけのミーティングを行ったとのことだった。それは、主将ジョーダン・ヘンダーソンが呼びかけて、選手全員が自主的に参加したという。

    「監督は一生懸命やってくれている。我々に自信を取り戻させるために、あらゆることをやってくれている。でも、我々は監督の指示を実現できていなかった。ダメなのは我々選手たちで、監督の信頼を裏切っているのだ、という強烈な反省心を、皆が抱いているということが、改めて確認できた」と、ララーナは語った。

    「そのような場を持とうと言い出した主将は真のリーダーだし、それに対して全員が参加したということは、皆の気持ちが一致しているからだと思った。そして、ミーティングでは、主将が一方的に喋ったのではなく、多くの選手が発言した。ベテランも、ベテラン以外の選手も、皆が自分の考えを表明した。その中で、全員が全員のために働こうと努力していること、全員が、やらねばならないと認識していること、全員が、お互いに助け合って一緒にやって行こうと心から感じていることを、改めて確認できた」。

    「もちろん、不調に関しては言い訳するつもりはない。ただ、その背景に、数人のエゴがあるとかいうのではなく、チーム内はこのように一致団結している。勝てない時にも全員一緒なのだから、やればできるのだ、と思った」。

    この逸話は、ファンに感銘と拍手をもたらした。「トットナム戦の前には、元Liverpool選手のアナリストから、今のLiverpoolの選手は『良い人』ばかりで骨がない、と批判の声が上がったし、それに対して我々ファンも同意した。でも、舞台裏でヘンドが主将としてリーダーシップを発揮し、選手が自主的に『骨』を持つよう努力していた」。

    ほぼ同時に、地球の裏側で、南アフリカのファンが、Liverpoolのトットナム戦勝利祈願を唱えたという逸話が伝えられた。

    それは、スプリング・ボックス(南アフリカ代表ラグビーユニオン・チームのニックネーム)のスクラムハーフとして通算89キャップ、ワールドカップ優勝2回を誇るレジェンド、ユースト・ファン・デル・ベストハイゼンの13歳の息子ジョーダンのメッセージだった。

    2011年に運動ニューロン病と診断され、2月6日に45歳で亡くなったファン・デル・ベストハイゼンの悲報は、世界のラグビー界に衝撃を与えた。2月11日の週末に開会した北半球のシックス・ネーションズでは、全試合で、ファン・デル・ベストハイゼンを偲ぶ1分間の黙とうが行われ、2月10日の告別式では、世界中から追悼のメッセージが寄せられた。

    その中で、息子ジョーダンのメッセージは、スポーツを超えて世界中のファンの心を直撃した。

    「お父さんへ。今までありがとう。中でも、自分のベストを出せるように、と教えてくれたことは忘れません。お父さんはベスト・ラグビー選手でした。僕も、お父さんのようにベスト・スポーツ選手になりたいです。お父さん、ひとつお願いがあります。天国で、神様に伝えてくれませんか?Liverpoolを勝たせてください、と。あなたは決して一人では歩きません(You'll Never Walk Alone)。愛するお父さんへ。ジョーダンより」


    勝てるチーム作りにかかる時間

    2月4日、Liverpoolは、またしても「最下位争いのチーム」の一つであるハル・シティに2-0と敗れ、5位に転落した。2017年になってからプレミアリーグでの勝ちなし、9月以来のトップ4落ちとなった。カップ戦も含めて最近10試合で僅か1勝(4分5敗)とは、降格ゾーンにいる3チームよりも劣る戦績だった(※最近10試合で、ハル・シティは4勝、クリスタルパレスは2勝、サンダーランドは2勝)。

    「前半も後半も、攻撃も守りも全然ダメだった。今すぐ改善が必要」と、反省を語ったユルゲン・クロップに対して、メディアやアナリストは猛批判を浴びせた。

    「バーンリー(2-0で敗戦)、ボーンマス(4-3で敗戦)、サンダーランド(2-2)、スウォンジー(2-3で敗戦)、そしてハル。トップ6のチームとの対戦成績は悪くないLiverpoolが、下位のチームに弱い理由は明白。『バスを停めてかかる』チームにプレスしても効果はないのに、クロップは戦略を変えず、同じ結果を繰り返すだけ」とは、全国紙の大半の見解だった。

    元Liverpool選手のアナリストですら、負傷などで選手層が薄くなっているのに1月の移籍ウィンドウで戦力補強しなかったことが致命的、とクロップ批判に加担した。

    戦力補強に関しては、少数派とは言えファンの中からも疑問の声が上がり始めた。「1月の過密日程の時にアフリカ・ネーションズ・カップがあることは最初から分かっていたこと。なのに、ハル戦でミッドフィールダー8人がスタートする事態に陥った」。

    そんな中で、地元紙リバプール・エコーが、ドルトムント・ファンのグループに、クロップのLiverpoolでの現状に関する意見を求めた記事を掲げた。クロップを7年間見てきて、クロップのフットボールを良く理解しているドルトムント・ファンの、率直なコメントは、Liverpoolファンの間で大きな反響を呼んだ。

    最初のファンは、「クロップがドルトムントに来て、勝てるチームになるまで2年かかった。Liverpoolではまだ1年半しか経ってないのに、結果を求めるのは気が短か過ぎる。クロップに時間を与えてあげて」という言葉で開始した。

    「失礼な言い方に聞こえたら謝る。でも、Liverpoolはずいぶん長いこと、リーグ優勝から離れているし、CLに出られないシーズンも多く経験している。大金を投資して、勝ち続けてなければ監督のクビをすぐに取り換える方針のクラブとは違うと思う。クロップは、カリスマ的な監督で、その信念が選手の中に浸透してチーム全体がクロップと同じ方向に動くようになることが必要。その歯車が完成するまでは、2年はかかるだろう。その間、調子の波があるのは不可避」。

    「昨季のLiverpoolは、実際の戦力以上の成績を上げたと思う。今のLiverpoolの選手の中でも、ドルトムントに欲しいと思う選手はいない。ピエール=エメリク・オーバメヤン、ロベルト・レバンドフスキ、ヘンリク・ムヒタリアン、マルセル・シュメルツァーという面々は、最初は頭をひねった。でも、クロップが信頼して試合に出し続ける選手は、今は『めっ』と思っても、忍耐強く待って欲しい。来季には凄い選手になると思う」。

    Liverpoolファンは、「さすが、クロップを知っているドルトムント・ファンの見解は説得力がある」と、感銘を受けた。「1月に戦力補強しなかったことを、鬼の首を取ったようにいうアナリストは、トップ6のどのクラブも顕著な補強ゼロだった、その理由を無視しているに過ぎない。欲しい戦力はどのクラブも手放さなかったのだから、クロップを責める筋合いはない」。

    「マンチェスターシティが批判に晒された時、ペップ・グアルディオーラは『方針を変えるつもりはない』と、頑固に言い張った。グアルディオーラもプランBなどなかった。その結果、シティは選手が自信を取り戻して勝ちを重ね、3位に浮上した。クロップの戦略を批判するアナリストは、勝手に言わせておくべきだ」。

    そして、Liverpoolファンの間に、クロップを疑問視する声が出たことを憂慮した。「現状に満足しているファンは誰もいない。でも、12月には首位に6ポイント差で2位と気合いに満ちていたのに、僅か1か月半の不調で堪忍袋の緒が切れて、クロップを疑い始めるような、そんな『ファン』がいることが、情けない」。

    それは、ドルトムント・ファンからも指摘されたことだった。「クロップはドルトムントに7年いた。いなくなってから1年半、今でも泣いているファンは多い」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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